未来で会えたら
700フォロワー感謝です〜
区切りのいいとこまで来ました
スバルくんは普通の高校生だったんだなあと思いましたね
ご両親はスバルくんの死に様を見てなんて言うんでしょうか
「もう一度だけ姿を見たい」と願って見せられたのが死体だったら
幸せになることだけを願ってずっと見守っていたのに、いきなり奪われて酷い目に遭わされて
スバルくんがご両親の今を見るのもきついですけど逆もきついですよね
絶望の十秒間のとことか幼少期の姿をしているから余計に辛そうですね
今度この設定で書いてみます
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『落ち着いたか?』
『――うん。ごめん。本当に、迷惑ばっかかけて』
『まったくだ。俺のシャツを見ろ。もう鼻水と涙で胸のあたりがカピカピじゃねえか。恥ずかしくってご近所もまともにうろつけねえよ』
『お前がなんで泣き喚いたのかはわかんねえけど、恥ずかしいだろうから内緒にしといてやる。せいぜい、俺に感謝しろよ』
『……ああ。感謝してる。本当に、心の底から、この世の誰よりも』
『そこまで言われるとさすがに照れるぜい』
『そら、泣き虫はとっとと帰れ帰れ。父ちゃんはちっと散歩続けたい気分だから、もうちょい遠回りして帰る。泣いてるお前と一緒に歩いてたら変な噂になりそうだ』
『……いい歳した親子が、なにしてんだって話だもんな』
『まったくだ。今のお前と一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいしな』
『それ、人によっては致命傷になりかねない台詞だから使いどころに気をつけようぜ』
『先、帰ってる。職質とかされないように気をつけて』
『期待されてるとこ悪いが、ここらのおまわりさんは全員顔見知りだ。前振りされても応えられねえよ』
『前振りではねぇよ』
変わらない賢一の態度。
そこにもまた救われた気持ちになってしまい、スバルは変わらない自分の弱さに嫌気が差す。
どこまで、他人頼りで守られていれば気が済むのか。
度し難い。
それ以上、賢一の前で弱さをさらしていたくない。
スバルは一度吐息を鋭く吐いて、それから意を決したように背中を向けて足を踏み出す。いくらか早歩きで、少しでもここから早く消えてしまおうと。
『――なあ、昴』
『色々と、お前にもあるんだろうよ。だから、俺から言うことは一つだけだ』
『頑張れよ。期待してるぜ、息子』
期待されて、失望されることが恐かった。
父の期待を裏切っているのではないのかと、そんな不安がずっとスバルを掴んで離してくれなかった。
だから、父の期待はスバルにとって恐怖の象徴で――。
「…あ」
スバルの瞳が晴れるのを、エミリアは見ていた。
それは、晴天のように。
『――ああ、任せとけよ。父ちゃん』
『俺の名前はナツキ・スバル。菜月・賢一の息子だ。――だから、なんだってやれるし、なんだってやってやる。あんたの息子、すげぇんだぜ』
『ああ、知ってるよ。なにせ、半分は俺でできてんだからな!』
「…スバル……」
紫紺の瞳は、なおも揺れ続けていた。
『――ただいま』
『……おはえい』
――冷蔵庫の前で振り返り、口にマヨネーズをくわえた母が帰ってきたスバルに向かってそう声をかけてきていた。
『……ただいま』
さっきまでの緊張感はどこへやら――スバルは肩を落とし、苦笑しながらどうにかそう応じたのだった。
「スバル殿、迷いは晴れたようですな」
『ただいまって声かけたのに返事がないから、なんかあったかと思って心配になったじゃんか』
『なにかはあったんだってば。ほら、お母さんのマイマヨネーズが空っぽだったの。だからお父さんのマヨネーズをこっそり吸ってたところで……最近、昴とお父さんって声が似てきた気がする。電話だと区別つかないもんね』
『若干話飛んでるけど、俺と父ちゃんの区別がつかなかったから隠れてたわけね。いや、隠れてたっていうならもっとこそこそしてほしいもんだけど』
『お父さんには内緒にしてね。お父さんのマヨネーズを吸ってると、ほら。大好きなマヨネーズの味と、お父さんの味を同時に味わえてお得な気がするでしょ?』
『そんなリコーダー舐める奴の証言みたいなこと聞かされても反応に困るよ!好きなものと好きなものが組み合わさったら最強って、小学生か!』
『それで、お父さんはどうしたの?置いてきちゃったの?昴、いつの間にお父さん置き去りにできるぐらい足早くなったの?』
『そもそも父ちゃんとかけっこしても勝てるわけ……いや、そんなはずねぇか』
母の疑問の声にとっさに反論しかけ、スバルはそれを胸の内に呑み込む。
父と最後に競走のようなことをしたのはいつになるだろうか。
あの頃、スバルは大人げなくも手加減抜きでこちらを置き去りに、遠ざかっていく父の背中を悔しさいっぱいで、憧れ少しで見ていたはずだった。
けれど、もうあれから何年もたった。
きっと今、父と足の速さを比べれば、もうあれほど置き去りにされることも、それどころか負けることだってきっとない。
憧ればかりが肥大して、スバルの中での賢一の存在は大きすぎた。
だからといって、本質を見誤るようでは誰一人救われない。
『けっきょく、なんもかんも中途半端だったんだよなぁ、俺』
「憧れが強すぎたんだね、スバルにとっては何よりの規範だったから」
『なに?なんか面白いことあった?』
『その仕草、お父さんそっくりだなーと思って。お父さんも昔から、そうやって背もたれのところで背筋伸ばすの。勢い余ってひっくり返ったりしてね』
『声だけでなく仕草も似てくるか。いいか悪いか、今は判断しかねるなぁ』
『いいことだと思うけど。――やっぱり、あの人の子だね』
どくん、と胸が一度強く鳴り、スバルは喉から呻き声をあげそうになるのを必死で堪えた。
表情を強張らせて目を見開いたスバルの反応に、菜穂子はそのスバルそっくりの鋭い目をぱちくりとさせている。
鼻で呼吸し、その高鳴りをすぐに鎮めて、
『長居してると、未練ばっかし残しそうだからな……』
「言葉が…」
「スバルにとっては、何よりも恐れていたものだったから、かしら」
『あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど』
『うん、聞きなよ』
『――学校の制服って、どこにしまってあったっけ?』
「…制服?」
『学生ナツキ・スバル、完成……ざっと三ヶ月ぶりってとこか』
『最後だから完璧にするべきか、それともいつも通りにするべきか』
『残念ながらすでにHRどころか三限が始まりそうな時間だけどな。こんだけ太陽が昇り切ったあとに出てきて、模範的もクソもありゃしねぇ』
「スバル、いつもと雰囲気が違う…」
「似合わないかしら」
『あら。制服とワイシャツの場所なんて聞くから、もしかして燃やすのかもと思って色々準備してたのに……無駄になっちゃった』
『息子が制服の場所聞いて出てくる発想がバーニングな方向にいく?っていうか、燃やすのを想定した準備って、この芋とか串付きフランクとか……?』
『うんうん、似合ってる。そうやって格好を大人な感じにしてると、目つきが相殺されて少しは落ち着いて見えるね』
『現在進行形でお母さんが俺から落ち着きを奪ってるよ!』
『なんでそんなにカリカリしてるの?落ち着くためにマヨネーズ舐める?』
『今はそんな気分じゃ……』
『そうだよねえ』
『だって昴、本当はそんなにマヨネーズ好きじゃないもんね』
『お父さんとお母さんが大好きだから、一緒に舐めててくれただけだもんね』
「…そう、だったの?」
衝撃の事実にエミリアは言葉を失う。
「少し驚いたかしら」
「…本当に、スバルはお父上を尊敬されていたのだね」
『な、なにをそんな……』
『じゃあ、スバルは世界とマヨネーズ、どっちを選ぶの?』
『いや、それは世界だろ……』
『ほらね』
『たとえ話下手か!!したり顔でなにがほらねだよ!その選択でマヨネーズ選ぶ奴はマヨネーズ好きなんじゃなくて世界が嫌いなんだよ!』
『……いつから、そんな風に思ってたんだよ』
『ずっと前。お父さんとお母さんは、マイマヨネーズがなくなったらこの世の終わりみたいに落ち込むのに、昴はそうじゃなかったから』
『求められてるハードルの高さに絶望したよ、俺は』
母の言葉に脱力するスバル。
だが、その内心は穏やかではない。
スバルは押しも押されぬマヨラーである。
そのことに嘘偽りはないし、調味料と言われればなにを差し置いてもマヨネーズ。
カラアゲにはもちろんマヨネーズ。
スナック菓子のマヨネーズ味にもマヨネーズを塗って食べる筋金入りだ。
だが、どうしてそうまでしてマヨネーズに執着するのかといえば――、
『二人がおいしそうに味わってるもの、俺もおんなじように味わいたかったってか。つくづく、俺ってファザコンのマザコンでファミコンだったんだな……』
『スーパー付ける?』
『超・家族コンプレックス略してスーファミってうるさいよ』
「…でも、スバルの気持ち少しだけわかってあげられるかも」
「好きな人の好きな物をすきになりたい…素敵なことなのよ」
『あ』
『――あふっ。うむ、うまし!久々の本場のマヨネーズはやっぱり違ぇ!素材活かした向こうのマヨネーズもいいけど、やっぱり合成着色料ばんばか使って不健康なマヨネーズこそが本物!あっちのはマヨネーゼだな』
『二人のマヨネーズ愛にゃ負けるが、俺だってマヨネーズを愛してやまない信者には違いないさ。今まで舐め切った、全てのマヨネーズのキャップに誓う』
『スリーセブンだぜ。あとで、俺の押し入れにしまっといてちょうだい』
『おー、七が三つなんてめでたいね。この間、お父さんも七が四つで大喜びしてたし』
『文字通り愛のケタが違ったな!』
『さて……それじゃ、そろそろ行くわ』
『あ、コンビニ行くならシュークリーム食べたいから買ってきて』
『俺の格好見て想像力働かせてから発言してくれる!?』
『今から学校行くの?お母さんは嬉しいけど……悪目立ちするんじゃない?明日できることは明日にしたら?』
『そうやって息子のやる気の出鼻折るのやめようよ。ただでさえ他人に厳しく自分に甘くの舐め切った根性しみついた俺なんだから』
『昴が本当にそんな子だったら、お母さんはこんなに苦労しなかったのにねえ』
「…ほんと、スバルが自分に甘くできる人なら、ここまで苦労しなかったんだから」
『それじゃ、お母さん上着取ってくるからちょっと待ってて』
『待っててって……まさか、ついてくんの?引きこもり脱して親同伴で登校って罰ゲームってレベルじゃねぇぞ!』
『学校までは行かないよ。ちょっとそこのコンビニまで、マヨネーズとシュークリーム買いに行くだけ。そんなに甘えたらダメじゃないの』
『あれ!?俺が一緒にきてって頼んだみたいな雰囲気!?』
『いやいや……勘弁してくれよ。ったく』
そう言いながら、スバルの頬は安堵にゆるんでいた。
――母に別れを告げる時間が少しでも先延ばしにされたことを、スバルは己の弱さと向き合いながら自覚していた。
「…もう、お別れの時間」
エミリアは、顔を曇らせる。
スバルが前を向けているのはわかっているけど。
どうしても。
『こうやって昴と並んで歩くのも久しぶりだよねえ』
『そうかな。夜とかだったら、わりと頻繁に買い出しとか付き合ってる気が』
『はぁ。あのね、今の話の流れだったらお昼の話に決まってるでしょ。ちゃんと言葉の裏の意味とか考えて話さないと』
『その手の察しの良し悪しに関してお母さんに言われるのだけは納得いかねぇ!』
『今日はあったかくてよかったよね。お父さんとなに話してたの?』
『おっと、お母さんとの会話初級――前半と後半に繋がりがない、がきたな。別に狙ってないからアレなんだけど、ええっと……』
『大したことは……池田さんの話とか、ちょっと昔話とか』
『ああ、池田くん。万馬券当ててタイに移住して、現地の幼な妻に騙されて身ぐるみ剥がされて、真っ黒に焼けながら肉体労働に打ち込んでるんだよね』
『その後半の悲惨な展開初耳なんだけど!?』
『悪銭はやっぱり身につきませんね。今は体は大変だけど、心は充実してますってお手紙がきてたよ』
『未知の場所での経験で一皮むけたんだ、池田さん……他人事じゃねぇ!』
「そうよね、スバルも違う世界から来たんだもの」
「悲惨な展開も含めて、かしら」
『それで、昔話して学校に行く気になったの?』
『ああ、うん、まぁ簡単に言うとね。色々と、無茶なこととかばっか考えてたんだなぁって振り向く切っ掛けがあってさ。それで』
『なんでもかんでも、お父さんみたいにやろうとするのはやめたってことね』
『スバルは頑張り屋さんだったし、なまじ色々とできたもんね。お父さんが無闇に多趣味だったせいで色んな機会もあったし……疲れちゃうよねえ』
『お、母さんは……どこまで、俺を……』
『あのね、昴』
『よく言うよね。子どもは親が思ってるより、親のことを見てるーって』
『でもね、逆もそうなの。親だって、子どもが思ってるよりずっと、子どものこと見てるの。お母さんだって、昴が思ってるよりずっと昴のこと見てるんだよ?』
『小さい頃は座薬だって入れたことあるんだから、お尻の穴まで見てるんです。お母さんが昴の体で見たことないのは内臓ぐらいだよ』
『あのすみません。今ちょっといい流れだったんで天然いらないんですよ』
『マヨネーズのことも、引きこもった理由も……』
『お母さんがどうにかしてあげられるんならしてあげたんだけどねえ。お母さんがなにをしても、きっとダメになっちゃいそうだったから。でも』
『お母さんでもお父さんでもない、誰かがなんとかしてくれたんだよね。それはとてもいいことだと思いました。その人に感謝しなきゃ』
『……うん、そうなんだ。その人が、どうしようもない俺をどうしようもないって教えてくれた。その人が、どうしようもない俺をどうしようもない俺じゃないって言ってくれた。だから、こうして今、歩けてる』
『すげぇいい子たちなんだ。俺にはホントに、もったいないぐらい』
『でも、誰かにあげたりしないんでしょ?』
『当たり前だし。俺が釣り合うかどうかの問題じゃねぇんだよ。誰かにやるぐらいなら、釣り合わなくても俺のもんにする。それから、俺の価値を積み上げるさ』
『うんうん――やっぱり、あの人の子だね』
「…スバル」
その言葉はスバルにとって呪いだった。
が、今は違う。
『俺はちゃんと、それができてるかな。俺はちゃんと、あの人の子どもやれてるかな』
『大丈夫だよ。だって、昴の半分はお母さんなんだから。お父さんの半分まで格好良くなったらノルマ達成じゃない』
『俺の体を構成する自分遺伝子が劣勢なのは自覚あんだ!?』
『お父さんの半分格好良くなって……残り半分、昴になったらいいんじゃない?』
『全部が全部、お父さんみたいになることないの。だって、昴の全部がお父さんと同じになったら、お父さんが二人になってお母さんがふらふらしちゃうでしょ?』
「……やっぱり、大将ッの親はすげェな」
「その通りですわ、酷く真っ直ぐで、スバル様が優しい理由が分かります」
『そんなわけで、昴は昴らしく頑張ったらいいなとお母さんは思います』
『俺は俺らしく、か』
『そそ。お父さんみたいになりたいと思いながら、昴になるんだよ』
『じゃあ、お母さんはコンビニがこっちだからここまでだけど……一人で大丈夫?』
『そんな心配されるほど……重傷だったよなぁ、うん』
『大丈夫だよ。やらなきゃいけないことと、やりたいことががっちり噛み合ってるんだ。今はもう、閉じこもる理由なんてどこにもない』
『そっか。それならよかった。それじゃ、頑張って』
スバルの答えに安心したように頷き、それから菜穂子が弾むような足取りで分かれ道を右へ。
スバルの進む先は左で、ここで母とはお別れだ。
別れになってしまう。
それもきっと、母が思うよりずっとずっと長い――、
『お母さん――!』
別れを、別れの言葉を口にしようとして、スバルはそれを躊躇った。
今、この場で別れの言葉を投げかけなければ、母はスバルとの別れがどれほど長いものになるか知らないままだ。
スバルもまた、二度と会うことのない母が泣き崩れる場面を目にする機会を失う。
最後に見る母を泣き顔にしたくないのであれば、ここで口を閉ざした方がいいのではないか。
そんな、自分と相手を思いやるという皮を被った欺瞞を、
『――やらなきゃいけないことがあるんだ。だから、長いお別れになる』
ナツキ・スバルの心は、許さなかった。
「…長い、お別れ」
それを言うスバルの顔は、どんなに悲しそうなのか、エミリアの視界は歪んでしまって見ることは叶わなかった。
『ちょっと遠くで、連絡とかもできそうにないんだ。色々、心配とかかけちゃうと思う。危ないことはしない……ってのも断言できない。どっちかっていうと、危ないことばっかりなところから、危なっかしい子を助けてあげなきゃって話だから』
『父さんとお母さんにはまた心配かけると思う。目のつくところにいた昨日までと違って、今度は目の届かない場所になるから。でも、どんなとこにいても、俺は二人のことを思ってるし、忘れたりしないし……』
『昴』
『もう自分が、二人の子どもでいたくないなんて思わないし、自分で自分が嫌いになるようなこともしたくない。安心して見送ってくれなんて、言えた話じゃないのはわかってるけどさ。でも俺……』
『昴』
『昴。――大丈夫だから』
『……だ、大丈夫って』
『昴がなにを言いたいのか、ちゃんとわかってるから。だからそんなに一生懸命、言葉を探したりしなくてもいいの』
『わかってるったって……どうして……っ』
『だって、お母さんはスバルのお母さんなんだから』
「…お母さん、だから」
それは、論理性など欠けらも無い。
それなのに、世界でいちばん信じられる言葉で。
「母様も、そうだった?」
愛おしそうにエミリアは銀髪に触れ、そう呟いた。
『こ、こんな……子どもみたいに……だっせぇ……』
『泣きたいときに泣くのがダサいんなら、生まれてくる赤ちゃんはみんな揃ってダサいってことになっちゃうね』
『そういう……意味じゃ……』
『うんうん、わかってるってば。お父さんとお母さんの前では、昴はいくつになっても子どもなんだから……泣きたいときに、泣くのがいいの』
『……ごめん、お母さん。俺、けっきょく、二人になにもできないまま……』
『なにかしてほしいから産んだわけじゃないんだよ?なにかしてあげたいから産んだの。愛してあげたかったから、お母さんはスバルを産んだの』
「愛してあげたかったから…」
「本当に、スバル様のご両親はよくできた方ですわ。柄にもなく、泣きそうです」
『お父さんとお母さんになにかしてくれたいなら、その気持ちを他の誰かにあげたらいいよ。それが昴の好きな子で、その子とまた愛してあげたい子どもとかできたら……もう最高じゃない?』
『……あぁ、最高だね』
『でしょう。お母さんの言うことに間違いはそんなにないんだから』
『泣いて顔がくちゃくちゃになると、ますますお母さんに似て変な顔になるね』
『……自分の顔引き合いに出して、よくそう言えるな』
『お父さんの好きな顔って自信があるから。だからお母さんの自信の分だけ、昴もお父さんに愛されてる自信持っていいよ』
『顔の部分の話だけどね!』
『ああもう、泣いてばっかですげぇ情けねぇ』
『泣くのいいじゃない。昴、生まれたときもものすごい泣いてたんだから。最初は誰でもみっともないぐらい泣くの。色々いっぱいあって、色んな場面で泣くの』
『それでたくさん泣いて、最後に笑えたら、それで全部大丈夫。大事なのは最初でも途中でもなくて、最後なんだから』
『それって、結果よければオールOKってこと?』
『そういう受け取り方とは違います。これ、お母さんからの宿題』
答え合わせをする機会はきっとこない。
差し出された宿題という名の別れの挨拶。
それを受け取り、スバルは胸に秘める。
いつかその答えが出せたとき、自然とわかる日がくるだろうか。
どうにも颯爽ととも、潔くともいかない別れの場面。
父も母も、引きこもった挙句にどこへともわからないところへいなくなる息子に対して、恨み言をぶつけるどころか笑顔で送り出してくれるときている。
まったくもって、自分には過ぎた両親で、過ぎた環境で、愛していた場所だった。
「…この言葉…」
スバルがへこたれたエミリアを励ますため、口にした言葉。
世界でいちばん尊敬する女の人、とスバルは言っていた。
『――それじゃ、行くよ』
『うん、そうしな』
『あ、そうだ。昴、昴、忘れてた』
『――いってらっしゃい』
『――いってきます!』
「…ぁ」
エミリアの紫紺の瞳は大きく揺れ、情けない声が漏れる。
何が悲しかった訳でもない。
ただ、スバルのその笑顔は、あまりにも眩しくて。
あまりにも、切なかったから。