不快な女
補足しておくと、この部屋の目的は『ナツキ・スバルの人生の追体験』です。
痛みが共有されることはありませんが、平気な状態から記憶が消されたり人が居なくなったりするスバルくんの絶望を味わわせる為に、死に戻り周回でないところで出ている(正解ルートでも残るもの)ものについては、時系列に合わせて出ています。
白鯨での記憶消去が適応されなかったのは、スバルくんが死に戻ってなかったことになったからです。
レムの眠り姫、クルシュの記憶喪失と血の呪いなど、最終ルートでも残るものばかりですよね。
ちょっと訳分からないかもしれませんが、怪我や暴食の影響などは映像の進みに合わせて現実にも侵食すると思ってもらえればいいです。
ユリウスやヨシュアについても今後ゴタゴタします。
エミリアみたいなすぐ戻るのでも、一応適応はされます。すぐ戻りますけど。
人生上映会の記憶は消えることは無いので、エミリアたちはスバルの記憶を通じてレムを覚えている感じですね。
スバルが知らないところの記憶は無いですけど。
クルシュの怪我の状態は、スバルが吸収するところにいけばその状態になります。
ほんとに、記憶と体の状態が魔法で操られてる感じで。
分かりにくいですかね。すみません。
Twitterでも話してたんですが、スバルくんが精神完全にイカれて両親の幻覚を見る話を書いてます。
書きたいところだけ書くので、アップしたあとは煮るなり焼くなり二宮和也って感じで好きにしてください
ハピエン(広義)なので、安心してください
- 930
- 964
- 44,875
『目、覚めたみたいだネ。状況はわかる……っていうか、喋れる?』
『ベアトリスちゃんが治癒魔法をかけてくれてなかったら、スバルきゅんは今頃は片足がなくなってたはずだよ。あの子に、感謝しなきゃね』
『猫耳の嬢ちゃんが言うには、限界までマナを使った結果や。実際、そんぐらいのことにはなるやろ。ワイがたまたま兄ちゃんらを見つけた広場、兄ちゃんとほっとんどおんなじケガした奴らがぎょうさん転がっとった。その全部、この嬢ちゃんが一人で死なせんとこまで持ち堪えたんやぞ』
───────────────────
「ベアトリス......」
「......ベティーが選んでやった事なんだから、スバルが気に病む必要なんてないのよ」
そう言っても気にしてしまうのが、ナツキ・スバルという人間なのだが。
「こんなに酷いことに......」
エミリアも、顔を顰める。
スバルから事のあらましをなんとなく聞いてはいたが、ここまでとは思っていなかったから。
───────────────────
『やっほ。やっほー。やっほっほー。クズ肉の皆さん、元気にしてやがりますかー?日に何度聞いても麗しい、アタクシの美声に大興奮してんじゃねーですか?きゃははははっ!』
『最初の放送がスバルきゅんの寝てる間にあって、今のが二度目。最初の放送では名乗ってたよ。魔女教大罪司教の、『色欲』担当。なんだけど……眉唾だから、フェリちゃんは信じてにゃい。けど、確かに相手はこう名乗った。カペラ・エメラダ・ルグニカ。――いるはずがない、王族の名前にゃんだけどね』
───────────────────
「......何回聞いても、嫌ににゃる声」
フェリスが顔を顰めれば、クルシュもそれに頷く。
「そうですね......」
「クルシュ様?」
「......いえ、ただ......」
クルシュの記憶にも、靄はかかっている。
この部屋のせいなのだろうが、それ以上に──
「追体験が、この部屋の目的......」
クルシュは、見えにくい記憶の中にある確かな絶望を、思い出そうとしていた。
───────────────────
『『憤怒』の大罪司教は……説明が難しいんだが、誰かが負った傷や感じたことを、そのまま他の人間にも同じように感じさせる力があったんだ』
『そっか。……スバルきゅんと他の人たちの傷跡が似すぎてるのはそういう理由だったわけ。そっくりそのまま傷をつけるにゃんて悪趣味すぎると思ってたけど……ひょっとしたら、その方がマシだったかもしんにゃいね』
『『強欲』の野郎は、カラクリはわからないが攻撃を無効化する力の持ち主だ。炎を浴びても、鞭を当てても、殴っても、ダメージゼロ。おまけにそれをどうやら、自分だけじゃなく触れてる相手にも適用できるかもしれない』
『傷を他人に伝搬する奴と、無敵な奴……はは、やんにゃっちゃう』
───────────────────
「......本当に、スバルがいなかったら、レグルスは倒せなかったと思うわ」
エミリアだけでは、無敵のからくりを攻略できなかった。
それは、ラインハルトだって同じことだ。
「......スバル」
仮死状態である彼の身を、案じる。
「早く見終わって、スバルを迎えに行かなくちゃ」
たとえその果てに、何があるとしても。
───────────────────
『ま、待て。意味はわかった。対話鏡のおかげってことは十分に。えっと、クルシュさんたちはこことは違う避難所から連絡を入れてる、ってことでいいんだよな?』
『そうです』
『お前がそこにいてくれるなら、ちょっと安心できたよ、ユリウス』
『こちらも君が意識不明で担ぎ込まれたと聞いて心配していた。減らず口を叩くか迷う程度には回復したようで何よりだよ。……エミリア様がさらわれたとというのは本当なのだろうか?』
『……本当だ。悪い。俺が不甲斐ねぇ』
『大罪司教が二人がかりだ。君の力不足を責めるほど、物分かりの悪い男ではないつもりだよ。こちらには私とクルシュ様の他に、アナスタシア様と『鉄の牙』が数名。ああ、フェルト様の従者が二人ほど合流している』
───────────────────
「スバルが謝ることないわ。拐われちゃったのは私のせいなんだし......それに、レグルスとシリウス相手に戦うなんて無茶だったもの。スバルは悪くないわ」
エミリアが手をわたわたと動かすから、ベアトリスとオットーが軽く笑う。
「......そうですね。ナツキさんは、意外と気にしすぎる方ですから」
「でも、私はスバルのそういうところもいいと思うの。なんだか、スバルはスバルなんだなって安心できるから」
にこりと笑って、砂丘でのことを思い出す。
「......あれ?」
記憶の中に、違和感が。
「......ユリウスって......」
スバルの記憶を通じて見たそれしか、エミリアは──
「......気のせい、よね?」
考えるのは、やめた方が良さそうだ。
───────────────────
『『怠惰』のときを思い出してね。魔女教となれば、ひょっとすると君が専門なのではないかと期待しているんだよ。ひょっとすると、私では思いもよらないようなことで状況を打開してくれるかもしれないと』
『どんな無茶ぶりだ。期待されてるとこ悪ぃが、魔女教特化ではねぇよ』
───────────────────
「期待......」
オットーの表情が濁る。
すぐに、取り繕ったが。
「無茶ぶりだってスバルは言うけれど、実際に何とかしてしまうんだから......凄いね、スバルは」
ラインハルトが、眉を下げて笑う。
ラインハルト一人で成せないことを、スバルはカバーしてくれる。
それがどんなに嬉しいことであったか、スバルは気づいていないであろうが。
───────────────────
『何か、近づいてきとる。なんや、この……血ぃの臭いか?』
『血の臭いだと……?』
『ガーフィール!?』
『すまねェ、大将……ッ!俺様ァ、役立たずの!能無しだ……ッ!』
───────────────────
ガーフィールの顔が、歪む。
自分の弱さに打ちのめされ、スバルの姿を見つけた時、酷く安堵した。
ガーフィールにとって、スバルは希望であった。
ガーフィールの考えでは及ばないようなことをして、どうしようもない暗晦を青空へと変えてくれる。
そういう、人だから。
「大将......ッ!」
スバルはいつもガーフィールの手を取って立ち上がらせてくれるけれど、ガーフィールがそれを出来たことは──
「......俺ッ様は......」
スバルの記憶を見る度に、それを、痛感する。
───────────────────
『いい状況だなんて言えねぇが、それでもよくここに辿り着いた。フェリスがいる場所にきた判断は最善だ。お前のおかげで、あの子は助かるぞ』
『俺様の、おかげ……?』
『フェリス、どうした……?』
『なんで……?傷が、傷が塞がんにゃい……!これじゃ、助けられにゃい!』
───────────────────
「......ほんと、フェリちゃんで治せない傷ばっかり持ってくるんだから」
フェリスの力が及ばない、どうしようもない、歯痒い現実を。
「......優しいね、スバルきゅんは」
その優しさが、真綿のようにガーフィールを締め付けたことを、スバルは気づいただろうか。
───────────────────
『ガーフィール。話しづらいかもしれねぇが、何があったか話してくれ。お前がそこまでやられるなんて、そうそう考えられねぇ。それに……俺たちはどうにかして、あいつら全員をぶっ倒さなきゃならねぇ。でないと、全員がこっから無事に帰るってことができねぇからな』
『ってわけで、俺もいくぜ。止めても無駄だぞ。確かに大した力にゃなれねぇかもしれねぇが、俺にもできることが……』
『止めるって、なんで止めんねや。兄ちゃんがおったら百人力や。頼りにしてるで。白鯨のときも、『怠惰』のときも、兄ちゃんが気張っとったんをワイは見とる。兄ちゃんを評価しとるんがヴィルヘルムはんだけや思ったら間違いやで。ワイも見るところは見とる。ま、気に入るかどうかは銭次第やけどな』
───────────────────
「そうよ。見てる人は見てるもの。スバルがあんまり強くないのに頑張ってみんなを助けようとしてるって、みんな分かってくれてるわ」
「庇ってるのか庇ってないのか分かりにくいですけど......そうですね。百人力は買い被りすぎだと思いますけど」
オットーが疲れたように言うから、エミリアはそれを吹き飛ばすように明るく笑う。
───────────────────
『それにしても……カペラ、カペラか』
『その響きに何か思い入れでもあるのかい?』
『カペラだけじゃねぇんだ。レグルスと、シリウスもそうだ。ペテルギウスも、今にして考えると……まさか、意味があるとは考え難いんだが』
『んッだよ、大将。奴らの名前になんか、意味でもあるってェのか?』
『大したことじゃねぇよ。ただ……奴らの名前がひょっとすると、俺の地元の星の名前と同じのばっかな気がして、少し』
『星の名前、ですか?』
『変な期待しないでくれよ?その、俺の地元じゃ星に名前を付けてて、それがどうも大罪司教の名前と被るのが多い。俺はその、星の名前と逸話が好きでな。ちょっと詳しかったりすんだよ』
───────────────────
「星、か」
ロズワールが目を細める。
エキドナが、そのようなことを口にしていたような気がする。
「......奇妙な偶然、で済めばいいのだけどねーぇ」
ラムが、ロズワールの方へ目をやる。
「──バルスも、大概厄介な出自を持っているのね」
───────────────────
『ペテルギウス。レグルス。シリウス。カペラ……』
『そうです。その星の名前に、逸話があるとスバル様は言っていました。その逸話はどんな逸話なんですか?関係があるかもしれません』
『逸話、逸話ってのは……巨人の脇の下と、ジャウザーの手だ』
『え?』
『ジャウザーの手だ。そうだ。ジャウザーの手だった!』
『す、スバル様?何を……ジャウザーの手って』
『ペテルギウス……じゃなく、ベテルギウスの語源だよ。あいつの力は『見えざる手』で、ベテルギウスの語源はジャウザーの手だ!シリウスは『焼き焦がすもの』『光り輝くもの』、これは微妙か?火を噴いてたけど、言うほど符号しないか。……レグルスは、『小さな王』だ。自己中なあいつにはぴったりの価値観じゃないか!それにカペラは……!』
『カペラは?』
『雌ヤギだ!雌ヤギだった!カペラは雌ヤギだぜ!』
───────────────────
スバルは酷く歓喜した様子だったが、クルシュたちにはいまいち刺さっていなかった。
「スバルって星が好きだったんだ......確かに、よく月が綺麗ですねって言ってくるもの」
「それはまた別だと思いますけど......意外と綺麗なものが好きなのかもしれませんね」
「そうなのかな......」
───────────────────
『──いきます!!』
『無茶、無理、無謀の三拍子!どーっしててめーらみたいなクズ肉共ってそんなにこんなに愚かで醜くて浅はかで生きてられんですかねえ?アタクシだったら絶対に耐えらんなーい!きゃははははっ!』
『じゃ、改めまして!アタクシが魔女教大罪司教、『色欲』担当のカペラ・エメラダ・ルグニカ様でーす!死ね!腐れクズ肉共がぁ!』
───────────────────
聞くだけで不快になる声をぶら下げ、カペラは口汚く話す。
エミリアが、カペラの言葉に顔を顰める。
「......本当に、これは......」
悪意から生まれたようなその女は、人を不快にする為だけに声を発しているのだろうか。
そう思うほど、聞けば聞くほどに吐きそうになる。
「スバル......」
───────────────────
『見りゃわかるもんを聞くのって馬鹿丸出しじゃありやがりません?でも、アタクシ慈悲深いから答えちゃーう。見ての通り、不死身に決まってやがるでしょーが』
『時間になっちまいやがりました。アタクシ、放送しなきゃならねーんで、中に戻らせてもらっちゃいまーす。てめーらと話してて本当に無駄!腹立たしいほど無駄!だーから、そこにいるちょっとマシ肉共に切り刻まれて、死に腐ってください』
『嬉しいな、嬉しいね、嬉しいさ、嬉しいとも、嬉しすぎるから、嬉しいと思えるから、嬉しいと感じられるからこそ!暴飲!暴食ッ!待ち焦がれたものほど、腹を空かしておけばおくほど!最初の一口がたまらなくうまくなるってもんさ!』
『僕たちは魔女教大罪司教、『暴食』担当、ロイ・アルファルド』
───────────────────
カペラのグロテスクなそれに、エミリアは目を見開いたあと、顔を歪める。
「不死身......」
嘘の可能性もあるが、ユリウスたちの攻撃を受けても再生したことの説明がつかない。
「......無敵に不死身......全く、いい加減にして欲しいかしら」
ベアトリスが顔を顰め、そう吐き捨てる。
そうして、暴食を名乗るそれに、目をやり──
「スバルが悲しむことをするのは、べティーが許さんのよ」
───────────────────
『スバル様、申し訳ありませんでした。本当なら、あなたが一番『暴食』を……』
『やめてくれ、クルシュさん。誰もクルシュさんが悪いなんて思ってない』
『あの『色欲』も、そこにいるってことになるが……』
『ええ、そうですね。でも、この廊下の広さで本当に……?どう思われますか?』
『少なくとも、通路の待ち伏せはないと思っていいと思う。それはクルシュさんも同意見だろ?問題は放送室での待ち伏せだけど……中に入ってこれだけ時間が経っていやがるんだ。何か準備してやがることは間違いない』
『待ち伏せに対して、何ができるか……』
『はい』
『相手が当たり前のようにこっちを待つなら……こっちは、その当たり前を崩そう』
───────────────────
スバルがクルシュを抱え、窓から侵入する。
「......ぁ、」
嫌な予感に、エミリアは眉を顰める。
「......私を助けに来てくれた時、スバルは足を怪我してた......てっきり、さっきのレグルスのがそれだって、思ってたけど......」
よく考えれば、手も変になっていた。
それは、つまり、
「──スバル!」
スバルが、また、怪我をしてしまう。
「──クルシュ様......」
フェリスが、覗き込むように顔を見る。
クルシュの表情は依然晴れず、寧ろ、何かを考え込むように──
「......そう、だったのですね......」
「クルシュ様?」
「......目的が......」
───────────────────
『待て!待って!これは違……っ!』
『問答無用!都市に混乱と災いをもたらす、その報いを受けなさい!これで、終わりです――!』
『待っ──』
『あ、あっちにお部屋……みんな、そこに』
『閉じ込められてるのか?その……』
部屋の向こうには、無数の──
「――――」
「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」「――――」
昆虫特有の、複眼。
───────────────────
それを見た時、オットーは、理解した。
加護なんかなくても分かる。
それの趣味の悪さと、気持ちの悪さを。
そして、その不快感は、数秒の静寂をみなに与えたあと、確かに伝染した。
「......ぇ、」
人間だ。
心のある人間が、虫に変えられていた。
なにか理由がある訳でもない。
ただ、本能的に抱く。
それに込められた悪意が、気持ち悪くて。
「──カペラ......!」
誰が出したともしれない、怒りの声。
エミリアやラムは、その可愛らしい顔を顰め、スクリーンを睨みつけていた。
「......ナツキさん、ダメです、これは」
その悪意を知ろうとしてはいけない。
最初から、それが──
───────────────────
『きゃはははっ!バーカ、バーカ!てめーらクズ肉が足りねー頭ひねったところで、アタクシに知恵比べで勝とうとか脳味噌代わりに砂糖でも詰めてやがんのかってんですよー!きゃっはははは!カペラちゃんどぇーす!きゃははははっ!』
『色々と言いたいことも聞きたいこともあるが、まずその足どけろ』
『はぁ?アタクシのおみ足が見れて嬉しくて汁ドバドバ出てるんじゃねーんですか?それともアタクシの足の裏を必死に舐めてるメス肉にご執心?エロい体つきしてやがりますからね。僕ちゃん辛抱たまらねーってんですか、きゃははっ!』
『――!その人は!てめぇが足の下に敷いてていい人じゃねぇって言ってんだ!』
───────────────────
血を吐き、痙攣するクルシュを見て、フェリスは叫ぶ。
「クルシュ様!」
とうのクルシュは、顔を強ばらせたまま、スクリーンを見つめていた。
「......趣味が、悪すぎる......!」
───────────────────
『大っぴらに吐き出せねー劣情を!愛なんて言葉で飾るんじゃねーってんですよ。それとも言うか、言っちまいやがるんですか?お決まりの反論を。――僕が彼女を愛するのは、彼女の心根に惹かれたからだ!彼女の気高さに、優しさに、慈悲深い心に、器の大きさに、空を映したような瞳に、誰かのために自分が傷付くことができる生き方に、不平を訴えない強さに、僕だけに見せてくれる弱さに、一人きりで頑張ろうとする姿がほっとけないところに、心を安らがせる声に、慈愛に満ちた瞳に、心を奪われる眼差しに、愛しいと僕を呼ぶ唇に、繋いだ掌の温もりに、触れ合うたびに高鳴る鼓動に、風に揺れる美しい髪に、運命に結びつけられたって信じられるから、彼女だけが僕を認めてくれたから、辛いときに傍にいてくれたから、本当に大事なものを教えてくれたから、ずっとずっと一緒にいたから、これからも同じものを見て同じものを感じて生きていきたいから、約束したから、誓いを忘れないでいてくれたから、他の人と違う自分を見つけてくれたから、本当の僕を知ってるのは彼女だけだから、彼女の前でだけは自分を偽らずにいられるから、本音は寂しいってことをずっと誰かにわかってもらいたかったから、最初の想いを思い出させてくれたから、人を好きになるってことを教えてくれたから、流れる涙をあなたが拭ってくれたから、たくさんの中から私を見つけてくれたから、壊れそうなぐらい強く抱いてくれたから、誰にも叱られたことのない私を初めて叱ってくれたから、お仕着せじゃない言葉を初めてかけてくれたから、知らないことをたくさん教えてくれたから、見たことのない景色を見せてくれたから、鳥籠の中にいた私を外に出してくれたから、息苦しい世界から腕を引いて連れ出してくれたから、たった一人でも私の味方になってくれたから、私をわかってくれるのはあなただけだから、一緒にいることが当たり前だから、あなたがいないと生きていけないから、あなたといることが私の全てだから、あなたが私を愛して私があなたを愛しているから、あなたが胸を熱くするから、あなたといると全てが色鮮やかに見えるから、君なしじゃ幸せを感じられないから、もう一人じゃ生きていけないから、嘘だらけの生き方の中でこの気持ちだけは本物だから――全部全部、綺麗事じゃねーか!耳心地いいことばっか抜かしてんじゃねーってんだよ!内面がどーたら性格がどーたら気が合うだの相性だのグダグダうるせーってんですよぉ!外面だろーが、外見だろーが、見た目がてめーの肉を刺激するからその肉に惹かれてんだろーが!心に愛を感じるってんなら、そのキラキラした言葉で飾って、キラキラした目で見つめ合って、キラキラした口触りのいい寝物語を語ってた相手が、蝿になっても愛せるか試してみろってんですよぉ!愛せるか、愛せねーだろ!?おぞましいもんなぁ!?気持ち悪いもんなぁ!?嫌悪感しか湧いてこねーもんなぁ!?てめーがてめーでさっきそう言いやがったんだもんなぁ!?クズ肉が、アタクシを見てろ!』
───────────────────
カペラがまくし立てるそれは、被害妄想そのものだった。
人は所詮見た目なのだから、醜いものが愛されるわけが無い。
そんな極論を、最もおぞましい形で証明しようとしているのだ。
恐らくは、自己保身のための、芯も何も無いめちゃくちゃな持論。
それを口汚く怒鳴り散らかし、自分こそが正しいのだと言おうとしている。
博愛主義といえば聞こえはいいが、要は、ガキの癇癪なのだ。
大罪司教は皆そうであるが。
「......スバル!」
エミリアは、呆気にとられていた。
あまりにもめちゃくちゃで、有り得なくて、理解ができなくて。
スクリーンの中で足をちぎられたスバルに反応するのが、0.03秒遅れてしまった。
鼓膜を破るような絶叫が、惨劇に惚けるエミリアたちの脳を叩き起こす。
それだけなら、良かったのだが。
───────────────────
『あらら、死にそーじゃねーですか。クズ肉が悶え苦しむ姿を見るのは、人の心の痛みがわかるアタクシには辛すぎる光景ですよ。メス肉の方も、きっと死にますよ。残念すぎやがります。アタクシ好みだったから……試してやりたかったのに。血に負けるかどうか。あ、そーだ。てめーがどんな見苦しい肉の塊になるか、試してやろうじゃねーですか』
『――ッ!?ぉ、あぁぁおおあお!?』
『アタクシの血は、そんじょそこらの血とは違いやがりますよ。なにせ、龍の血が混じってやがりますからね。血の呪いに、負けるとすげーことになります。そこのメス肉より、てめーはもちますかね?』
───────────────────
エミリアの喉が音を吐き出そうとする。
だが、それよりも前に。
「あ゛ぁッ......!?きゃ、ぁ」
背後から、細くも大きい、悲鳴が聞こえた。
「──ぇ、」
エミリアが振り向けば、クルシュの顔に、異変があった。
「クルシュ様......!どうして!?さっきまで、何ともなかったのに......」
フェリスが急いで駆け寄るが、魔法は発動しない。
「......ぁ、」
この部屋では、加護も魔法も使えない。
それだけは、確かだったのだから。
「クルシュ、様......」
記憶が、スクリーンの進みとともに、晴れやかになる。
「フェリス......」
「クルシュ様!」
「......これはきっと......」
クルシュが何を続けたのかは、フェリスにしか聞こえなかった。
ただ、エミリアたちに、確かな絶望が伝染した。
「......追、体験」
レムが部屋から消え、クルシュの記憶も奪われた。
この部屋に入ってからの記憶は奪われなかったのが、不幸中の幸いだろうか。
いや、違う。
これは──
「......魔法で、無理やり肉体や記憶を時系列に適合させられてる......?」
あまりにも暴論だ。
だが、もう、そうとしか考えられない。
一番星を失った部屋で、血の匂いだけが、確かに──