「愛知ではやるな」子ども狙う性犯罪者コミュニティで広がる“警告”…愛知県警はなぜ恐れられるのか
愛知ではやらないほうがいい──。
性犯罪を取材する中、子どもを狙う加害者たちのコミュニティで、そんな“警告”が共有されていると耳にした。気になって調べてみると、彼らの言う理由が少しずつ見えてきた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●小児性愛者の間で共有される「警告」
子どもへの性加害を繰り返した男性にインタビューしている時のことだ。
「愛知では、やるなっていう話があるんです」
男性によると、子どもを性的対象とする者たちが情報交換するグループがあり、「愛知県内で事件を起こすと逮捕される」といった認識が広まっているという。
愛知県警は徹底的に捜査するからだといい、「摘発されたくなければ愛知県内で事件を起こすな」と“警告”のような形で共有されているようだ。
●教員や父親らによるグループを次々と摘発
最近の事件を振り返ると、確かに思い当たるケースがある。
学校の先生たちが勤務先の女の子を盗撮し、SNSで画像を共有していた事件で、愛知県警は2025年、愛知のほか東京、神奈川、岡山、北海道の5都道県に住む7人の教員を逮捕した。
また、父親らが実の娘や養子の子どもに性的暴行を加え、その様子をSNSグループで共有していた事件では、愛知県警が2024~25年にかけて7人を逮捕している。
●「四谷大塚」事件、グループメンバーは摘発逃れ?
一方、東京都の学習塾大手「四谷大塚」で発覚した生徒盗撮事件では、有罪判決を受けた元講師の男性が、小児性愛者が集まるSNSグループに盗撮画像や生徒の個人情報を投稿していたことが裁判で明らかになった。
しかし、そのグループの他の参加者たちが逮捕・起訴されたという報道は確認できなかった。
子どもを性的に搾取する加害者たちがネット上でつながり合うこと自体は珍しくない。だが、愛知県警は、そうした犯罪グループを“一網打尽”にするためにとことん捜査する──。
そんな見方も、あながち的外れではないのかもしれない。
●「児童買春・児童ポルノ」のデータを比較
本当にその傾向はあるのだろうか。
子どもを狙った性犯罪といっても、「不同意わいせつ」「不同意性交」「迷惑防止条例違反」「性的姿態撮影処罰法違反」など罪名は多岐にわたる。しかも、大人の被害者を含むケースも少なくない。
そこで今回は、子どもへの性加害として比較的把握しやすい「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」のデータに注目して調べることにした。
●検挙数ランキングで見えた愛知県警の「本気度」
警察庁の「令和6年の犯罪」によると、2024年の児童買春・児童ポルノ禁止法違反の検挙件数は全国で3199件。都道府県別では、愛知県が325件でトップだった。
2023年も365件で最多、2022年も363件で2位と、近年を通じてトップ級が続く。
もちろん、犯罪の数には地域差がある。2024年の全犯罪の認知件数は、東京都が9万4752件、大阪府が8万1403件に対し、愛知県は5万1025件だった。
犯罪全体の規模では東京や大阪に遠く及ばないにもかかわらず、児童買春・児童ポルノの検挙では上回っており、愛知県警がこの分野の捜査に特に力を注いでいることがうかがえる。
●愛知県警「徹底した突き上げ、掘り下げ捜査を実施」
なぜ、これほど検挙件数が多いのか。
弁護士ドットコムニュースが愛知県警に取材したところ、次のような回答があった。
「他都道府県と特に違いはないとは思いますが、強いて言えば、被害児童やその保護者からの相談等、子供の性被害を認知したときは、子供の性を対象とした犯罪は許さないという強い信念のもと、速やかに捜査を推進しています」(愛知県警)
さらに、小児性愛者らのグループでささやかれる“警告”を裏付けるかのような説明もあった。
「社会的弱者である子供をターゲットにした性被害を一件でも減らせるよう、例えば、小児性愛者グループによる児童ポルノ共有事件など、グループ犯罪についてはメンバー全員を検挙するなど、徹底した突き上げ、掘り下げ捜査をしております」
●きっかけは「JKビジネス」被害の広がり、未然防止にも注力
愛知県警が子どもを狙った犯罪への対策を強化した背景の一つには、2013年ごろから「JKビジネス」と呼ばれる被害が目立ち始めたことがあるという。
愛知県警によると、2015年2月には愛知県青少年保護育成条例を改正。全国で初めて、JKビジネスを包括的に規制した。
さらに、2017年4月に国が「児童の性的搾取等に係る対策の基本計画」を策定したこともあり、事件の検挙と被害の未然防止の両面で取り組んでいるという。
その一環として、少年補導職員が県内の小中学校を訪問し、ネットトラブルの事例をもとに児童生徒と議論しながら、ネットリテラシーを学ぶプログラム「サポセン救援隊」という活動も展開する。
●被害の背景に「保護者の思い込み」も
スマホやSNSを利用する子どもが珍しくなくなった今、誰もが被害に遭う可能性がある。
愛知県警は、ネット社会特有の問題や、保護者側の“思い込み”にも言及した。
「一旦、インターネットに流出した画像等を全て回収することは困難で、デジタルタトゥーとして残ってしまい、被害者に完全な安心を与えることが難しいと感じております。
また、子供自身が被害と認識してなかったり、保護者自身も自分の子供が被害に遭うことはないと思い込み、子供に対して『そんなことしてないよね』などと事実を歪曲させることもあります。
さらには、児童ポルノに係る被害は、スマートフォン一つで完結し、保護者が知り得ないところで被害に遭うことが多く、未然に防止する難しさを感じております」
そのうえで、「一人でも多くの子供が性被害に遭わないよう、小学生等に対してプライベートゾーンなどの性被害防止に関する教養を引き続き推進していきたい」とコメントした。
●「愛知でやるな」=「他では捕まりにくい」?
「愛知では、やるな」
もし、そんな言葉が加害者コミュニティの中で共有されているのだとすれば、それは裏を返せば、「他の地域では捕まりにくい」という認識が広がっているということでもある。
子どもを守る“網の目”を、どこまで広げられるか。問われているのは、愛知県警だけではない。