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『垣根は相手がつくっているのではなく、自分がつくっている。』/Novel by 春風

『垣根は相手がつくっているのではなく、自分がつくっている。』

9,566 character(s)19 mins

タイトルはギリシアの哲学者 アリストテレスの言葉から引用しました。
この回だけはこの言葉を使おうと決めてたので。
少し長いタイトルになってしまいましたが(笑)

大学に上がったら一人暮らしになるのでリゼロを一人で見なきゃいけない……
誰かと見るから何とか耐えれたけど一人で大丈夫だろうか……

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『エミリアの、その覚悟は立派だと思うよ。でも、その『試練』と君とじゃ相性が悪すぎる。勝ち目のな……薄い戦いに無策で挑むのを、俺は潔さだとは思わない』
『……勝ち目、やっぱり薄そうに見えてるんだ』
『せめて、糸口が見つかるのを待てないか?時間さえもらえれば、俺がきっと……もっとマシな状況を作ってみせる。そしたら、エミリアだってずっと安心して……』
『ううん、ダメだよ、スバル。私には、何となくわかってるの。――あの墓所の『試練』には、きっと近道も抜け道もありはしないんだろうなって』
『不思議、なんだけどね。それがわかるの。時間をかけても、挑む私の心構えがしっかりしてなきゃ、結果はきっと同じになっちゃうんだって、それがわかるの』

********************

「スバルはきっと、私のことをすごーくよく考えてくれてる。でも、乗り越えなきゃいけない時も来るのよね……この時の私に、スバルを思いやる言葉が思いつけばよかったんだけど」

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『ね、スバル。――スバルはどうして、私を助けようとしてくれるの?』
『俺が君を助けたいのは、俺が君を好きだからだ。――君の全部を、大好きだからだ』
『――ん。うん、知ってる。スバルは私のこと、大好きだもんね』
『そのスバルの気持ちが、すごーく嬉しい。すごーく、頼もしい。すごーく、頼りにしてる。スバルがそうやって私のことを見てくれてるだけで、きっとすごーく頑張れる』
『何かをしなくちゃ、なんて思い詰めないで。スバルが見ててくれるだけで、私は頑張れるから。何かをしたいと思ってくれるなら、私のわがままを聞いてくれるなら、傍にいてほしいの。私の背中を、支えていてほしいの』
『ふらふらってしちゃいそうなときに、背中を支えてくれる手があればきっと立ち止まれるから。そうやって揺れちゃうときに、スバルに傍にいてほしい』
『いつも私の前を歩いて、転ばないように石をどけて、道をならして、草木を切り開いて、手を引いてくれようとしてくれてありがとう。でも、そうされるばかりじゃきっと、私はずるずるスバルに甘えていっちゃうと思うの。私、根がずぼらだから』
『甘えて甘えて、甘えてばっかりだったから……だから、今度はそうしないで、やってみようと思うの。失敗するたびに、スバルやみんなに心配かけちゃうのだけが気掛かりなんだけど……そうならないように、一日も早く乗り越えられるようにするから』
『そうやって頑張る私の傍で、その頑張りを見守ってください。――それが、私からスバルにしたいお願いです』

********************

「べティーは、大切な人の傍を離れるのが不安になる気持ちが分かるのよ。自分がいない間に取り返しのつかないことが起きたら……そう危惧する気持ちだって、十分すぎるくらいにわかるかしら。……でも、それはきっと……」
相手を信頼していないことへの裏返しだと、ベアトリスは知っていた。

********************

『俺は……俺は……ッ!』
馬鹿過ぎる。本当に本当に、どうしようもないほど愚かで、救いようがない。
ロズワールがエミリアをアレと見下して呼んだとき、スバルは激昂して食って掛かった。彼女を侮辱し、貶める言葉と態度を許すまいと声を上げて、牙を剥いた。
そのやり取りの直後にエミリアと会って、自分が彼女にしてあげたいと思っていた思いの丈を打ち明けて、それを拒絶されて、初めて気付いた。
――エミリアの覚悟を、決意を、強さを、一番信用していなかったのはスバルだ。
『俺は……俺……がっ』
スバルが独りよがりの勝手な庇護欲で、エミリアを守ろうと画策している間にも、エミリアはエミリアなりの覚悟と決意を一人の夜で固めて、『試練』から逃げずに立ち向かうことを決めていたというのに。
そうする覚悟を、スバルに支えてほしいと願っていたのに。
他でもないナツキ・スバルが一番、エミリアという少女のことを見くびっていた。

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「……信じるってことは、すごく難しいことだと僕は思います。無条件で信じることは難しくて、信じられる──安心材料が欲しいと、そう思うことが悪い事だなんて僕は思いません」
「それはべティーも思うかしら。でも……スバルは、自分に厳しすぎるのよ。誰かに優しい言葉をかけて頭を撫でたその掌で自分に傷をつけるような……そんな、危うさを」
オットーの瞳が哀しみに薫る。
彼が背負う全てを、自分が肩代わりできたなら。
そんなことは、有り得ないのだが。

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『ずいぶんとまァ、いい御身分じゃねっかよォ』
『づ、ぁ、痛ぇ……っ』
『何の意味があんだかァ知らねェが、屋根のねェようなとこで寝るなんてのァお勧めしねェぜ。『屋根と床に、ガウランがあれば暮らしていける』ってもんだろっがよ』
『そう、か……俺は昨日、あのまま眠りこけて……』
『朝の日課に身回りしてりゃァ、てめェの臭いが森の方からしてきたときァどうしたもんかと思ったぜ。大の字になってやがっから、早まった誰かに闇討ちでもされたんじゃねェかってよォ』
『有力候補のお前がやってないなら、誰もやらねぇだろうよ。……今、何時ぐらいだ?』

********************

「スバル様……大丈夫でしょうか……」
「うわぁ……あのまま寝ちゃったんだ……体中軋むねあれはぁ」
フェリスがうわ〜と嫌そうな顔をする。
「私はベッドでしか寝ないので分からないのですが……どれほどの痛みなのでしょう?」
「ん〜、全身がギシギシするというか……フェリちゃんも多忙の時期はよくありますね〜」
「……そうなんですね……」

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『……昨日の夜たァ、またずいっぶんと面構えが違っちまったじゃねっかよォ』
『あ?』
『余裕が、あるんだかねェんだかわっかんなかった昨日と違って、今のてめェはなんだ……なんか、スッキリした面ァしてやがる』
『────』
『ちっ、それもなんか違ェなァ。クソ、うまく言えねェが……おい、何を笑ってやがる』
『はっはは!俺が、スッキリか!そうか、そう見えるかよ』
『んっだよ!何がそんなおかしいって……』
『逆だよ、ガーフィール。全然、まったく、逆だ』
『あァ?』
『スッキリなんか何もしてねぇ。俺の中はぎゅうぎゅうのパンパンで、正直、今にも破裂しちまいそうなぐらいだよ。やろうとしたこと全部否定されて、やらなきゃって気張ってたこと全部裏目に出て……どうすりゃいいんだか、本気でわっかんねぇ』
『────』
『本気で手詰まりだってことがわかると、逆に笑えてきちまうもんだよ。どうにかしようと思ってたこと全部駄目だってんなら……また最初からか』

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「……本当に手詰まりすぎますわ……この状況を打破しようとする気概が、スバル様の恐ろしいところですわね」
「そうだッなァ……」
フレデリカは複雑な心境で苦笑する。
もしフレデリカが同じ立場なら、大兎の遭遇で心は完全に折れていた。
かくも、それ以前に折れていた可能性の方がやや高いが。

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『――どうしたらいいか、教えてあげましょうか』
『……オットー?』
『ええ、どうも、おはようございます。そうです、僕ですよ』

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「オットー兄ィ!」
「オットーくん……!」
エミリアがオットーに羨望の眼差しを向ける。
「……そんな大したことはしてませんよ?」
「そんな事ないわ。オットーくんは今までもたくさん頑張ってくれてたし、私よりもずっとスバルの支えになってる。私はそれを知ってるもの」
「そんな褒められると照れるんですけど……」

********************

『話は、ふんわりですが聞いてました。ずいぶんとナツキさん、追い詰められてるみたいじゃないですか、色んなことに』
『────』
『詳細まではもちろん、蚊帳の外ですからわかりはしませんけどね。行き詰まったんでしょ?どうしたらいいんだって、弱音が聞こえてくるくらいでしたし』
『だったら、どうする。……どうすればいいかとか、言ってたよな』

********************

「……なるほど」
ロズワールが笑みを浮かべる。
そこには仄暗いものはなく、ただ純粋な笑みだった。
「ここで……後に……そうか」
点が線に変わったように、何かを呟く。

********************

『どうすればいいかわかってるって、お前は……』
『はい、知ってますよ。簡単なことです』
『簡単……って』
『知りたいですか?』
『あ、当たり前に決まってんだろうが!ふざけんな!何か、お前が知ってることがあるなら俺に……』
『でしたら、準備があります』
『じゅ、準備……?』
『はい。まずはゆっくりと、大きく息を吸って……』
こちらに手を差し向けて、オットーはジェスチャーを入れながらスバルに深呼吸の指示を出す。意味がわからないながらも、スバルはその指示に従うように息を整え、目をつむって肺を膨らませ――、
『────!?』
次の瞬間、鋭い衝撃が横っ面を打ち抜き、スバルを地面に横倒しにしていた。
受身も取れずにすっ転び、顔面から土に落ちたスバルは目を回す。頭を振り、何が起きたのかと周囲を見回して、拳を振るオットーの姿を捉えて、殴られたのだと気付いた。
そして、息を呑むスバルの前で、赤くなる拳を固めたオットーが言った。
『友達の前で、かっこつけるのなんかやめちまえよ、ナツキ・スバル』

********************

「オットーくん……!」
「さッすがオットー兄ィだ!」
「み、認めてやらなくもないのよ?べティーのスバルを助けてくれたのだから、褒めてやるかしら」
皆が立ち上がり、オットーに賛美の言葉が送られる。
「なんて言うか……二人きりでの会話を聞かれるのって想像以上に……」
恥ずかしい、とオットーは思った。
だが、
「……悪い気分じゃ、ないですね」

********************

『何をどうしたらいいのかわかんなくて、頭の中しっちゃかめっちゃかなんでしょう』
『手を差し伸べなきゃいけないところばっかりで、自分じゃ腕も頭も力も足りなくて、バタバタバタバタと時間だけが過ぎるのに必死で抗ってんでしょう』
『沈黙するってことは、否定なしの肯定ってことですよ。少なくとも、僕らの世界じゃそれはつけ込まれるだけの最低の行いです。――聞こえてますか?』
『聞こえてるなら、返事しろよ!』

********************

ユリウスが目を開く。
「これは……そうか」
友人とは、本来こうあるべきなのだと、ユリウスは頭蓋に冷水をぶちかけられたような感覚に陥る。
ユリウスの友人はユリウスに弱みを見せてくれることはあまりなかったから、それに気づけなかったのだ。

********************

『何を、しやがる……っ』
『おや、殴られっぱなしのやられっぱなしだったわりには、ちゃんと意識はあったんですか。てっきり、寝てるのかと思って慣れない乱暴なこととかしちゃいましたよ』
『んだと――!?』
鼻面に喰らった二発目の頭突きで涙目になりながら、スバルは怒りに任せてオットーに掴みかかる。が、伸ばした腕は横に滑るようなオットーの動きに回避され、逆に足下を乱暴に払われて転ばされてしまう。
『血が頭に上ったかと思えば、今度は足下がおろそか。まさにナツキさんの行動そのものといえますね、情けない』
『そう……かよ!』
転んだ体勢から跳ねるように立ち上がり、スバルは倒れた際に握り込んでいた土をオットーの顔面目掛けて投げつける。しかし、オットーはこれもまた読んでいたように腕で顔をガードしており、目潰しを読まれた驚きで次の動きに入るのが遅れたスバルに接近。そのまま、息を呑むスバルの後ろ襟を掴むと、こちらの腹に手を当てて一気に投げる。
背中から地面に叩きつけられて、弾むスバルは衝撃と痛みに息が詰まる。
投げられた場所は落ち葉の降り積もる場所ではあったが、衝撃の全てが吸収されたわけではもちろんない。
手足の先にまで痺れの走るような感覚があって、喘ぐスバルは立ち上がることもできない。
『小細工しようとしたあたりは、まあナツキさんらしいっちゃらしいんじゃないですか。それも念頭に入れて向かい合ってた僕には通用しませんでしたが』
『……か、っぁ』
『ね、ナツキさん。ナツキさんの力なんて、そんなもんですよ。騎士の方々やロズワール様、ましてやガーフィールになんて到底及ばない。僕にすら、この様です』

********************

「……」
ラムが桃色の髪を微かに揺らす。
「……すごーく、驚いちゃった。オットーくんがこんな事言うの、初めて見たから」
エミリアが驚きを前面に出した顔でそう言う。
「……僕も、いつもはこんなこと言わないんですけどね」
「でも、オットーくんの気持ちもわかるわ。スバルは少し意地っ張りなところがあるから、誰かとぶつかるっていうのは……うん、すごーく大事」

********************

『白鯨や、魔女教と事を構えるのだってとんでもない。ナツキさんは弱くて、まともにやり合ったら指先一つでぷちっと殺されるのが関の山でしょう。そんなの、自分だってわかってるはずです』
『じゃ、力の足りない部分は知恵で補いますか?僕の見た限り、ナツキさんはそこそこに小ずるい頭が働くように見えますが……平均的に高い思考力とか判断力があるかというと、決してそんなことはないですね。常識も足りないぐらいです』
『力も知恵も足りなくて、それじゃそれを補えるだけの何かが他にあるのかといったら……それも特にない。ナツキさんは小さくて、手の短い、どこにでもいる人間ですよ。そんな人間のくせに、分不相応に高いものを望みすぎる』
『お、前は……さっきっから、何を』
『届かなくて、足りない自分を自覚してて、じゃあ次善の考えで何をするのかと思って見てれば、より自分を追い込んで、ありもしない何かを引っ張り出そうと自分を削って……パトラッシュちゃんの気持ちが、ようやくわかりました』
『パトラッシュ……?』

********************

「スバルは本当に分からないのかしら?」
「そうみたいですね。本当に、困った人ですよ」
「……全部抱え込むのは、スバルの悪いくせかしら」

********************

『惚れた女の前で格好つけるのは結構ですよ。それは必要な見栄だと思いますので、尊重しましょう。身の丈に合ってない真似とか言葉とか言いたくなるのは、まあ仕方ないことです。そのぐらいは見過ごしましょう』
『自分を好いてくれてる女の子に格好をつける、っていうのも許しましょう。これも必要なことです。好いた惚れたの関係は、好かれた方にも責任があると僕は思いますから。好いてくれた相手のために、格好つけるのも大事なことです。許しましょう』
『でもですね、そこまでですよ』
『足りないの、わかってんでしょう。届かないの、知ってんでしょう。好きな子に格好、つけたいんでしょう。好きでいてくれる子に、誇れる自分でいたいんでしょう』
『なら、その子たちに、その人たちに見えない部分を補うぐらい、誰かの手を借りたらいいじゃないですか。――たとえば、友達とか』

********************

「友達……」
ラインハルトが青い双眸をオットーの後頭部へ向ける。
彼がそれに何か返すことはなかったが。
「……そうか、そんな……」
簡単なことで──

********************

『何が、そんなおかしいってんですか』
『お前の、それは筋違いの考え違いだってんだよ。……俺だって、誰も頼らなかったわけじゃねぇ。どうにかできそうだって、考えられる手は打ったつもりだ。頼れるんじゃないかって……そう信じた相手に頼ろうとして、それで……』
『……でも、僕はまだ、そんなナツキさんに頼られた覚えがないんですが』
『────』
『僕なんかには頼る価値がないとか、意味がないとか……そんな風に見切られたってことなんですかね。それとも、僕もナツキさんから見たら……守ってやらなきゃいけないみたいな風に思われる、対象ってことですかね』
『違う』
『何が違うってんですか。そうでもなきゃおかしいでしょう。そうでもなきゃ、どうして何も言わずに、一人で蹲ってる理由になるってんですか』
『俺がお前に何も……その、伝えたりしてないのは、お前を信用してないからとかそういうことじゃない。そういうのとは、違う』

********************

スバルの心の声が、音声として会場へ響く。
「……この期に及んで、他人の心の傷を慮るんですから……本当に、損する性格してますね、ナツキさん」
「べティーからすれば、お前も損をする性格かしら」
「……そうですかねえ」
「そうなのよ、お前たちは二人ともめんどくさい性格をしているかしら」

********************

『何も、うまく説明ができねぇんだ。頭の中むちゃくちゃで……お前が言った通り、しっちゃかめっちゃかで何も……筋道の立った説明が、できねぇ』
『…………』
『話しても、信じてもらえないようなことばっかで……何をどう、話したらいいのか……それで、お前にも誰にも、何も……っ』
『……言ってみてくださいよ』
『──え?』
『だから、言ってみてくださいよ。筋道立たなくても、途中途中がしっちゃかめっちゃかでも、理路整然と話せないぐらい頭の中むちゃくちゃでも、切り上げたりせずにちゃんと最後まで聞きますから』
『いや、でも、それじゃ……』
『だから……それを!格好つけんなって、言ってんでしょうが!』
『信用してもらえる証拠がないとか、信頼されるだけの根拠がないとか、理論立てて話ができないとか、そういうややこしいことうだうだと考えてる暇があるなら、頭の中身を全部吐き出してぶちまけた方が、蹲ってるよりよっぽど建設的ってもんでしょうが!』
『そうは、言っても……俺は!そのごちゃごちゃを、信じてもらうために……!』
『――ごちゃごちゃを全部話す!そして、最後に『信じろ!』って言やぁいいんですよ!友達なんだから!!』
『── 信じて、もらえないかもしれねぇんだけど……』

********************

「さッすがオットー兄ィだ!」
ガーフィールが身振り手振りで悦びを表現する。
「そうね、私じゃこんなこと言ってあげられないもの……オットーくんがスバルのお友達で本当に良かった」

********************

『その上で、ロズワールは屋敷を殺し屋に襲わせて……それで、俺やエミリアを逃げ場のないとこに追い込もうとしてる……みたいだ』
『今のところ、俺が持ってる情報……ってほど、確度の高いもんじゃないが、とにかくそれは全部だ。隠すとこなく、全部』
『ナツキさん……』
『聞かなかったことにして、逃げ出したらいけませんかね?』
『なん――ああ!?』
『大兎が襲いかかってくる場所に閉じ込められてる上に、脱出するには『試練』突破できるか微妙なエミリア様に頼るしかなくて、せめて結界に引っかからない人たちだけでも移動させようとしたら分からず屋に邪魔されて、なんとか屋敷に帰り着いてみたらそのお屋敷の主人の命令で殺し屋がやってくるって……どういう状況ですか!?』
『俺が知りてぇよ!!なんでこんなわけわっかんねぇ状況に追い込まれなきゃなんねぇんだよ!知ってたけど、神様は本気で俺が嫌いか!俺も嫌いだよ!!』

********************

ぽかん、とエミリアやガーフィールが呆けた顔をする。
「えっ……ええ!?逃げっ……」
エミリアが聞いたこともないような声を上げる。
「……ま、まあ……話だけ聞いたらそう思って当然なのよ」
ベアトリスがフォローを入れ、オットーは苦笑いする。

********************

『待てよ、オットー。お前がそうやって騒ぎ立てる気持ちは正直わかるけど……お前はこの荒唐無稽な話を、信じるのか?』
『厄介すぎる魔獣が迫ってて、逃げようにもエミリアが立たなきゃどうにもならなくて、ガーフィールはみんなを逃がすのを邪魔するし、ロズワールはわけわからない考えでこっちを裏切ってやがる……そんな話を、お前は信じるのか?』
『ナツキさん』
『僕はこれまでね、けっこう色んな土地を巡ったりして、これでもわりとたくさんの人と交流を持ってきたんですよ』
『……まさか、目を見れば信頼できるかわかるとか』
『いえ、そんな迷信は信じちゃいませんよ。商人なんかやってると、人がどれだけ曇りない眼差しで他人を騙したり陥れたりできる存在なのかなんて、十分すぎるほど体験できますしね。そのあたりに関しちゃ、僕もなかなかの経験値ですよ』
『まあ、そうやって色々な人と出会って、僕なりに商談とかもやってきました。実家を出て行商を始めて四年ぐらいですが、良くも悪くもどうにか生き残ってやってます』
『そんな日々の中で、僕も一端の商人として生きてきたわけですが……これまで僕は、自分なりに勝算が高いと計算できる方に加担してきた自信があります。結果が伴い続けてきたわけじゃありませんが……というか、僕が勝ち目があると思った方はその後に信じられない災難にあったりで結果はついてこないんですが』
『結果の良し悪しは別として、決断自体は悔いがないように選んできたつもりでいるんですよ。自分の何かを預けたり、賭けたりするのに、それはわかりやすく必要だと僕は思ってますんで』
『だから、これが初めてですよ、ナツキさん』
『──え?』
『勝算度外視で、勝ち目の見えない方に乗っかるのはこれが初めてです』

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「……エミリア様」
「なあに?オットーくん」
「……正直悪い気分ではないんですけど……きらきらした瞳を向けられると恥ずかしい気持ちになるんでやめてもらえますかねえ!?」
「私だけじゃないわ、ガーフィールもベアトリスも、皆オットーくんのことを前以上に好きになったと思う。私も、すごーくオットーくんが……凄いって思うもの!」
「語彙力が酷すぎるかしら……まあ、お前の評価に関してはかなり上がったとだけ教えておいてやるのよ」
「こ、これがつんでれ……ナツキさんがいたら絶対に騒いでましたね……」

********************

『──ロズワール!』
『――賭けをしよう。俺とお前の、願いをチップに』

********************

「負けるな大将ッ!」
「スバルが負けるわけないかしら!」
金髪のお子様は尚も騒いでいる。
「……ふふ」
「エミリア様?」
「……ううん、少し安心したの。ふふっ」
エミリアは、自分の中に広がる安堵の波動を軽い笑い声で隠してみせた。

Comments

  • オットーの過去は何処に書いてありますか?

    Jan 5th
  • シン
    May 19, 2025
  • 勇者部顧問

    改めて聞くと四章の無理ゲーに無理ゲーを重ねたさらに無理ゲーが酷い

    February 18, 2025
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