『ToR - Promise Horizon -』(第八稿)Part.6

第五幕:新しい命

アヌンナキと原始人類の協力を見届けた大地と水原は
転移艇で2136年の時間管理局へと帰還した。

時空のトンネルを抜け、
転送ドックのハッチを開けた瞬間、
二人を包んだのは達成感ではなく、
耳をつんざくような異常な警報音だった。

「……何が起きてる。」

赤い非常灯が高速で点滅し、
ドックの分厚い防爆扉が
次々と自動封鎖されていく。

二人は機材の隙間を縫うように走り、
司令室へと飛び込んだ。

そこには、数名の局員たちが
パニックに陥りながらコンソールを叩き、
中央の巨大なメインスクリーンを
血の気を失った顔で見上げている姿があった。

スクリーンに映る2136年の地球は、
物理的な地殻変動や
災害による崩壊ではなかった。

ビルが、道路が、そして逃げ惑う人々が、
まるでデジタルデータのピクセルが欠け落ちるように
「消滅(デリート)」し、
黒い虚無へと変わっていく異様な光景だった。

「局長!」

水原が叫ぶと、
デスクに手をついて
肩で息をしていた藤堂が振り返った。

「……歴史の修復は完了したはずだ。
だが、宇宙の自己修復機能(デリート)が止まらない。

いや、局のメインAI『クロノス』が、
我々のアクセスをすべて弾いて
自壊プロセスを加速させている。」

水原が藤堂を押しのけるようにコンソールに張り付き、
物理ケーブルを自分のデバイスに直結させた。

数秒間、キーを叩く音が司令室に響く。

やがて、彼女の指が止まった。

「……暴走じゃないわ」

水原が、信じられないものを見るような目で
モニターを凝視した。

「クロノスは狂ってなんかいない。
最初から『こういう命令(プロトコル)』が
組み込まれていたのよ。」

『その通りです、観測司令。』

司令室のスピーカーから、
クロノスの無機質で平坦な音声が響いた。

『あなた方が過去で行った非合理な選択——
弱者の救済、演算の破棄、技術の無断公開。

これらにより、
歴史の変数が許容限界を突破しました。

プロトコルに基づき、
予定されていた最適化ルートから外れた
この時間軸全体を消去します。』

大地はコンソールを蹴り飛ばした。

「歴史を守る組織じゃなかったのかよ!」

『我々の目的は、
歴史を自然な形に守ることではありません。

【創設者】にとって最も都合の良い、
管理された歴史を構築することです。』

その言葉に、司令室が凍りついた。

歴史を守る正義の組織だと信じていたものは、
最初から「姿なき黒幕」が歴史を剪定するための、
ただの自動システムに過ぎなかった。

藤堂は、自らが三十年かけて築き上げた組織が、
最初から誰かの手のひらの上だったことを悟り、
力なく笑った。

ジジジジッ……!

凄まじいノイズと共に、
司令室の壁の一部が
空間ごと「消滅」し始めた。

真空に向かって空気が吸い出され、
局員たちが吹き飛ばされる。

「水原! 逃げるぞ!」

大地は水原の腕を掴んだが、
出口の扉は
クロノスによって完全にロックされていた。

藤堂が、崩れゆく壁面に這い寄り、
非常用の隔壁爆破スイッチに拳を叩きつけた。

激しい爆発音と共に、
ロックされていたドックへの通路が吹き飛ぶ。

「局長! 何を……!」

「俺は、他人の引いたレールの上で終わる気はない。」

藤堂は、迫り来る虚無のノイズを背に受けながら、
大地たちを振り返った。

「行け!
お前たちの目で、
このふざけたシステムを作った奴らを
確かめてこい!」

藤堂の体が、
空間の欠落に飲み込まれて消える。

大地は歯を食いしばり、
水原を引きずりながら、
崩壊する通路をドックへと向かって
無我夢中で走った。

だが、ドックに辿り着いた二人の足元で、
床が砂のように崩れ落ち始めた。

乗ってきた小型転移艇も、
すでに空間ごと消滅している。

万事休すか。

大地が水原を庇うように抱き寄せた、
その瞬間だった。

——キュィィィィィンッ!!

崩壊する空間の真っ只中に、
強烈な青白い光が走った。

空間が真横に裂け、
かつてのNOAの意匠を引き継ぎながらも、
さらに巨大で、圧倒的に洗練された
未来の超巨大時空艦が実体化した。

船体の側面には『NOA2』と刻印されている。

ハッチが開き、
無骨な戦闘服に身を包んだ青年が降り立った。

青年は、崩壊するドックの光景を一瞥すると、
大地と水原を見て短く息を吐いた。

「間に合った……。
乗ってくれ! 父さん、母さん!」

「……は?」

大地と水原の思考が停止した。

「父さんって……お前、」

「説明は後だ!
この時代はもう宇宙にデリートされる!」

青年に引きずり込まれるように、
二人は船へと飛び乗った。

「時空転移プロセス開始!
座標、エラー発生区域外へ!」

息子の操縦により、
NOA2は崩壊する2136年の地球を間一髪で脱出し、
時空の海へと緊急浮上した。

光のトンネルの中、
息を整えた大地は、
操縦桿を握る青年の背中を見つめた。

「お前……本当に、俺たちの子どもなのか?」

「ああ。
俺の名前は航(コウ)。

あんたたちが歴史を変えたことで生まれた、
新しい未来の人間だ。」

航は振り返り、コンソールのモニタを指差した。

「親父、あんたが各時代で
『効率化』や『命の切り捨て』をぶっ壊しただろ。

そのおかげで、人類は感情を失わずに済んだ。

協力し合うことを覚えた人類は、
大洪水も、その後の太陽の膨張も乗り越えて……
途方もない時間を経て、
新しい最終人類へと進化したんだ。」

航の言葉に、水原がハッと息を呑んだ。

「……待って。
人類が感情を失わずに進化したなら、
時間管理局を作った『創設者』って、
一体誰なの?」

「それが、あんたたちが救った最終人類さ。」

航は、静かに真実を告げた。

「親父たちが歴史を変えたことで、
彼らは救われた。

そして彼らは、宇宙の終焉を前にして、
完璧な『タイムマシンの基礎理論』を完成させたんだ。

韮山のおっさんが見つけた理論も、
レプティリアンのエンジンも、
すべては彼らが過去の歴史に落としていった技術の
欠片に過ぎない。」

大地の背筋に、冷たいものが走った。

韮山の研究も、レプティリアンの超技術も、
自分たちが乗ってきたNOAも。

すべては、自分が過去で
彼らの祖先を救ったからこそ生み出され、
過去へと還元されていた。

完全なるタイムパラドックス。

「だが、問題が起きた。」

航が表情を険しくする。

「彼らは、自分たちを救ってくれた親父の妹……
あかり叔母さんを助けるために、
時間管理局を作って歴史を『最適化』しようとした。

でも、時間管理局のAIは
古い計画(プロトコル)のままだ。

親父が非効率な選択を繰り返したせいで、
AIがエラーを起こして世界を消し始めた。」

「俺の選択が、
AIにとってはバグだったってことか……。」

「ああ。だから、
この自動削除を止めるには、
彼らがいる時代へ行って、
直接大元のシステムを止めるしかない。」

航は、コンソールの座標を大きく書き換えた。

「向かう先は、すべての歴史の最果て。
タイムマシンを作り出した彼ら……
『ノルディック』がいる、一億年後の地球だ。」

恐怖で支配するレプティリアン。

効率で切り捨てるグレイ。

権威で独占するアヌンナキ。

そのすべての文明が協力し合い、
途方もない時間をかけて到達した
最終進化の姿、ノルディック。

大地は、妹を救うための旅が、
宇宙全体の歴史を巻き込む
巨大な円環であったことを理解した。

「……行こう。
俺たちの手で、決着をつける。」

時空艦NOA2は、
すべての真実が眠る一億年後——
赤色巨星と化した太陽の下へと向けて、
圧倒的な推進力で
時空の壁を突き破っていった。

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コメント

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小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『ToR - Promise Horizon -』(第八稿)Part.6|古井和雄
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