優しい地獄
『殺人は癖になる』は、実際に殺人が癖になっているのではなく、逃げ道を見つけたら、それしかできなくなることを指しているのだと思ったな。
話し合いをするより殺して黙らせた方が楽だから、『話し合い』の選択より『殺人』の選択をとる、みたいな。
ここのスバルくんもまさにそうで、疑うことにも得体の知れない自分にも拭いきれない恐怖があって、それとずーっと付き合っていくより、苦しまずに答えを知れるそれを選びたかったんだろうね。
優しすぎて無理だったけど。
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『――ベアトリス、本の内容は確認したの?』
『それがベティーたちの知っている、あのメィリィの本かどうかもまだわからないのよ。もし、本当にあの娘の本だとしたら……』
『これが、本当にあの娘の本なら、急いで探しても無意味なのよ。ここに本が追加されたってことは、そういうことになるかしら』
『なーんか騒がしく呼ばれたッスけど、どーしちまったんスか?』
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「──メィリィが殺されたってことは、この世界はなくなっちゃう世界ってことよね。つまり、それは……」
スバルが殺されるか自決するかがあったということだ。
「でも、この時のスバルには自決してまで私たちを助ける理由なんてないし……殺されちゃったって考えた方がいいのかな」
口に出して、その気分の悪さに顔を顰める。
「嫌だわ。ほんとに……胸が嫌な感じ」
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『実は、書庫にメィリィの名前の本が見つかったの。まだ、中は見れてないんだけど、その前にあの子の無事を確かめたくて……』
『それで、肝心の本はどこにあるッスか?さっさと中身見たら、二号がどこでどんな風に死んじまったかわかるかもしんねッスよ』
『――お師様が、本を読んでみたらいいんスよ。この書庫を見っけたとき、お師様と、もう一人のイキャメンが初体験は済ませてたじゃないッスか。その後、別に何にも悪影響出てないんなら……ね?』
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スバルがメィリィの死者の書を手に取り、スクリーンいっぱいに、メィリィの今までが映し出される。
エミリアは時々痛ましそうな顔をし、ラムは眉一つ動かさず、ベアトリスは気分の悪そうに顔を顰めて──ただ、皆の感情が大きく動いた瞬間があった。
それは、
「──『母』……?」
エミリアは聞いたことのある声に眉を顰める。
ガーフィールは大きく動揺し、メィリィは感情を抑えるように瞑目する。
そして、
「──スバル」
スバルの姿をした『なにか』が、メィリィの殺意に勘づき、居心地の悪い会話を交わして、夜が明けて、それから──
「──メィリィ!」
エミリアが大きな声を上げた。
それと同時に、スクリーンからメィリィの姿は消え、息苦しさに嗚咽を上げるスバルの姿が映った。
「──スバル……」
スバルではない何かが、スバルの姿を借りたまま、メィリィを殺した。
それが、エミリアにとっては、
「────」
酷く、怒りを誘発する事柄であった。
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『深呼吸!深呼吸するのよ!無理に喋ろうとしなくていいかしら!エミリア、本に触っちゃいけないのよ!』
『でも、ベアトリス、スバルの様子がおかしいわ!この本が……』
『だから、エミリアも同じ状態に陥られたら困るかしら!たぶん、深く潜りすぎたに違いないのよ。喋り方が混ざっているかしら』
『スバル、思い出して。大丈夫、あなたはナツキ・スバル、私の騎士様。天下不滅の無一文、お控えなすって皆々様……それから、それから……』
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「慌てすぎて訳の分からんことを言っているのよ……」
「死者の書なんて、そんなものを思いついた人間はまともじゃないわね。ラムなら、死んだ人間の記憶を見たいなんて思わないもの」
「そもそも、塔自体が性格の悪さとひねくれ具合と人格の破綻具合が伺える設計かしら。シャウラがあんなに慕う理由がベティーには理解できんのよ」
「それもそうでしたね」
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『エミリア様、お待たせしました。道中、ラム女史に話を聞いて――』
『あの少女の名前の本が見つかったのは事実なのかい?』
『――ナツキくん、君はいったい何を見た? それを話せるかい?』
『――メィリィの、記憶、だった』
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「──この状態のナツキさんに頼らなきゃいけないっていうのも、嘆かわしい話ですけどね」
「そう言うても、この手詰まりの状況でナツキくんの精神を完全に配慮するのも難しい話やない?どっちにしろ無くなった世界の話やし、考えてもしゃーない気はするけど?」
アナスタシアとオットーがそう話すのを聞いて、エミリアはその美しい顔立ちに僅かな焦燥感を宿らせる。
「スバルがちゃんと立ち直ってくれるってわかってるのに、すごーく不安。こんなふうに思っちゃダメってわかってるのに」
「──エミリア……」
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『メィリィを、探しましょう』
『まず、見つけてあげて……それから、してあげられることを探すの。探しましょう』
『――ナツキくん、答えてほしい。君は彼女の最期を見たのかい? 彼女が今、どこにいるのか。いったい何が死の原因なのか、見届けたのか?』
『――死ぬところまでは、見てない。塔の中なのは、間違いないはず、だけど』
『……もう一度、本を読む気力は残っているかい?』
『エキドナ! ︎︎ベティーに、なんて名前を叫ばせるのよ……! とにかく、そんな真似はさせられないかしら。これ以上は、感情と別の理由でベティーは反対するのよ』
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「……もう一度本を読め、ね……フェリちゃんがここにいて、そう言わないって断言はできないけど」
それがクルシュのためになるなら、フェリスはスバルの心労など二の次で、その決断を強いるだろう。
だから、アナスタシア──否、エキドナの決断に口出しをするつもりは無い。
ただ、もし本を読めと言われたのがクルシュであったなら、フェリスはベアトリスのように、全力で止めただろう。
だから、フェリスにはどちらの気持ちも分かる。
「ままならないものだネ。ギスギスしてるし、嫌になっちゃう」
「何かを選ぶということは、何かを捨てるということ……この閉鎖的な状況で、それが悪い方向に動いたと、そういうことでしょうな」
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『そこまでよ。私も、スバルにこれ以上の無茶をさせるのは反対。いつまでも、ここで話し合ってるのも、反対。……早く、動き出したいの』
『シャウラ女史、その本で遊ぶのはやめてもらいたい。あなたには……』
『悲しむ心がないのか、的なことッスか? そんなこと言われても知らねッス。確かにチビッ子2号はあーしにべたべたしてたッス。あーしも、別に2号のこと嫌いじゃなかったッスけど……究極、あーしはお師様以外のことはどーでもッスから』
『――手分けして、メィリィを探しましょう。スバルは、ベアトリスとここにいて。ベアトリス、スバルをお願いね。レイドのところは、私が見てくるから』
『適任なのよ。――エミリアも、お前たちも、気を付けるかしら』
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「──シャウラの考え方は、酷く割り切っているね。それがいいことなのかは別としても……無情な人には見えなかったけど」
「情はあっても、その情に流されて役目を見失ったりはしないということだろうね。自分は星番であり、賢者フリューゲルに仕えることだけが彼女の使命なのだろう……いいか悪いかは、別としてね」
ユリウスとラインハルトがそう言葉を交わし、双方がなんとも言えない顔をする。
その有り様は正しいようで、歪だ。
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『お師様が望むんなら、あーしは月を撃ち落とすことだってしてみせるッス。だから、半魔とかチビッ子1号、イキャメンの頼みじゃなく、お師様に聞きたいッス』
『俺に……』
『お師様、あーしはどうしたらいいッスか? チビッ子2号、探しにいくッスか? それとも……』
『――シャウラ、メィリィを探してこい。エミリアたちを、手伝ってくれ』
『スバル、あまり思い詰めたらダメなのよ。その本も、手放した方がいいかしら』
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響く、心中の声。
『彼女たちが、どうして、『ナツキ・スバル』を信じるのか。それを知る、方法――』
『『わたし』が、教えてあげちゃおっか?』
消えた女の声が響き、スバルの頭が、狂っていくのが目に見えた。
何故なら、
「──昴……?」
答えを知る術は、彼の手中にあった。
「死者の書……でも、それを読むには、死なせないと……」
アガサ・クリスティが嘗て残した作品に、こんな言葉があった。
「──殺人は、」
癖になる。