あの取組の中の人#3:空き家再生34件、大型クラウドファンディング、市民と寄附者の交流イベント。箱のデザインにまでこだわり、寄附者の“ファン化”を図るふるさと納税戦略
全国の自治体にとって、今や重要な財源確保の手段となった「ふるさと納税」。しかし、多くの担当者が「ポータルサイト内での価格競争や返礼品合戦に疲弊している」「寄附額は増えたけれど、一過性のネット通販のようになってしまい、まちのファンが増えない」という壁にぶつかっています。
さらに、「寄附金の使途や成果を、住民に実感してもらえない」「寄附金の使途や成果が、住民に伝わりにくい」という一抹の寂しさを抱える自治体も少なくありません。
年間の寄附額がR6年度に100億円を突破した山梨県富士吉田市。同市の「ふるさと寄附推進課」の取り組みを見つめると、単なる数字の拡大ではなく、徹底した「ファンづくり」と、明確な「使い道の還元」という確固たる哲学が見えてきます。
返礼品が届いた瞬間にまちの想いが伝わるデザイン箱、目標の4倍が集まったクラウドファンディング、さらには富士急ハイランドを貸し切って行う寄附者と市民の交流イベントまで――。
「寄附を原資に、どのようにまちの未来を変えるか」。全国のふるさと納税・地方創生担当者が今もっとも知りたい、制度運用の「思想」と「出口戦略」の舞台裏を富士吉田市役所ふるさと創生室ふるさと寄附推進課の渡辺英之氏に伺いました。
富士山の麓から、「返礼品の先」にまちを届ける
富士吉田市というと、やっぱりまず思い浮かぶのは富士山だと思います。東京からも1時間半ほどで来られて、水がおいしくて、吉田のうどんがあって、昔から織物の産地でもある。ふるさと納税では、富士山の水を使った炭酸水や、羽毛布団・寝具などが人気の返礼品になっています。
ただ、私たちがふるさと納税で大事にしてきたのは、寄附額だけを伸ばすことではありません。寄附してくださった方に、富士吉田市を知ってもらう、好きになってもらう。そして、いつか実際に来てもらう。そこまでつなげていくことを、最初から意識してきました。
ふるさと納税は、返礼品を選ぶプロセスがあることから、インターネットショッピングのように見えやすい側面があります。しかし本来は、地域を応援したいという寄附者の想いを自治体につなぐ仕組みであり、返礼品はその感謝や地域の魅力を伝える大切な接点です。だからこそ、返礼品が届いた瞬間に、富士吉田市らしさや、まちの思いが伝わることを大事にしています。
例えば、ただの茶色い箱で送るのではなく、富士吉田市らしいデザインの箱で届ける。お礼状にも、子どもたちが描いた富士山の絵を使う。使い道や事業者の思いを伝える冊子も作り、前年度に寄附してくださった方へお送りしています。
こうしたデザインや伝え方には、かなりこだわっています。若い人や移住者の感性に触れる中で、行政もデザインを考えなければいけない時代だと感じるようになりました。かわいい、かっこいい、ちゃんとしている。そう感じてもらえることも、まちの印象につながります。
納税額が300万円から9000万円へ、大きく伸びた成果が次の参画を生んだ
私がふるさと納税に関わり始めたのは、まだ制度が今ほど知られていない頃でした。当時は企画担当として、まちづくりや移住定住に関わる仕事をしていました。その中でデザインコンペを開き、建物の改修プランや新しいお土産のアイデアを募集したことがありました。そこで出会った方々とのつながりから、ポータルサイトの「さとふる」さんと話す機会が生まれました。
ふるさと納税の市場がまだ小さい頃の初期の取り組みとして、システムを導入したことをきっかけに300万円ほどだった納税額が一気に9000万円ほどまで伸びました。ふるさと納税業務の予算が十分にあるわけではありませんでしたが、成果報酬型の仕組みなら始められる。そう考えてポータルサイトやシステムを活用していったことが、手応えにつながりました。
こうした具体的な実績が出ると、市役所の中でも「これはしっかり取り組むべきだ」という空気が生まれます。そこから人を配置してもらい、比較的早い段階で専門部署として取り組む体制ができました。今では200社を超える事業者の皆さんに関わっていただいていますが、最初から順調だったわけではありません。結果を少しずつ見せることで、「うちもやってみよう」と参画してくださる事業者が増えていきました。
近年は、ふるさと納税をまちづくりに活用する取り組みも進めています。新倉山浅間公園の展望デッキ整備では、ふるさと納税クラウドファンディングを行い、目標額1億円に対して約4億円の寄附をいただきました。道の駅のリニューアルでも同じようにクラウドファンディングを行っています。
また、本町通りでは、空き家や空き店舗を活用したい人に補助金を出す「まちづくりファンド」を作りました。これまでに34件が採択され、シャッター街だった場所に新しいお店が生まれています。ふるさと納税があるからこそ、こうしたまちの変化を後押しできています。
寄附者も市民もつながる、富士急ハイランド貸切イベント
富士吉田市のふるさと納税は、寄附額だけを見ているわけではありません。寄附者の方に喜んでもらうこと、まちを好きになってもらうことが原点です。
その象徴的な取り組みが、富士急ハイランドを貸し切って行う寄附者向けイベントです。寄附者の方2000人、市民1000人、合計3000人規模で開催しました。寄附者と市民で色の違うリストバンドをつけ、交流のきっかけも作っています。無料ではなく、有料で参加していただく形にしているのも、きちんと価値を感じてもらいながら参加していただきたいからです。
市民の皆さんにも、ふるさと納税がどう使われているのかを伝えることは欠かせません。小学校の給食費の無償化や高齢者向けのタクシー券、本町通りの空き店舗活用など、寄附がまちの中でどう生きているのかは「ふるさと納税使い道BOOK」で丁寧に伝えています。
次は「来てもらう」へ。寄附者と富士吉田市の距離を縮めたい
これから力を入れていきたいのは、寄附者の方に実際に富士吉田市へ来てもらうことです。富士急ハイランドのような大きなイベントは続けていきたいですし、それに加えて、30人規模くらいの小さな体験ツアーも考えています。
例えば、寄附者限定の富士登山ツアー。あるいは、富士吉田市立富士山ジビエセンター「DEAR DEER(ディアディア)」で、子どもたちがハンターの仕事に触れたり、ソーセージ作りを体験したりするツアーです。富士山周辺ではシカによる農作物や固有種への影響もあり、ジビエの加工施設はそうした地域課題の解決につなげるため、ふるさと納税のクラウドファンディングを財源として整備しました。富士吉田市ならではの体験として寄附者の方に伝え、ぜひ、こちらに来訪しいただきたいですね。
ふるさと納税の寄附者は、富士吉田市に興味を持ってくださっている方々です。ふるさと住民登録制度のような考え方とも、どこか近い存在だと思っています。だからこそ、ただ返礼品を送って終わりではなく、知ってもらい、来てもらい、より近い存在になってもらう。その流れを作っていきたいです。
他の自治体の方にお伝えするとしたら、やっぱり大切なのは「寄附者に喜んでもらう場づくり」だと思います。寄附額だけではなく、まちがどう変わっているのか、寄附がどう使われているのかを伝える。ふるさと納税によって、富士吉田市がいい方向に動いていることを、これからも感じていただけるようにしていきたいです。
【参考リンク】
富士吉田市ふるさと納税
令和2年度クラウドファンディングへの取り組み
富士吉田市まちづくりファンド活用事業
【2025年】市民×ふるさと納税寄附者 大交流イベント!『富士吉田にZOKKON』
ふるさと納税使い道BOOK 映像版



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