緊急事態条項 三つの論点 危うい緊急政令、どうする国会機能維持、創設不要論も
■戦前の「緊急勅令」彷彿、不要論も
最後の論点は緊急事態条項そのものの必要性だ。軍国主義の道を歩んだ戦前の反省を踏まえ、現行憲法には緊急事態条項が盛り込まれなかった経緯がある。第2次世界大戦直後、憲法担当だった金森徳次郎国務相は1946年7月の帝国議会の委員会で「国民の意思をある期間、無視し得る制度だ。民主政治の根本の原則を尊重するかの分かれ目になる」と答弁した。 戦前の大日本帝国憲法は、政府が天皇の名で法律に代わるものとして命令を出す「緊急勅令」などの非常事態条項を規定。28年(昭和3年)、政府は緊急勅令を使い、議会審議を経ず治安維持法を改正した。最高刑を死刑に引き上げるなどの改正を強行し、個人の人権を奪う結果につながった。 こうした歴史的な背景を踏まえると、今後、国民の賛否を問うような場面で、緊急事態条項の是非が改めて議論になる可能性は十分考えられる。
■衆院憲法審査会、各党のスタンスは
衆院憲法審査会の委員は、衆院議員50人で構成し、議席数に応じて各党に配分されている。2月の衆院選で大勝した自民党は半数以上の34人を占め、中道改革連合5人、日本維新の会4人、国民民主党3人、参政党2人、チームみらい、共産党は各1人となっている。緊急事態条項創設に明確に反対しているのは共産のみだが、共産以外の各党でもスタンスの違いは大きい。 自民、維新の与党は連立合意書で緊急事態条項について「2026年度中に条文案の国会提出を目指す」と明記し、創設の方向で一致。緊急政令に関しても必要との立場だ。維新は一貫して早期の条文化を求めており、与党内でも議論加速のアクセル役となっている。 国民民主も創設に賛同するが、改憲発議を実現するには論点を絞る必要があるとし、任期延長の条文案を優先して作成することを求める。 中道は任期延長は慎重な判断が必要としつつ容認するが、緊急政令には反対を示している。平時の国会機能維持が優先課題で、解散権行使の制限などもセットで議論するべきだと主張する。 参政党は憲法9条改正とセットでの議論を求めているのに加え、感染症の大規模なまん延を緊急事態の定義の一つとする限りは、緊急事態条項の創設は認めないと主張している。チームみらいは任期延長はあり得るとの立場で、緊急政令に関し慎重な議論を求めている。共産党は衆院憲法審査会で唯一、緊急事態条項の創設や改憲そのものに明確に反対している。
緊急事態条項とは
大規模な自然災害や内乱など緊急時の政府や国会の権限をあらかじめ規定した条文のこと。事態に迅速に対応できるよう首相の指揮命令権限を強めたり、国会議員の任期を延ばしたりする措置などを想定する。政府への過度な権力集中が人権の制限につながるといった指摘もある。緊急事態条項を持つ代表的な国にドイツ、フランス、イタリアなどがある。