夜に巡る天体のようなサウンドスケープ──君島大空&Taikimenが描いた可変する時間のセッション
その日は、春らしい穏やかな日差しが広がっていた。
横浜港の先端、象の鼻パークにある象の鼻テラスでは、3月20日~22日まで『象の鼻さくらまつり』が開催されていた。横浜の観光スポットでもある象の鼻パークには、多くの人が春の日を楽しみに訪れていた。
夕暮れから夜へと沈んでいく横浜港。遠くに見える横浜ベイブリッジを走る車のライトが輪郭を帯びてくる。象の鼻パークに併設された象の鼻テラスは、アートカフェとして、これまで、イベントなどの文化プログラムを定期的に展開してきた。テラスの壁は全面が窓。横浜港を一望することができる。
19時。ステージの背後には横浜港の夜景が広がっている。観覧車の灯り、遠くのビルの窓、船の明かり。それらはひとつの風景としてまとまるというより、ばらばらの粒子のように存在しているようで、でも確かに同じ夜の中に属していた。
3月21日、土曜日。君島大空&TaikimenのDUOライブ『麗に帆を上げ』が、象の鼻テラスで行われた。
シンガーソングライター/コンポーザーとして、言葉と旋律を緻密に編み上げる君島大空。ドラマーという枠に収まらず、音像そのものに揺らぎを組み立てていくプレイヤー、Taikimen。この2人によるDUO編成ライブは初となる。バンドとも弾き語りとも異なる、極めて流動的な音楽の在り方を魅せてくれたライブだった。
2人だけの音が時間を立ち上げる──「迎」「エルド」による前半のアンサンブル
19時30分。観客の拍手の中、君島大空とTaikimenが登場。それぞれの位置に座り準備を始める。静寂が象の鼻テラスに静かに降りてくる。暗闇に滲む、横浜港の夜景。様々な光の淡い輪郭。2人が鳴らし出した音もまた、同じように輪郭を急がない。夜の中に浮かび上がるというより、すでにそこに在った空気の密度を変えるようにして、音が立ち上がっていく。音が始まるのではなく、そこに現れ、曲になっていく。2人のインプロビゼーションから紡がれた1曲目は「迎」。一音が水滴のように広がり、レイヤーを増やしながら曲として立ち上がっていく。大きな弧線を描くようなメロディー、内緒話をするような君島大空の歌声が、そこにあった夜を特別な一夜へ変えていく。
君島の繊細な歌声から「エルド」へ。Taikimenは、フェルトマレット(註:ティンパニーなどで使う先に丸いフェルトがついたスティック)で、フェルト側、反対側の木の部分、両方を使いわける。跳ねるように高音に移行し、歌声で曲にインパクトをつける君島。間奏。君島の音の輪郭を立たせたアルペジオ。Taikimenは、弦楽器の弓でシンバルを下から上へなぞる。一定の速さで進んでいるはずの音楽が、時間軸を持たず、ゆっくりと呼吸しているように感じられた。最後、君島はその歌声を羽根が舞うように優雅に闇に溶かした。
次の音が現れるのを待つ観客。窓の外、ステージ後ろ。夜景を観に来たカップルが通り過ぎる。君島が、軽くハミングするように音をとる。
「向こう髪」へ。ボサノバやラテンのフレーバーを彷彿とさせるアレンジに、観客の背中が少しずつ揺れ始める。終わると拍手が起こり、Taikimenからも笑みがこぼれた。
変化し続けるリズムと質感──「嵐」から「光暈」へ広がる後半の展開
オリジナル音源では、エレクトロニカ・ポップと言えそうな打ち込みのアレンジがメインの「嵐」では、君島がタッピングのようにギターをつま弾く。TaikimenとのDUOで、サウンドの雰囲気はガラリと変えていたが、驚いたのは、原曲にあるボーカルの加工をそのまま残していたこと。さらにリズムパターンが目まぐるしく変わっていったのに、それを感じさせなかったことだ。Taikimenが一音いちおん、残響音までもしっかり丁寧にコントロールしていたからにほかならない。間奏でテンポがあがり、観客もそれにあわせて身体を揺らす。サウンドの粒子、ひとつひとつの輪郭がはっきりとわかる。2人が奏でる音の粒が、滲む横浜港との夜景と対比されるように、目の前でキラキラと輝いていた。続く「花降る時の彼方」では、粒立った音で、空白を明確に作り出す。その空白を丁寧に2人が多彩な音色で埋めていく。ミニマルで優雅なサウンドアート。ステージの背後にある夜景と合わさり、まるで絵画の中で2人が演奏しているようだった。
<夕闇が飲み込んだ町で>というフレーズから始まる「きさらぎ」へ。シチュエーションにぴったりな言葉から始まるこの曲で、君島大空とTaikimenは、一度、観客と共有した音像を、再びゆっくりと個々の中に沈めていく。夜の曲が続く。「19℃」では、君島がギタリストとしてのスキルも見せる。歌声、メロディー、Taikimenのリズムと、曲の重心がどんどん変わっていき、セッション感が強くなる。君島の歌声は、地声と裏声の境界線が見えない。そしてメロディーの音符よりも、やや後ろに置いたフレージングを巧みに使うことで、肌から浸透してくるようなグルーヴを生み出す。さらには、あえて発音で言葉の輪郭をにじませ、楽器との境界線をなくしている。言葉そのものを音として聴かせることができる。この領域をコントロールできることこそ、君島大空というボーカリストの無二の個性になっている。ゆえに“どこから始まり、どこへ向かっているのか”という感覚すら曖昧になり、聴く者は曲に没入していくのだ。
ブルージーなギターアプローチで始まった「光暈」は、曲が進むにつれジャズへと、まとったジャンルを変え、最後はファンキーなグルーヴで観客からも拍手が起こった。
アンコール。「ありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか」と君島。この日のライブが急遽決まった出演であったことに触れ「集まっていただいてありがとうございます」と観客に感謝を述べた。裏話をすると、チケット販売スタートも約1週間前。GIGGS専売で販売したところ即完だったという。君島が「僕の音楽を(Taikimenと)一緒にやるのは初めてで」と言うと「エキサイティングでしたね」とTaikimenが笑う。その後、地元が同じであること、昨晩、Taikimenの自宅で泊まり込みでリハーサルしたこと、そこからそのまま車で会場入りしたことが語られる。車中で横浜の海を見て、海だー、デートの人ばっかりだ、でも俺らもデートって言えるんじゃない?と盛り上がったと話した後「失敗した青春をとりもどすことができたね」(君島)「できたのかな?(笑)」(Taikimen)と。最後は君島の「ありがとうございました」というひとこと。観客からは大きな拍手が寄せられた。
こうした空気を引き継ぎながら、演奏された「16:28」は、ライブ全体を内側へと収束させていく。余韻を保ったまま進行するその音は、終わるというより、ただ静かに通り過ぎていくようだった。
音楽を完成されたひとつの形ではなく、変化し続ける状態として響かせたこの日のライブは、DUOというスタイル、さらに言えばセッションそのものの本質を提示していた。削ぎ落とされた構造の中で、音が常に変化し続ける。その変化は決して劇的ではないが、確実に、時間と空間の感じ方を書き換えていく。この日、君島大空とTaikimenとは、確かに夜の中にいた。しかしそこには、彼らが作り出した夜と時間が存在していたように思う。
君島大空
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山﨑大輝 Taikimen
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🗓️ ライブ情報:GIGGS|Taikimen
取材・執筆:伊藤亜希(https://x.com/itoaki_hashiru)
写真:緒車寿一(https://www.instagram.com/toshikazuoguruma/)
SET LIST
君島大空&Taikimen「麗に帆を上げ」@横浜象の鼻テラス
01. 迎
02. エルド
03. 向こう髪
04. 嵐
05. 花降る時の彼方
06. きさらぎ
07. 19℃
08. 光暈
—アンコール—
09. 16:28
LIVE INFO
君島大空&Taikimen「麗に帆を上げ」@横浜象の鼻テラス


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