「お前って顔はいいしバレンタインチョコめっちゃ貰ってそうだよな」
「なんだ藪から棒に」
アベルの家でお菓子作りをしながら、ソファで寛ぎ読書を嗜んでいるアベルに独り言のように話しかける。
アベルと再開してからなんやかんやあり一緒に住むことになったのはいいが、未だに2人きりは慣れない。
「バレンタインあるじゃん?それの話」
「ああ、女が男にチョコを渡す行事のことか」
「なにその抽象的な覚え方……」
認識の雑さに顔を引き攣らせていると、アベルは視線を寄越さず言葉だけを投げかけてくる。
「ないが」
「なにが?」
「チョコだ。もらったことなどない」
「……え?」
その言葉にスバルは驚き直ぐにアベルの方に目を向ける。
バレンタインのチョコを貰ったことがないだって?そんな訳ないだろ、ふざけんな!
ガチで母親以外から1度も貰ったことがない俺への当てつけか?!
「冗談きついぜ」
「冗談ではない」
「…え?まじなの?それはそれでなんで?そんなに顔がいいのに。世の中の女の子達がお前をほっとくとかありえないだろ」
そう言うとアベルは「顔がいい…」と意味深に呟き感情の読み取れない顔をしたかと思うと、読んでいた本を閉じて口を開く。
「確かに俺に言い寄ってきた女は腐るほど居たが」
「いんじゃん…」
「俺は本命からしか受け取らない」
そう言うとアベルは今一度本を開き読書を再開する。
両者話さず、部屋に暫く間の沈黙が流れる。
「……」
「…お前」
「……」
「お前好きな子居んの?!」
「………………………………はあ」
スバルの叫びにアベルは数秒の沈黙の後、何故か深く溜息を吐きスバルを睨んでくる。何故睨まれてるか分からないスバルだったがまあ好きな子が居ることを俺に知られたのが嫌だったのかなと呑気に考えながら。いつの間にか焼きあがったお菓子をオーブンから取り出す。
「我ながら天才的な出来だな…」
スバルは自分の作ったガトーショコラを眺めながら誇らしげに鼻を鳴らした。暫く余熱を取り、切り分けてソファへと運ぶ。
何故か少し機嫌の悪くなってしまったアベルに「ほら」とガトーショコラを手渡すとアベルはそれを無言で受け取り本を机の上に置くと静かに食べ始める。
「ってかお前でも落とせない子って居るんだ。顔だけはいいのに」
「ふん。それなら貴様に心配されるまでもない。…着実に俺のものになっているからな」
「え、怖。お前に好かれてる子に同情するわ」
すると何故かアベルはスバルを真顔で見てくる。
なんだよ急に?と声をかけるが「いや?」と顔をそらされてしまう。ふと横目にガトーショコラを食べているアベルを盗み見ると、なんだか機嫌が良さそうだった。
「今年こそ貰えるといいな」
「…急になんだ」
「チョコだよ、そのお前の好きな子から」
そう言うと何故か今度は分かりやすく顔を顰められ、アベルの機嫌が悪くなってしまった。なんで恋を応援してやってるのにこんな態度を取られないといけないんだと若干の不満を顔に出せばアベルはスバルの作ったガトーショコラに目を向けながら言った。
「……本命ならもう貰った」
「は?お前さっきは貰ってないって言ってなかったか?」
「ふん。今年は当日にも本命から貰える」
「………? え、なに?結局貰ってないのか?でも今貰ったって…」
アベルがスバルの問に答えてくれることはなかった。
その後、本命以外から貰う気が無いならアベルの分のチョコは作らないでいいか、とエミリアやレム達にだけチョコレートを渡したスバルと当日超絶不機嫌なアベルが居たのはまた別の話。
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- すいとんパウダーDecember 29, 2024