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悪夢はいつもあなたの隣に/Novel by 春風

悪夢はいつもあなたの隣に

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2章に入りました。

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『一回無様に死んで、二回目も果敢に死んで、三回目はわりと完璧な犬死を演じて、四回目は死闘観戦の果てに流れ弾で死亡――的な展開だったけど、命拾ったみたいでよかったよかった。これで死んだらモブ一直線だな俺』

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「昴!」
菜穂子が声を張上げる。
その声は決して届かないが。
「昴……昴」
背景が屋敷になっていることから、昴が命を繋いだことを悟る。
「……菜穂子」
賢一は顔を顰める。
「昴……それは駄目だ」
自分の命をどこか軽視している。
それは、行き過ぎれば必ず身を滅ぼすことになる。
「引き返せよ……昴」

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『となると、新たな冒険の始まりだな。……いかん、いかんぞ、俺!わくわく以前に面倒くさいと感じるなんて、お前はあのひきこもりの時代に戻るつもりなのかよ!?あんな、ただご飯食べてゲームしてアニメ見て寝たい時間に寝てスレとか覗いて書き込みしてるような……戻りてぇ』
『そりゃ少しは親に悪いとか思ってたけど……ある意味じゃ放任というか黙認されてたようなもんだしなぁ』
『なんと衝撃の事実。こうして異世界で自分を振り返る機会がなかったら、ひょっとしたら俺は一生、自分がひきこもりじゃないって気付かなかったかもしれないな……まさか、俺はそのためにここに……?』

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「昴……戻ってきて……?お母さんは、昴がたとえ学校に行かなくても、それでもっ……」
昴も戻りたいと思ってくれている。
それでも、事実として昴は戻ってきてなど来れないのだ。
「どうして……これから、ゆっくり時間をかけて……そうしたら、きっと」
昴も菜穂子も賢一も、全員が幸せになれる形がきっとあったはずなのだ。
それはもう、叶わぬ夢物語でしかないが。
「昴……」

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『……なんて、心の底から腹の立つ奴なのかしら』

『そろそろベティーも限界なのよ。ちょっと思い知らせてやった方がいいような気がするかしら』

『――動くんじゃないのよ』

『気絶しなかったみたいなのね。聞いてた通り、頑丈なのよ』

『お前、アレだろ……人間じゃねぇな。この場合、性格的な意味じゃなく』

『一個、訂正……性格的にも、お前、人間じゃねぇや……』
『気高く貴き存在を、お前の尺度で測るんじゃないのよ、ニンゲン』

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「昴……!」
菜穂子がはらはらと不安を全面に出す。
「この子は……子供?ここはどこで、この子は誰なの?」
「分からねぇが……変な魔法を使ったな。あの子──エミリアちゃんと同じ魔法使いか?」
魔法使いがありふれた世界のようだし、幼女がそれに該当する可能性も高い。
「昴……大丈夫よね……?」

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『あら、目覚めましたわ、姉様』
『そうね、目覚めたわね、レム』

『……もっと大人しく目覚めたりできなかったの?』

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「双子メイドか……悪い子たちじゃなさそうだな」
「ええ……昴に対しても、あんまり悪意は無いみたいだし……ここは、エミリアちゃんのお屋敷なのかしら」
「ありそうだな。服も高級そうなの着てたし……所作も少し子供っぽいが、育ちは良さそうだったしな」
「……昴が傷つかなくて済むなら、私はそれで」

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『ケガ、治してくれたのってエミリアたんだよな。ありがとう、助かった。やっぱ死ぬのは恐いわ、実際。一回でいいよ』
『普通は一回しかしないと思うけど……ううん、そうじゃなかった』
『お礼を言うのは私の方。あの場所で、ほとんど知らない私のことを命懸けで助けてくれたじゃない。ケガの治療なんて、当たり前よ』
『――んじゃ、お互いに助け合ってプラマイゼロってことで、どうよ』
『互いに貸し借りなし!そんなわけで仲良くしようぜ、兄弟!』

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「……昴は、優しすぎるわ。不器用で……そのままじゃ、いつか擦り切れちゃう」
「……なにかした時に謙遜しすぎるのは、相手にとっても良くないぜ、昴。」
賢一は危惧する。
昴が持つ死に戻りが、その弊害が、いつか昴の心を限界に追いやってしまうと思うから。
「……会いに行けたらな」
すぐ近くで護ってやれるのに。

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『スバルってかなりいい家柄の出でしょう?武術とかならってたんじゃないの?』
『いや、俺はマジ普通の中流家庭出身だけど……俺が名家出ってどこ情報?高貴な家柄っぽい雅な気風が溢れ出してた?』
『この指もそうだけど、肌とか髪の見た目が理由。庶民とは暮らしが違いすぎる手よ。筋肉のつきかたも仕事でついた感じじゃないし……』
『黒髪黒瞳。南方の流民に多い特徴だけど、ルグニカでその状態でしょう。見当たらなかったけど、従者とかもいたんじゃないの?あの衣装だって、見たことない材質だったもの……どう、当たりでしょ』

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「……そうか、黒髪がめずらしい……それは、まずいな」
「?……どうして?」
「黒髪が珍しいってことは、それだけで好奇の目に晒されるかもしれない。昴は……普段から見栄を張ってるが、本当は繊細で傷つきやすいやつだからな。……心配だ」
「……確かに、金髪とか……赤髪の子が多いのかしら。世界が違うから、髪の色が……?」
菜穂子が首を捻る。
「異世界って……どこなんだろう」
次元が違うのか?
どういう世界構造になっているのだろう。
「……わからない」

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『おはよう、リア。でも、昨日のことはボクの方が悪いと思うよ。危うく君を失うところだ。スバルには感謝してもし足りないくらいだね』
『お礼をしなきゃいけないね。なにかしてほしいこととかあれば言ってみるといいよ。大抵のことはできるから』
『んじゃ、好きなときにモフらせてくれ』
『ちょ、もうちょっと考えて決めてもいいんじゃない?こんな小さくて弱そうな見た目だけど、パックの力は本当にすごいのよ?』
『少し引っかかるけど、そうだよ。こう見えて、ボクはけっこう偉い精霊なんだ。だから欲張っても構わないんだけど』

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「昴……!もう少しワガママになってもいいんじゃないかしら?昴は命をかけたんだから、それくらいしてもらっても……」
菜穂子は不安げに眉根を寄せる。
昴は、これから一人で生きていかなければならないのに。
こんなに優しくては──
「生活基盤の依頼──くらいは言ってもいい気がするがな」
「うん……エミリアちゃんがどれくらいのお嬢様なのかは分からないけど……」

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『大丈夫。探ってみた感じだと、スバルには悪意とか敵意とか害意ってものは見当たらない。ちょっと性根がねじくれてるけど、いい子だよ』
『なんで本人の前で……しかも、そんな評価。本当のことでも、言われたら傷付くでしょ?』
『あー、いいっていいって。探り入れんのは当然の話だろ。俺みたいな素姓の知れないナイスガイ、疑るのが当たり前だ。……今のエミリアたんのフォローには傷付いたけどね!』

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「……まぁ、疑われるか……」
賢一が残念そうな顔をする。
「仕方ない、って言いたかないが……身元がちゃんとしてないと疑われるよな……」
「……確かに、そうかも」
「エミリアちゃんが優しそうなのが救いだな……少なくとも酷い扱いをすることは無さそうだ」
「……でも、エミリアちゃんとずっと一緒にはいられないでしょう?それまでに、何とかしないと……」

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『――ホントに、スバルって不思議』
『実体のある精霊を当たり前みたいに扱って、おまけに私みたいな……ハーフエルフにも色目が使えるなんて』

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「……やっぱり、ハーフエルフの子は差別されてるのかしら……」
「嫉妬の魔女ってやつが関係してそうだな……どこの世界にも、面倒な差別ってのはあるみてぇだ」
「……昴、大丈夫かしら」
「大丈夫……って手放しで言えないのが悔しいな」
エミリアは差別を受けるハーフエルフ。
詰まるところがトラブルに巻き込まれやすいのだ。
昴がそれに巻き込まれないか、いささか不安だ。

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『あはぁ、目が覚めたんだねぇ。よかったよかったぁ』
『顔近っ!!』
『ごめんごめぇん。ほぉら、最初に運ばれてきた君を見たときって、もう死んじゃったみたいに血まみれで血の気も失せてたからさぁ。こうして元気に歩いてくれてるのを見ると、感慨深ぁいものがあるよねぇ』
『いやいや、こんなでも意外と切れ者みたいなのがお約束だし……』
『あはぁ、嬉しい評価だねぇ。もっとまじまじと、見つめてくれてもいいよ?切れ者な感じがするかい?どーぉ?』
『ま、まさか……俺が下がらざるを得ないだと!?俺よりキャラが濃いとか尋常じゃねぇ……日常生活に支障きたすぞ!?』
『私からしたらどっちもどっちよ、もう』

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「随分と賑やかだな」
「何だか……随分と奇抜な格好をした人ね?異世界だし……これが普通なのかしら?でも、エミリアちゃんは銀髪なの以外は普通だったと思うけど……」
「どこの世界にもイロモノはいるもんだからなぁ……エミリアちゃんやラムちゃん……だったか?の言う通り、少し変わったやつなんだろ」
「……だといいけど……」

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『どぉーもフツーの人っぽいねぇ。そればっかりはちょこぉっと残念』
『おいおい、俺がフツーだと?いい意味でも悪い意味でも決して言われないフツー……その評価は俺にとって屈辱だ!撤回を求める!』
『そんなに怒るほどのことだったかしら……』

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「昴は少し特別に憧れてるところがあったからなぁ」
「……そうね、私も……そうじゃなくてもいいんだよって、言ってあげるべきだったのかもしれない」
昴が一等星に持つ憧れを、菜穂子は止められなかった。
気づきを待っていた、とも言えるが。

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『フツーっていうのは種族的な意味で、だよぉ。ほぉら、私ってば『亜人趣味』の変態貴族で通ってるからさぁ』
『自分で断言できるあたり、だいぶ鬼がかってんな、あんた。やべぇ、ちょっと好きになってきた自分が嫌だ!』
『この子たちもそうだし、エミリア様を支援するのも同じ理由さぁ。もぉっとも、そのあたりに関しては君も同類な臭いを感じるよぉ?』
『勘違いしないっ。私は変態に惹かれる趣味は持ってませんっ』
『普通っていいよな。俺、高校卒業したら大学入って、当たり前のようにサラリーマンになって家族のために働くよ』

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「……うん。そうだね……昴は、そう。普通に……生きて、お母さんたちと……一緒に」
その言葉は、昴にとって特別な言葉ではなかっただろう。
だが、今の菜穂子たちにとっては劇薬も同然であった。
「う……っ、」
吐き気が込み上げてくる。
それは、涙に起因するもので。
「昴も……昴も、それを望んで……っ」
望んでいたのに、奪われた。
何者かに。
未来永劫、叶わないことを。
「返して……っ、私たちの……昴をっ」
どうして、昴なのだろうか。

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『――それで、実際のところはどうでしたかぁ、エミリア様』
『あなたの見立てと一緒。パックの意見も、おんなじよ。ね?』
『恩人まで疑わなきゃいけないなんて――我ながら、酷い話だわ』

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「……疑う、って言うと……徽章云々の話になるのか?」
「……確かに、エミリアちゃんはあれを探してたのよね……昴が疑われるのは無いと思うけど」
「エミリアちゃんが仮に貴族かなんかなら窃盗は重罪だろうな……昴の疑いは晴れてるみたいで安心したが」
「……そうね……」

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『エミリア様は今、そのあたぁりも勉強中だぁからね。もちろん、君の指摘もわからないでもないんだけどねぇ』
『勉強中、ね。そのへん、さっきの話にもひょっとして絡むん?』
『あはぁ、優秀だ。君、考えてるね。考えてるからこそ、そうして考えていないみたいな発言がポロポロこぼれる』
『なんか考えて生きるのなんて当たり前だろ。手足だるくて鼻水ずるずるで、腹の中身が表に出てても、考えんのが人間の義務なんだから』
『恐い喩えなのに変に実感こもってるわね……』

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「……昴は頭回る方だからなぁ」
「ええ……昴は強くて、すごくちゃんとしてる子よ」
菜穂子が頬を緩める。
「……最後まで、昴には言ってあげられなかったけど……私はちゃんと、昴のことをそう……思ってたから」

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『それじゃ、話を戻すけど、スバルは今この国――ルグニカ王国がどんな状況にあるのか知ってる?』
『全然まったくこれっぽっちもわかってない』
『そこまで言い切られると清々しいわね。スバルの生き方には驚かされてばっかりだわ。なんかホントに心配になってきた』
『子どもみたい。えっと、今のルグニカは戒厳令が敷かれた状態なの。特に他国との出入国に関しては厳密な状態よ』
『戒厳令……穏やかじゃない響きだな』
『あはぁ、穏当とはいえないねぇ。――なにせ、今のルグニカ王国には『王が不在』なもんだからねぇ』

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「王が不在……そりゃあ一大事だな。……でも、普通は世継ぎというか……息子やらなんやらが継ぐもんだろ」
「……王様が死んじゃうことは珍しくないと思うけど、不在……って言うのは少し引っかかるかも」
「これが本当だとすれば、国内が慌ただしいのも納得だな。……突然現れた昴が疑われちまうのも……な」
「……タイミングが少し悪かったみたいね……」

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『んん?でも待てよ。そういうのって普通、王様の子どもが跡を継いで万事解決だべ?あんま若いようなら摂政とかつく感じで』
『ふむ、ついてくるねこの会話に。ともあれ、通例ならその通りになるよね。だぁけど、事の起こりは半年前までさかのぼっちゃう。王が御隠れになった同時期に、城内で蔓延した流行病の話にねぇ』
『じゃ、本気で王様不在じゃねぇか。そうなると国ってどうなるんだ?王様の血筋いないし、民意優先で総理大臣選出するのか?』
『後半がなにを言ってるのかじぇんじぇんわかんないんだけど、現状の国の運営は賢人会によって行われてるよん。いずれも王国史に名を残す、名家の方々の寄り合いだ。国の政治自体に関しての影響はそこまでじゃぁない』
『しかし――王不在の王国など、あってはならない』
『なら、王不在の王国は新たに王を選ばなきゃならない。でも血族はほぼ壊滅。なら国の誰もが納得いくような形で、王様を選び出さにゃならんと』
『――ホント、スバルって変な子。なんにも知らないのに、そうやって頭が回るんだから。まさに賢い愚者って感じなのよね』

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「王家の血筋が絶えた──一気に倒れたってのが厄介だな。国を整える間もなく事態が進みすぎてる」
「……ということは、貴族の中から選ぶ……とかなのかしら?それくらいしか、私には思いつかないけど……」
「そうだな……王家が滅亡した以上、それ以外の解決策はねぇだろうし……雰囲気を見るに、それもそう簡単な話じゃねぇみたいに見えるけどな……」

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『騙そうとか、そういうこと考えてたわけじゃないからね』
『――えっと、エミリアたんてばつまり』
『今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね』

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「王候補……か。そりゃまた随分と……」
「徽章を探してたのも、それが関係してるのかしら……衛兵さんを頼れないって言ってたのも、多分それで?」
「王不在の王国での王候補……結構仰々しい肩書き持ってんだなぁエミリアちゃん」
「街の治安が悪かったのも、王が居なくて慌ただしかったから……?本当に、大変な時に……」
そこまで言って、菜穂子は口を噤む。
「……いつであっても、行って欲しくなんてなかったけど」

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『なぁんともまぁ、恐いもの知らずだよねぇ、君』
『相手は未来の女王様候補なんだよぉ?ひょぉっとしたら、今の不敬を長々と執念深く覚えていて、いざ王座に就いた際に君を処断するやも……』
『なにが起きるかわからん明日のために、今の幸せを後悔しろってのか?刹那の快楽主義であるゆとり教育の被害者を舐めんなよ』
『たとえ未来の女王様だろうと、今この瞬間のエミリアたんはひとりの女の子。そして俺はひとりの男だ。ひとりの男と女が、どんな行きずりで爛れた関係になろうと文句を言われる筋合いはねぇ!だから――!』
『たとえ明日処刑されるとしても、俺はエミリアたんを抱きしめて、髪の毛くんかくんかして、その余韻を糧に生きていくぜ――!』

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「……昴……」
菜穂子が驚いたように目を見開いて、優しく笑う。
「昴は……本当に変わらないわねぇ」
「ああ……空気を明るくしようとして頑張って話そうとするところも、あの時のまま変わってない」
「……本当に、不器用で……」

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『ってなわけで、本題ついでに俺の予想だ。わざわざエミリアたんの女王様候補トークまで持ち込んだんだ。なにかしら、関係あんだろ?』
『本当に、スバルって変態なの?そうじゃないの?』
『その二択ってだいぶ極限じゃねぇ!?』
『でもまぁ、君の予想は大当たりだよぉ。さっきの女王様候補のお話と、君の処遇に関する話は関連性がある。――エミリア様』
『うん、わかってるわ』
『あ、あの徽章じゃねぇか』
『竜はルグニカの紋章を示しているんだ。『親竜王国ルグニカ』なぁんて大仰に呼ばれていてねぇ。城壁や武具なんかも含めて、あちこちに使われているシンボルなんだよ。とりわけ、その徽章はとびきり大事だ。なぁにせ』
『王選参加者の資格。――ルグニカ王国の玉座に座るのにふさわしい人物かどうか、それを確かめる試金石なの』
『ま、まさか……王選参加資格の徽章をなくしてたのか!?』
『なくしたなんて人聞き悪い!手癖の悪い子に盗られたの!』
『一緒だ――っ!!』

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「おう……それを無くしちまうのはなんかこう……危機感が不足してそうな感じはあるな」
「……そんな大事なものだったのね……」
「昴が居なかったらどうなってたんだ……?」
「……少なくとも、取り返すのは難しかったでしょうね……」
「……見た目的には17歳くらいに見えるが……もうちょい幼かったりするのか?」

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『王とは即ち王国を背負うもの。そんな大任を負おうって人が、小さな徽章ひとつ守り切れないとなったら言語道断。どうして国を任せようなんて思えるもんだろうねぇ』
『徽章をなくしたなんて衛兵にばれたらマジヤバい。だからエミリアたんは徽章探しをひとりで孤独のロンリーウルフしながらやるっきゃなかった』
『盗んだのはフェルトだったけど、盗ませたのはエルザだ。あいつは誰かに依頼されたって言ってた。それはつまり、エミリアたんが王様になるのを邪魔しようって奴がいるってことか?』
『たぶんそうだろうねぇ。王選から脱落させるのに、徽章を奪うなんてのは簡単に思いつく話だからさぁ』

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「……ハーフエルフってのが関係してそうだな。差別されてる子が大っぴらに王様に名乗りあげれば、邪魔をするような奴がいるのも理解はできる」
「……それに、ただ王様になりたいってだけでも……ほかの候補者が依頼してる可能性もあるわよね?どんな人がいるのか分からないけど……」
「どっちにしても、面倒なことになりそうなのは違いないな……」

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『ふふーん、どーよ、ドゥーよ、エミリアたん。俺ってばかなりナイスでハピネスな活躍したんじゃね?これはもう、ご褒美に期待とかしちゃっても仕方ないじゃないかな!かなかなかな!』
『……そうよ。スバルは私にとって、もうすごい恩人。命を救ってもらっただけじゃ済まないくらい。だから、なんでも言って』
『へ……?』
『私にできることなら、なんでもする。ううん、なんでもさせて。あなたが私に繋いでくれたのは、それぐらい意味のあることなんだから』

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「そうだなぁ……王様候補が守るべき徽章を取り戻したってなれば……金銀財宝でも酒池肉林でも何でもござれだろうよ」
「……でも、昴のことだからまた欲のないことをお願いしちゃうんじゃないかしら。あの子、不器用な子だから……」
「……養ってくれ、とかが定石だと思うが……昴がそれを頼むとは確かに思えないよなぁ」
「……うん……大丈夫かしら……」

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『君は私になぁにを望むのかな?現状、私はそれを断れない。君がどんな金銀財宝を望んでも。あるいはもっと別の、酒池肉林的な展開を望んだとしてもだ。徽章の紛失、その事実を隠ぺいするためなら何でもしよう』
『褒美は思いのまま!そしてお前はそれを断れない!俺とロズっちの約束だ。破ったら針千本呑ますかんな』
『百本目までに死にそうなお話だねぇ。うん、約束しよう』
『男に二言はねぇな!?』
『スゴイ言葉だねぇ。なるほど。男は言い訳しないべきだ。二言はない』
『じゃ、俺を屋敷で雇ってくれ』

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「……そっちに行ったかぁ……」
「雇う……雇うのじゃなくてもいい気がするけど……」
「……というより、欲が無さすぎるな。あれだけ痛い思いをして、苦しい思いをして……それで、望むのがこれだけってのが……昴のことだから、無理して言ってるとは思えねぇが……」
「……本心、なんだものね……」

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『わ、私が言うことじゃないけど、ちょっとそれは……』
『いや、正直、エミリアたんにとっては二度ネタだから面白くないだろうなってのはわかってたんだよ。でも俺の経験値だと、もう一回ぐらいはうまくいった方法に乗っかるしか方策がねぇなと……』
『そんな話してるんじゃなくて……っ。いえ、欲がなさすぎるの!』
『いい?パックの件もそうだし、今の話も……違うわ。そもそも、王都で私の名前を聞いたときもそうだった』
『こっちの感謝の気持ちがわかってないのよ。そんな……そんなことで、命を救われたことへの恩なんて、全然返せないのに……』

『エミリアたんはわかってねぇよ。俺は本気で心の底から、そのときそのときの本当に欲しいもんを望んでるんだぜ?』
『──え?』
『あのとき、俺は君の名前が知りたかった。マジと書いて本気と読んじゃうくらいに。メチャクチャ腹とか空いてたし、新天地で足下ガクブル不安でいっぱいいっぱいだったし、色々と得なきゃいけないもんはあったと思う。落ち着いて考えればだけど。――でも、俺は自分に嘘はつかない男だ』
『ロズワールへの頼みだっておんなじだ。正直、俺ってば今のところは徹頭徹尾の一文無し!一時の快楽と引き換えにするにゃ、ちょいと懐具合も頭の具合もよろしくない。俺にとって、ベストな選択肢だぜ?』

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「……本当に、昴はお人好しだわ。多分、本当に思ってるんだろうけど……もっと、上手いやりようなんていくらでもあったはずなのに」
「それをせずに、自分の気持ちを貫くのが昴らしいな。誰に似たんだか」
「……それはお父さんだと思うわ。お父さんもやるって決めたら曲げないところがあるから……」
「……それは確かに」

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『差し迫った問題なのは事実なぁんだろけどね。……エミリア様の言う通り、やぁっぱり欲のないお話だと私も思うよぉ?』
『俺は超欲張りな男だよ。――だってそうだろ?超可愛い超好みの超美少女とひとつ屋根の下を合理的に獲得だ。使用人の立ち位置を得たことで、ラッキースケベのチャンスにも恵まれるかもしんない。可能性が無限大で、俺の心は珍しく明日をウキウキウォッチングだよ!』
『……なるほど。それは確かにそうだ。好みの女性の側にいられる職場、というのはなかなか得難いものだねぇ。うまい話だよ、まぁったく』
『それに、俺みたいなわけわからん奴は、わけわからんまんま放置するより手元に置いておけよ。その上で俺がエミリアたんにとって有用か有害か見極めてくれや』
『そうさせてもらうよ。――願わくば、仲良くやぁっていきたいもんだね?』

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「……そのまま出てってたらそれはそれで問題になっただろうしな……養うと雇うを取り違えたのはあれだが……賢い判断だったな」
「そっか、外はバタバタしてるんだものね……本当に、面倒な時に……」

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『っていうか、それはそれとしても無能扱いはごめんだぜ!言っとくが、俺だって家事がなにもかもできないってわけじゃないんだ。得意科目もあるよ!』
『へえ、ちょっと意外ね。なにが得意なの?炊事、洗濯……お掃除?』
『裁縫だな!』
『また意外な技能が出てきた!』
『とれたボタン付けたりとか、破れた小物繕ったりできるぜ!あと得意なのは……服とか小物にワンポイント刺繍することだな』
『器用すぎて逆に使いどころに困る特技ね……』

​───────​───────​─────

「使いにくい部分が得意なのが昴って感じで最高に俺は好きだけどな」
「そうねぇ……昴は基本的に何でも半分くらいはできる子だから……お母さんは裁縫あんまり得意じゃないから、昴のそういうところはすごくいいところだと思うわ」
「まぁ、昴は教えなくても勝手に学んでくるからなぁ。好奇心旺盛で学びたがりなのは昴の長所だよ」

​───────​───────​─────

『ほつれたエプロンのボタンをつけ直したときだけ『S』判定貰ったよ』
『ホントに一部だけ突出して器用なのね』
『丸く平たいつまらない奴より、とんがった鋭い男になれよって育ったもんで』
『あ、でもベッドメイキングの技術には自信あんだよ。高一のときにホテルマンになる夢見たとき、夏休みの半分潰して練習したから』

​───────​───────​─────

「……ふふっ、本当に昴は見ていて楽しいわ」
菜穂子が頬を緩ませて軽く笑う。
「小さい頃から変わらないわねぇ、昴が楽しいお話をしてくれるのは」
「……ああ、そうだな。昴は見ていて飽きないよ」
思いつきで行動できるのも、変なところで頑固なのも、見ている人を笑顔にする類のものを持っていて。
「……本当に、昴は」
菜穂子が、瞳を伏せた。

​───────​───────​─────

『あ……』
エミリアが声を詰まらせた。寝転がったまま彼女を見上げ、その紫紺の瞳がスバルの胸――痛みを感じるアクションのために、胸に当てた手を見ていた。仕事での失敗が積み重なり、結果的に絆創膏だらけの左手を。
『おう、やべ、かっちょ悪い。努力は秘めるもんだよね』
『やっぱり、大変なのよね、みんな』
『……治癒魔法、かけてあげようか?』
『いや、いいよ、治してくれなくても』
『どうして?』
『んー、なんか言い難いんだけど……そだな。これは俺の努力した証だからだ』
『俺ってば意外と努力って嫌いじゃねぇんだよ。』
『大変だし、めちゃ辛いぜ?でも、わりと楽しい。ラムとレムは意外とスパルタだし、あのロリはムカつきやがるし、ロズっちは案外なんにも言ってこねぇから思ったより影薄いし』
『ま、そうやって一個ずつ問題をクリアしてくのはいい。ここじゃ俺はそれしなきゃ生きてけねぇし……どうせなら、楽しい方がいいよな』

​───────​───────​─────

「────」
菜穂子の喉から、吐息に近い声が漏れる。
「……そう、そうね。昴は努力家だもの。人一倍頑張って……でも、それを他人にひけらかすような子じゃなくて。昴がただの怠け者だったら……お母さんもそんなに悩まなくて済んだんだけどねぇ」
「ああ、あいつは頑張り屋だ。本人に言っても絶対首を縦には振らねぇだろうけどな」
昴には意固地なところがある。
誰に似たのか分からないが。

​───────​───────​─────

『それにしても……頑張ってるのはわかってるけど、どうやったらそんなに手がボロボロになるようなことになるの?』
『ああ、これは簡単。今日の夕方、屋敷の側の村までラムの買い物に付き合ったときに、子どもたちが戯れてた小動物に超ガブられた』
『努力の成果じゃなかったの!?』
『より大きな怪我で見えなくなったというべきか……俺、あんなに動物に嫌われるようなタイプじゃねぇんだけどなぁ』

『そだ。よかったら明日とか、俺と一緒にガキどもにリベンジ……もといラブラブデート……もとい、可愛い小動物見学に行かね?』
『何回も言い直したわね。……でも、うん、私は』

『仕方ないなぁ、私の勉強がひと段落して、ちゃんとスバルがお屋敷の仕事が終わったら、って条件だからね』

​───────​───────​─────

「小動物……昴は動物に嫌われる子じゃなかったと思うんだけど……気難しい子だったのかもしれないわねぇ」
「異世界ともなれば、それなりに小動物も気難しいのかもしれないなぁ……」
「それにしても思いっきり噛まれるなんて珍しいけど……治癒、してもらった方がいい気がする」

​───────​───────​─────

『うーい、ちゃんと寝たかよ、ロリっ子。あんまし遅くまで起きてると、成長ホルモンが分泌されなくて小さいままになんぞ』
『……当たり前のように『扉渡り』を破るようになりやがったのよ』

『ちょっと、なにか用事があってきたんじゃなかったのかしら?』
『んにゃ、別に。寝るから挨拶しようと思っただけ。ドア三つぐらい開けていなかったら諦めようと思ったけど、一発目で見っけたから』
『相変わらずどんな勘してるのよ、こいつ……』

『――ベティーには関係のないことよ』

​───────​───────​─────

「扉渡り……昴がきちんと引き当てちゃうせいで、なんだか凄さが薄れてる気がするけど」
「昴は勘が良い奴だからな……かくいう俺も学生時代は結構な豪運だったし」
「お父さんは今も結構運強いでしょう」
「確かに」
軽く笑った後に、賢一は首を捻る。
「……にしても、ドリルロリの言葉が引っかかるな」

​───────​───────​─────

『そう、ナツキ・スバル――今日、男になります!』
『なーんーだーよー!いたのかよー!恥ずかしいじゃねぇか、声かけろよ!うわ、うわ、うーわー、マジ恥ずかしー!』
『いや、ちょっと待て、お前ら。さすがにその反応は傷付く。人のデリケートな部分に触ったんだから、もうちょっとこう……あるだろ!?』
『姉様、姉様、なんだかずいぶんと親しげな挨拶されましたわ』
『レム、レム、なんだかやたらと馴れ馴れしい挨拶をされたわ』

​───────​───────​─────

「……あ?」
賢一が違和感に首を傾げる。
「素っ気ないのはそのままだが……そうじゃねぇなこれは」
「……どういうこと?」
菜穂子が首を捻る。
或いは、気づきたくないのかもしれない。

​───────​───────​─────

『姉様、姉様、どうやら少し混乱されているようですわ、お客様』
『レム、レム、なにやら頭がおかしくなってるみたいね、お客様』
『二人、とも……はは、冗談きついぜ。そん、な、こと……』
どこまでも他人を見る二人の目を遮りたくて、とっさにスバルは左手を掲げて己の視界を塞ぐ。だが、その瞬間に決定的なものを見てしまった。――己の、左手から、絆創膏が、消えている。水仕事で荒れた指先も、慣れない刃物仕事で切った手の甲も、子どもとの戯れの最中に小動物に噛まれた傷跡も――まっさらになっていた。
『どうして……戻ったんだ!?』

​───────​───────​─────

「えっ……?」
菜穂子が一瞬呆気にとられる。
何が起きたのか理解できなくて。
そして、風呂に入浴剤を溶かした時のように、じわじわとそれを理解していく。
「待って、待って……?」
「嘘、だろ」
賢一も、動揺を舌に乗せる。
「昴、は」
死んでしまったのだと、理解した。
次の瞬間、全身に倦怠感がのしかかった。

Comments

  • このあと息子の投身自殺見ることになるの可哀想すぎる

    December 9, 2024
  • 鼠牛乳

    平和シーンで応援モードになっているの本気で菜月一家らしくて好き

    December 8, 2024
  • 番。

    最高!ほんとにもうまじ大好き!

    December 8, 2024
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