「 ……またおかしなものに時間を使いましたね」
ダ・ヴィンチの手に握られているスマートフォンに映し出されているのは、件のゲームであった。自信作なのか割とテンション高めであった
「今回のダ・ヴィンチちゃんは超本気さ!いつだって本気だが今回はもうスーパーダ・ヴィンチモードさ!」
自社製品への熱い自信がとてもみてとれた
「一応聞くけど、どう言った感じのゲームなの?」
「これはね、属性ごとに君を分けて、プレイヤーの好みにあった君を攻略するノベルゲームさ」
「属性ごと?」
属性ごとに俺を分ける、というのがイマイチ理解できなかった。だって、俺は一人しかいない訳で、性格が大きく違ったらそれは俺の顔をした誰かになってしまう。そうしたらコンセプト崩壊だ
「あーでも君の考えてるようなものでは無いよ。そうだね、主人公目線で話すとね、もし自分が学園モノが好きで更に後輩という属性が好きだったら『もしマスターが自分の学園の後輩だったら』っていう条件設定の元ゲームは進行するのさ」
「なるほど……となれば割と分岐ルートは多そうですね」
「そうだね、細かい所までは設定できないようにはなってるけどそれでもシナリオライターはヒィヒィ言ってたね」
ニーズに合わせた商品開発、さすがはカルデアの技術顧問。抜かりない
「君もやってみるかい?楽しめるとは思うけど」
「俺はいいです、自分で自分を攻略するのはなんかこう……」
変な感じがする。嫌悪感とかではないんだけどどうもスッキリしない。気にはなるけどね
「そっかー…」
とダ・ヴィンチちゃんは少し肩を落としていた
「ちょっと待ったァ!!」
なんの前触れもなく登場。扉をバンと勢いよく開けて入城してきたのは、姫路城の城化物、おっきーこと刑部姫だった
「うおっ!なんかテンション高いねおっきー」
「そりゃそうですよマーちゃん!こんな神ゲーをスルーしようとしてる人が居たらもう姫全力で止めちゃうよ!」
「はぁ…」
距離30センチぐらいの服が摩れる所まで近づいてきて語り始めた
「姫は驚いたの。このルート分岐の豊富さ、中身の濃度、BAD END のバリエーション!そう、こんなにBAD ENDが多いゲームなかなか無いよ!しかもあんな鬱マシマシコッテリスープをガブ飲みさせてくるなんてシナリオライターきっと人の心無いのよ!それにそれに、姫がいっちばん危惧してた『マーちゃんの解釈』も難なくクリアしてきてむしろもう超解釈一致!どんな属性でもマーちゃんはマーちゃんだったの!!」
「は…はぁ…」
宣伝してるはずがいつの間にか感想を述べているおっきー。熱量で押しつぶされそうだ
「マーちゃん、安心してね?姫はぜっっったいあんなバッドエンドにはさせないからね!」
「う…うん…ありが…と?」
なんて返せばいいのか反応に非常に困った
「あれ、姫は何をしに来たんだっけ?」
「……藤丸君にゲームを勧めに来たんじゃないのかい?」
あまりの熱量に本題を忘れたおっきーに呆れたようにダ・ヴィンチは目的を思い出させた
「あっそうじゃん!マーちゃんとにかく超オススメだよ!ちなみに姫のオススメはちょっと歳が離れた社会人マーちゃんルートだよー!」
吐き捨てるように言って去っていった。まるで嵐だ
「……まぁああいう熱狂的なファンが生まれるくらいには成功したゲームだよ」
「……凄いね、あれは。なんか見てみたくなってきた」
「やる!?」
「やりません」
「やらないかー…」
「というか、本人すぐ近くにいるのにやってて楽しいんですかね?」
「甘いなぁ藤丸君…」
チッチッチってなんか如何にも『君もまだまだだね』と言いたげであった
「確かに君はここにいる。カルデアのマスターとしての藤丸立香がね。でもね、皆は見てみたいんだよ、『マスターがカルデアのマスターとしてでは無くあくまで一般人として自分に接してる藤丸君』をね。服だけ着せるなんてダメ、それはコスプレに過ぎないからね。見たいのは、そう!限りなくリアルに近い非現実的なシチュエーション!特にサーヴァントにはウケがいい、それでありえざる日々を夢想できるのだからね!」
「そうですかぁ……」
「年齢に合わせて君の顔も若干変わってたりするよ、現代技術の賜物だね。イラスト差分も豊潤。後足りないのは声ぐらいだね」
本当に力を注いでるのが分かった。秘密裏にこれを開発してたとはいえ今の今まで俺は気づけなかったのか、このゲームの存在に
「とはいえ、やるやらないは人の自由だとも。気になったらやってみてくれるといい」
「まぁ気が向いたら」
「あっ私のオススメも聞くかい?」
顔がニヤニヤさせている、語りたいのかな。商品開発の声じゃなくて実際プレイしたレビューも割と参考になるし、一応聞いておこうかな
「聞いてみたいです」
「いいねぇ!私のオススメはねー大学2年生の藤丸君ルートだよ。特にいい部分はそれまでファクターとしては封印され続けてきた『飲酒』というものが出来るんだよ。君の体を細かく調べたらお酒にはそこそこ強いタイプだと判明したからね、そこもしっかり反映しているよ。オマケに大学生っていう比較的自由な動きが許されているからシチュエーションの伸ばし具合が他のルートに比べて非常に優れている。割とどんなシチュエーションも『まぁ大学生だしこれくらいできるよな 』で納得できるのもポイント高い!それからやっぱり語らずにはいられないのが、一人暮らしって言う所!高校生というみずみずしいのもありだけどやっぱり大学生からならではの魅力の1つと言っても差し支えない。とにかく他ルートとは違った自由なシチュエーションがウリなのさ!」
「なるほど、確かになかなか面白そう」
なんとか押し寄せる波の如く情報量を受け止めて、分かったことは俺の設定も多いけど、実は主人公の属性の幅もそれに比例して多いということ。そうだとしたらウケがいいのも納得だ。俺だけでなく、自分もファンタジーで揉んで全く新しい環境をつくりあげているんだから。それに加えておっきーが太鼓判を押すキャラクターとの掛け合い、シナリオ。それが無料だなんて、元取れないんじゃないかな
「元取れないかと思うだろうけど、一応課金要素はあるよ。と言ってもこれは割と沼にハマった人向けだね。自分で設定したルートの全てのENDを攻略し終えた後に追加で少し課金すると新しい設定でまた1から出来るんだ。大抵は1回で満足するんだけどね。一部の人は課金してるよ。金額は言わないけど敢えて遠回しに言うならもう元は取れてる」
「おぅ……」
物好きというか愛が深いというか重いというか…
「もし皆に会ったらその時は寛大に受け止めてあげてね。中には止められない感情をぶつけてくる人もいるけど、そこは…ね?」
「……頑張ります」
そこで、ダ・ヴィンチちゃんとの会話は終わった。
さて、廊下に出て少し肌寒く感じた俺は近くの自動販売機に寄った
「温かい飲み物でも買うか」
と、指を伸ばして缶コーヒーを買った。落下してきた缶を手にして、暖を取りつつ味わうのであった
「フゥ……」
いつもだったらいる職員さんも今日は見かけていない
「皆、どんな俺と話してるのかなぁ」
部屋でゲームを堪能してる誰かを思いながら、午後を過ごすのだった
ヒルドがビルドになっとるぞ