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めいいっぱい苦しんでほしい

 関係が終わった。ほぼぴったり3ヶ月。数えてみるととてもありきたりな数字だ。   
 たまに認識の齟齬があれど、一緒にくっついているとすべて忘れていられるほどに幸せで、ありもしない将来を語れるくらいに温かくて、ずっとなにかから目を背けてきた。

 俺は基本人を舐めている。最初にパブリックで声をかけられたときも正直好きではなかった。俺が赤い魚を安い竿で掛けているときに後ろから話しかけられたから、それを逃がして、決して嬉しくはない気持ちで初めて顔を見た。

 そもそもその時のそいつはデスクトップだったし、パブリックでいかにも人と話すように作っている声色が嫌いだった。隣の島までボートを走らせながら、頭の中で俺はこいつのことをいつ嫌いになるだろうというタイマーを回しだした。俺は性格がとても悪いので、大抵話して数秒で見下せる人を見下している。そうすれば安心するから。期待して失望するよりも、ああやっぱりと思ったほうが幾分か気持ちはマシだ。それにそもそも他人のこと後からを好きになることなんて殆ど無い。

 結局のところ刷り込みであることを否定できない。初めて仲良くなってくれた人、joinできるフレンド、初めてのinvite。初心者案内というのはグルーミングと殆ど大差ないというその考えは日に日に強まる。
 ただそれでも俺の強い自意識は基本的に人を弾く。なにか一つでも粗を見つけたら嫌いになれる。そういうふうにできている。人を好きになるのが向いていないととっくに知っているから、自分と同じ弱みがあって、優しくて、馬鹿でも愛そうと、この人のことは幸せにしたいと、そういうお花畑みたいな阿呆な考えを持って飛び込める相手が見つかるまでは、多分人を好きになることなんてなかったのだ。

 ある通話している晩に「お砂糖になる?」と言われた。あってまだ一月は経っていなかったはずだ。俺は初心者がたどりがちな道と知っているつもりだったし、真っ当な告白というよりは、その時点で多少見抜かれていた独占欲や依存心に対して名前をつけて安心させよう、という魂胆は見えたから、今月中は仮ということにしてほしいと言って承諾した。なんとも女々しいと思う。一緒にいた期間というのをそこから計上している今のほうが余程女々しいのかもしれないけれど。でも嬉しかった。

 当時の彼はもっとヘラっていたし、俺はさらにヘラっていたから、やはりその関係性の形に救われていた。それからお砂糖らしいことはおおよそした。
 二人で写真をとった。初めてv睡をした。これまで出したことのなかったリップ音がやけにうまくなった。彼のフレンドと遊んだあとに、二人きりになったあとにたくさん甘えた。いっしょにしたりもした。
 
 関係性は心地よくて、彼が震えたら俺が慰めた。俺が弱った時彼はとても良く聞いてくれた。知るごとに自分と似た弱みをもつ人だった。本当に数日だけ、裏垢というか、今はbioからも消してしまったアカウントをのぞかせてもらったことがある。俺がよく知る願望が並んでいた。おんなじ匂いがしたから惹かれ合ったのかなと思って、もっと大事にしようと決心した。当時の俺は、彼を少し幸せにして死ぬことが目標だった。少しだけでも自己肯定感をあげてあげられればと思っていた。たくさん好きをあげたかった。はたしてそれは達成できたのだろうか。

 一月経つと関係性も落ち着いてくる。学校が始まったし、毎日ふわふわした気持ちで会うことも少なくなる。だけれど一番の変化は俺の側で、VRchatの中でフレンドができだした。依存することは少なくなり遊ぶ時間は比較的減る。忙しさの中にいると不安というのもかなり霧散して、少しだけ落ち着いてくる。でもピアノを弾くのを聴いているのが好きだったし、彼のコンプレックスに少し触れられて嬉しかったり、あとやっぱり一緒に寝るのは楽しかった。一週間ほどぶいちゃやめますと意気込んでいた時期があって、結局帰ってきたのだけど、そのときが一番離れた期間だった。それでも毎日メッセージを送ったし、たまに通話もした。

  元気になるにつれて俺が浮つき始める。前にも書いたけど、俺は基本的にも誰にでもすきすき言う。言っていた。思っているというより、そうすることで返される愛情がすきだ。割合で返ってくる優しい言葉は数少ない確かな自己肯定だから。
 だけれどまた会うたびに好きだと思って、俺のこの人を幸せにしたいという感情は続くらしいと知って、止められないとよくないと思って彼以外とのv睡禁止を掲げた。ぜんぜんそういうことを言わない人だった。独占欲もなにもなく、たまにあって話していた。
 こうして書いていると俺が悪い気がしている。独占欲を持たない人に持つべきじゃなかたのだろうか。

 それなりに期間が空く。愛してると普段言うよりかはぬるい温度だけど、冷めていると言う割には好きと言っていた。互いの名前を喋ったり、現実のことも多少は知るようになって、他のゲームも遊ぶようになった。
 最近またぶいちゃに出没するようになって、インスタンスにはいつもより気持ち人数がいるような気がした。もやもやするけど話せる人が増えているのは嬉しい。俺はプラベで会うのがほとんどだったから、割と遠巻きに見ていた部分がある。そこで今回の件が起きた。

 discordのサーバーがある。多分最初は一緒にapexするために作ってくれたサーバー。そこに何人か人が入ってきた。俺はプラベ引きこもりがちかつ、フレンドも9割以上が男性で、俺のTLから見えるうえではかなり一般的なVRchatterなのだが、彼はそうではない。パブリックに意外と出るし、無言勢にも自分から話しかけるし、初心者とも知り合うし、女性のフレンドも男のフレンドと同程度には作る。
 
 俺があげないようにしているツーショットを、人と上げていた。曰く初心者だから、写真のとり方を教えていたらしい。へぇ。
 たしかにそれはわかる。知り合った人とあげることはあれど、普段からの写真を並べるタイプじゃないから。そもそも写真も大して撮らないはずだけど。 
 その相手を聞き出すまでに嘘を10回くらいつかれた。誤魔化すというのは悟られた時点で悪手であり、相手を慮ったふりをしてバカにする行為なのを彼は知らないらしかった。
 サーバーに来たあの人かと思う。好きな人のサーバーに体よくすべりこめたらしい。
 通話はしたのかと聞いた。あっちから誘われたからしたといった。なんの悪びれもない。ここらで価値観を疑い始める。
 フォロー欄フォロワー欄を見たら、ffそれぞれ1の非公開アカウントを見つけた。これもアイコンはツーショットだった。

 何十回も誤魔化されたが、中身はつまり、今日も可愛かった、会いたいなどらしい。嘘吐きの言葉なので3割くらいしか信じられない。多分実際はもっと言っているだろう。

 俺は改善を求めた。そんなのされたら嫌じゃないかと言った。他人を大事にするというのは誰かを大事にしないことだろうと迫った。友だちと同じ枠に俺をおいているのかと問うた。

 彼の答えは束縛しないでほしい、〇〇さんの悪口言わないで、締めに「俺は誰かのために誰かを犠牲にしたりしたくない」だった。全部原文ママ。
 
 言うまでもなく、傲慢で配慮にかけた行動だと思う。相手の気持ちに向き合えないのに好意だけ受け取ろうとするのはおかしい。要求されたときに俺の体調を心配している場合じゃない。二人の話をしているのに知らない他人を庇うな。ついぞそいつは俺が一番大事だから誰かとの関係を切るとは言わなかった。俺がおかしいと、今までありがとうと通話を切ったあとにも、調子良くなったらまた話してとかぬかしてきていた。二度と話す気はない。

 その人も、とても可哀想だ。いや今は晴れて、初心者案内してくれたその異性の想い人はフリーになったわけだけど、仮に形のうえだけだとしても相手がいる人間なのに、鍵垢で話して、ツーショットあげてもらって、別れるとき寂しかったとか呟いてもらって。期待させられて。その切ないお願いは叶うのだろうけど。
 寛容さと不寛容さは別種の優しさで、そいつは寛容であれど、何かを切るということの重要性を何も知らないらしい。  
 そういうんじゃないと弁明するのと、予め人に悟られないように嫌な思いさせないように線を引くことは違う。
 俺は気にしないんだからお前も気にしないほうがいいというのが、俺が必死に守ろうとしてきた特別という境界線を容易に破壊して、そうか俺もその人と変わらなかったのかもしれないと気づかせるのに、そこまで時間は掛からなかった。

 書いてみるととてもあっさりしている。
 価値観が違った。これまでたまたまそういう場面に遭遇しなかっただけで、最初から合致してはいなかった。俺は独占したいのに、それを重いと迷惑だと普通じゃないと直したほうがいいと、体調のこと心配されるのなら、擦り合わせようとしてもそれすらできないほどに歯車があっていないのなら、最初から掠っていなかったのだとしたら、これはどうしようもないのだろう。

 そいつは多分これからも人を傷つけるのだろう。だけれど優しいやつなのだ。人を愛せる男で、弱くて、人の傷を本当にわかってあげられる人なのだ。
 一度朗読をしてもらったことがある。セロ弾きのゴーシュ。俺の趣味に付き合ってもらった。素人の音読で滑舌が特別いいわけではないから、たどたどしい。それでも俺は泣いていた。下手くそで不器用なくせに優しさがあって他人のことを大事にできて、世間がバカにするようなことを当たり前におもえる、今俺のために文章を読んでいる男を、ゴーシュの中に見ていた。

 憐れなかっこうのために窓を蹴落として飛ばせてやる場面がある。彼はそれが一番好きだと言っていた。俺もそこが一番好きだった。ぶいちゃで色んな人とあったけれど、一緒にいて泣いたことがあるのは彼の前でだけだった。何度も泣いた。好きだった。

 俺が落ち込んでいる日に花畑の写真をくれたことがある。近くの有名な公園のものらしい。俺の暗澹としたこの数年のヘドロのような暗い気持ちが、そんな写真一枚で晴れるのをそれまで知らなかった。
 アルバイトをした公園で撮った桜を見せてくれた。うれしかった。生きている人がいて、その人のために生きられるのって幸せだと思った。まだ好きだ。俺は確かに救われている。そいつがいなければ、そういえばぶいちゃもやめていたのだった。俺がこれでやめようと思っていた日に、その日にパブリックで初めて声をかけてくれたのだから。
 
 めいいっぱい幸せでいてください。そして一生俺とは関わらないでください。3ヶ月間幸せでした。俺と出会ってくれて、好きになってくれて、好きにならせてくれてありがとうございました。俺のために生きてと言ってくれてありがとうございました。
 いっぱい迷惑をかけて、ヘラって、遊んで、話して、触れてくれてありがとうございました。俺がどこにいようと勝手に幸せになってください。俺とは金輪際関わらず、友だちと家族を大事にしてください。あなたのことを好きな人はたくさんいます。あなたはもっと生きていい人で、報われていい人です。自信を持っていい人です。俺はずっとそう思ってきました。多分これからも。





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