[社説]社会保障を揺るがす消費税減税は再考を
高市早苗首相が物価高対策として食料品の消費税率を2年間限定で引き下げる公約の実現に強い意欲を示している。超党派による「社会保障国民会議」の中間報告を踏まえ、6月中に引き下げ幅や実施時期を決断する見通しだ。
消費税減税は社会保障制度の安定財源を切り崩すことになる。財政規律が損なわれたと市場が判断すれば、国債への信認も低下しかねない。中東情勢の混乱で経済の不透明感が強まるなか、需要を喚起し物価をかえって押し上げる懸念もある。首相は弊害が大きい減税を見送るべきだ。
首相は2月の衆院選公約で、食料品の消費税率を2年間ゼロにする検討を加速すると表明した。ただスーパーなどのレジのシステム改修は税率ゼロの場合で10〜12カ月ほどかかる一方、1%なら5〜6カ月程度で済む。このため、2027年4月から1%に引き下げる案が浮上している。
仮に1%だとしても4兆円の財源が失われる。減税が2年で終わらずに延長される懸念もぬぐえない。そうなれば社会保障は自転車操業の様相が強まりかねない。
年金、医療、介護などの社会保障給付は26年度予算ベースで約144兆円に上る。財源は保険料で約6割、国と地方からの公費投入で約4割を賄っている。
今でも約26兆円の消費税収では公費投入分の全額を賄いきれず、国債発行で補っている状態だ。このうえ消費税収が縮小すれば、公費部分の確保は不安定になる。
勤労所得にかかる社会保険料は現役世代に負担が集中する。保険の特性上、保険料には所得に対する逆進性がある。高齢化で給付が増大すれば、中低所得の現役世代の負担が重くなってしまう。
少子高齢化を乗り越えるには、年齢に関係なく負担能力に応じて制度を支える仕組みに変えていく必要がある。引退世代を含めた全国民が広く負担する消費税は、こうした「全世代型社会保障」への転換に寄与する財源だ。
消費活動には保有資産も含む家計の状況がある程度反映されるため、所得が少なくても資産を持っている高齢者に応分の負担を求める形にもなる。社会保険料への依存を抑え、消費税の投入を増やすことが本来必要な改革だ。
消費税は1989年に3%で導入し、歴代政権が自らの命運をかけて税率を引き上げてきた。首相はその重みを認識すべきだ。