円売り圧力につながりかねない食品消費減税

 もう1つ、日銀が利上げしたとしても、それが抑制的である限り、円が買われない理由がある。それは政府による拡張財政路線だ。とりわけ足元で材料視されるのが、食品消費減税の行方だろう。政府は物価高騰対策として、早ければ2027年4月から食品類にかかる消費税を、2年間限定で8%から1%に減税する方向で調整を進めている。

 ただし、これは財政にとっては当然、歳入減につながる。実際に影響は限定的でも、財政悪化への懸念が市場で広がれば、国債を売る要因となる。こうした長期金利の上昇は、いわゆる“悪い金利上昇”であるから、当然、円売り圧力となる。政府の経済アドバイザーの中には、こうした悪い金利上昇に対する理解がおぼつかない人材がいるようだ。

 管理通貨制度である以上、通貨の価値は発券当局が持つ金融資産の価値に依存する。日本の場合、円の価値は日銀が保有する国債の価値を反映する。健全な財政運営がなされていればいるほど、国債の価値が向上するのは自明の理である。逆もまたしかりで、財政運営に対する市場の疑念が高まった場合、その国の通貨は売られることになる。

 発生の経路が違うとはいえ、2010年代のヨーロッパの重債務問題に伴うユーロ安と、2020年代の日本の重債務問題に伴う円安は、起きるべくして起きた通貨安だ。アメリカもトランプ政権の荒唐無稽な経済運営のもとでドル不安に直面しているが、それよりもさらに円安が進んだ根源には、日本財政への不信があると考えるべきだろう。

 約12兆円もの実弾を用いた為替介入の賞味期限が1カ月と持たなかった最大の理由は、政府による拡張財政が続くという市場の見方を崩せなかったことにあると考えていい。ゴールデンウイーク直前より政府は断続的に為替介入を実施し、ドル円レートを155円台まで引き下げたが、結局これは、賞味期限が短い対処療法に過ぎなかった。