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目を星に向け、足を地につけ/Novel by 春風

目を星に向け、足を地につけ

5,695 character(s)11 mins

今回のタイトルはとある人の言葉から引用してます。
誰の言葉でしょう──とクイズのようなものをしてみたり。

死にたくなるほどの悲劇があるからこそ、目が眩むような喜劇が引き立つと思うのです。
全ての悲劇は最後に訪れる喜劇のための布石であり、菜穂子さんの言うように「終わりよければすべてよし」だと思います。

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『……スバル』
『大丈夫だ、エミリア。いきなり情けねぇとこ見せて悪かった。……誰が後ろに立ってんのか思い出したから、もう落ち着いたよ』
『てめェら、俺様が駆けずり回ってる間に、ずいッぶんと勝手な真似してくれたみてェじゃァねェか。こそこそこそこそと……あァ?俺様が、そういうクソ薄汚ェ小細工が大嫌いなのが、わかっちゃァいやがらなかったみたいだなァ?』
『この場所で何かするのに、お前の許可が必要だとは知らなかった。つか、お前がそういうキャラなのはわかりやすいから見ててわかってるよ。実際、怒るだろうなとは思ってたものの、それ以上にはならねぇだろうって見込みでもあったしな』

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「……ほんと、ナツキさんってやると決めたら顔つきが変わりますね」
「そうなのよ、ベティーはもっとスバルが意気地無しでも責めたりしないかしら」

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『ガーフィール。オットーはどうした』
『っざっけた真似してくれやがったからなァ……食い散らかして、残骸は森の肥やしになってるだろうよォ』
『じゃあ、あいつは生きてるな。なんだよ、心配かけやがって……全部台無しになるかと思って、本気で肝が冷えたぜ、実際』
『……あァ?』
『しかし、なんだってあいつはこんな真似を……まさか、ラムの協力が取り付けられたって言ってたけど、それで変なこと吹き込まれたんじゃねぇだろうな。ラムならやりかねねぇ……あいつ、肝心なとこでどう動くかまでは教えてくんなかったし』
『オイ、オイ、ざけんな』
『そうなると、ガーフィールがボロボロなのもラムが手伝ってやがんのか。だよな。オットー単独じゃ、さすがにそんだけやるのは無理なはずだ。なんだよ。オットーの野郎が秘められた力とか隠してたのかと思って、ちょっと友情にヒビが入りかけた……』
『――てめェ!何の話をしてやがんだァ!あァ!?』
『ぶち殺したって、そう言ってんだろうがよォ!あの兄ちゃんはよォくやったぜ!わけわからねェ加護で森中味方につけて、虫やら鼠やらで俺様をおちょくり倒しやがった。しまいにゃァ、使えるはずのねェ大魔法で一発だ。だァから……俺様も、戦う意思のある野郎には敬意を払った。――この爪と、牙でだ!』
『森中味方に……そうか。『言霊の加護』にはそういう使い方もありやがったのか。あの野郎、そういう大事なことちゃっかり隠してやがって……』
『その兄ちゃんに唆されたラムもだ!ラムの奴ァ、勝負に横槍入れッやがった上に、容赦なく仕掛けてくれやがった……だからァ、あいつも俺様が噛み殺した』

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「……ラムはそんな簡単に死んだりしないわ」
スバルの記憶を見た今では、その考えも微かに揺らぐが。
「ちゃっかり隠してとか言いますけど、ナツキさんの方も僕に隠し事が多すぎませんかね……」
死に戻り云々ではなく、心情を隠しすぎなのだ。

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『んだァ、オイ。弱っちィ女が、俺様の道塞いでんじゃァねェよ』
『いいえ、邪魔するわ。墓所を壊させなんてしない。『試練』は必ず、私が乗り越えるから』
『無理に決まってんだろうがよォ。毎日毎日めそめそめっそめそ泣き散らしてやがったじゃァねェか。おまけに、お友達もいなくなって寂しくて仕方ねェんだろ?ベッドで布にくるまって泣いてろ。そうすりゃァ、俺様も何もしやしねェ』
『生憎だけど、そんな風に言われても下がってあげられない。私は『試練』に挑まなきゃいけないの。そして、過去と向き合って……』
『どいっつも、こいっつも……ッ!』
『過去がなんだ、そッれがどうした。俺様にビビってる分際で、てめェが一番ビビってることなんざ克服できるわきゃァねェだろうが。――誰にも、どうにもなるもんかよォ。あの魔女はただ、そういう底意地の悪ィ真似して人を嘲笑ってやがるだけだろォが』

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「……過去は変えられない……だからこそ、未来を変えたいと思うのが人情というものでは無いだろうか」
「そだネ、過去に向き合うって簡単な事じゃないけど……そうしないと未来に進めない時もあると思うし」

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『お前は、俺やエミリアを殺しはしない。いや、できないんだ。だってガーフィール……お前、人を殺したことなんて、ないだろ?』
『────』
『オットーやラムとも一戦交えたはずだけど、お前が二人を殺せたはずがない。オットーはまだしも、ラムなんかは絶対にな。二人が姿を見せないってことは、動けないようにはされてるんだろうけど……それ止まりだ』
『お前の目は、あのときの目と違う。まだ、誰も殺せてなんかいない』
『なん、の根拠だァ、そりゃァ。ラムはともかく、俺様にてめェの連れの兄ちゃんを噛み殺すのを躊躇う理由なんざ微塵もねェッだろが』
『そうだな、ラムはともかく』
『ね、ねえ……二人とも、オットーくんに何か恨みでもあるの……?』

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「人がいないところでとんでもないこと言ってくれますねナツキさん……」
眉を顰めるオットーにエミリアが慌てたような顔をする。
勿論オットーは本気にしてなどいないが。

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『ガーフィール……あなた、何をそんなに怖がってるの?』
『俺様が、怖がってる……だァ?』
『怖がってるじゃない。だから大きい声を出して、精いっぱい腕を伸ばして、地面を踏んづけて自分を奮い立たせてるんでしょう?』
『俺様の何を、わかったみてェに……』
『わかるわよ。だって……』
『――私もずっと、色々なことを怖がりながら生きてきたもの』
『ずっとたくさんのことに怯えて、今日まで歩いてきたの。一緒にいたパックに色んなことを預けて、寄りかかって……それも意識しないで、歩いてきたの。それを今日になって、ついさっきになって、やっと少しはわかったように思えてて』
『うるせェ』
『まだ、何が正しいのか、私が何をしなくちゃいけないのかちゃんとはわかってない。でも、『何か』があるんだって、それはわかった気がするの。その『何か』が、この墓所の中でなら見つかる。だから、ここをどいてはあげられない』
『黙れ。消えろ。俺様に、何も言うな』
『……あなたはその『何か』を、本当はもう持ってるんじゃないの?』

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「……怖い、か」
ラインハルトが瞳を伏せる。
「強いからといって怖くないわけじゃない……それは、僕もよくわかるよ」
ひと息吸って、その青い双眸を前へ。
「……スバルなら、きっとこういうとき」

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『わからねぇよ、ガーフィール。――だって過去は、後悔は、乗り越えられる』
『苦しくて、辛くて、情けなさ過ぎて顔向けできねぇって諦めてた。けど、どうにもならねぇなんて思ってたのは俺だけで、本当は何もかも、そんなことなかった』
『でも、その痛みも何もかもひっくるめて、俺は過去を呑み込んだ。呑み込めた。……確かに魔女は性悪で、信じようと思って裏切られたことも忘れられねぇ』
『俺は魔女に感謝してる。過去に向き合えて、よかった。逃げて、逃げて、逃げ続けてたけど……逃げ切れなくて、よかった』
『ガーフィール。――お前はまだ、家族との過去から逃げるのかよ』
『俺様の、過去……を、誰ッから……』
『おおよそ、お前の思い当たる全員から……だ。それを、裏切りだと思うかよ?それとも別の何かだと、お前は思うか?』

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「過去は乗り越えられる……」
その言葉に、ヴィルヘルムはその顔に後悔とも安堵ともしれない表情を浮かべる。
「……やはり、あなたは強い。私は──その言葉を言うことが、出来ない」

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『外の世界に出ていったフレデリカを拒絶して、『聖域』を守る使命に自分を縛りつけて、結界を開こうとする『試練』に挑むのに邪魔をする!お前は何を、何を恐れてる!何を怖がってやがる!外の世界が、憎いんじゃねぇのか!』
『ち、違う……ッ!』
『お前たちを捨てていった母親が憎いんじゃないのか!『試練』に挑んで、自分が捨てられる姿を見て、だからそれを怖がってるんじゃないのか!』
『答えろ、ガーフィール!お前が、何を怖がっていたのか!』
『違う、俺様は……俺様は……ッ』
『お前は本当は、どう思ってたんだ!!』
『俺様は……俺、は……母さんに……ッ』
『――幸せになって、ほしかった……ッ!』

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フレデリカの頬が強ばる。
それは、腹の底から込み上げた涙痕を取り払うために力を込めたからだろうか。
それとも、分かっていた弟の弱音を、きちんと見届けようという覚悟のためだろうか。
「……幸せに」
それは、フレデリカもずっと願っていた。

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『邪魔だったんだろ!?俺や姉ちゃんが、幸せになるために邪魔だったんだろ!?』
『そんなこたァわかってる!俺や姉ちゃんは捨てられた。そんなのは当たり前だ!』
『望んだわけでもねェガキで、それも亜人の血が混じってんだ……そんなの、外の世界で生きてくのに邪魔になるに決まってる!置いていこうとして、捨てていこうとして、何がおかしい……何も、間違っちゃいねェ……ッ!』
『捨てられた理由はわかってる。だから、捨てた母さんを恨んだりはしねェよ!当たり前だろッが!俺や姉ちゃんは、母さんの人生の邪魔だったんだ!俺たちを捨てて、母さんは幸せになるために『聖域』を出ていったんだッ!』

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ガーフィールの脳裏に、プリステラでの記憶が──その憧憬が過ぎる。
「……母さん……」
大切な人の記憶から消えてしまうことがどれだけ恐ろしいか、ガーフィールは考えたこともなかったが。

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『けどなァ、あの夜……俺ァ、見た。墓所の中で、『試練』の中で、俺は見た、見たんだッ。お、俺たちを置いて、『聖域』を出てった母さんが……出てすぐ、竜車ごと崖崩れに巻き込まれて、土砂に呑まれて死んじまってたんだってことを……ッ』
『このことは、姉ちゃんだって知らねェ……姉ちゃんも、母さんはきっとどこかで俺たちのことは忘れて幸せに暮らしてるんだって思ってやがんだ。……でも、本当は違う!母さんは、俺たちを捨ててすぐ!死んじまったんだッ!』
『死んじまったんだよォ……幸せに、なれなかったんだよォ……』
『なんでだ?幸せになるために、外の世界に出ていったんじゃなかったのかよ?』
『幸せになりたいから、俺たちを置いていったんじゃなかったのかよ?』
『俺たちを捨てていったのに、幸せになれずにすぐに死んじまったってんなら……』
『俺たちの寂しい思いは、捨てられた悲しい気持ちは、どうしたらいいんだよォ?』
『母さんには、幸せになってほしかった……ッ!』
『悲しい思いも!捨てられた寂しさも!その幸せのために意味があったんだって、俺にそう思わせてほしかった!俺に母さんを、憎ませてほしかった……ッ!』
『でも、母さんは死んじまった……!俺も姉ちゃんも、悲しい思いをしただけだ。母さんも幸せなんかになれないで、重い石と砂の下敷きになって、苦しみながら死んだんだ』

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ガーフィールとフレデリカがスクリーンから目を逸らす。
そうすることすらも、痛みになるのだが。

「……憎ませて、ほしい」
その言葉の悲しさに、ユリウスは瞳を伏せる。
「これ、は」
あまりにも、等身大の痛みであり──耳を塞ぎたくなる悲劇だった。

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『――外の世界なんか、絶対に行かせねェ』
『幸せは、置き去りにして出ていったって手に入りゃァしねェんだよ!何かを変えようとすることには痛みが伴って、誰でもその痛みに耐えきれるわけじゃねェんだ!』
『どうにもならない奴らだって大勢いるんだ! ここにいるのは、そんな奴らばっかりだ!どうすりゃいいんだよ!そいつらは、幸せになるための犠牲になって、悲しい思いをすればいいのかよ!俺や、姉ちゃんみたいになればいいのかよォ!』
『俺が、俺様が――守る』
『俺様が、守る。俺様の手の届く範囲は、俺様が全部守る。守って、守って、守ってみせるから……誰も失わせたりしないから……誰も母さんみたいな思いはさせないから……!』
『俺様が、結界になるんだ!本物の、外と内をわける、結界に!』
『だから!俺様が!『聖域』を、みんなを!婆ちゃんを守るんだ!俺様にしかできねェんだ!俺様しか知らねェんだ!知らなくて、いいんだよォ!!』

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ラムが瞳を少しだけ動かす。
「……」
何かを口にしようとして、吐息にしかならないそれを吸う。
言葉に詰まる、というより優しさがそれを許さないと言うべきだが。

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『お前の覚悟は、わかったよ。勘違いしてた。それで、お前もまだ勘違いしてる。だから……それを、正してやる』
『お前を徹底的にねじ伏せて、教えてやるよ。――お前は優しくて、弱い馬鹿野郎だってことをな!!』

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「……優しくて……、そうですわね。……スバル様は、よく分かっていますわ」
ガーフィールという人間の心の柔らかい部分を、よく理解している。
心の垣根を越えるのに最も適した方法でさえも。

Comments

  • レイラ
    Mar 30th
  • shin
    December 29, 2025
  • Lu
    March 3, 2025
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