地獄は彼と共に
ここら辺の話はアニメだと分かりづらいですよね。
カット多めになります。
大兎のシーンとかオルバルトのシーンをスバルくんのご両親が見る短編を執筆中です。
なんだか可哀想になってきました。
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『戻ってこれた、か……』
『影に呑まれかけたときはどうなるかと思ったけど……自殺した甲斐はあったか』
『戻ってこれなくなるような……取り返しがつかない事態よりずっとマシだ』
『戻ってこれたことに感激してる場合じゃねぇ。とにかく、やることを整理して、やるべきことやって、それから……』
「……なるほどネ、ずーっとあった違和感はこれか」
「フェリス?」
「スバルきゅんは英雄だね、皆にとって。……でも、スバルきゅんはイカれてるよ。善人の……みんなにとって都合がいい方にね」
『――エミリア』
『……すば、る?』
『――ああ、そうだよ』
『ここって……私、さっきまで……』
『……スバル?』
『どうして、そんなに泣きそうな顔をしてるの?』
『大丈夫、スバル。大丈夫、大丈夫だから。私、ここにいるから――』
「……慰めたつもりになって」
エミリアが酷く苛立ちを含んだ声で言う。
エミリアはロズワールにのみ怒っているのでは無い。
自分にも、スバルを傷つけた全てに怒っているのだ。
『落ち着いた?』
『あ、ああ……その、ごめん。なんか変な風に騒がせちゃって』
『いいの。最近、私ってスバルに頼ってばっかりだった気がするから。たまにこうしてスバルの方が、私に弱いところを見せてくれると……ちょっと、安心する』
『殺し文句だよ。……できれば、そういうとこはあんまりエミリアたんには見せたくないんだけどさ』
『どうして?』
『エミリアたんにはいつだって、強そうに振舞ってかっこつけてる俺を見ててほしいからだよ。俺が本当は弱くて情けなくてどうしようもない奴だなんて、そんなとこは知られたくねぇな』
『ちょっと弱いところ見たぐらいで私、スバルのことそんな風に思ったりしないよ?』
エミリアはいつでも変わらない。
『それで、『試練』のこと聞きたいんだけどさ……』
試練については知らないふりをして、エミリアがやる気を出す方向へ誘導する。
そんな自分に嫌悪を抱えながら。
「この会話も記憶にない……」
もう全てが手遅れなのだろうか、そう思ってしまうほどに。
確かにスバルと過ごした日々があるのに。
それが霞むほどの死を見たから。
『中に突っ込んでく無謀をやらかしたときァどうなるかと思ったけどよォ。無事に戻ってっきて安心したぜ。『ガフガロンの実は風で落ちない』たァ思ってても、ひやひいやもんだったしなァ』
『それだけ……か?』
『あァ?んっだよ。頑張ったご褒美に頭でも撫でてほしいってのかよォ』
『エミリアからならまだしも、お前からとか誰得だよ。そうじゃなくて……』
「今回はガーフが大人しいようね。ラムには何が違うのかよく分からないわ」
「…魔女の匂いが消えてるなんてことはありえない。なら、どうして?」
疑問は尽きない。
『墓所の中じゃ簡単にしか確認できなかったけど、本当に体に異常とかない?あそこの異様さからするに、やっぱり心配でさ』
『それは、大丈夫。うん、ありがと。本当に体にも頭にも、変な干渉とかはなかったみたいなの。それにそれを心配するなら、私よりスバルの方じゃない?』
『ってーと?』
『てーと、じゃないの。スバル、私が戻ってこないから墓所の中に入ってきてくれたっていうのは嬉しいけど、スバルにも中で何かあったんでしょう。スバルが中に入ってから私と出てくるまで、三十分近くあったってラムが』
『スバル、ひょっとして……スバルも中で『試練』を……』
『いや、それはねぇよ。いくらなんでも、手当たり次第にぽんぽこ『試練』に放り込むようじゃ見境なさすぎるって。俺が中で時間食ったのは、エミリアを起こすのに時間がかかったからだよ』
『私を?』
『そ。うなされてるから必死で起こそうとしたんだけど、まるで夢に固結びでもされたみたいにガッチガチに頑固に寝かされてて。そのまま連れ出そうかとも思ったんだけど、嫌な予感がすごかったからさ』
『そう……なんだ。ごめんね、変な風に疑って』
「スバル……」
ラインハルトが不安を色濃く舌に載せる。
「君は、どうしてそんなに……」
『ここしばらく、パックの顔を見てないけど……まだ、返事はない感じ?』
『う、ん……そう。パック、まだ返事してくれないの。ずっと呼びかけてはいるんだけど、結晶石の中で眠ってるみたいで』
「…課題が多すぎますわね」
「ええ、バルス独りじゃどうにもならないわ。だからこそ、人を頼ることに気づかなければいけないのだけれど」
「……今のナツキさんは、まだ気づけていませんね」
その心の有り様の歪さにも。
『毎回、違ったアプローチが仕掛けられれば、乗り越えなきゃいけない障害の一個一個への対応策も浮かんでくるだろ……』
『お前もなかなか、タイムリーな野郎だな』
『っだよ、驚いってねェみたいじゃァねェの。まァ、変にじたばたされるよっか話が進めやすいけどよォ』
『今のァついてこいって意味に決まってんだろうが、なァ、オイ!』
『単なる小粋なジョークだろ。別に見落としたわけじゃねぇから安心しろよ』
『そっちのが腹立つっつーんだよォ。いいからこいや、とって食うぞ』
『普通、とって食いやしないとか言って安心させる場面じゃねぇ?』
「……嫌な目ね」
「…魔女の影響でしょうか」
「……スバル」
ユリウスが名を呼ぶ。
返事等帰っては来ないが。
『さって……てめェ、墓所の中で、なァにを見やがったよ』
『誰とどんな話したかなんざ知ったこっちゃァねェけどよォ、俺様はさらっと聞き流してはやんねェぞ。『疑うべきベルベは親でも同じ』って言うからなァ』
『悪いが、俺は墓所の中でエミリアを起こすのに手間取ってただけだ。中で何かを見た、なんてのは憶測でしかないぞ』
『空々しい上に白々しいんだよ。てめェ、そんだけ全身から魔女臭ェのをぷんぷんさせて、騙し切れっとでも思ってんのか、あァ?』
『その魔女の残り香ってやつ、俺はけっこうたびたび色んな奴に指摘されんだよな』
『……へェ、そうかよ。それまでの奴らはずいぶんと悠長に見過ごしてきたもんだなァ、オイ。こんだっけ鼻が曲がりそうだってのに、いったいどうして』
『体臭はともかく、俺の行動を見て判断してくれたからだろ。お前もそうしてくれると助かるな。少なくとも、墓所出た直後は俺を見逃してくれてたはずなんだし』
『俺はエミリアにはもちろん、お前にも『聖域』にも危害を加えるつもりはない。それだけは、信じてほしい。できればそのまま、見守ってくれると助かる』
『……最初の質問に、答えてねェぞ』
『てめェは墓所の中で、何を見た。俺様がてめェを見逃すかどうかは、その答え次第だっつってんだよ』
「ガーフィール……」
エミリアは悩ましげに目を伏せる。
ガーフィールがスバルを殺すことがあれば、もう今まで通りにはいられないかもしれないから。
『――リューズさんと瓜二つの子を見かけたんだけど、心当たりはあるか?』
『てめェ……今、なんて言いやがった?』
『ずいぶん、殺気立ってやがるな』
『繰り返させんなよ。リューズさんそっくりの子が、『聖域』をうろついてたのを見かけたんだよ。リューズさんじゃないことだけは、確かだと思うんだけどな』
『……言ってる意味がわからねェなァ。ババアが歩き回ってっとこ見ただけの話じゃっねェのかよ。深夜に徘徊してたってんならそいつァ別の意味で問題だっけどな、それとこれとは話が』
『俺が見たのは、二人で同時に行動するリューズさんのそっくりさんだよ。片方がリューズさんだったとしても、もう片方は……誰だったんだろな――』
「勘が良い奴かしら」
ベアトリスがやや眉を下げて言う。
スバルは観察眼が鋭い。
それは死を回避するためなのかもしれないが、もっと根本的に違うのだ。
彼の長所ともいえ、短所とも言えるのだが。
『――どこで、それを見たってんだ、オイ』
『どこでもなにも……森の、中だったと……』
『いや、そいつァありえねェはずだ。そうならねェように、俺様たちがどれっだけ気ィ張ってると思ってやがる。でなきゃァ、てめェみたいな余計なことに鼻が利く野郎から言い逃れができなくなっちまうからなァ』
『このまんまだっと、てめェの腹と背中がペシャリとくっついちまうぜ?そうなる前に、ちゃァんと本当のことを話してほっしいもんだなァ』
『そ……りゃ、お前の態度次第……だなっ』
『おもしれェじゃねェか。てめェ、この状況でまだ俺様と対等のつもりでいやがんのかよォ。端っから、それァ思い上がりだって教え込んでやったはずなんだけどなァ』
『今……ここで何も聞かずに俺を始末しても、何も解決しやしねぇぞ』
「大将……」
ガーフィールが顔を悲痛に歪ませる。
まるで大切な人の死体を見たような顔を。
「大将…死なないでくれよ……!」
過去の自分に、殺されないで。
『……どうかしてるぜ、てめェ』
『い、いきなり手ぇ離すんじゃねぇよ、びっくりすんだろうが』
『るせェよ、狂人。冗談じゃねェ。てめェ、俺様を試しやがったな?』
『試したぁ?』
『今、自分が俺様に殺されるかもしれねェと、そう思いながら言っただろが』
「…狂人……そうね。間違ってないわ」
「……ラム」
「だってそうでしょう、バルスはたまたま善人であっただけ。その気になれば、大罪司教と何ら変わらない狂人です。自分の命を賭け金にして人の命を助けるなんて……イカれてる」
『冗っ談じゃねェ。てめェの命賭け金にして、当たり前みたいな面してやがる野郎を狂ってるって言わなくてなんだってんだよォ。気持ち悪ィ』
『そこまで言われると傷付くぜ……別に、平気でそんなことしてるわけじゃねぇよ』
「スバル様は……少々、自己犠牲が激しいように見受けられます。それに、自分の気持ちに蓋をしてるような……」
クルシュが言い淀みながらそう言う。
プリステラでもそうだったが、スバルは勝利条件に『みんなが無事で明日を迎えられること』を入れることはあっても『自分が傷つかないこと、なるべく苦しまないこと』を入れることは無いのだ。
それはまさしく──
「……英雄幻想、ですか。」
『俺の命だけで足りるなら、結果には釣り合うんだよ』
『その目ェしてやがる野郎に、俺様はいい印象がひとっつもねェ。だァから、本当なら今すぐにでもそれを潰しっちまいたんだが……』
『そうされるのは困るんでな、できれば広い心で見逃してくれ。さっきの話にも共通するとこだけどな……それで』
「命だけで……ね」
オットーが瞳を冷たく細める。
「僕の友人に英雄はいなかったはずですよ。そこには、優しくて傷つきやすいナツキ・スバルがいただけで」
拳を握り、吐息に怒りを込める。
「どうして、いつも一人で……」
オットーがスバルを救えたことは、数える程しかなかった。
スバルからすれば、また変わってくるのだが。
『ガーフィール。俺はお前が……お前らが、『聖域』に何を隠してるのかを必ず暴く。そうしなきゃならないってわかった以上、それは絶対だ』
『……黙れよ。俺様が今、ここでその口を塞いでやったら、そんな『絶対』も『必ず』もありえねェんだぞ、オイ』
『悪いが、それこそ『絶対』で『必ず』なんだよ。俺が諦めない限り、隠してるとわかった秘密はもう秘密じゃない。恨むなら、自分の軽率さを恨めよ』
「スバル殿…」
ヴィルヘルムが瞳にある種の哀しみを宿す。
「……それは、」
『いったい、『聖域』を……ここを、どうしたいってんだ。俺様たちに、何をしようってんだよ、なァ、オイ』
『俺の目的は、言ったはずだぜ。エミリアを助ける。『聖域』に危害を加えるつもりも何もありゃしねぇよ。……お前らに何かしようなんてつもりも、ない』
『そこに辿り着くまでの間に、きっと何度も嫌な思いをさせるだろうな。それについては先に謝っておくよ。……悪いな』
『……わっかんねェよォ、何を言ってんだか。そんなとこまで、そっくりなにもかもあいつらと一緒じゃァねェか』
「…ガーフ」
フレデリカが名前を呼ぶ。
もう、どんな反応をすればいいのかも分からなかった。
スバルの抱えるものが、重すぎて。
『やっかみ合うつもりはないんだ。明日から普通に……できなくてもいいけど、絡んでくるな。今夜はあったかくして早めに寝ろ。なんなら朝の日課も忘れて、明日の朝は寝坊もしちまえ。たまにゃ二度寝も――』
『とにかく、今夜は終いだ、ガーフィール。お前の不安も心配も、俺がきっとどうにかしてやる。だからそのときまでは我慢して待ってろ』
『上から目線で、えらっそうに並べ立てやがって……!誰が、誰がてめェにどうにかしてくれなんて頼んだってんだよ。余計なことをするんじゃァねェよ!ここのことも、ババアたちのことも……お……何も!何も知らねェくせに……ッ』
「……何も知らねぇのは、俺ッ様の方じゃァねェか……!」
「スバル…スバルが本当は強くないこと、私は知ってるのよ。……だから、そんなに強がらなくても良かったの」
それは、酷く勝手な。
『上辺だけ、表層だけ知っててめェに理解できるもんかよォ!へらへら笑って、夢みてェなことばっかり語って、耳心地のいい言葉で誤魔化す詐欺師野郎がァ』
『痛ェ思いも辛ェ思いも知らねェくせに、わかったような口を利くんじゃねェ――!!』
それは、スバルにだけは──この世界の中でスバルだけには、言ってはならなかった。
「痛い思いも…辛い思いも!俺様よりずっと…」
ガーフィールが静かに泣く。
己の過ちを悔いて。
覚えていないからこそ、ガーフィールにはそれが嫌でならなかったのだ。
「俺様にそれを言う資格が…大将を責める資格が!あんのかよォ!なァ!!」
誰もガーフィールを責めない。
みんな、自分を責めるから。
『『地獄』は知ってる。――もう、何度も、見てきた』
『『地獄』を知ってるのは俺だけでいい。そのために、俺がいるんだ』
「本当に、ナツキさんは立派な方ですね」
言葉とは裏腹に、酷く嫌そうな顔をする。
皮肉だったのだろう。
「死ぬのも傷つくのも、自分一人で十分だと?──だから、国を救ったりするんでしょうね」
スバルの背中の小ささを、掌の小ささを知っている。
「──あなたは、英雄になんて向いてませんよ」
その言葉が指す意味を、オットーは知っていた。
それでも、友人が英雄に担ぎあげられるのを止めたかったのだ。