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水面下で息をして/Novel by 春風

水面下で息をして

8,911 character(s)17 mins

最近家もごたごたしてきてめんどくさいです!
あと、妹はカサネルスバルくんが好きらしくて、心の握手をしました!
インビジブル・プロヴィデンス!
ちなみに春風はオボレルとツギハグを病的に愛していますが、他のifルートも愛してますよ。
アヤマツはヤンデレっぽくて可愛いし、オボレルは背後に立ったら殺意飛ばしてきて可愛いし、カサネルは作り笑いしてるくせにエキドナへの言葉を口に出してエミリアを不安にさせる詰めの甘さが可愛いし、ツギハグは『ナツキ・スバル』に期待するあまり、どう足掻いても地獄な現状を作り出したり、『ナツキ・スバル』が死体を量産して成し遂げた最善の今をめちゃくちゃにする愚かさが可愛くて好きです。

スバルくんが子供みたいに泣いてるシーンを見るために生きてる節があります。
六章の「神様、許してください」をアニメで見るのが当面の目標です。

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『お客様、お客様。もう、落ち着いていただけましたか?』
『お客様、お客様。もう、完全にトチ狂うのは終わった?』
目を覚ました時、鼓膜を揺らしたその声に、スバルは絶叫した。

​───────​───────​─────

「......す、ばる」
脳を直に殴りつけるような絶叫が菜穂子の鼓膜を揺らした時、胸の中に吐きそうになるほどの絶望が拡がっていくのを感じた。
「……どうして……?」
耳鳴りが鼓膜を劈く。
そうして、初めて確信する。
もう、昴には心から笑える日はこないのだと。

「……これは、ないだろ」
エルザのような最初からの敵に殺されるのとはわけが違う。
心を開いた相手に、その対象に殺されたのだ。
それは、優しい昴を人間不信に追いやるに十分だろう。

​───────​───────​─────

『ラムとレムに聞いたけど、二人にひどいこと……言ったんだって?なにか失礼なことをしてしまったかも、って珍しく落ち込んでたんだから。次に会ったら、なにか一声かけてあげてね』
『なにか失礼なこと、ね。いや、なーんもなかったよ。……俺と、あの二人の間には、なーんにもなかった』

​───────​───────​─────

声に、僅かな悪感情が込められていた。
それを聞いて、菜穂子は目をかすかに見開いた。
「昴、お願い……逃げて。もう、誰の悪意も届かない場所へ」
エミリアがいくら優しいとはいえ、昴を守りきることはしてくれないだろう。
そしてそれは、菜穂子にとってこれ以上の滞在を拒む理由には十分だった。
「だめなの、昴。昴を守れるのは、昴だけなんだよ。」
顔を覆って、静かに涙を流す。

​───────​───────​─────

『なあ、エミリアたんは……俺のこと、邪魔だと思わねぇのか?』
『邪魔だなんて、思うわけないじゃない。それにスバルは私の命の恩人よ?恩人にその恩も返さず、勝手にいなくなられたら私の夢見が悪いじゃない。だから、私の意地でも恩を返すまではいなくなられちゃ困ります』
『おいおい、マジかよ……』
スバルは失望する。
エミリアを疑った、自分に。

​───────​───────​─────

賢一はかすかに眉根を寄せる。
「……やっぱり、エミリアちゃんは根っからの善人……か。そこだけは変わらなくてよかった」
ただ、と心の内で呟く。
「……疑って、当たり前だよなぁ」
昴はきっと、目に映る全てを疑わなければいけないのだ。
何が自分を害するのか分からない。笑顔の裏に耐え難いほどの激情を隠しているかもしれない。
そんな状況を、昴は生きなければならない。
「度し難い、な」
そこには微かな、怒りと悲しみが。

​───────​───────​─────

『――エミリアたん、聞いてほしいことがある』
死に戻りを、打ち明けようとした。
『────』
時間が、止まる。
黒い、霧のような魔手が、スバルの心臓へ近づき、掴む。
痛みが、ナツキ・スバルを殴り続ける。
痛みは、教訓である。

​───────​───────​─────

「……え」
菜穂子が、そう驚愕を滲ませた音を口から漏らす。
賢一は、昴を取り巻く状況の悪さに声も出せなかった。
「……どういう、こと?だって昴は、話そうとして」
「……話せないんだ……昴にこんな悪趣味なことをする誰かのせいで」
賢一はなんとなく気付いた。
昴を奪い去った者と、昴に死に戻りを与えた者、そして今の魔手は全て同じ人間であると。
「……何が、狙いなんだ?」
頭が痛む。
このペナルティさえなければ、昴はもっと──

​───────​───────​─────

『――スバル?』
『――あ?』
『スバル、大丈夫?急に黙り込んで、心配するじゃない』
『ど、どうしたの?さっきから、ホントに変よ?なにかあるなら……』
『――頼みがあるんだ』
『エミリアたん』
『う、うん。なんでも言って』
『俺に、構わないでくれ』

​───────​───────​─────

菜穂子の表情が、苦々しく歪む。
「……こんなの、どうしようもないじゃない……」
昴には、悩みを打ち明けることすら許されない。
髪をつかみ、瞳を大きく揺らす。
「どうしたらいいの……?私はどうして、この映像を……」
心臓が嫌に鳴り響く。
涙で視界が歪む直前、誰かの悲鳴が小さく聞こえた気がした。

​───────​───────​─────

眠気が脳髄を撫でる度に、スバルは羽根ペンで手の甲を突き刺す。
その先端は乾いた血で汚れていた。
心臓を突き刺すような緊張はスバルの鼓動を急かすようで、全てを疑うスバルは懸命に眼球を動かしていた。

​───────​───────​─────

それを見て、全身の毛が逆立つのを感じた。
昴がそれを意識的にしたのかは分からない。
だが、それはどこからどう見ても自傷行為であった。
「昴!」
血を吐くように名前を叫び、立ち上がってスクリーンへと走る。
だが、あまりの衝撃に足は上手く動かず、倒れる。
「待って……待って!そんなのっ……!」
あまりにも酷すぎるでは無いか。
昴は、自傷行為をしないとならないところまで追い詰められたのか。
口から嗚咽が漏れ、小雨のような涙が瞳からふりしきる。

怯えたように、縮こまる昴を見て、賢一は己の愚かさを悔いた。
ずっとずっと、罪悪感がまとわりつく。
「昴……」
顔を覆って、床を踏み鳴らす。
「どこに……」
どこに行けば、昴に会えるのだろう。
それさえ分かれば、もう昴が傷つかなくて済むように──
そこまで考え、首を振る。
「傷つかないでくれ……昴」

​───────​───────​─────

『にーちゃと、あの小娘に言われて面を拝みにきたのよ』

『魔女に見初められたか、あるいは目の敵にされたのか。どちらにせよ、魔女から特別な扱いを受けるお前は厄介者なのよ』

『一晩……いや、明後日の朝まででいい。俺を、守ってくれないか』

『気持ち悪い。自傷癖まであるなんて、救いようのない変態かしら』

『――汝の願いを聞き届ける。ベアトリスの名において、契約はここに結ばれる』
『たとえ仮でも契約事は契約事。儀式に則った上で結ばれたそれは絶対なのよ。お前のわけのわからない頼み、聞いてやるかしら』

​───────​───────​─────

「魔女の匂い……」
レムと呼ばれた少女も、それを口にしていた。
そして、邪智暴虐とも言えるあの行為の根幹にも、それが関与していると匂わせて。
「……魔女って、誰なの?昴はそんな人と会ったことないのに……」
「本に書かれてた、嫉妬の魔女……」
賢一は頭を抱える。
「……それが、昴をこんな目に遭わせたやつと関係が……?」
『魔女教』という言葉が頭をよぎる。
レムが叫んだその言葉。
「……宗教、か?」

​───────​───────​─────

『そう、よかった。ちゃんとベアトリス、謝りにきたんだ。感心、感心』
『きっと気が立ってたんでしょう?誰にだってそういうときはあるから仕方ないわよ。ラムとレムにも、そう言ってくれると嬉しいけどね』
『やっぱり、ご飯、食べてないのね』
『…………悪い』

​───────​───────​─────

昴の心の声が、ややズレた位置に置かれたスピーカーから聞こえる。
『毒が入っているんじゃないか』と。
昴がそんなふうに思わないといけないことが、菜穂子には我慢ならなかった。
「……もう、聞きたくない……」
耳を強く押えても、昴の声はそれを貫通する。
あれだけ楽しそうに話をしてくれた声で、絶望したように疑心の言葉を漏らす。
「……昴……!」
涙で溺れそうになる。
藁をも掴みたい気持ちになった。

​───────​───────​─────

『約束の時間になったから、嫌々ながらもきてやったのよ』

『こんなお前の臭いがこもった部屋で一晩過ごせって言うのかしら?願い下げなのよ。ベティーのいる場所は禁書庫の中、それは譲れないのよ』

『――にーちゃが呼んでるのよ』

『まさ、か……越えた、のか?四日目の夜を……!?』

『スバル……どこに、行ってたの?だって……ううん、それはいい。いいから……一緒にきて』

待ち望んだ朝が訪れ、双子の鬼が不完全へと堕ちる。

『ぁぁああぁああああぁぁぁぁあああぁぁあ――ッ!』

ラムの、悲鳴が。

​───────​───────​─────

その事実を受け入れるのに、少しの時間を要した。
「どうして……?だってあの子は、昴を殺して」
レムが主犯なのだと思っていた。
だが、今レムは息を引き取っている。
「……意味が、わからない」
「つまり……他に居たってことかよ?」
レムは魔女の匂いを嗅ぎつけて昴を殺した。
だが、衰弱についてはレムは不関与だったのだろう。
「……考えることが増えたじゃねぇか……」

​───────​───────​─────

『どうして……レムが』
『なんで、立場がこうも変わっちまってる……?』

『俺はてっきり、あの衰弱させられる魔法もレムの差し金だと思ってたが』
『呪術とレムは別個……?協力関係には、どうなんだ?』
『まさか、協力関係も×して完璧に別件なのか……?』
『俺がなにもしなかったから、レムが呪術師の標的になった……?』

​───────​───────​─────

「……完全に無差別って訳でもないんだよな?でも、発動条件が分からなきゃどうしようもねぇだろうよ……」
そして、おそらくこの場でいちばん怪しいのは昴だ。
エミリアでさえも、手放しで信じてくれているとは言えないだろう。
「……どう言い訳しても、時間遡行に触れる……そうすれば、心臓を掴まれる……」
手詰まりだと、それ以外に形容ができない。

​───────​───────​─────

『――なにか知っているのなら、逃がさない』
『なにか知っているなら、洗いざらいぶちまけなさい』
『――約束は、守る主義なのよ』
『屋敷にいる間、この人間の身の安全はベティーが守るかしら』

​───────​───────​─────

「……この子は守ってくれてる、でも……」
昴はレムの死に関与していない。
だが、タイミングが悪すぎる。
「逃げても、多分殺される……でも、じゃあどうしたらいいの……?説明だって、出来ないのに……」
菜穂子は絶望を顔いっぱいにぬりたくる。
そうして、慟哭の嗚咽を漏らして、椅子に靠れる。
「昴……」

​───────​───────​─────

『この状況を狙って、ベティーとの契約を利用したとしたら、とんでもない食わせ物ってことになるかしら』
『どうでもいい、そんなのは全部、どうでもいいのよ!』
『邪魔をしないで、ラムを通して。レムの仇を……なにか知っているなら、全部話して。ラムを……レムを助けて……』
『ごめんね、ラム。私はそれでも、スバルを信じてみる』
『スバル、お願い。……あなたがラムを、レムを救ってあげられるなら、全部話して?』
『ごめん──』
エミリアに背を向けて、逃げる。
『スバル――!』

『――絶対に、殺してやる!!』
赤鬼の絶叫が、耳を突いた。

​───────​───────​─────

「昴……!」
賢一が歯を食いしばる。
昴はきっと押しつぶされたのだ。
痛みにも哀しみにも耐えられず、息苦しさに耐えられず、逃げ出すしか無かった。
きっと逃げた先でも自己嫌悪の類に押しつぶされる昴の心を思い、賢一は酷く心臓が痛むのを感じる。
「……もう、どうしようも……」
ない。
もう、未来は閉ざされる。

​───────​───────​─────

『仕方、ねぇじゃねぇかよ……!俺になにが……俺だって!』
『あんな……楽し……ってのに』

『死ねば……』
『ああ、そうだよな。死んじまえば、変わる』
『それで終わるなら、なにが悪い……?』

​───────​───────​─────

「……待って……昴」
菜穂子の瞳が黒く巡る。
もはや、死ぬ以外に解決策などない。
それでも、死んで欲しくないのは傲慢なのか。
「……誰か、昴を……」
スクリーンに手を翳し、泣き崩れる。

「ダメだ、昴。その考え方は」
一度死を手段として考えれば、どこかで歪みが生まれる。
それに足を搦め取られる瞬間が来る。
「……だが、俺に何が出来る?」
所詮、昴がもがき苦しむのを見るしかできないというのに。

​───────​───────​─────

羽根ペンを喉元に翳す。
手が震えて、ペンを落とす。
『俺はこんな……こんな簡単なことも……』

魔獣に、右足の付け根を噛まれる。
『ぎ……っ』
生きていることを声高に主張するように、スバルの絶叫が森中に響き渡った。

​───────​───────​─────

「……昴、死なないで……」
昴の意思も、覚悟も、菜穂子には止められない。
何より、その術がないのだから。
でも、
「……誰かに殺されちゃうよりも、自殺しちゃう方がずっと嫌だよ……」
それは、昴が自分の手で命を断ち切ってしまうということだから。

「……魔獣……」
そう呼ばれる類のものが、昴の飛ばされた世界にはいる。
賢一は、頭を巡らせる。
「……衰弱も、それが関係してるのか?」

​───────​───────​─────

スバルの痛ましいまでの悲鳴が響く。
『ああああ――!!クソがぁぁぁッ!!』
『図に、乗んなぁぁぁ――!!』
羽根ペンで魔獣の眼球を刺す。
『あがぁ――っ』

『……そうかよ、お前は無理だったか』
スバルだけが転落を免れ、魔獣は崖下に落ちていった。

​───────​───────​─────

「……っ!」
昴の悲鳴が聞こえる度に、菜穂子は肩を揺らして唇を噛む。
予測できないというのは、それだけで耐え難い恐怖になる。
未来を知るエミリア達と、昴が消えたあの日に一切の交流を断たれた菜穂子達ではまず前提条件が違うのだ。
「……どうなるの?昴……お願い、これ以上……」
立つことを強制された昴のように、菜穂子たちにも目をそらすという手段は奪われている。
見届けるしかないのだ。
昴が痛めつけられ、死体の上を歩くのを。
「……ぅっ、……」
グロテスクな傷跡を見て、菜穂子は口元を抑える。
「昴……」
賢一が小声で名を呼ぶのを、耳鳴りで痛む鼓膜が僅かに捉えた。

​───────​───────​─────

『――ようやく、気がついたのよ』

『数が多すぎて傷跡は消せなかったのよ。そのぐらいは自分の不手際の結果だと思って受け止めるかしら』

『どうして、助けてくれたんだ?俺は……』
『お前の身の安全を守るのが、ベティーの交わした契約なのよ。その相手が無様に血だるまで死んだとなったら、ベティーの威信に関わるかしら』

​───────​───────​─────

「……傷が治ってる……」
菜穂子は思い出す。
エルザに切られた腹を繋ぎとめたのもこの少女であったと。
「……逃げろ、昴。今なら、多分あのメイドの子も追って来れない。逃げて……生きるしか、ないだろ……」
もはや、昴があの屋敷に戻れる可能性は無い。
ともすれば、どこか遠い国で命を繋ぐしかないだろう。

​───────​───────​─────

『言っておくけど、ベティーがやってやれるのはもうここまでなのよ。屋敷に戻って、あの姉妹の姉に弁明する機会なんて作ってやれないかしら。そのチャンスがあったとしたら、投げ捨てたのはお前なのよ』

『戻れない俺を、どうしてお前は……?』
『気まぐれなのよ。せめて目の届かないところで死んでくれないと、ベティーの夢見が悪くて困るかしら。――この期に及んで尻込みしているようじゃ、それも望み薄な気もするのよ』
『俺が、逃げることを選べば……』
『屋敷の連中に見つからないよう、手助けぐらいはしてやるのよ。そのあとでどこへ行方をくらますかは、お前の勝手にするといいかしら』

​───────​───────​─────

「逃げる……そうだな、それが懸命だろうよ。あの制約がある以上、どう足掻いても昴はあのメイドの望む答えなんか出せなかった。……なら、逃げて足掻いてもがいて生きていくしかねぇだろ」
菜穂子は、苦々しく眉を寄せる。
「……この子の力は、多分、本当に強いのね……昴が望めば、多分、本当に逃がしてくれる」
だが、菜穂子はそれを手放しで喜べない。
「……逃げた先で、昴はどうなるの?あの子は優しいから、ずっと、自分を責めちゃうんじゃないの?」
菜穂子がこぼした涙に、賢一は瞳を伏せる。
「……それは、……そうだな。多分、責めるよ。昴は」

​───────​───────​─────

『結界に触れないよう、境界をなぞりながら森を抜けるのよ。山向こうの街道まで出れば、人里まで歩いていくのも難しいことじゃないかしら』
『――あの泣き声も全部、聞かなかったことにしてか』
『おい、バカなこと考えてんぞ、俺……』
『せっかく……そう、あんだけ苦労して、せっかく拾った命じゃねぇか』
『そうだ。せっかく拾った命だ。……だから――使い方は、俺が決める』

​───────​───────​─────

「昴……?」
菜穂子が僅かに眉根を寄せる。
「泣き声……」
レムを失ったラムの慟哭。
それが、昴にとっては気がかりなのだ。
「優しすぎるわ……昴。それじゃあ……」
いつか潰れてしまうと、菜穂子は顔を覆って泣き伏せる。

「……早く逃げないと、追いつかれるぞ」
おそらく、昴の中で答えは決まっているのだろうが。

​───────​───────​─────

『ようやく、見つけたわ。ベアトリス様がまだ一緒なのは予想外だけど』
『下がるのよ。契約によって、ベティーはこの人間を守る。たとえ相手がお前であっても、容赦はしないかしら』
『ベアトリス様こそ、どいてください。こちらこそ、相手がベアトリス様では手加減など出来かねます』
『面白い冗談なのよ。ベティーに対して、手加減と言ったのかしら?』
『ベアトリス様こそ、ここが屋敷の中でないことをお忘れでしょう。禁書庫と遠く、そして森の中――この条件で、ラムからその殿方を守り切れる自信がありますか?』

​───────​───────​─────

「風の魔法……昴の足を切り落としたのはこの子か……!」
賢一が眉根をよせ、菜穂子は胸の前で手を繋ぐ。
「追いつかれちゃった……どうしよう、昴……」
不安そうに瞳を揺らす。
そして、賢一は息を吸い、口を開く。
「……命の使い方は自分で決める……か」
昴が考えたことを、賢一は何となく察していた。
「……見たくねぇな」
子供の死に様など見たい親がいるものか。
この部屋の悪質さに、ため息を禁じ得ない。

​───────​───────​─────

『なにをしてやがるのかしら!?こんな状況で、死にたいのかしら!?』
『バカ言うんじゃねぇよ、死にたくなんか欠片もねぇ。死ぬのなんざ本当に、人生の最後にいっぺんだけでいい。本気で、そう思う』
『いい、度胸だわ。やっと観念したってこと?』
『観念とは少し違うな。言うなれば……覚悟が決まった、ってとこか』
『──なにを』

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菜穂子の背筋を、悪い予感が走る。
そして、昴の何かを覚悟したような顔が、酷く心を揺らした。
「だめ……昴!」
ベアトリスより前に出た。
ラムの魔法の射程距離に。
「死んで巻き戻すなんて……そんなの、次も戻れる保証なんてないのに!」
昴は他人に命をいじられているに過ぎない。
その他人が何かアクションを起こせば、死に戻りが消える可能性だってあるのだ。
「全てを救う必要なんて……」

​───────​───────​─────

『あなたに、ラムと、レムの、なにがわかるって言うの!?』
『なにもわからねぇよ、知ろうとしなかったからな。肝心な部分はなんにも知らないまんまだ。だけどな、お前らだって、知らないだろうが』
『なにを……』
『俺が!お前らを!――大好きだってことをだよ!』

​───────​───────​─────

菜穂子の瞳が痛ましく開かれる。
「大好き……?」
昴は、自分を痛めつけて殺した人間を前にしても、そう口にした。
それは、強く、そして残酷な事だった。
「どうして……そんなの……」
菜穂子は、狼狽える。
「……昴はあの子に殺されたのに」
昴の自己犠牲精神が、菜穂子には危うく見えた。

賢一が、顔を覆って天を仰ぐ。
「……昴……」
昴は昔からその片鱗が見えていた。
自罰的で他人のために動きすぎるところが。
「……それは最悪の手段だ、昴。」
手を伸ばしても、届かない。

​───────​───────​─────

スバルは、崖の方へ走る。
『待って――!』
『俺にしかできないことだ!』
絶対に殺してやると、そう言われるなら。
『――絶対に、助けてやる』

​───────​───────​─────

「昴!」
菜穂子の声が痛ましく響く。
「待ってっ……」
スクリーンいっぱいに、血飛沫が飛ぶ。
「きゃっ……」
後ろへどた、と倒れて、菜穂子は昴が死んだことを実感する。
「昴……」
自殺した。
自分の意思で、昴は死んだのだ。
「……ダメだ、昴」
エミリアやレムを救いたいと思う昴の心は美しいと思う。
思うが、
「……そのままじゃ、だめなんだ」
いつか、壊れて。

Comments

  • ハピエン信者

    菜穂子さんの藁をも〜のところ、オボレル感じてニコニコしてしまいました…最高です!!!両親的には最悪の選択肢だよなぁと改めて思えました!!好きです!!

    May 22, 2025
  • 空一

    あーほんと最高です!スバルがどんどん英雄化していくのはかっこいいけど人としてぶっ壊れ過ぎてて、それは絶対両親としては受け入れられないことだよね……見たかったそのものがここに表現されてて……本当にありがとうございます!

    December 18, 2024
  • 次の話ずーっと、ずぅーっと!待ってるわね!春風さん…大好き!

    December 17, 2024
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