「介護で昼夜逆転」と周囲に漏らしながら、頼らなかった64歳息子…92歳母親を放置し死亡させた疑い 細る受け皿、届かないSOS 「重層的な組織を」
鹿児島県いちき串木野市金山の自宅で介護が必要な母親=当時(92)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで4日に逮捕された息子の無職男(64)は、周囲に「介護が大変」「昼夜が逆転している」と話していた。住民によると、地域で一定の交流はあったものの、介護について頼ることはなかったという。 介護放棄し92歳母死亡――「疲れた」…息子を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕
容疑者は母親と2人暮らし。国道から細い道を進んだ山中に自宅はあり、周囲に5世帯ほどが住む。複数の住民によると、容疑者は1人で母親を介護していた。一時期は、週3日ほどデイサービスに通い、車いすの母親と2人で送迎を待つ姿が見られていた。 「昼と夜が真逆の生活。寝不足気味で大変だ」。60代男性は容疑者がそう話していたのを覚えている。「自由時間はほとんどなかったと思う。重要な地域行事だけ参加していた。感心したが同情することしかできなかった」と話す。 かつては容疑者と母親の2人で出掛ける姿もあったが、最近は親子を見かける機会が減っていた。家を訪ねることを嫌がるようなそぶりもあったという。 自宅を何度か訪ねた70代女性は、4月下旬から容疑者の車がないのに気付き心配していた。「家のことは関わってほしくなさそうで、何も言えなかった。助けを求めてもらえれば、何か手伝いたかった」と悔やんだ。 容疑者は6月1日、「母の介護に疲れた」と徳島県警阿波吉野川署の交番を訪ねた。その後、徳島県内で数日間入院し、4日に逮捕された。逮捕容疑は4月上旬から5月上旬の間に母親を放置し死なせた疑い。
◆ 家族間の介護を背景とする殺人や虐待の死亡事案は、鹿児島県内でも後を絶たない。専門家は「地域と行政の重層的な組織づくりが重要」と指摘する。 県内の要介護認定者数は2024年度末時点で、約7万4000人に上る。9割以上が65歳以上の高齢者だが、「介護する側」の高齢化も進む。22年に県が行った抽出調査では、介護者の7割近くは60歳以上だった。 高齢者が高齢者を介護する「老老介護」を巡っては、24年8月に阿久根市で、ともに70代の夫が妻の首を絞め殺害した事件が発生。法廷では、夫が妻をデイケアに通わせながらも、夜のトイレ移動が増えて精神的に追い詰められた状況が明らかになった。 当事者のSOSをいかに受け止めるかの体制づくりが不可欠な中、専門職員の人手は足りない。高齢化率が5割を超える南大隅町では、24年に地域唯一の特別養護老人ホームが閉鎖した。さらに、要介護者が在宅での介護を希望する割合が高いとのデータもある。
鹿児島国際大学福祉社会学部の藤島法仁教授(地域福祉論)は「福祉サービスを利用すると、周囲が安心してしまって実態が見えづらくなることもある」と指摘する。受け皿が細る中、町内会や民生委員による組織的な「互助」が必要だと提案し、「行政が福祉事業所との連携を密にし、自ら仕組み作りの旗振り役になる必要がある」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島