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咎人/Novel by 春風

咎人

9,022 character(s)18 mins

悪人じゃないのに自分を咎人だと思ってる、って言葉はスバルくんを端的に表した言葉だと思ってます。
他の誰が彼を許せても、彼は一生自分を許さず、呪いのような言葉を吐き続けるんだろうと。
人に与えた幸福よりも自分の犯した小さな罪ばかりに気を取られてる、可哀想で生きにくい子だと思います。

書き溜めなくなった!
詰み!
毎日更新できなくても許してください!

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『しまったな、脅かしすぎてしまったか。昔からどうしても、ボクは興が乗ってしまうとこうして口が滑りすぎる。厄介なものだよ、魔女という性は』
『生前もたびたび、こういうことがあった。ボクの知恵を借りに各国の王族が足を運んだときなどがそうだったが……もう、ボクの姿を警戒して見ずにはいられないか』
『なら、今度の趣向はお気に召すだろうか?』
『なにを見てるんだー、おまえー?』

「……おん、なのこ?」
間延びした声にエミリアは顔を顰める。
この空間にいるのだから、魔女に決まっているのだが。

『あ、え、お?ちょ、待って。え、エキドナは……?あいつ、どこ行った?』
『ドナ?ドナならどっかいったけどー、おまえはなんなんだよー』
『お、俺?俺の名前はナツキ・スバル。呼ばれても招かれてもない迷い人で、ちょっとお茶して帰る途中……家主が突然の失踪で困ってるというか……』
『へー。じゃー、おまえはバルなー』
『よし、とにかくまずは鬼の居ぬ間に諸々しようぜってことで脱出案を練ろう。足場これっぽっちで考える余地がかなり狭いが、まずはお嬢ちゃんの名前を……』
『ところでバルさー、おまえってアクニンなのかー?』
『聞かせてもらうところからって……なに?』
『アクニンなのか、そうじゃないのかーって聞いてるんだよー。どーなのー?』
『人は生まれながらに皆、なにかを犠牲にして生きていかなくてはならない罪深い生き物である。故に、僕らはこの世界に生を受けた瞬間から咎人なのかもしれない。でも、それでも人は生きる。なにかを犠牲にしてでも、その犠牲の上にしか価値あるものを築けないのだと知っているから……とか哲学的なやり取りを幼女としてもしょうがねぇと思うけど、そういう意味?』
『んんー、聞いてもわかんないなー。まー、いいかー、たしかめればー』
テュフォンがスバルの手を取る。
『ペトラとかと接してて思ったけど、俺って意外と子ども好きだったんだな。昔はうるさいだけで大嫌いだと思ってたのに……』
『――ツミハタダイタミニヨッテノミアガナワレル』
『んあ?』
『いたくないってことはー、アクニンじゃないってことだー、よかったなー』
スバルの右腕が、歪な断面を晒して。

「スバル!」
「今すぐ離れるかしら!」

『――トガハクサビトナッテケッシテノガサズ』
スバルの体が、バラバラに砕け散る。
『アクニンじゃーないのに、自分をトガビトだと思ってる。おまえはやさしー子なんだなー。かわいそーになー、苦しいだろーになー』
『お、お前は……いったい……な、なんなん……』
『テュフォンは『傲慢の魔女』だぞー』

「悪人じゃないのに、自分を咎人だと……」
「…生き辛いほどこの上ないわね」

『――ふぅ。次はあたしの番かね。はぁ、やってられないさね』
『はぁ、重たいさね。手足ない分だけちょっとは軽くなってるってのにこれか。ふぅ、これだから男は……男も女も存在自体が無駄の塊だからマシな方かい』
『はぁ、あんたもずいぶんと運がないもんさね。エキドナの奴に振り回されて、テュフォンにあたしと……ふぅ、魔女三人と立て続けに顔合わせるなんて、はぁ、フリューゲルの馬鹿か棒振りレイドぐらいのもんだろうにさ』
『お前も、魔女……か?さっきの子とか、エキドナは……』
『はぁ、あたしはセクメト。ふぅ、面倒だけど『怠惰の魔女』とか呼ばれてるとか呼ばれてないとか。はぁ、呼んでなんて頼んでないってのに迷惑なもんさね。ふぅ、喋るのだるいから黙ってていいかい?』
『勘弁してくれ。頭がおかしくなりそうなんだよ。誰かと話してないと自分の現実が見えそうでヤバい。頼む、なにがどうなってるのか教えてくれ』
『右手が肩から、はぁ、両足が膝からないさね。ふぅ、このやられ方はテュフォンの奴だろう?あの子は他人の痛みがわからない子だからね。はぁ、無邪気で無慈悲で子どものまんまなのさ。ふぅ、不憫なことにね。はぁ』
『俺の、腕とか足は……も、元に戻るのか?』
『ふぅ、それはあたしにはなんとも……ああ、ちょうどいいさね、はぁ。あたしも面倒だったところだし、ふぅ、あとのことはあの子に任せて眠るとするさ。はぁ、呼吸するのも面倒臭い。一生分の空気をいっぺんに肺に送り込んだら、それでもう一生呼吸しなくて済むとかそんな風に思わないかい、はぁ』
『そんなことしたら肺が爆発して死ぬだけだろ、それより俺の状況を……』
『――今あんた、私の前で死ぬとか言った?』

「セクメト……」
「レイド……とはまた、聞き覚えのある名前が出てきたものだね」

『右腕の欠損。両足膝下から欠損。出血及び痛みなし……テュフォンの罰ね!あの子……また勝手にこんなことして、ひどすぎる!』
『な、泣いてる……?』
『泣いてなんかない!怒ってるだけ!そうよ、私は怒ってる!こんな傷を作って放置してくテュフォンも!あの子にそんなひどいことをさせる世界にも!人が争って傷付け合って苦しめ合う、不条理にも!!』
『へ?』
『だから私は許さない!痛みを!争いを!傷を!そのまんまになんか、してられるかぁ――ッ!!』
『私の拳が世界を再生させる!私の怒りが世界を浄化する!私の憤怒が、この拳の癒しが、私の答えだぁ――!!』
『た、助かった、ありがとう。けど、流れ的にあんたも……?』
『私は『憤怒の魔女』ミネルヴァ!名乗るほどのものじゃないわ!』
『名乗ってんじゃねぇか!』
『やめて、大したことはしてないわ!私は私の目の前に傷付く人が、傷付いた人がいるのが許せないだけだから!後世に語り継がれるほどのことじゃないわ!』
『しかも自分の行動を勝手に偉業認定か!こいつ人の話聞かないタイプの人だ、俺の苦手なパターンです!』
『とにかく、傷が治ったなら私のやることはもうないわ!もう虫に刺されるほどの傷も負うんじゃないわよ!魔女との約束なんだから!』

「ミネルヴァ……」
聞き覚えのある声に、エミリアは瞳を震わせる。
「魔女、にしては友好的だと思うんだけど、何故だろうか?」
「全てを癒すだけならいいかしら。それだけでないから、魔女なのよ」

『ボクの無害さを証明するために他の魔女と対面してもらったが、どうだろうか。少しはボクへの態度が和らいでくれると、彼女らを眠りから覚ました甲斐がある』
『お前、間違いなく魔女だよ。……人間の考え方じゃねぇ』
『せっかく用意した空間が砕かれてしまったね。こう乱暴なのは……ミネルヴァあたりじゃないかな。あの子は少しばかり、手が出るのが早いから』
『まぁ、差し向かいでお前と話をするぐらいの気分にはなったよ。確かにさっきの魔女たちに比べたらお前の方がなんぼか理性的……いや、怠惰の魔女さんだけはやたらと話が通じそうだったけど』
『セクメトはボクが言うのもなんだが、魔女の中でもっとも年長で理性的だったからね。ただ、怒らせたら半端じゃないんだが』
『半端じゃないって、怒ると恐いの?』
『いや、ボクらが束になっても敵わないんだ。たぶん、セクメト以外の魔女五人が結託しても彼女に勝てなかったと思うよ』
『っていうか、さっきから聞いてると、お前って『嫉妬の魔女』をはぶってる感がするよな』
『ボクは他の魔女たちを友人と思っているし、尊敬に値すると思っている。ボクは色々と欠陥の多い性格であるしね。長く付き合えた彼女らの存在はボクにとって寄る辺であり、救いだった。だから、ボクは彼女たちの魂をひとつ残らず蒐集している』
『……ちょっと聞き捨てならない感じがしたんですが、続けて』
『その魔女たちを滅ぼしたのが、『嫉妬の魔女』だ。――君は自分の友人をこれ以上ないほど惨たらしく殺した存在を、笑って口にできるのかな?』

「これ以上ないほど、惨たらしく……」
「にゃるほど、結局そこにつながっちゃうんだね〜」

『魔女のお茶会に招かれるなんて、ボクの時代では羨望の的だったはずなんだが……やれやれ、時代と人は変わるものだね』
『なんか兎とかって、自分のフン食べて永久機関みたいな話聞くよな』
『それらと一緒にされるのはやや屈辱だが……うん?それとも今のは遠回しに、大兎についての話でも聞きたいという意思表示かな?』

「大兎……!」
ベアトリスが顔を顰める。
「話を聞いたところでどうこうなる相手とは思えませんがね……」

『白鯨と肩を並べるような魔獣……だったっけか。大兎と、黒蛇?』
『ダフネの負の遺産だね。いずれも彼女も手を焼いていた問題児ばかりだ。黒蛇はともかく、白鯨と大兎は方々で悪さを働いていると聞くからね』
『ちなみに白鯨だったらこないだ俺の活躍で討ち取ったとこだぜ。俺の活躍で』
『へぇ、本当かい。すごいな、それは。君は見たところ、剣の腕も魔法使いとしての才の片鱗も見えないけど……よほどうまく、周りを動かしたのだろうね』
『単独撃破じゃないのが一瞬で見切られるのもさびしいぜ……!ひょっとしたら、俺が一人でズバッとやっつけたのかもしれねぇじゃねぇか』
『白鯨にせよ大兎にせよ、あれを単独で殺し切れる人間がいるとはにわかに考え難いな。ボクの時代でも、それをやれそうなのはレイドぐらいのものだろう』

「単独で殺せる相手なら苦労しなかったのだがね」
「まあ、大兎はスバルが倒したようなものなのよ」
ベアトリスが誇らしげに言う。
「でもベアトリスがいなかったら無理だったんじゃないかしら」
「べティーはスバルの契約精霊だから、実質スバルの単独撃破なのよ」
「もうっ、スバルに似て屁理屈が得意になってるんだからっ」
「誇らしいかしら」
「誇るところじゃなくないですかね……?」

『――レイド・アストレア。『剣聖』の称号を与えられていたはずだけど、今は残っていないのかな?』
『おけ、納得した。残ってるよ、剣聖。今が何代目なのかは知らないけど、現役剣聖は俺のダチだ。たぶん、お前の知ってるご先祖様に負けないぐらい化け物』
『友人にずいぶんな言い方だ……と言いたいところだけど、レイドの常識外れぶりを知っていると君を笑うことができないな。さて、それで大兎の話だったかな?』

「化け物……ふふ、スバルは変わらないね」
ラインハルトが苦笑いする。

『えーっと、お前はエキドナ。『強欲の魔女』ですでに故人。ここまではいいよな?』
『最初に確認した通りだね。それで間違いないよ。ここはボクの夢の中であり、帰りたいときは一声かけてくれればいい』
『最初に確認しておくべきだったと思うんだけど……そもそも、お前のどこが故人なんだよ。バリバリ日々を謳歌してるじゃねぇか』
『……ああ、なるほど。確かにその点についてはまったく説明していなかったね。ここまでその点にまるで触れなかった君も君だが、ボクもボクだった』
『墓場で幽霊、ってなら別にそれでもいいんだけどよ。さすがにこんだけ干渉されると気のせいでしたで済ますのは無理があるっつーか』
『幽霊、というのは否定しないね。肉体を失った精神体であることは事実だ。さて、ボクがこうしているのが何故なのかと言われると……そうだね。抑止力のため、というのがもっとも正確な答えになるだろう』
『ボクをこうしてこの地に繋ぎ止めているのはボルカニカ――神龍ボルカニカだ。聞いたことぐらいはあるんじゃないかな?』
『ボクはその龍の力でこの墓所へ封じられている。ボルカニカがそうした理由は君の推察通り、『嫉妬の魔女』への抑止力だ』
『今も封魔石に封じられる『嫉妬の魔女』だが、彼女の封印は盤石ではない。ボルカニカの寿命とて永遠ではないし、なにかの拍子に封印が解かれないとも限らない。あれを信奉する存在も少なからずいるし、天変地異で封魔石の一部だけが破損しないとも言い切れない。――故に、ボルカニカはボクの存在を残している』
『もっとも、残った魔女がボクではボルカニカの期待に応えられるとは思えないがね。残すならセクメトを残すべきだったんだよ。問題はボルカニカ自身がセクメトと軋轢があったことだろうね。タコ殴りにされたことで苦手意識があったらしい』
『魔女であるボクと、神龍ボルカニカ。あとは『剣聖』と……賢者か。とりあえずそれだけ揃えば、仮に『嫉妬の魔女』が復活することがあったとしても対抗できるかもしれない。というのが、ボルカニカの儚い希望といったところか。ボクがこうして今も死後の恥をさらしているのにはそんな背景があるのさ』
『つまり、お前を自縛霊にしてるのはドラゴンってことでいいのか?』

「賢者と剣聖……それにエキドナがいても、倒せるか分からないのよね」
「そもそも、あれは倒す倒さないの域にはいないのよ。封印できただけでも褒められるべきかしら」

『正確にはボルカニカの意思をメイザースの術式が繋いでいるというところだ。こうしてここに足を運んだ以上、メイザースぐらいは知っているだろう?あるいはもうこの家名も残っていないかもしれないが……』
『いや、メイザースは残ってるよ。ロズワール・L・メイザースがこの墓所含めた一帯の領主。で、俺の雇い主というか保護者というか変態というか……』
『すまないが今、ロズワールと言ったかい?』
『ん?ああ、そうだよ、ロズワールだ。あれ、知ってる?』
『知っていたら、おかしなことになるね。なにせボクは四百年ほど前の存在だ。同じ時代にその人物がいたとしたら、話が少しおかしくなってしまう』

「ロズワール…」
エミリアがロズワールに視線を向ける。
ロズワールはどこか満足気に笑っていて。
「気色悪いのよ」
ベアトリスは不機嫌になっていた。

『君の言うロズワールというのは、濃い灰色の髪を長く伸ばした人物だろうか。瞳の色は……確か黄色だったと思ったが』
『――いや、それなら違うな。俺の知ってるロズワールは髪の毛の色が藍色っつーか、俺の履いてたジーパンそっくりな色っつーか。あと、目の色も違う。あいつ、片目ずつ青と黄色で色違いの目ぇしてるから』
『ひょっとすると、ロズワールの名前も襲名式なのかもしれない。たまに女の子が男丸出しの名前をつけられてる場合、そんな設定の漫画とかよく見るし』
『ロズワールを継ぐもの、か。だとすると、それはちょっとした悪夢だね』
『ボクの知るロズワールという人物は、少しばかり一途が過ぎる人柄をしていてね。ある目的のために一生を捧げかねない危うさがあった。仮に彼がボクの死後、なおも変わらないままであったなら……』
『自分の一生だけで飽き足らず、一族の時間までそれに捧げてるかもって?』

「あながち、間違った指摘ではないようですわね?」
「あァ、この魔女はよッくわかってらァ」
ガーフィールが拳を鳴らす。

『……それで、他に質問は?』
『もちろんあるぜ。次に聞きたいのは、試練だ。この墓所で行われるって聞いてる試練。それの内容を聞かせてほしい。あと、あったら模範解答も教えてくれ』
『出題者に問題文と一緒に答えを聞くなんて、無慈悲なことをするね、君』
『楽してずるしていただきかしらだよ。ショートカットできるならしない理由がないね。俺は攻略サイトちら見しながらゲームをプレイする人間だ』
『試練、だったね』
『ああ、そうだ。なんぞ、試されちまうって話じゃねぇか。それをクリアできないと、俺の大事な女の子が困るんだよ。ホームシックにかかっても『聖域』から出られなくなっちまうんだ。もちろん、俺もその子置き去りにして帰るなんて選択肢ねぇしな』
『気合いを入れてくれているところ悪いんだが、試練についてはボクは知らないよ。ボクは関与してない。故に、内容はわからないんだ』

「…エキドナって、あんまり知らないのね?」
「あァ、死人だかッら当然だがな」

『なんかあんまり、俺ってお前に聞きたいことねぇなぁ』
『……え?嘘でしょ?そんなはずがないよ。だってボク、『強欲の魔女』なんだよ?世界中のあらゆる人が、ボクの知識を求めて足を運んできたんだ。そのボクを前にして、自由に質問を許してるのに聞きたいことがないなんて……』
『だってお前、故人だから自分の死後に関してはあんまり知識ないんだろ?俺が聞きたいことって現在進行形なことが多いから、そのあたりに無知な相手に無意味な質問してもなぁ……』
『いやいやいや、落ち着こうよ。確かに今どきの世の中には疎いけれど、代わりに昔のことならば知らないことはないぐらいだよ。四百年の時間をかけて風化していった、誰の記憶にも残っていない歴史の数々。それを知れるチャンスじゃないか。先の魔女たちの話もそうだ。もう、世界中のどこにも記録すら残っていないんじゃないかい』
『でも俺、あんまり魔女興味ないしな。聞いても全員故人だっていうし、考えることたくさんあるからその話聞いてもなんだかな……』

「なんと勿体ないことを……先生に話を聞ける機会など、本当に貴重だと言うのに……」
「スバル、なんということを……」
「……はぁ」
見聞を深めることを好むユリウス、エキドナ至上主義のロズワールが膝から崩れ落ちる。
ベアトリスとラムはそれを横目に珍しく困った顔でため息をついていた。

『あ、そういえば一個だけ思い出した』
『うんうん!いいよ、そうだよ。そうさ、あるだろうとも。なんでも聞いてくれていいよ。ボクの答えられることなら答えようじゃないか、さあ!』
『この墓所がある『聖域』の住人なんだが、そいつはここを実験場とか呼んでたんだよ。どうも『強欲の魔女』の実験場って意味らしいんだが、ハーフ逃がさない結界があることといい、なんの実験をやってたのかとか……』
『言えない』
『言い方が悪くてすまない。だが、言えないこともある。ボクはその質問に答えることはできない。言えないんじゃなく、言いたくないんだ』
『……いい印象の言葉じゃねぇよな、実験場。でも、お前は否定もしない』
『そこまでで止まってほしい。ボクは軽蔑されたいわけではないんだ』
『そういえばお前の名前……ここにくる前にも聞いたことあった』
『パックだ』

「王都でのループの時なのよ」
エミリアの死がトリガーとなった時の。

『パック……?まさか、それは猫の精霊の……?』
『――!?そう、そうだよ。猫の精霊だ。パック、知ってんのか?』
『知っているもなにも……彼はここにきているのか?だとしたら、いったいどこまで彼は思い出して?』

「やっぱり、パックのことはエキドナが……」
「……にーちゃ……」

『――ッあ!?』
ふいに、腹の底で熱いものが存在を主張することに意識を奪われた。
『……ぉ、あ?』
すさまじい熱量に胃袋を焼かれる感覚。スバルは呻き声を上げながら腹部に手を当てて、その場でふらふらと足をさまよわせる。
ふいにわいた苦痛は尋常ではない。
腹痛などとは比較対象にならない謎の苦しみに口の端を涎が伝う。
立っていられず、その場に膝をついて、すぐに横倒しになった。
『ああ、やっと効いてきたようだね』
『魔女の茶会に誘われたなら、安易に出されたものを口にしてはいけない。――勉強になったんじゃないかな』
『誤解しないでほしいんだが、ボクはなにも君に敵意や悪意を持ってこんなことをしているわけじゃない。むしろ、ボクは君の存在を好ましく思っている。ボクの一部を飲ませたのも、そのためだよ』
『簡単に説明するなら、君の中に眠る魔女因子が馴染みやすくなるように手を加えた……というところだね』
『『嫉妬の魔女』の使徒を殺しただろう?その使徒の死に際し、魔女因子は君の中へと滑り込んだ。……もっとも、君の中にはもっと別のなにかもありそうだが』
『それが、馴染んだところで……なに、が』
『さあ、なにが起こるんだろうね。正直なところ、ボクにもわからない。ただ、いつ爆発するかわからない爆弾を、被害が大きくならないうちに爆発させておいてあげようという心遣い、のようなものかな。夢の中でそれが済むなら、外に出て爆発しない分だけゆとりが持てるんじゃないかな』

「別の、何か?」
「スバルが、元から魔女因子を持っているとでも……?」

『今、思ったんだが……』
『うん?』
『お前の、その喋り方……パックに、そっくりだな。あの猫精霊様も、空気も読まずに、のんびりと、そんな口の利き方をしやがるんだ……』
『はは!ははは!ああ、なんともまあ、素敵だ!君はすごいな。本当にそう思うよ。うん、うん、ああ、あはははは!なるほど、ボクがパックと。うんうん、そうだろうね。そうだろう。当然といえば当然の話だ。彼からすれば、手本になるようなものはボクしかいなかっただろうしね』

「パックに……」
言われてみれば似ている。
そんなこと、考えもしなかった。

『逢瀬の時間は終わり、のようだね』
『お前が終わりに、しようとしなきゃ終わらないんじゃ……』
『現実の方の時間が限界に達したんだよ。君の言う、『試練』というやつが始まってしまいそうなんだろう。始まってしまうと、墓所の機能は全てそちらへ向けられてしまう。幽霊一人に構っていられなくなるわけだ』
『さて、魔女のお茶会から帰るんだ。いくらか、差し出してもらおうか』
『対価は……そうだな。この空間の口外禁止、でどうだろう。同じような契約を結んでいるようだし、安いものだろう?』
『過去の話に、魔女因子の定着。これらの対価にしては安すぎると我ながら思うほどだよ。あと、ついでといってはなんだが、ひとつおまけもつけてあげよう』
『君に、墓所の試練を受ける資格を与えよう』
『これがあれば、君も夜の墓所の試練を受けられる。受けるかどうかは君の自由だ。受けないのもできる。けれど、君は君の大事な女の子の代わりに試練を受けるという選択肢を得た。――どうするかは、好きにするといい』
『――お前、やっぱり、魔女だぜ』
『――ああ、そうだとも。ボクは悪い魔法使いなんだぜ?』

「試練を……」
エミリアは胸を痛ませる。
スバルも、自分と同じようなものを見たなら。
それは、優しくて壊れやすい彼にとっては、重荷になるはずだから。

Comments

  • VR征夷大将軍

    4章はアニメ版しか見てなかったけどweb版って結構違うんやね

    December 9, 2024
  • シン
    November 27, 2024
  • 翠ノ介
    October 31, 2024
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