一番星の愛し方
病みリアは好きなんですけど、あれってようは鬱状態になってるんだろうし、キスをしたのも本人的には子作りの覚悟してたって思うと、けっこうグロいですよね。
エミリアが子供の作り方知ったの精神安定後でよかった……
ここら辺のスバルくんに関しては原作を読んで欲しいです。
アニメだと結構省かれてますけど、地の文だと『その違和感にスバルさえも気付いてはいなかった』みたいな感じでスバルくんのおかしさを表す文が結構多いので。
ゼロからとかもそうですけど、アニメと原作だと結構ニュアンス変わってたりするので。
書籍読んでないから書籍ではアニメと同じなのかもしれませんが……やっぱり原作読んで欲しい!
無料ですし!
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『──スバル?』
『エミリア』
『そう。そうだよ、スバル。……私だよ』
『あ、た、ごめ……力、抜けちまって……』
『大丈夫。わざとだとか、狙ってやったんだーなんて疑ってたりしないもん。狙ってやってたとしても、こうして受け止めちゃっただろうし』
『え、エミリア……俺がいない間に、その……』
「……なに、これ」
エミリアが映像に唖然とする。
消えた世界だとしても、自分がこんな行動をとる理由がわからない。
何故、スバルの気持ちを確かめるような行動を取っているのだ。
『──さびしかった』
『……え?』
『さびしかったよ、スバル。――だって、私を置いていっちゃうんだもん』
『あ……いや、それは……違くて。置き去りとか、そんなつもりじゃなくて……』
「エミリア、これは……」
スバルへの完璧な依存。
それは、聖域での扱いと極限状態の精神が理由なのだろうが、これはもはや狂気であった。
『手紙にも、書いたと思うんだけど……やらなきゃいけないことがあって。それでちょっとだけ、一緒にいれなかったんだ。エミリアをさびしがらせたのは、本当に反省してる。そんな思いまでさせたのに、やらなきゃいけなかったことってのも、ちゃんとやり切ってこれなくて、それで……』
『ふふっ』
「エミリア様...?」
ラムでさえも、眉を顰めずにはいられない。
それほどまでに、エミリアの様子はおかしかった。
いつもの明るい笑顔はなく、どろどろとした感情だけがそこにはあった。
『そんなに一生懸命に言い訳しなくたって、怒ってないですよーだ。スバルったら、顔青くしちゃって……ふふっ』
『え、エミリア……?』
『大丈夫だってば、スバル。スバルはちゃんと手紙を置いていってくれたし、たくさんたくさん、たーくさん、私のために書いていってくれたもん。さびしかったし、泣きたいなって思ったこともあったけど……手紙、何度も読み返したから』
『エミリア……『試練』は、どうなった?』
『試練……』
『そうだよ、『試練』だ。そのためにここに入ったんだろ?一人で行かせるなんて辛いことさせてごめん。それも謝りたいし、どうなったのかも知りたい。ダメでも、俺はそんなこと何とも思わないけど、今こうしているってことは……』
『ダメ、ダメだったよ?第一の『試練』を、過去を私は乗り越えられてない。期待と心配してくれてるのに、ごめんね』
『あ……』
『スバルって、たまに私の髪の毛を触りたがるでしょ?だから私も、たまにはスバルにこうしてみたいって思ってたの。ふふ、スバルってば隙だらけー』
『エミ、リア……?』
『あのまま、私を置き去りにしたまま、スバルがいなくなっちゃったらどうしようって……すごく、すっごく、すごーく、いっぱい考えちゃったんだよ。すごーく、恐いなってそう思ったの。だから、スバルがさっききてくれたとき、嬉しかった』
「こ、れは……」
フレデリカが言葉を失う。
狂気的な愛。溺れるほどの親愛。愛で頭を殴り、一緒にいてと懇願するような、整合性の取れない子供じみた愛。
それをエミリアは全身で体現している。
試練を受けて、誰も味方をしてくれなくて、エミリアは壊れてしまったのだろうか。
『スバル。もうずっと、一緒にいよう?一緒にいて?あなたがいてくれたらもう、私は他に、なんにもいらないから――』
『最初、スバルがいなくなったって聞いたとき、すごーく辛かったの。恐くなった。だって、私、全然ちゃんとできてなかったから……それで、スバルに呆れられちゃったんじゃないかって。そう思ったら、恐くて怖くて、体の震えが止まらなくて……』
『でも、手紙があるって気付いて、それがスバルの字だってわかって、すぐに恐いのが収まったわ。スバルってすごいのね。あんなに恐いと思ったのに、すぐにそんな気持ちも吹き飛ばしてくれて……うん、私いつも、スバルに助けられてるなぁって』
『手紙の内容も、嬉しかった。私に心配かけないようにって、たくさんたくさん書いてくれたよね。すごーく時間かかったよね。そうやって、私のために時間を使ってくれたことも、その間、私のことをきっと考え続けてくれたことも、嬉しかった』
「エミリア様ッ……!」
エミリアがこんなに追い詰められていることに、ガーフィールは罪悪感を覚える。
エミリアが追い詰められ、試練を突破することをガーフィールは強いていたのだから。
『手紙の中でもいっぱい、スバルは私に『好き』って、そう言ってくれてたね。竜車の中で言ってくれたときも、すごーく嬉しくて、泣いちゃったけど……手紙を読んでも、やっぱり泣きそうになっちゃった。それぐらい、大きなものを私はもらってたんだって……そう思ったの。それに気付いたの』
『だから戻ってきてくれたスバルを見たとき、もう止まらなくなっちゃった。胸の奥で、一番深いところで、小さな私がスバルの名前を呼んでるの。そうしたら、こうやって手を伸ばして、触って、そうしたくてたまらなくて……』
『ね、スバル。今までごめんね。私、ずっと酷いことしてたよね。こんな風に思ってくれてたスバルのこと、ずっと我慢させてたんだよね。それがすごーく残酷なことだったんだって、今は少し、わかってるの』
『こんな気持ちを抱えて、それでも我慢してるのって辛いよね。私、我慢してるスバルの前で、勝手すぎたよね。スバルのこと……考えたいって、わかりたいって思ってたはずなのに、全然わかれてなかった』
「……なるほど、エミリア様がスバルくんに依存し、スバルくんがエミリア様のことだけを考える……私の望んだ未来が、これだと……?」
そのエミリアの状態は、ロズワールが望むものに近かった。
スバルの状態は望みとは違ったが。
「……さすがの私でも、ね」
ほんの少しだけ、胸がちくりと痛んだ。
それは、スバルの影響かもしれないが。
『でも、今は違うわ。スバルのこと、ずっと考えてる。ずっと思ってる。スバルが私のことを……その、好きって言ってくれたみたいに、思ってくれてたみたいに……今は私も、スバルのこと……そう、思いたい、かも』
『ううん、ごめんね。今の、卑怯だよね。恐くても、私が何を考えてるのかわからなくっても、スバルは私に、ちゃんと言ってくれたもんね』
『だから、私も、ちゃんと伝える。――伝えます』
『ね、スバル。私は、あなたが、好きです。あなたのことが、大好きです。あなたのことを考えて、あなたのことだけを考えて、ずっと一緒にいたいって、そう思います』
『スバルも、私をそう思ってくれてると……嬉しいな……なんて』
『えへへ。うん、うん……好き。スバル……大好き』
「違う……好きって、こんなにドロドロしたものじゃないわ。もっと幸せで……2人とも笑顔で……そうじゃなきゃ……」
エミリアは狼狽する。
スバルに独りよがりな愛を押し付けて、役目も放棄して。
こんなエミリアのことを、誰がどうして愛せようか。
「こんな暗いもの、愛じゃないわ……こんなの、何一つ……変わらない……」
嫉妬の魔女のような、独りよがりな愛だった。
『半魔は引っ張り出してこねェ。雪も止む気配がねェ。手土産なしの辛気臭ェ面ぶら下げて戻ってきて、それでてめェはどんな落とし前つけてくれんだァ、あァ?』
『――エミリアがな、俺のことを好きだって、言うんだよ』
『状況が見えてねェなァ、どうやら中の半魔だけじゃァなくててめェもみてェだなァ!よくもまァ、こんな状況でクソふざけったのろけ話ができたもんじゃァねェか、オイ!オイ! オイ!あァ!?』
『エミリアが、俺のことを好きだって、俺さえいてくれたらいいって、言ってくれたんだ』
「スバル……?いきなり何の話を……」
「スバルきゅん...?」
いきなりエミリアについて話し出したスバルに皆が疑問を覚える。
『可愛い顔で、甘えた声で、震えがくるような仕草で、溶けそうなぐらい近くで、息がかかるぐらい触れ合って……言って、くれたんだ』
『だっからなんだってんだァ!あの半魔がてめェにべったりなことぐらい、ここに入ったときからわかり切ってたこったろォがよォ。思い通じ合って祝福でもされてェってんなら、俺様がわかりやすく噛み砕いて――』
『……わけ、ねぇだろうが』
『あァ?聞っこえねェよ、もっとはっきり……』
『――エミリアが俺のことを、好きだなんて言うわけねぇだろうが!!』
「……え」
エミリアが目を見開く。
スバルは見抜いていたのだ。
エミリアの心の奥底にある寂しさと、他の誰かに向ける信頼を。
『言ってくれるもんかよ。エミリアが俺のことを好きだなんて……俺に甘えて、俺に全部を預けて、俺さえいれば他に何もいらないなんて……絶対に』
『な、何を言ってやがんだよォ、オイ』
『あんな風に俺に依存して、俺への感情が自分の全てだなんて、言い切ってくれることなんか、絶対にない。――パックがいたんなら、そんな風に俺に浸かり切ってくれるなんてことは、絶対にないんだよ……』
「スバル……」
ベアトリスが悲しそうな顔をする。
「べティーにとってスバルが一番なように、エミリアにとってもにーちゃが一番なことにスバルは気付いているのよ。大切な存在でも、最後に頼るのはきっと違うということに」
『誰があの子を、俺みたいなどうしようもない奴に縋らなきゃいけないほど追い詰めた?あんな風に、何度も何度も心を折られて……それでも、立ち止まることなんてできないって、そうやって思い悩むほど、誰が!』
『それァ必要なことだろうがよォ!てめェで選んだことだろうがよォ!それを、俺様や……『聖域』の他の連中のせいだって言うのか、あァ!?』
『誰のせいも何も決まってる……俺のせいだ』
『――はァ!?』
『俺のせいだ。エミリアがあんなに追い詰められたのは、間違いなく俺のせいだ。俺のせいで、お前のせいで、お前らのせいだ』
『……ふざっけんな。重圧に耐えかねて、それで潰れるってんならそれがそいつの器じゃァねェか!そんな弱っちい心構えで、よくもまァ高い目標掲げたもんだって、馬鹿にされて当然じゃァねェかよ!』
『そうだな。お前の言う通りだよ。エミリアは、真っ直ぐに重圧を受け止めるには優しすぎるんだよ。だから抱え込んだもの、誰に打ち明けることもできないで、潰れちまう。――ホントは、俺がそれをしなきゃならなかったのに』
「……ナツキさんがしなきゃならないってこともないと思いますけどね」
「全くかしら。スバルがしなきゃいけないんじゃない...スバルを含めた全員で、それをしなきゃならなかったのよ」
『――この雪を降らせてるのは、ロズワールだ』
『エミリアじゃない。パックもいないんだ、エミリアにはできない。万が一、エミリアがこれを引き起こしていたとしても、あの子がそのことをおくびにも出さないで俺と話したりできるわけがない』
『そ、れも……てめェの、都合のいい想像で……ッ』
『そうだな、俺が信じてるってだけだ。あの子が、自暴自棄になったとしても、そんな回り全部をダメにしちまうような、そんな癇癪を起こす子じゃないって……俺が、そう信じてるだけだ』
『お前たちを『聖域』に縛り付けてるのも、ロズワールだろ』
『それも、フレデリカから聞いたのか?』
『まさか……状況証拠と情報を整理して、あと先入観と悪印象で濡れ衣でもいいやっていう思い切りだよ。――当たってた、みたいだけどな』
「…ロズワール……」
エミリアが辛そうに名を呼ぶ。
「私がやってたように見せかけるなんて、すごーく悪知恵が働くのね」
『――どーぅやら、ずーぅいぶんと怒っているみたいじゃーぁないの』
『そうだな。今のところ、かなーりきてる。俺はともかく、こっちが今にも飛びかかりそうなのはわかるだろ?発言、気ぃ遣ってくれよ』
『面白い取り合わせだーぁね。確か、ガーフィールはスバルくんが戻ってきたら、縦に引き裂いてやるだーぁなんて豪語してたと思ったけど?』
『事情がちっとばかし変わっちまったかもしれねェんでなァ。それが本当に違っちまったかどうか、確かめねェことにゃァ誰を挽肉にしていいのかわかりゃァしねェ』
『ナチュラルにおっかない会話してんじゃねぇよ。ロズワールも、そんなとんでも発言を当たり前みたいに受け取ってんじゃねぇ』
「……な〜ぁるほど、そういうことか」
「……なにかお気づきになられましたか」
「……いや、傷が癒えたばかりなのに残念だと思っただけだ〜ぁよ」
『外の雪、降らせてるのはお前だな、ロズワール』
『スバルくん』
『ああ』
『――それは、私から聞いたのかね?』
『私もクソも、今、こうしてお前と話してるってのにどうやってそんな会話するんだよ。何かと言い間違えたのか』
『ふ、む……そうか。そうか。そーぅかい。……残念だ』
『――そーぅだね。言い間違い、言い間違えだよ。おかしなこと言ったね』
「……答えを渡すつもりは無いくせに匂わせる程度のことはする……嫌な男なのよ」
「殴りかかってこないあたり、怒りは冷えたとみていいのか〜ぁな?」
「今はまだ怒る理由がないだけかしら。怒りの分はきちんと拳に込めさせてもらったのよ」
『否定、しやがらねェのか、オイ』
『疑われている身の上で、みっともなく言葉を並べ立てるといかにも嘘っぽく見える気がしないかい?ただでさえ、わーぁたしは普段の言動と行動から、君たちの信頼を得られていない自信があるしねーぇ』
『わかってんじゃァねェかよ。それなら、これから俺様がどう動くのかも、想像がついてんだろう……なァ!』
『――てめェ』
『ロズワール様にご無礼は許さないわ、ガーフ』
『ラム。君は本当に、よくできた従者だよ』
『はい、ロズワール様――』
刹那、鮮血がこぼれる。
「……あァ?」
ガーフィールが呆気にとられる。
フレデリカが、何が起こったのか分からないという顔で静止している。
オットーが、息が詰まるような吐息を漏らす。
エミリアが、瞳を大きく揺らす。
ラムが、瞳を見開き暫しの動揺を見せる。
ベアトリスが、ロズワールに視線を向ける。
ロズワールは、瞳を静かに閉じていた。
「……ッロズワールゥ!!!」
ガーフィールが、殴り掛かる。
止めるものは、いなかった。
『獣化されるのは、厄介なのでね』
『さーぁすがの私でも、天候に干渉する規模の魔法を使っているときには他の魔法を使うのは難しいのでね。――宮廷魔術師としては、不甲斐ない姿だよ』
『では――話をしようか。ナツキ・スバルくん』
「てッめェ……!」
ガーフィールがロズワールの胸ぐらを掴む。
己が殺されたことにではなく、ラムが殺されたことに激怒して。
「……ッ」
ガーフィールは牙を鳴らす。
ここで何をしても、意味が無いとわかっているから。
「ッ…くそッ……!」
一発だけ殴り、ガーフィールはロズワールを放り投げる。
「……大将...」
それは、魔法の言葉のように。
『なんで、二人を……ラム、を殺した?ガーフィールだって、ガーフィールだって殺す……殺す必要は……っ』
『君と二人で話すのに、ガーフィールがいると邪魔そうだったからねーぇ。ラムに関しては、申し訳ないことをしたと思っているとも。だが、ガーフィールと正面切って戦えるほど強いわけじゃーぁないんだ。今、殺せたのは虚を突いたからだよ』
「…ロズワール、ラムと席を代わるかしら」
「…どうしてか〜ぁな?」
「お前が殴られる度に余波がこちらに来るからなのよ、迷惑極まりないかしら」
「いや〜ぁ、このままでいいと思うよ〜ぉ?」
「本当に腹立たしいやつかしら……」
『ふーぅむ、意外だねーぇ。こう言ったら、君はさぞや怒ると思ったものだが?』
『一回転して怒りがさかしまになっちまったんだよ。……怒ってないわけじゃ、ねぇよ。当たり前だろ。当たり前だ』
『どーぅかな。望ましいといえば望ましい態度ではあるけれど、私の知っていたナツキ・スバルという少年ならば、もっと向こう見ずに吠え猛って怒り狂っていて当然の場面だよ。ねーぇ、ナツキ・スバルくん』
『馬鹿だったことには自覚あるけど、いつまでも成長ないわけじゃねぇんだ。怒り狂ってどうこうなる場面じゃないことぐらい、俺だってわかって……』
『違うなーぁ、そうじゃないんだよーぉ、スバルくん。スバルくん。ナツキ・スバルくーぅん』
「……スバルの名前を軽々しく呼ぶんじゃないかしら」
「……手厳しいね」
「当たり前かしら、スバルに何かしたらまた殴られると思うべきかしら」
『何が言いたい』
『何が言いたいか、と言われれば私は君にこう言いたいと思っているとも。――おめでとう。ようこそ。待っていたよ。私は君がそこへ立つのを、と』
『俺がここに立つのを……待ってた?』
『この部屋のその場所に、なーぁんてベタもベタな勘違いをするのだけはやめてほしいねーぇ。そういう意味でないことを、君は理解できるはずだ。君だけは、それを理解できるはずなんだからねーぇ』
『俺だけが……理解、できる』
『わーぁかるかねーぇ、スバルくん。君は、自分がどうして、二人の死を目の当たりにしてもどこか冷静で、怒り狂わず平静を保っていられるのか……その理由が、本当はわかっているはずなのさーぁ』
『君はね、二人の死にそれほど衝撃を受けていないのさ。二人が命を落としたことに対する驚きはある。義憤もあるだろうねーぇ。だが、悲しみは覚えていない。だから君は、ここで私に怒って、拳を向けることがでーぇきないのさ』
お前にスバルの何がわかるんだと、怒鳴ってやりたかった。
でも、ベアトリスよりもスバルをロズワールはよく知っている。
それが、酷く悔しかった。
げし、とロズワールの足を蹴る。
「痛いよ〜ぉ?ベアトリス」
「可愛い精霊の気まぐれかしら。気にするんじゃないのよ」
『――取り返しがつくものだと、そう思っているからじゃーぁないかい?』
『おま……っ』
『何に警戒しているのかはわからないが……あーぁ、それが君の契約の関係なのかもしれないねーぇ。なーぁるほど。それなら、これまでの君の行動や言動の不自然さにも納得がいく』
『お前は……俺の、俺がどうなってるのか、気付いて……!?』
『書の記述に外れていない限りは、ね。――君は、やり直す手段を得ている。そうじゃーぁないのかね?』
「…嫉妬の魔女が、やってこない……?」
「どこまでか範囲なのか分からないな……」
完全に彼女の気分次第なのだろう。
『――沈黙は肯定の証である、とそう残したのは誰だっただろうかねーぇ』
『まーぁ、荒唐無稽なお話だ。なーぁんて退屈な誤魔化しをしない分だけ良心的と言えるのかもしれないがねーぇ』
『おーぉっと、いいよ。私の方から言い出しておいてなんだけど、きっと君の口から肯定なりの返事をするのはよくないことになる。だからこそ、今日まで君はそれを打ち明けることができなかったんだろうからねーぇ。もっとも』
『打ち明けてどんな目で見られるか、それを恐れていたのかもしれないけどねーぇ』
『それはそーぅだ。だーぁって、世界をやり直す力なんてとんでもないものだよーぉ?時間に干渉するなんてーぇのは陰系統の究極の究極でようやくだ。ベアトリスですら、停滞を生むのが精一杯。逆行なんて、夢のまた夢だよーぉ』
『――その反応を見ると、どーぅやらベアトリスは役目を果たしたようだねーぇ』
『お前は、あいつの苦悩を知ってたんじゃないのか。ずっと、あの屋敷に縛り付けられてて、契約だなんてずっと昔にした約束一つに縋りついて……それであんなに擦り切れて、小さくなっちまったあいつを知ってたんじゃないのかよ!』
『もーぉちろん、知っていたとも。私とベアトリスはながーぁい付き合いだ。それこそ、生まれた頃からのだ。あの子が胸の内に抱く寂寥感を、私はずーぅっと知っていたとも』
『どうしてなんとかしてやらなかった、なーぁんて言わないでほしいね。あの子の悲しみを他人がどうにかできたかなんて、それこそ君もわかっていることだろーぅ?』
「……確かに、そうだ。逆行なんてものは、どんなに魔法を極めても、そうそう手に入るものじゃない。私も……そう思うとも、スバル」
「……死がトリガーだとは、知らなかったのだけどねーぇ」
ロズワールも少しは罪悪感があるのだろう。
眉を下げて瞳を片方閉じる。
『羨ましい、ねーぇ』
『――羨ましい、だと?』
『羨ましいさ。ベアトリスは、悲願を叶えて消えることができた。君がここにいるということは、そういうことなんじゃーぁないのかね』
『悲願……だと?あれが……あんな、あんな風に死ぬのが、あいつの悲願だって、お前は! お前は、そう言うのかよ!』
『他でもないベアトリスが望んだことじゃーぁないのかね。それを他人がとやかくいう筋合いはないし、他人の価値基準を否定することは誰にもできない。君にも、もーぉちろん私にも、ベアトリスの死を穢すことは許されないよ』
「……べティーが、望んだ...」
ベアトリスの瞳が伏せられる。
その奥に何を思ったかは、きっと誰にも分からないだろう。
『ベアトリスは悲願を叶えた。私には、それがただただ羨ましいとも。――私の悲願は、どうやら私では叶えられないようだーぁからね』
『お前の……悲願ってのは……』
『それは言えない。言えない契約になっているから、としか言えないがーぁね。ここまで口に出すのが、契約に対して譲歩できる最大限の水際だよ。たーぁだ、これだけは言える』
『私は、私の悲願成就のための最善を常に、常に、常に、常に尽くしている。意味のない行いは、恥じ入るようなことは、何一つとしてしていないつもりだーぁとも』
『必要なこと、だと……ラムとガーフィールを殺したのも、こうやって『聖域』を雪で覆ってるのも、全部……必要なことだって、そう言うのか……?』
『ふむ、前者に関しては……いや、これは話がこじれるだろーぉね。後者に関してはその通りであると、そう答えようじゃーぁないか』
「……」
エミリアが眉を寄せる。
恐らく、ロズワールがこんなことをするのは──
『何のために、こんなことをしてやがるんだ! 『聖域』に雪を降らせて、悪戯に住人たちを苦しめて……お前は何が目的なんだよ!こんなことして、何の意味があるんだ!言ってみろよ!ロズワール!!』
『決まっているとも。――エミリア様が、孤立する』
『──は、はぁ?』
『繰り返そう。こうして雪を降らして住人に被害を与えると、だ。エミリア様が孤立して、非常に不安定な精神状態に陥る。そうなって、いなかったかね?』
『ここは魔女所縁の土地で、エミリア様は今まさに『聖域』を解放するための『試練』を受けている真っ最中だ。そーぉんなときに、こうして『聖域』を局地的な天変地異が襲えば……エミリア様に、どんな目が向けられる?』
『直情径行のガーフィールが、こういうときに役に立つ。彼ならばそれこそ真っ先にエミリア様を疑い、そして声高に主張したはずだ。彼の声の大きさに、誰もが思ったはずだよ。――この天変地異は、エミリア様の行いによるものだと』
「俺様の...せいで……」
「それは違うわガーフィール!あなたは悪くない、悪いって言うなら...私が……」
「そんなことはないのよエミリア!エミリアは悪くなんてないかしら!」
皆が心にどす黒いものを抱え、それを皆が慰める。
実に、滑稽であった。
『孤立したエミリア様はどうなる?エミリア様は、あれで本当は弱いお人だ。自分を肯定してくれる誰かに、信頼の全てを預けたいと思っても不思議はない。そしてその誰かもまた、エミリア様を全霊で支えたいと思っていれば御の字だ』
『依存するエミリア様を、君は遠ざけられない。当然だ、愛しているのだから。愛するエミリア様が全てを預けてきたのなら、君はそれを跳ね除けられない』
『今はないと、そう答えるだろう。それがただ、私にとっては残念なことだよ。今の君には少しばかり、余計なものが多すぎるということだね』
『俺を、殺す気――か?』
『殺すとはまた、ずーぅいぶんと殺伐とした考えじゃーぁないの。君に死なれては困ってしまうよ。どうあっても、私は君にやり直してもらわなくてはならないんだからねーぇ』
「全てを知ってるわけじゃない...余計に面倒なことになるかしら。お前みたいなやつが、いちばん面倒なのよ」
「……承知しているとも」
『――全員、入ってこい!!』
『複製体の指揮権は、ガーフィールに移っていたと思ったけど?』
『黒幕かもしれないお前のところに乗り込むんだぜ。――手札は、増やしてたさ』
『それで、私を囲んでどうするつもりなーぁのかな?』
『お前が素手でもあんだけ強いのは驚きだったけど、さすがに多勢に無勢だ。獣化したガーフィールぐらいとんでもだっていうんなら、数がいてもきつかっただろうけど……』
『二十人からいる数の暴力で封殺する。叩きのめして、押さえ込んで、お前がまだ隠してることを洗いざらい喋ってもらうぜ』
『契約の順守がどれほど大事なのかは、条件下にある君もわかっているはずだーぁけどね』
『残念だが、俺の場合は向こうから勝手に結ばされてた上に、破ろうとしたら強制的に罰が当たるタイプだ。今きてないってことは、セーフラインだよ!』
「……スバル殿、それでは彼を伏すことなど叶いませぬ。彼は……曲がりなりにも」
宮廷魔術師なのだから。
『――確かに多勢に無勢だが』
『魔法使いを相手に、数で挑むのはいささか愚かに過ぎる決断だーぁね』
『魔法は、使えないはずじゃ……』
『天候を操作していたら、ね。残念だーぁけど、私が雪を降らせる理由はもうなくなってしまったんだーぁよ。なので、少し前からもう手は止めていた。言わなかったのは悪いとは思うけーぇどね』
一瞬、言葉を見失った間に接近したロズワールが、スバルの喉を掴んでいた。
細い腕のどこにそれだけの力があるのか、軽々と浮かされて足が地から離れ、ばたつかせるスバルをロズワールは振りかぶり、背中から、複製体が半分破っていた窓の残り半分をぶち破って建物の外へ。
投げ出されたスバルの体が外の雪の上に落ち、転がり、壁にぶつかって止まる。
泥まじりの雪が口の中に入り、吐き出しながら頭を振って顔を上げた。
悠々と、残った半分の複製体を引き連れるようにしてロズワールが家から出てくる。
命令を下されていないため、複製体は判断に困っているのだ。
だが、その彼女らに何を言えばいいのか、スバルにもわからなくなっていた。
「ナツキさん!」
オットーが叫び、悔しそうに顔を歪める。
「……気づいていたら……」
よかった、と。
『これだけやっても、まだ『やり直し』をしないのかーぁね。いーぃや、あるいはすでにしたあとなのかね?考えてみると、『やり直し』が起きた場合、私の認識がどうなるのかは闇の中だ。これは困ったことになったんじゃーぁないかね』
『ろず、わーる……お前、何回も何回も『やり直し』がどうとか言ってるが……』
『うん?大事なお話かーぁな?聞こう聞こう』
『俺には、お前の方が疑問だよ。他人の『やり直し』を前提に行動してるなんて、どうかしてる。……お前も、本当は』
『それならそれで、いい。でも、それなら俺は、お前とも……』
『――どうやら、そうもいかないようだーぁね』
大兎が、迫ってくる。
「っ...また……!お願いスバル!逃げて!」
「スバル!早く!」
エミリアとベアトリスが悲痛な叫びをあげる。
ロズワールはそれに、他人には分からない程度の心の揺らめきを感じていた。
『けど、まだ五日目で……半日以上、時間があったはずなのに!』
『天候に干渉するほどの魔法だ。当然、大気中に満ちるマナも段違い。ましてや雪の影響で、大聖堂に『聖域』の全員が集まっている。近場にいた魔獣にとって、わかりやすすぎる餌場というわけだーぁね』
『だ、大聖堂!大聖堂に急がないと……!』
『もう遅いよ。人数の少ないこちらに姿を見せた時点で、すでに餌にありつけなかったはぐれが出始めているんだ。――もう、残っちゃーぁいない』
「そんな...」
ユリウスが微かに端正な顔に歪みを産む。
「こんなものを、どうやって……」
どうやったとしても、解決などできそうにない。
『ロズワール!今は休戦だ!とにかく、大聖堂に行く!生存者を回収して、とにかく安全な場所に……』
『逃げる?いったいどこに?結界があるんだ。『聖域』の住人は逃げられない』
『時間が足りなかったんだよ、スバルくん。『試練』が突破されていなければ、住人は『聖域』を越えられない。つまり、君の望みは叶わない』
『ろ、ロズワール!手を休めたら……まさか、マナが尽きて……』
『いんやーぁ、そんなことはないよ?私のマナはある種、無尽蔵にあるのでねーぇ。そうそう尽き果てることはない。……尽きたのは、生きる理由の方だよ』
「なに、それ……意味がわからない...」
フェリスが困惑を全面に出す。
スバルが平然としているのも、ロズワールがこんなことを言うのも。
『や、やり直せるにしても、こんな形で……もっと、ちゃんと話してからにするべきだ!お前は次でもいいと思ってるかもしれないけど……』
『一つ、勘違いしているようだーぁね、スバルくん』
『私は、君がやり直したとしてもやり直せない。君がやり直した先にいる私は、今の私ではあり得ない。私はここで終わりだ。――だが、それでいーぃんだよ』
『人間の考え方じゃ……ない……』
「こんなの...まともじゃありませんわ……」
フレデリカが怯えたような顔をする。
当たり前だ。
スバルとて、同じ気持ちだったのだから。
『いずれ、君が本当の意味で私に追いつくときがくるよ、スバルくん』
『いいかーぁね、スバルくん。――大事なものだ。本当の本当に、君にとって大事なたった一つのもの。それ以外の全てを削ぎ落す。それ以外の一切を手放し、ただただ大事な一つを守り抜くことだけを考えるんだ』
『そうすれば──』
『――君も、私みたいになれるさ』
「ロズワール、みたいに……」
エミリアが力の抜けたからだでスクリーンを見上げる。
大兎から逃げ、燃え盛る大聖堂を見て。
『エミリア……』
『体を張って、俺を守れ。――墓所まで辿り着いたら、後は自由にしていい』
「墓所にいったところで...もう何も……」
エミリアが絶望したように言う。
「何も出来ないからこそ...エミリア様の……好きなやつの元に行きたかったんじゃァねぇのか?」
「...そう、なのかな」
『──スバル?』
『やっぱり、スバル!もう、どこに行ってたの?心配するじゃないっ』
『……疲れてる?』
『ああ……ちょっと、疲れてるかも……しんない』
『えへへ、そうなんだ。じゃあね、じゃあね』
『ほら、どうぞ、スバル』
『……膝枕、か』
『そ。スバル、私の膝枕、好きでしょ?そう言ってたもんね。私、ちゃーんとそういうことは覚えてるんだから。ね、どーぞ』
「...また、これ……」
エミリアが悔しそうに呻く。
「どうして...?目の前のスバルが見えてないの?大兎に……体が!」
『こうやってスバルのこと、膝枕するのも何回目になるっけ』
『どうだろ……三回目、ぐらいかな。なんかいっつも、ボロボロな気がする』
『私はこうやって、スバルの髪の毛とか顔とか、指で弄るのも楽しいんだけどね。ほーら、うりうりー』
『スバル、前よりちょっと軽くなった?』
『流血ダイエットに挑戦してさ。こう……バラスト気分で重りを捨てて、どんどん身軽になる、みたい、な……』
『言ってる意味はわからないけど、また誰かのために無茶したんでしょう?スバルってそういう人だもん。わかってるけど……すごーく、心配』
『ホントはね、私のためだけに、そういうことはしてほしい。でも、それって私のわがままだし、私のために他の人のことは見て見ないふりするスバルなんて、見たくないかもしれない。……これも私のわがままだね、ごめんね』
「そう、ワガママよ。大切な時に一回も守れなかったのに、私の為だけになにかして欲しいなんて...都合が良すぎるわ」
そうエミリアは吐き捨てる。
今まででいちばん怖い顔で。
『ね、スバル、聞いてる?話したいことも、聞きたいことも、いっぱいいっぱい、いーっぱいあるの。ね、お願い。側にいて。声を聞いて。聞かせて、ね?』
『スバル──』
――初めての口づけは、冷たい『死』の味がした。
「っ!」
エミリアが我慢ならないと言いたげに、スクリーンを蹴りあげる。
魔法がかかっているのか、やはり大した攻撃にはならなかったのだが。
「いっつも自分のことばっかり...いい加減にしてよ!そんな事ばっかりして...愛してもらえるわけ、ないでしょう!?」
自己嫌悪を、かさねる。
座席表