light
The Works "敗戦と、反撃" includes tags such as "Re:ゼロから始める異世界生活", "リゼロ" and more.
敗戦と、反撃/Novel by 春風

敗戦と、反撃

10,523 character(s)21 mins

Twitterで六章と七章について喋り続けてたら、少しだけいいねが多くついてました
個人的な解釈として、『オットーはスバルを英雄視していない』『皆が彼を英雄と思おうが、スバルがそれを望もうが構わない』『それによってスバルが傷つくのが嫌』と解釈したのですが、どうでしょう?
スバルを英雄視する人たちみんなを嫌うほど、オットーは短慮的じゃないと思うのですが……。
ただ、ユージンに傷ついて欲しくないだけなんじゃないかなぁ。
オットーは優しくて、スバルやエミリアよりも少しだけ切り捨てがうまい印象です。
なので、冷たいわけでは無い気がします。
個人的な解釈ですけどね
みんなの意見も聞きたいです

朝焼けを追い越す空!!!!!!
あれをスバルくんがアカペラ!?!?
尊いんだけど無理死に戻りする

1
white
horizontal

『よォ、大将。目ェ覚めッたのかよォ』

『都市庁舎は……どう、なった?俺はどうやって、ここに……』
『どうも何もない。君もいるこここそが、その問題の都市庁舎だ。魔女教徒は建物を放棄し、私たちは目標の建物を奪還した。結果だけを見るのであれば、そう言うこともできるかもしれないな』

『クルシュ、さんは』
『……『色欲』に何かをされたのだろう。体の中に溶け込んだ異物が、その身の内側で暴れ回っている。フェリスの取り乱しようは、見ていられないほどだ』

『――スバル、確かめたいことがある』

『君は、本当に大丈夫なのか?』

​───────​───────​─────

「……酷い……」
傷が──最早、傷なんて生易しい言葉で形容することすらもはばかられる、そんな状態だった。
「……クルシュさん……」
エミリアが、悲しそうに眉をひそめて後ろへと目線を向ける。
突如として現実へと──この空間を現実と表していいのかは分からないが──侵食してきたそれへ、クルシュは苦しそうに息をする。
聞いているだけでも、見ているだけでもしんどくて、胸へ鉛を放り込まれた気分だ。
「……誰が、こんな……」
その問いは、この悪趣味な状況を作った、誰かへと──。

​───────​───────​─────

『らしないなぁ、ユリウス。まだ鉄火場は続いてるんやで?なのに、感情論優先やなんて……友達とお遊び気分ならヨシュアの方がマシやよ?……ま、ええわ。ユリウス。なんや、クルシュさんらのところに用事があるんやろ?それ、済ませてき。そっちの金髪の子も、ちょっと出ててもらってええ?』

『――やれやれ、アナ。時々、君のもったいぶった素振りはもどかしさしか生まないことがある。今回なんかはまさにそうじゃないかな』

『ボクの名前はエキドナ。まぁ、何と言うべきか……一種の人工精霊というやつだ』

​───────​───────​─────

ベアトリスとロズワールがその言葉に僅かに反応し、ユリウスも、分かりやすくは無いが、僅かに表情を変えた。
「エキドナ……」
ベアトリスがいつもとさして変わらぬ表情のまま唇を湿らせ、その名前を口にする。
「……なるほど……」
ロズワールは、他者から見れば分からないくらい僅かに、その瞳に、何かを。
「……スバルくん、君は本当に、物事の渦中にいる子だーぁね」

​───────​───────​─────

『何の、悪い冗談だ。お前がエキドナ……?』

『何のことやらわからんけど、ウチがエキドナと初めて会ったんはもう十年以上前の話。それからずっと、ほとんど手放さずに今日までやってきたんや。ナツキくんが言うてること、ちょっと辻褄が合わんのと違う?』

『――エキドナは、大昔の魔女の名前だ。『嫉妬の魔女』以外にも、過去には魔女がいたんだ。その魔女の一人で、本人はとっくに死んでる。ただ、魂だけになったそいつと会った経験があってな。それで警戒してる』

​───────​───────​─────

「……言葉だけで聞くと、到底信じられない話ですね……」
オットーなら、スバルに何を言われたとしても大抵は信じられるが。
「……べティーは、母様もスバルも大好きなのよ。だから少しだけ、悲しいかしら」
「ベアトリスちゃん……」
茶会でのエキドナは、ベアトリスの知る彼女とは少し違った。
だからそれは、厳密には気にしなくていいのだと思うが──。

​───────​───────​─────

『色欲の要求は、なんや他のとは違って単なる嫌がらせ。ええと、『相思相愛の男女を二十組、制御搭に届けろ。――絶対に危害は加えない』って感じやった』

『強欲を語る人物の要求はこうだ。『自分と銀髪の花嫁の結婚式を行う。婚礼のための準備の一切を邪魔するな』とね』

『ベアトリスも、『叡智の書』も、エミリアも!誰一人何一つ、奴らにゃやらねぇよ!ふざけやがって、大概にしろ!』
『……そういう反応するやろなぁ思てたけど、その通りすぎて気持ちええくらいやわ』

​───────​───────​─────

「私もっ!私もそう思うわ!大罪司教の……すごーく酷いことをするような人達の、ワガママなお願いなんて聴けないわ!」
エミリアが一瞬言い淀んだのは何故か、その理由に本人すら気づいていないが、ベアトリスやガーフィールも、同意すると言いたげに眉をひそめていた。
「エミリアを花嫁と呼んでいいのはスバルだけかしら。それ以外の男となんて、べティーが許さんのよ」
「……ふふっ、ベアトリス、パックみたいなこと言うのね?」

​───────​───────​─────

『最初から諦めて、それを念頭に入れて動くのなんざ御免だ。俺はまだそれほど、この世界の常識に染まっちゃいねぇ』
『またわけのわからんこと……白鯨のときも、その後の魔女教も。戦って犠牲者は出たはずや。そのときも、ナツキくんは往生際の悪いこと言うてた?』
『馬鹿にするなよ、アナスタシア。あのとき、戦って犠牲になった人たちには覚悟があったさ。死んだ人がいるのは悲しいし、死んだ人たちも死にたいと思ってたわけじゃねぇけど、覚悟はあった。覚悟の有る無しは、全然違う。この都市の人たちに、その覚悟を問われる義務はない。ここを戦場にしたのは戦場にした奴らの勝手だ。その勝手に振り回されるのは間違ってる』
『嫌がってもその勝手は覚悟のない人たちを襲う。そうなったら、その人らも覚悟せなアカンのと違うの?』
『違うね。覚悟完了してる奴らは、同じ覚悟完了してる奴らが迎え撃つのが道理だ。それを常日頃覚悟して、覚悟未完了の人を守るために頑張るのが騎士だろうが。俺は騎士にそう期待するし、村のガキ共にはそうかっこつけちまった。俺はエミリアの騎士だ。エミリアのために戦いたい。けど、それはエミリアだけが守れれば他がどうでもいいって話じゃない。ユリウスはあんたの騎士だ、アナスタシアさん。誰よりあんたのために戦いたいさ。けど、それだけじゃ満足できねぇんだ。騎士って生き物が格好つけで、欲張りだから』

​───────​───────​─────

ユリウスが、その絵画のように整った顔立ちに、感銘と、頭を打たれるような衝撃と──俗的な言い方をするならば、自分の理想に近いそれを惜しみなく言葉にする彼への、感動を、乗せた。
「……そうだね。騎士とは格好をつけたがる生き物だ。誰に言われたでもなく、そうしたいと思えるのだから」
熟、スバルは満点を引く人物だ。
ユリウスにとっては、少なくとも、著しく好感度が下がることは一度もなかった。

​───────​───────​─────

『おい、ガーフィール、アル、やめろ!深呼吸して、落ち着け。こんな言い合いにすぐになるのがおかしいってのは感じるだろ。たぶん、『憤怒』の影響だ。感情がコントロールできなくなってる』
『あァ?何を言ってんだ、大将。この野郎がムカつくのに理由なんざ……いや……本気ッかよ。あんな、ちっと気ィ抜いたッぐれェで』

『なるほどな。これが他人に感情を弄ばれる感覚かよ。確かにこいつは何度も味わいたいもんじゃねぇや。最悪ってのもわかるぜ』

『オレらは兄弟が気付いたのと、話を聞いてたってんでおかしくなってたことに自覚が持てた。でも、関係者以外はそうじゃねぇんだ。この感覚が都市全域に広がってるんだとしたら……何も知らない一般人も、正気は保てねぇよ』

​───────​───────​─────

「……本当に、厄介な能力だこと。怒るつもりもないのに怒らされるだなんて……ラムなら、絶対に味わいたくはないわね」
ラムが足を組み直して、不快そうに吐き捨てる。
感情の操作というのは、文面だけで読むと大したことないが、目の当たりにするとそれは気持ち悪い。

「こいつのこれは、魔女の瘴気にすら近いのよ。スバルが止めなかったら、ガーフィールとアルデバランで殴りあっていたかもしれないかしら」
「それって……すごーく危ないじゃない。本当に、魔女教って、嫌な能力の人ばっかりね」

​───────​───────​─────

『大将、大将と……またずいぶん、都合のいい呪文みてぇに人のこと頼りやがるんだな、兄ちゃん。ご立派な態度すぎて、泣けてくるぜ』

『何もかも背負って、それでどうにかなるなら大したもんだ。主役の器だぜ。けど大多数の凡人は、そんな役目なんて負えねぇし力不足なんだよ。オレはもちろん、兄弟だって変わらねぇ。なのに、なんでそんな色々負わされなきゃならねぇ。期待してやるんじゃねぇよ。可哀想だろうが』

​───────​───────​─────

その言葉に、エミリアやベアトリスは唇を噛み締める。
「……そんな言い方……期待しないのが正解だなんて、私は思わないわ。私はスバルに期待してる。でも……スバルが泣きそうな時、手を取ってあげたいと思うのも、本当だもの」
アルの考え方は、酷く極端だ。
期待されたら可哀想だとか、傷つけないために期待しないだとか、人と人との関係はそうではないでないか。
矛盾してもいいのだ。
それが、人のあるべき姿だから。

「……ナツキさんが期待されて、背負わされたものは、僕が半分背負います。あの人は面倒な人ですから……期待されなくなることを、望んだりはきっとしない」

​───────​───────​─────

『ガーフィール、躊躇うな。今まで通りに呼べよ。最初は照れ臭ぇと思ったけど、今はもうしっくりきてる。その期待に応えられるかどうかまでは保証できねぇけど、やれる限りはきっちりやるよ』
『……お、おォよ、大将。わかったぜ。俺様も、いッくらでも力貸してやらァ。だァから、弱っちィことなんざ言わなくったっていい』

​───────​───────​─────

「……本当に、主人と似て失礼なやつかしら。べティーが起きていたなら、八つ裂きにしてやったのよ」
ぷいっとそっぽを向くベアトリス。
仮に起きていたとしても、優しいベアトリスは八つ裂きになどできなかったと思うが。
「ガーフィールのそれが真っ直ぐな信頼だってこと、スバルが分かっていないはずないかしら。スバルをバカにするんじゃないのよ」

​───────​───────​─────

『放送すること自体にウチは何の反対もない。せやけど、問題があるんは別のところ……それこそ、誰が何を放送で話すんってところや』

『一緒だよ!ガーフに大将って呼ばせるだけのことを、兄弟が示してきた。それがあっての信頼だろ?んで、兄弟はどうやら自分の手柄を大したことじゃねぇと勘違いしてるらしいが、言ってやるよ。魔女教の『怠惰』を撃破したなんて肩書き、今この都市どころか、この世界で持ってるのは兄弟だけなんだぜ?魔女教に占拠された都市に、魔女教の大罪司教を殺した男がいる。さっきの条件の中で、これだけ人の希望と期待を煽れる奴が他にいるか?いるとしたら、剣聖ラインハルトと兄弟だけさ。そしてここには今、兄弟しかいねぇ』

『ヒーローやることだけなら、もう一年前から決めてたんだ。そうしないと、見られてる子に恥ずかしいし、見てる子の背中に追いつけねぇから』

​───────​───────​─────

それは、英雄幻想だった。
オットーは、スバルの英雄になりたがるところが嫌いではなかった。
それも、スバルのいいところだからだ。
ただ、それによってスバルに押し付けられる苦しみを思うと、少しだけ、心が疲れてしまうだけだ。
「……本当に、仕方のない人ですね」
スバルが誰かのために傷つくなら、その傷を消毒するくらいの役割は、オットーが担ってやろうと思う。
適材適所、というやつだ。

​───────​───────​─────

『――あー、ええっと、これでちゃんとみんなに声が聞こえてるか?マイクテストマイクテスト、ワンツーワンツー』
『聞こえてるみたいで助かる。で、まず最初にいきなりこんな放送してごめん。驚かせちまったと思う。今度は何を言われんだって、不安に思った人が大勢いるはずだ。けど、安心してほしい。今、この放送をしてる俺は魔女教の人間じゃない。最初にそのことをわかってくれ』

​───────​───────​─────

スバルの、演説が始まる。
エミリアは、それを笑って見守っていた。
「……大丈夫よ、スバル」
スバルの声の震えから、様々な感情が伝わる。
「意外と、気持ちってちゃんと伝わるものなの。私も、最近知ったんだけど」
宝石のような瞳を細めて、イタズラをした子供のように、笑う。

​───────​───────​─────

『それから期待させて悪いんだが、魔女教の奴らの脅威はまだ消えてない。都市庁舎は奪い返せたけど、制御搭に奴らはこもったまんまだ。都市が水に沈む危険も、そのための奴らの要求もまだ生きてる。そのことも、わかっていてくれ』
『ごめんな』

​───────​───────​─────

八つ当たりしたくなるような群衆の不安や焦燥さえ、スバルは先読みしてみせた。
「……不安を取り除くのは、簡単じゃないかしら。それも、魔女教相手なら、特に」
それでも、スバルなら──ベアトリスの契約者なら、それを成し遂げてみせるだろう。
それは、美しき慈愛と、全霊での、信頼だった。

​───────​───────​─────

『今、みんなはこの放送をどこで聞いてる?避難所にいる人たちや、ひょっとすると避難所に逃げ込めてない人たちもいると思う。みんな不安でいっぱいなはずだ。怖いって膝を抱えたくなる気持ちもわかる。だってのに、わざわざ変にみんなの期待を煽るような真似して、俺を何様だと思ってると思う』
『俺は、何様でも何者でもないよ。みんなとおんなじで、状況に振り回されて、理不尽に押し潰されそうで、ビビッて足が震えてる。そんな程度の奴だ。こうして放送でみんなに呼びかける役目も、ひと悶着があってそれで引き受けてる。俺には荷が勝ちすぎだって今でも思ってるよ。本当ならもっと、こうしてみんなに話しかけるのに相応しい人は他にいるんだ。きっとそうだ』

​───────​───────​─────

スバルの、自分自身の価値を疑うような言葉。
聞いているだけで、気持ちが沈んでしまう。
「……勇気づける、という話じゃなかったかしら。これでは、逆効果じゃ」
「そーぉれは違うね、ラム」
「ロズワール様?」
「……沈めて沈めて、そうして最後に持ち上げる。恐ろしき世界を惑わす扇動者の、常套手段だ」
ロズワールが、そう言って笑う。

​───────​───────​─────

『だけど今、こうして俺が話してる。俺なんかよりよっぽどすごくて偉い人たちが、俺がやるべきだって、そう言ってくれてる。そうすることに意味があるんだって。俺の声、震えてないか?人前に立つのなんて、俺のキャラじゃないんだよ。立派なことも言えないし、みんなを引っ張ってくカリスマだって俺にはない。弱くて、どうしようもなくて、こんな大一番、今だって逃げたくてしょうがなくて……』

​───────​───────​─────

それは、全てが彼の本心だ。
彼は、この世界で最も彼を嫌っている。
それは、ユージンとしては、悲しいことだが。
「……ナツキさん、」
オットーが何かを口にしようとした時、ガーフィールが、きらきらと輝いた瞳でスクリーンを見ていることに気がついた。
「……大将……!」
「……余計なことは、言うべきじゃなさそうですねえ」
「オットー兄ィ、大将の演説はほんとにすげェぜ……!」
ガーフィールは本当に、弟属性が強すぎる。

​───────​───────​─────

『何ができるかなんてわからなくて、耳を塞いで頭を抱えて、自分が蹲ってる間に全部解決してくれればなんて他力本願を本気で願って……』
『――それでも逃げられないから、戦う。俺は、それだけの奴だ』

​───────​───────​─────

そう、それだけ、それだけなのだ。
ただ、それだけを積み重ねて、スバルは希望を連れてくる。
「……なかなか出来ることではありませんよ、スバル殿」
逃げられない時に、前を向いて戦える人間は、そう多くは無いのだから。

​───────​───────​─────

『もう一度、聞かせてくれ。この声を聞いてる人は、今どこにいる?避難所に逃げ込めてるか?自分の家に隠れてるのか?一人で震えてたりしないか?誰かと一緒にいられてるか?一緒にいるのは大切な人か?知らない顔でも、この数時間で見知った顔ぐらいにはなったか?』
『勝手な話だし、難しいかもしれないけど、お願いだから一人にならないでくれ。一人でいると、つまんない考えばっかり浮かんでくるんだ。経験則だ。わかるよ。だから一人にならないでくれ。誰かと一緒にいてくれ。そして――そしてできるなら、一緒にいる誰かの顔を見てくれ』

​───────​───────​─────

「……一緒にいる、誰かの」
ラインハルトには、この演説はきっとできなかった。
視点が違うと、考えが違う。
市民に寄り添う演説は、スバルにしか出来なかったのだ。
「……本当にすごいね、スバル」
だからこそ、ラインハルトは、スバルの友達として、彼を支えたいと思うのだ。

​───────​───────​─────

『今、誰の顔を見た?大切な人か、それともこの数時間を一緒に過ごした知らない相手か。友達って可能性もあるな。……たぶん、ひでぇ顔してるだろ。泣き顔だったり、辛そうな顔だったり、笑ってる顔はないと思う。いや、ひょっとしたら心配させないように、健気に作り笑いしてる人はいたかもしれない。いるんなら、それはすごい人だ。大切な誰かがもしそうして笑ってたら、誇りに思っていい。そう思った上で、知ってる笑顔と見比べてくれたらいい』
『――それが、許せるかよ?』

​───────​───────​─────

「……流石だ、スバル」
この状況で笑える人は、そういない。
それでも、誰かのために笑える人を、スバルは『すごい人』と称した。
小さなことだが、その小さなことが、ユリウスには、酷く大きく感じられた。
「……私もそう思うよ、スバル」

​───────​───────​─────

『俺は許せない。許したくない』
『俺にも大切な人がいる。大事な仲間がいる。俺はその大切な人たちに、辛い顔や悲しい顔をさせてる奴らが許せない。無理に笑顔を作らせるのも御免だ。ふざけんじゃねぇ。馬鹿にすんなよ。俺の知ってるこの子の笑顔は、本当はもっと可愛いんだぜって声を大にして言ってやりてぇ』
『負けっ放しじゃいられねぇ。投げ出しっ放しじゃ格好がつかねぇ。やられっ放しでいいわけがねぇ。間違ってるのはあいつらだ。間違ってる奴らをやっつけるのに、正しいことをするのに力が足りなくても、何が正しいのかはわかるはずだ。自分が正しい側にあるってわかってるときに、間違ってる奴らに負けるのなんて我慢ならねぇ。そんな奴らに負けを認めるなんてこと、少なくとも俺はしたくない』

​───────​───────​─────

フレデリカが、目を細めて笑う。
「……そうですわね。間違った方々に屈するなど、あってはなりませんわ」
スバルの言う言葉は、どれもこれも聞いていて気持ちがいい。
スバル風に言うなら──
「かたるしす、と言うやつですわね」

​───────​───────​─────

『逃げたい、けど逃げられない。泣きたい、けど泣いてられない。敵がヤバい、けど負けたくない。だから、戦う。弱いのも、頭が悪いのも、全部わかってるけど戦ってやる。あいつらが間違ってる。俺の好きな人たちに、泣きそうな顔させるあいつらが間違ってる。だから、戦う。俺は戦う。――みんなにも、戦ってほしい』
『勘違いはしないでくれ。戦ってほしいって言っても、何も棒で殴りかかれって話をしてるわけじゃない。むしろ、そんな無謀は避けてくれ。徒党を組んで、魔女教相手に血眼になって戦ってほしいって話じゃないんだ。俺がみんなに頼みたいことは、望んでる戦いっていうのは、下を向かないでほしいってことなんだ。足下、じっと睨みつけてても何も変わらねぇよ。視線で穴が開くわけじゃなし、仮に開いても打開策に繋がるわけじゃなし……だから、顔を上げて、前を向いてくれ。周り見渡してみたら、きっと誰かと目が合う。それは同じ不安とか、同じ逃げたいって気持ちを抱えてる誰かだけど……同じ、負けたくないって気持ちを抱えた誰かでもある。一緒にいる大切な誰かと、そうして今、目が合った誰か。そこに自分も入れて、それだけで三人。場所によっちゃもっと大勢がいるはずだ。一人じゃないってことが、それで実感できてくれると嬉しい。一人じゃないって、それだけでわりと力になるもんだろ?大事な誰かの、悲しい顔が見たくない。目が合った誰かに、格好悪いとこ見られたくない。そんな薄っぺらで弱っちい意地っ張りが、まさか俺だけってことはないよな?』

​───────​───────​─────

「……スバルが意地を張るのなら、べティーがそれに付き合ってやるかしら。だから……スバルだけだなんてこと、絶対にありえないのよ」
ベアトリスがそう言って笑う。
「……スバル一人なら無謀な無茶でも、べティーがいたなら、それは目標になるのよ。よーく、覚えておくかしら」
無茶で、無謀で、無知で──どうしようもないくらいに、危険の渦中にいる、ベアトリスの契約者。
そんな彼を、ベアトリスは、信じている。

​───────​───────​─────

『信じさせてくれよ。弱くてどうしようもない俺が、まだ諦められねぇんだ。諦めの悪い弱虫が俺だけじゃないって……そう信じさせてくれよ』
『それとも、俺だけなのか?』
『まだやれると……まだ戦えると、そう思ってるのは、俺だけなのか?』
『違うよな?』
『まだ、みんなも戦ってるよな?弱さに呑まれやしないよな?』
『傍らにいるのが大切な人なら、その手を握って信じてくれ。隣り合うのが知らない誰かなら、一緒に頑張ろうって頷きかけてくれ。自分も、その人も、負けも折れもしないで戦えるんだって。みんなが折れずにいてくれるなら、俺も諦めないで戦う。戦って――戦って、勝ってみせる』

​───────​───────​─────

ラムが、その可愛らしい顔を驚きに染める。
「……計算していた……とは思えないわね。土壇場で……台本もなしに、こんな演説をしたというの?ただ、頭に浮かんだ言葉を並べて?」
それが出来てしまうなんて、まるで──
「……扇動者、のようだーぁね」

​───────​───────​─────

『――俺の名前はナツキ・スバル。魔女教大罪司教、『怠惰』を倒した精霊使いだ』
『都市にいる魔女教は、俺と仲間たちがどうにかする!だから、みんなは信じて戦ってくれ。大切な人の手を握って、負けそうになる弱い心をぶっ飛ばしてくれ。そしたら――あとのことは全部、この俺に任せておけ!』

​───────​───────​─────

熱意が、聞いていた群衆の溢れんばかりの希望が、伝わってきたような気がした。
「負けたりしないわ、スバル。私も……困った時は、スバルの手を握って、すごーく頑張るからっ」
エミリアが、花のように笑う。

​───────​───────​─────

『……はぁ、しんどかった』
『ナツキくん』
『うわひゃ!ごめんなさい!次はもっとうまくやります!』
『なんで謝るん?変な子ぉやわ。変な子ついでの評価であれなんやけど、ナツキくんてもしかして』
『うん?』
『元々は詐欺師かなんかやってたのと違う?』
『言うに事欠いて何を言い出したの!?見ての通り、何の変哲もない至って普通の学生……いや、ある意味じゃ学生未満だったよ!』
『ああ、違くて。悪口やないよ。あんまり今の話し方が堂に入ってたっちゅうか……こき下ろして、持ち上げてって話術が完璧にはまっとったんやもん』

​───────​───────​─────

「……まあ、恐ろしくはありますけどね。本人が完全に無意識なところも含めて」
下げて上げるは詐欺師の基本手段だが、スバルは無自覚にそれをやってのけている。
「……本当、恐ろしい人ですよ。ナツキさんは」
弱い彼が秘めている強情さが、時折恐ろしく感じられる。

​───────​───────​─────

『――素晴らしい、演説だった』

『演説がすっぽ抜けて、実感ないんやったらはっきり言うてあげる。――ナツキくんの演説は、考え得る以上に完璧やった。扇動者の才能あるよ、君』

『大将ァ、やァっぱり大将だったぜ。俺様が『聖域』を出て、大将についてッきたのァ間違いじゃァなかった。……そう、感じた』

『大衆演説なんて任される、ナツキさんの立場ほどじゃありませんよ。……僕の友人に英雄はいなかったはずなんですが、見込み違いでしたかね』

『ラインハルト・ヴァン・アストレア――遅ればせながら、合流したよ』

​───────​───────​─────

主な面々が合流し、反撃が始まる。
「……スバル……」
エミリアが、可愛らしい顔でじっとスクリーンを見つめ、満面の笑みを浮かべる。
「早く見終わって……それから、スバルを迎えに行かなくちゃ」
それが、今のエミリアがしたい、一番だから。

Comments

  • レイラ
    Apr 2nd
  • カユエシア

    マジのマジでスバルの 演説シーン大(∞)好きなので❗全文書いてくれてて、 ハチャメチャクチャ ありがとうございます🙇😆💕✨ 語彙力死んでてすみません😣💦

    June 5, 2025
  • 小説好き
    April 11, 2025
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags