傷痕は消えることなく
子供っぽいのがキャラ付けじゃなくてちゃんとした理由があったことに心底驚いた記憶があります。
4章辺りから「このラノベは他のとはひと味違うぜ……!これはもはや文学の域に達している……!」ってなりましたね。
こういうのにちゃんとした理由がある小説は好きです。
本当に作者は頭の許容量エグいんだろうな。
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『問題のθとΣに会えるのは、最低でも二日後って話だからな……』
『ただ、障害が増えた代わりに……ガーフィールの方の突破口は見えた、か?ようは邪魔するリューズさん二人をどうにか説得できたら、問題は取っ払えるってことだ』
『大見得切ってロズワールと契約まで交わした以上、失敗はできねぇ。するつもりもねぇ。保険が機能するかは別として、踏ん張れるところは自力で踏ん張らなきゃだ』
『どっちにしろ、リューズθとΣへの対処はぶっつけしかねぇ。ガーフィールにひと当てして感触掴んどくのはありだろうが……後回しだな』
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「…これはスバルの人生の上映会…なら……」
エミリアが眉根を寄せて口にする。
「……無事でいてね……」
太陽を失った地面には雪が積もるばかりであった。
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『――エミリア?エミリア?おい、大丈夫か!?』
『あ、え……あ、すば、る……?』
『なんで、スバルがここに……?』
『理由がなくちゃきちゃダメかよ。俺はエミリアたんの顔なら、一日中眺めてたって飽きやしないってのに』
『そうじゃなくて……えっと』
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「……これは、悪趣味すぎるかしら」
ベアトリスの肩が怒りに揺れる。
エミリアやベアトリスがスバルだからこそ信頼して吐き出した言葉を、この上映会の開催者は無遠慮に掻き乱すのだ。
それが、スバルの優しさを踏み躙る行為であることをベアトリスは重々理解していた。
だからこそ、ベアトリスには早く映像を見届けてスバルを助け出さなければならないのだ。
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『それだけならそのまま寝かしておいてあげたかったんだけど……なんか、すごいうなされてたみたいだったからさ。起こしちゃって悪いことした?』
『起こしてくれて、すごーくありがと。ちょっと……ううん、とっても夢見が悪かったから……うん、ありがと』
『エミリアたんを苦しめるなんてひどい夢だな。どれ、ちっとばかし内容を……といきたいとこだけど、思い出すのも嫌な感じっぽいね』
『────』
『……そっか、なら無理には聞き出さねぇよ』
『それで……スバルは、どうしたの?まさか本当に、理由もないのに私の顔を見にきてくれたわけじゃないんでしょ?』
『まさか、ってほど意外な行動でもないと思うけどね』
『ううん、そんなことない。だって、スバルはいつも忙しく走り回ってて大変なんだもん。私のことだけでそんな風に時間、使ったりできないでしょ?』
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「大将が忙しいッてのは否定しねェが…大将はエミリア様を最ッ優先するんじゃねェのか?」
「そうですわね…今のスバル様ならそうだと思いますけれど……この時のスバル様は、少し違ったのかもしれませんわね」
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『エミリア』
『──うん』
『墓所の『試練』で君が何を見たのか、俺に語る気持ちはあるか?』
『墓所の『試練』が、過去を見せるものだってのは……その、みんなから聞いて知ってるんだ』
『────っ』
『だから、エミリアが引き返す羽目になった理由も、それだろうって思ってる。悩んで苦しんで、きっと一人で抱え込んで……そのまま、今夜も『試練』に挑もうとしてるんだってのもわかってる』
『────』
『それでも、だ』
『────』
『君が抱え込んで潰れちまいそうな荷物を、少しでも俺にわけてくれないか?振り返るのが恐ろしい過去があるなら、そこに挑む君の隣に立たせてくれないか?』
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「…ふむ、そういう……」
ロズワールが藍色の髪をさらりと掻く。
そこには策略などはなく、ただスバルの選択に感嘆の意を滲ませるのみであったが。
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『思い返すと、俺はエミリアのことを何にも知らないまんまなんだよ。俺は君のことが好きだ。それは外見が超好みってのもあるし、一緒に過ごす間で触れた、君の内面ってやつが俺をたまらなくさせるからでもある』
『────』
『そんな風に、今の君になった君が好きだって胸張って言える。けど、君が今の君になるまでにどんな経験をして、どんな風に思って、どんなことを考えてきたのか……それを俺は何も知らない。知る機会も、必要もないと思ってたからだ。過去のことより、大事なことは今と先だからさ。……でも』
『……でも?』
『今、君が自分の過去を振り返らなくちゃいけない場面がきてて、その場所に一人で立つのが恐くてたまらないってそう言うなら……今の君になる切っ掛けを、君が立ち向かわなきゃいけないこれまでを、並んで迎え撃つ資格を俺にくれないか?』
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「……とんだ殺し文句ね、バルスが言っていなければだけど……それでも、簡単な事じゃないわ。過去を乗り越えるなんて、簡単な事じゃない。どうにも出来ないのだから」
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『す、スバルの存在は……その、いてくれるだけで、私の助けになってくれてて……だから、これ以上、スバルに迷惑をかけたりなんて……』
『俺はエミリアにかけられる迷惑は迷惑だなんて思ってない。君のために何かができることは、俺にとっての幸いだ。君が困って、誰かに手を差し伸べてほしいとそう思ったときに、最初に手を差し伸べるのは俺でありたいと、そう思う』
『スバルは……』
『────』
『スバルは、私のことを信じてくれて……』
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「…そう、大切な誰かに頼られることは迷惑なんかじゃないんですよ」
オットーが痛ましく瞳を逸らす。
それは、この映像を自分が見ること──それが意味する底意地の悪さに対しての返答であったのかもしれないが。
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『……聞きたいことを、言って、スバル』
『…………』
『私の口からじゃきっと、支離滅裂なお話にしかならないの。……だから、スバルの方から聞き出して』
『……いいのか?』
『――うん。それがきっと、私にとってのもう一つの『試練』だと思うから』
『とりあえず、長い話になるかもしれないから、座ろうか』
『……そう、ね』
『墓所の『試練』で、エミリアはどんな過去を見た?経験者から聞いた話だと、その……自分にとっての、後悔の記憶みたいなものだって話だけど』
『私が……私が見た過去は、たぶん……眠る前の記憶、だと思う』
『――?眠る前……?』
『そう、眠る前。ぼんやりとしてて、あまりはっきりしてない記憶なんだけど……そこで見た私はまだ小さかったから、きっとそう』
『待ってくれ。その、眠る前ってどういう意味なんだ?夜の、普通の眠りとは違う意味なのか?』
『うん、違うの。眠る前っていうのは……私が森の大樹の中で、ずっと氷の中で眠る前のこと。だからずっと、ずーっと、前のお話』
『氷の中……って。エミリア、どういうことだ?』
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「これは……」
クルシュが申し訳なさそうに瞳を逸らす。
「趣味が悪いですね……」
エミリアがスバルに向ける全霊の信頼。
それが許した言葉の吐露を、このスクリーンは非情にも曝け出すのだから。
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『答えてくれ、エミリア。大樹の中で、氷の中でってどういうことだ?』
『……そのままの、意味』
『────』
『私、森の大樹と一緒に、ずっと氷漬けにされていたの。パックが私を見つけて、そこから出してくれるまでずっと、すごーく……長い間』
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「氷漬けに……」
フェリスが息を詰まらせる。
「……エミリア、様…」
その瞳は、エミリアの姿を確かに捉えていた。
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『エミリア。君が暮らしてたその場所ってのは、エリオール大森林って場所でいいのか? 大昔から氷漬けになってる森で、徐々にその範囲が広がってるとかいう……』
『ん、そう。私が目覚めてからは、あの森は氷の森って呼ばれるようになってた。――私が眠る前、みんなと暮らしていた頃は雪なんて降ってなくて、明るい日差しと緑に囲まれた場所だったんだけどね』
『緑……いや、それよりみんなっていうのは?』
『みんなはみんな。森の集落で一緒に暮らしてた……エルフのみんなよ』
『エルフの……ってことは、そこにエミリアの家族も一緒にいたんだよな?お父さんとお母さんと……ひょっとしたら、兄弟も』
『────』
『ごめ……そんなつもりじゃ……』
『いいの。スバルは、心配してくれてるんだもの。……でも、森には私の家族はいなかった。集落のみんなは優しくしてくれたし、笑いかけてくれていたけど……血の通った家族と呼べる関係は、あの森にはいなかったの』
『……いなかった、ってのは。両親は……?』
『私が物心ついたときには、どっちもいなかったの。そのことをおかしいなって思ったことは、そのときはあまりなくて……お母さんみたいな人は、いたの。すごーく優しくて、強くて、かっこよくて……そんな人が、いたの』
『────』
『でもその人も、みんなも……私が眠ったそのときに、同じように眠ってしまった。今もエリオール大森林の森の中には、眠りについたまま目覚めない人たちが大勢いる』
『──な!?』
『私、目が覚めてからはずっと、そうして眠ってるみんなをパックと二人で見守ってたの。いつか、私と同じように眠りから目覚める人がいたとき、何もわからないままでいなくて済むように……そう思って、ずっとそこにいたの』
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「そ、んなことが……」
ユリウスの端正な横顔に悲痛な色が滲む。
「……それを、こんな形で知ることになるとは……思わなかった」
彼女の──彼女たちが最も望まない形であったことは、間違いないのだから。
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『俺が知ってる限り、エリオール大森林が凍りつき始めたのは確か……そう、百年ちょっと前だったはずだ。前にどっかで、王選の場か何かでそう聞いた』
『うん。私も、屋敷で勉強するようになってから聞いて、すごーく驚いた』
『つまりエミリアは、そのエリオール大森林が凍りつき始めたとき、その場に居合わせてたってことだよな?その原因を、知ってるってことなのか?』
『――ううん、わからない』
『ホントにわからないの。あのとき、何が起きたのか……記憶がはっきりしてなくて。小さかったことと、ものすごく恐かったことだけは覚えてる。でも、私はそのままずっと眠り続けていたから、その記憶もおぼろげで……』
『小さかった、とかさっきから何度も聞いてるけど、それは何歳ぐらいのときだったんだ?』
『……たぶん、七歳ぐらいのときだったと思うの』
『七歳……エルフの歳の数え方って、人間と一緒でいいんだよな?』
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「……氷漬けになったことで、記憶に弊害が……?」
ラインハルトが考察するが、途中でその頭を振る。
「……これ以上は、踏み込むべきでは」
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『私を眠らせていた氷は、時間は止めずに意識だけを眠らせるものだったの。だから氷の中でもちゃんと、私の体は成長し続けていたわ。目覚めてしばらくの間、眠る前とあんまり体の動かし方の勝手が違って、たくさん失敗したぐらい』
『そんな氷……そうか、そういう弊害があるのか』
『ロズワールに連れられて森を出て、外で勉強して……自分が百年近くも眠っていたんだって知って、すごーく驚いた。そんなに長い間、眠っていたんだって』
『エミリア、今さ……百年近く寝てたって言ったよな?』
『ええ、そうだけど……?』
『それで、眠る前は七歳ぐらいだったんだよな?』
『ん、そうよ。スバル、何を……』
『エミリア。パックに起こされてから、何年経ったんだ?』
『……たぶん、七年か六年ぐらい……かも』
『実年齢、外見年齢、精神年齢……全部、ずれてる……』
『十四なんて……フェルトと変わらないじゃねぇか……』
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「……エルフだからこその盲点…と言ったところかしらね」
ラムが片目を閉じて、そう言い放つ。
「長寿族の特徴的な肉体と精神の年齢乖離……それが、かえって仇になった……」
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『森が氷漬けにされた理由を、君はわからないって言ったな。じゃあ、君は『試練』の中で何を見るんだ?そのおぼろげな……氷漬けになる前の記憶を、見るんじゃないのか?』
『……そう、だと思う。私が見てるあの景色はきっと、私が眠る前の……本当にあった時間の記憶なんだって、そう思う』
『その記憶にあれだけ恐がってたってことは、やっぱりそこで君や他のエルフたちを凍らせたとんでもない何かと出くわして、それを無意識に拒否してるんじゃ……』
『──違う』
『だって、それぐらいしか恐がるものなんてないだろ?『試練』が見せるのは当人にとって最大の後悔のはずだ。それなら、エミリアが見るのだって……』
『違うって、言ってるでしょう――!?』
『私が……『試練』で私が見たのは、そんなものじゃない。そんなもの、私は見ていなかった。……私が、私が見たのは……』
『え、えみり……』
『――悪魔の子』
『災厄の種。銀色の忌み子。生まれるべきじゃなかった命。憎悪の源。許されざる魂。悪魔。――魔女の娘』
『優しくしてくれたみんなに、笑いかけてくれていたみんなに、冷たい雪の中で私はそんな風に言われて、それで……』
『それからのことは、氷の中でもう覚えてない。でも、みんなは今も、氷の中で私を呪っていたことを忘れてないはずだから。ずっとそのまま、呪いを引き継いだままだから』
『だから私は、みんなを氷から外に出してあげて……それで、謝りたかったの』
『迷惑をかけて、ごめんなさい。――私はみんなのこと、大好きです』
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空間に、沈黙が漂う。
「…ベアトリス」
ベアトリスの小さな手が、エミリアの白く長い手のひらを握る。
「…スバルなら、きっとこうするのよ」
「……ええ、そうね。きっと」
毎日がハッピーすぎる