招かれざる客
600フォロワー超えててびっくりです。
ありがとう。
エキドナ関連はベア子とロズワールの反応書くの難しい
やばい!
書き溜めに追いつきそうだ!
毎日更新が!
危ういかも!
- 1,414
- 1,460
- 68,469
『軟禁とはまた……穏やかじゃない単語が出てきたな……』
『それじゃまさか、ロズワールのそのケガは村の人たちに?』
『ロズワールにこんだけ大ケガさせられる奴が村の中にいるってなると、わりと笑いごとじゃねぇ状況ってことになるな……』
『あ、勘違いしてるみたいだーぁけど、私のこのケガは誰かにやられたわーぁけじゃなーぁいからねぇ。変に警戒したりとか、私のために仇討とか考えなくてもだいじょーぉぶだよ?』
『安心しろ。お前のために命かけて無謀に挑むほど好感度が稼げてない……ってか、それってどういう意味だよ。さっきの話と食い違うぞ。お前、軟禁されてるって……』
『こうして負傷した私の身柄が拘束されてるわけだから、軟禁って言って間違いじゃなーぁいでしょ。軟禁目的でケガさせられたんじゃなくて、ケガした私が軟禁させられているってーぇこと。……詳しく話すと、それとも違うんだーぁけどね』
『お前のケガに『聖域』の連中は無関係、ってことでいいのか?』
『厳密には無関係というわけじゃーぁないんだけど、ケガの直接的な原因が彼らかと問われれば違うと答える。つまり、そーぉゆぅこーぉと』
『つまり、間接的には関係あるってことだな』
「…試練…」
エミリアが自然と口に出していた。
この時は気づかなかったが、こうして見ると、ロズワールの悪巧みは精巧なものだと思う。
『パックがいないから本調子じゃないけど、治癒魔法は私がかけてあげる。集中しなきゃいけないから、まずは話を聞いてからだけど』
『大精霊様が?』
『マジな顔とは珍しい。パックがいないのがそんな驚きか?お前が隠れモフリストとは気付かなかったけど……』
『生憎、大精霊様と触れられそうなほど接近したのはマヨネーズをあーんして差し上げたときだけだーぁよ。おっかないからね。――しかし、そーぅですか』
『エミリア様は体調が思わしくなかったり、普段と違う点はありませんかーぁね?』
『……?パックが顔を出してくれない以外は別に。そのパックが出てきてくれないのも、『聖域』にくる少し前からだし……そだ、でもひとつだけ』
『この『聖域』……ううん、森に入ってからかも。精霊たちの反応が鈍い気がするの。それにさっき、外にいたときにはその……変な視線を感じたし』
『ジッと見られてるみたいな視線。すごーく、嫌な感じがして……気のせいかもしれないと思ったから、スバルには言えなかったんだけど』
『そのエミリア様の感覚はどちらも間違いじゃーぁないですよ。この場所は精霊たちにとって居心地が悪く、さらにここの住人たちはエミリア様にとって居心地の悪い感情を抱えたものばーぁかーぁりですから』
「…エミリアが体調を崩せば大雪の責任を押し付けられないから、かしら?」
ベアトリスがぎろりと鋭く睨みつける。
「…おやおやぁ、手厳しいね」
「当然ですわ旦那様、ご覚悟を」
「……」
ガーフィールやフレデリカからもどことなくピリついた空気が漏れ出る。
「3人とも……」
落ち着いて、と言おうとしたエミリアの言葉が止まる。
大兎や試練で…ロズワールの策略のせいで、スバルが酷い目に遭わされていたなら。
止められる自信がなかったから。
『てめェ、まだ話してやがらねェのか。ただてめェがボロクズになってるだけってんなら笑い話にしてやっけどなァ。そこのハーフエルフが……エミリア様がきちまったってんなら話は別だろうが』
『エミリア様が『聖域』に入った時点で、事の問題は俺様たちまで巻き込んでってことになんだよ。それをなんだァ?まだ肝心の話にすら入っちゃァいねェ。てめェら、ここに遊びにきたってのかよ』
『待てって。お前が怒ってるってのはわかるけど、その怒り出した理由がこっちにゃ見当もついてない。わかってない相手と話しても苛立つばっかだろ?』
『それが気にいらねェって言ってんだろが。当事者がそんなんで……』
『その当事者蔑ろにして話進めてんのがお前と、そこのロズワールだろうが。ちゃんとその問題に関わって悩んでどうにかしてほしいって思うんなら説明責任を果たせよ。なにも話さないでわかってもらおうなんて、ちょっと前の俺ぐらい図々しいぜ』
『あァっだよ!わァってんよ、今のはただの八つ当たりだ!カッとなっちまったんだよ、悪かったっつってんだろ、オイ!』
『いや、言われてねぇし。それ以前にお前、面倒臭い性格とか言われない?』
『うっせ。俺様ァちと黙ってっから、その間に話進めろや。俺様が混じると話が進まなくなってややっこしいことになっからよォ』
『そこまで自己分析できてんのに改めねぇの一周回ってすげぇな』
『褒めても無駄だぜ、理解力が低いっからな。と』
「そうね、何も話して貰えてないもの」
「仲間内でのトラブルというのは、なんとも厄介なものだね」
『ロズワール、やっぱり治療を……』
『いーぃえ、それには及びませんよ、エミリア様』
『今は私の負傷なんて些事よりも優先すべきことがありますかーぁらね。こちらは命に別状があるわけじゃーぁないですから、そちらを優先していただいて』
『そんなこと言われてもできるわけないじゃない。ケガしてる人がいて、それを置き去りにして別のことなんて……』
『それが玉座に座るために必要なことだと言っても、ですか?』
『この『聖域』はメイザース家にとっては代々受け継いできただけの土地でしかありませんが、エミリア様の今後にとっては大きな……そう、おーぉきな意味を持っています。故にいずれ、必ずお招きするつもりでいました。――少々、こちらの予定より早くの訪問となってしまいましたがーぁね』
『私に必要……?ねえ、それってどういう意味で……』
『この『聖域』が抱える問題は即ち、エミリア様の抱える問題と近しい。故に、この場所でなら見つかるかもしれません。エミリア様の、拠り所が』
『ご指名だ、ガーフィール。二人に『聖域』の案内を――いや、墓所への案内を』
「墓所……!」
エミリアが紫紺の瞳を大きく揺らす。
自分の醜態が、スバルに、みんなに見られてしまうことが。
『待て待て待てって。話についていけてねぇよ。そもそも、ロズワールとの話だって全然なんにも片付いてねぇんだぞ。せめてそっち先に……』
『傷が開いたのよ。包帯を換えて安静にしていただくのが優先だわ。バルスたちはロズワール様の言いつけ通り、先に墓所へ向かいなさい』
『落ち着いて、夜になったら話をしましょう。ロズワール様はお逃げになったりしないわ。でも、墓所は日没までに行かないと逃げるのよ』
『わかった。墓所ってとこへ行く。それが必要なんだろ?戻ったら絶対にちゃんと話聞かせてもらうからな』
『わーぁるいね、こんなことになって。もーっとばっちり、夜になったら色んなことを話そうじゃーぁないの』
『墓所に行く前に聞いときたいことがある』
『んー、別にいいよ?簡単に答えられることならなんなりとどーぅぞ』
『じゃ、お言葉に甘えて。――レムって名前に、聞き覚えはないか?』
『ふむ。悪いけど、聞き覚えはちょっとなーぁいかな。雰囲気はラムに似た名前だけど、言い間違えたわけじゃーぁないだろうし』
「…レム」
『行きましょ、スバル。私も、早くラムとレムさんを会わせてあげたいと思うもの』
『あ、ああ、そうだな。うん、そうだよな』
『バルス』
『どうした?包帯プレイなら、俺が出てったあとで存分にロズワールと……』
『墓所に入るのはエミリア様だけよ。バルスは絶対に、入らないで』
『――魔女の妄念に囚われたくなければ、墓所には絶対に入らないで』
「魔女の妄念……」
「…墓所で、一体何が」
ユリウスとラインハルトが口に出す。
エミリアとラムは、それを険しい表情で聞く。
『着いたぜ。ここが墓所って呼ばれてる、まァちんけな墓だな』
『権力者がでかい墓に眠りたがるってのはどの時代、どの世界でも一緒なのかね……』
『墓所にきたはいいけど、ここでなにをしたらいいの?』
『細けェことは戻ったあとでロズワールの野郎に聞きゃァいいさ。とりあえずのとこ、エミリア様にやってほしいのは中に入ることだけだかんよ』
『この中に入ればいいの?入ってなにかするとかじゃなくて?』
『今は日が出てやがっかんな。墓所の奥に入っても『試練』が始まらねェ。準備もなにもできっちゃいねェし、まずは資格があるかどうか確かめにゃなるめェよ』
『ちょちょ、ちょっと待て!また話が飛躍してるって。試練とか準備とか資格とか、そのあたりの説明が全然ねぇぞ!』
『っだよ、いいじゃねっかよ。中に入ってっからロズワールのとこ戻れば全部わかんだからよ。俺様に説明させると筋道立てて話すの苦手すぎっからこんがらがってわけわかんねェことになんぞ』
『お前は内容読ませない契約書にサインしろって迫ってんだぞ、おっかなくてできるわけねぇだろ、そんなこと。整理して話すのが苦手だってんなら、こっちの質問に一個ずつ丁寧に答えろ』
『あァ……なら、まァいいか。日没までァ付き合えねェから、手短にやろうぜ』
『ここが『墓所』……つまり、強欲の魔女の墓ってことでいいんだよな?』
『そうだって聞いてんな。実際のとこ、埋めてある骨が誰のかなんて知りゃしねェよ。ここは強欲の魔女の墓場で、少なくとも村の連中も俺様もそう教わってる』
『墓所の中で始まるっていう、『試練』ってのはなんだ?ぶっちゃけ、ここ数週間の経験で俺はその単語に対していい印象ってのがまるでないんだけど』
『安心しろや、試されんのなんざ俺様も嫌いだかんよ。で、まァ『試練』なんだが……内容は知らねェ』
『ただ、墓所の中でそれが起きるってことだけは知ってんだ。その『試練』が突破できなきゃ、この行き詰まりの実験場から解放されねェってこともな』
『解放って……誰が?』
『それが『資格』ってやつになんだよ。資格のある奴ァ、実験場から出られねェ。『試練』が終わらない限り、魔女の所有欲ってやつが手放してくんねェんだと』
『墓所に入れるのは資格のある人だけで、その資格のある人が試練を乗り越えないと『聖域』からは出られない……ってことか?』
「試練…随分と大変そうなお話なのですね」
「そうですね〜フェリちゃんもちょ〜っと嫌な予感がしてますよぉ」
『さっき私、この『聖域』に入ったとき、意識が途切れたけど……あれが、そうだったっていうこと?』
『あそこが境界線で、出られる範囲を跨いだから気絶させられた?いやでも、俺もオットーもあのときピンピンして……』
『ハーフエルフのエミリア様は資格がある。けど、純血で人間一直線なスバルは資格がねェ。だから出入り自由。でも、試練は受けられねェってこった』
『試練を受けられるのはハーフエルフ……いや、人間と亜人のハーフ。んでもってこの『聖域』で暮らしてる人たちってのは、みんなそういう立場なんだと』
『――あァ、そこ話してなかったっけか』
『俺様ァだいぶ血ィが残ってっからよ。『先祖返り』もお手の物ってェわけだ』
『それじゃやっぱり、この村は亜人種たちが集まって……』
『正しく言うなら、亜人と人間の混じりモノが寄せ集まってるってこったな。好き好んで、色んな種族から似た立場の連中ばっか集めやがる。ロズワールの野郎が『亜人趣味』とか言われってんのもそれだろうよ』
『思わぬ流れだったけど、村の事情と資格についてはなんとなく呑み込めた。あとはそうなると……問題は試練だ。内容はわからないって言ったけど、少なくともそれが起きるのは日没後ってことなんだよな』
「亜人趣味……」
「随分と悪趣味な渾名かしら。まあ、本人があれでは当然のことなのよ」
『いきなりエミリアたんを突っ込ませるのは不安で胸が張り裂けそうだ。だからまず、確認と生贄の意味を込めてガーフィールが突入するのがいいんじゃないか?』
『そっこは普通、自分が行くっつってかっこつけるとこじゃねェのかよ』
『言いたいしかっこつけたいのは山々なんだけど、仮になにかが起きた場合の生存率を考えると俺よかお前の方が適役だと思って。お前なら、なんか地面とか踏み砕いて余裕で生還できそうじゃん。最強なんだし』
『おォ?ま、まァ確かに俺様ァ最強だかんな。試練だかなんだか知んねェが、どんな危険が降り注いでも『ペニーペニーは譲らない』ってな!』
『けどよ、悪ィが俺様は中にゃ入れねェ。そういう契約なんでな』
『……契約?』
『あァ、忌々しいこった。おまけに、俺様がしたわけじゃねェってのによ』
「ガーフィールならほんとに何とかしそうなのが怖いところなんですけど」
「安心しなさい、ガーフは気合と根性で動いているわ」
「安心ポイントどこなんですか?」
『――大丈夫。私が行くから』
『ちょっとだけ中を……いや、入口周辺だけでも俺が先に入って確認するってのは』
『よしといた方がいいと思うぜ?スバルは資格持ちじゃねェんだ。魔女の墓所に招かれ人以外が入ろうとすっと、ロズワールみてェな様になっちまう』
『ロズワールみたいにって……あいつのケガってまさか、ここに入ったからなのか?』
『資格のねェ奴が夜に踏み込むと、そういうことにもならァな。あいつだったっからあんなもんで済んだんだろうが、普通の資格なしが入ったら弾けてもおかしくねェ』
『……やっぱり、俺が先に中を確認する』
『おいおい、話聞いてったのかよ。資格なしが入ったら危ねェんだっつの。ロズワールがああなったのは夜だったからだが、昼間だって安心なんかできねェぞ』
『そうよ。危ないからやめよ、スバル? 私ならきっと大丈夫。感謝なんてしたことなかったけど、ハーフエルフだってことが役立つのかもしれないんだし……』
「資格がないのがわかっておきながら入るなんて、白々しいやつかしら」
「さっきから私に冷たくないか〜ぁな?」
「この場でまだ暖かい言葉を期待するのなら、それは無理かしら。これでも優しい方なのよ」
『心配してくれんのは嬉しいけどさ、落ち着いて役割分担すれば当然の成り行きだぜ? 中に入って危険かもしれないのは誰であってもおんなじ。前情報でちょっぴし、俺の方が危ないって可能性があるぐらいで。だからあとは、それぞれのできることの話になんだよ』
『できること?』
『万が一、中で危ないことがあってケガした場合、俺じゃエミリアたんを治療できない。ガーフィールが意外性抜群の男で、スゴ腕の治癒魔法使いってんなら話は別だが』
『俺でもエミリアたんでも、傷付く可能性があるなら治癒魔法が使えるエミリアたんを保険に残しておきたい』
『大ケガを……それも、命に関わるような傷なら私じゃ治せない。パックも反応してくれないし、限界があるの。ロズワールだって今でこそ落ち着いてるけど……』
『まぁ、あの傷はけっこう危なかった傷だよな。……それでもまぁ、俺の生き汚さを信じてみてよ。わりと俺、この世界でもしぶとさじゃ上位に入ると思うぜ?』
「ナツキさんが言うとシャレにならないんですけど」
「スバルって意外と危ない冗談を言うのね?」
「ブラックジョークというやつかしら」
『なんなら約束する?そしたら安心できるっしょ。俺、絶対にエミリアたんのところに戻ってくるから。傍を離れたりとかしないから』
『じゃあ、軽く俺が中を見てくる。基本、声出しながら見回りするつもりだから、俺が寂しくないように外から声をかけ続けてくれ』
『スバル。危ないと思ったら、ホントにすぐ引き返してね』
『ええい、ままよ。虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ。虎の子どもなんかいらねぇけど!』
足元がすかされるような謎の感覚。
驚き、眼下を見下ろしてスバルは声を失う。――床が、消失している。
『あああああ――ッ!?』
「スバル!?」
「危ないのよ!」
『――なるほど、それが君の根幹。なかなか興味深いことだね』
『からかうような歓迎になってしまったのは申し訳ない。ボクとしてはそんなつもりはなかったんだが、どうにもこの身は強欲なものでね。知りたいという欲求から逃れることができないんだ』
『これは失礼。ボクとしたことが自己紹介のひとつもしていなかったね。重ね重ねの非礼、申し訳ない。人と接するのが久しぶりなものだから調子が戻らないようだ』
『ボクの名前はエキドナ。強欲の魔女と名乗った方が、通りがいいかな?』
「エキドナ……」
「これは…」
エミリアが名前を呼び、ベアトリスは目を少しだけ見開く。
『そんなに警戒することはないじゃないか。それに君自身、ボクに挑んでも勝算薄しと判断しているだろう?勇敢と蛮勇は似て非なるものだよ』
『悪いが、負けるから屈服ってのは性に合わねぇんでな。それに警戒するなってお前は言ったけどよ……強欲の魔女だなんて名乗った相手に、そんな真似できるか?』
『なるほど。それは確かに君の言う通りだ。これはボクの手落ちだったね』
『しかし、そんなに邪険にされると本当に傷付くな。見てくれの通り、ボクはか弱い女の子なんだよ?男の子にそんな目で見られて、なにも思わないわけじゃない』
『お前の言う女の子ってのは『死亡フラグ』ってルビ振ってんの?言っとくが、さっきから俺の中の警戒センサーが尋常じゃねぇんだよ』
『これではまともに話もできないな。それも仕方ない。――それじゃ、こういった趣向はどうだろうか』
『な――!?』
『そんなところで遊んでいないでこちらへきたらどうだい?』
『別に危ないものは入っていないから安心しなよ。なんならボクが先に飲んでみせてもいい。魔女に毒が通じるものなのか、君が疑うならなんの証明にもならないけどね』
『……参ったぜ。この中に入ってから完全に俺の常識は覆されっ放しだ。ここ、どうなってんだ?お前も転移魔法とか使えるのか?』
『転移……ああ、陰魔法の。いや、だとしたらそれは君の勘違いだよ。あの魔法には色々と欠点が多い。あまり好んでボクは使わないものだ。今のはちょっとした余興だよ。ある程度、自由が利くのさ。ここはボクの城なのでね』
「エキドナの、城……」
「強欲の魔女……初めて見たが、こんな見た目を……」
『残念ながらどこ見渡しても城どころか小屋もねぇよ。なに?お前の城って今は建て直しとかしてるの?それとも借金の形に椅子とテーブル以外持ってかれたの?』
『ふふふっ。君は本当に面白いな。ボクを前にして、それだけの減らず口を叩いたものは同じ魔女を除けば数えるほどしかいない。まさか死後になって、その数が増えることになるとは思わなかった』
『お前が強欲の魔女ってのがホントなら、俺の記憶だと死んでるはずだぜ。そもそもお前の墓参りするために俺はここに入ってきたんだし』
『それは丁寧にありがとう。献花してくれる花は入口に手向けてほしい。お酒は嗜まない身なので、できたらお供え物は甘いものが嬉しいんだが』
『お供え物の文化があんのか、この世界……。悪いが、土産はなんにもねぇし花も買い忘れちまった。俺の笑顔で満足してくれい』
『これほど楽しくお茶を飲むことは生前にもなかった。やはり、死んでもみるものだね。新しい発見はなおも尽きない』
『もはやお前と俺の間で会話が成立してんのかも怪しいよ。……クソ、飲んでやる。飲んでやるよ!』
『魔女の差し出したものを飲み干すなんて、ずいぶんと勇敢なんだな』
『はっ。ここまできてビビってられるかよ。そもそも、お前が俺を殺そうとか思ったら次のコマで消し炭だろうが。茶の一杯に警戒なんざしてられねぇよ』
『うまくもまずくもなかったけど、なんのお茶だったんだ、これ?』
『ボクの城で生成したものだからね。言ってしまえば、ボクの体液だ』
『なんてもん飲ませてんだ、てめぇ!?』
「体液…!?」
「強欲の魔女とは、意外に……」
「母様はこんなことしないかしら……」
『心外だな。ボクは自分の見てくれはそんなに悪くないと思っているんだが』
『いくら美少女の体液でも覚悟しないで飲むのはやだよ!っていうか覚悟してても体液って単語のもの飲みたくねぇよ!俺、性癖はノーマルなんで!』
『クソ、吐けねぇ。――おい、体に悪かったりとかそんなじゃないよな?』
『安心しなよ。限りなく体に吸収されやすい。なにせ体液だからね』
『うまいこと別に言えてねぇよ、その顔やめろ!』
『やはり君は不思議な人物だ。こうして、普通にボクの前に立てているのがその証拠だよ』
『なにがだよ。自分が美少女すぎて普通だったら相手の目が潰れてるってか?言っとくがな、俺は俺的に最高の美少女で常に目の保養をしてるんだ。だからお前のことを見ても別にそんな大して可愛いなとか思う回数は少ない』
『いや、普通の人ならボクの前に立つと吐くんだよ。面白いだろう?』
『なにも面白くねぇよ!?』
「まあ、魔女だから、吐くのは当然か……」
「エキドナ、私と話した時より楽しそうね?…なんでかしら……?」
『こうして話しているのもボクにとっては新鮮な喜びなんだが……君の方はそういうわけにもいかないだろう?言いたいこと、聞きたいことがあるんじゃないかい?』
『……そう、だよ。そうだよ!雰囲気に呑まれて完全に忘れてたけど、その通りだ。お前は……いや、それ以前にここはどこだ?本当に墓所の中なのか?』
『その質問は半分正しくて半分間違いだ。君の体は墓所の中に間違いなくあるが、その精神はボクの城の中にある。言ってしまえば、ここは夢の中だよ』
『夢……?でも、俺は夢に見るほどお前の顔に覚えなんてないぞ』
『夢の中にいる、といっても別にその場所が君の夢の中である必要はないだろう。ここはボクの城――つまり、ボクの夢の中だ。ここに似た空間を、君は知っているんじゃないのかい?』
『な、なにを根拠にそんなこと……』
『確証はないよ。ただ、なんとなくそう思っただけさ。君の態度が知っていることから目をそらす、そんな人がする素振りに似ていると思ってね』
『……知らないってのは、本当だ。でも、お前の言うことは間違いじゃない』
『ここがお前の夢の中だってのはとりあえず受け入れた。じゃあ、どうすれば出られる?』
『夢から覚める方法は起きようと思うか、外から起こされることだよ。もっとも、外から働きかけようとしてもボクの体はすでにないし、他人の夢の中から自力で目覚めることは難しい。ボクが起こそうと思わなければ、起きられないんじゃないかな』
「スバル、エキドナの夢の中に閉じ込められちゃったの!?」
「それは大変ね」
『いや、別に。帰りたいなら帰してあげるけど?だってボクが呼んだわけじゃなく、君が勝手にきただけなんだしさ』
『お前は俺の緊張感どうしてくれんの?シリアスさんが息してないよ?』
『シリアスさんは君と違ってボクの前に立てないからね。木陰で吐いてるんじゃない?』
『とにかく、帰れるなら帰してくれ。上で俺のことを心配してる子がいるはずなんだよ。お前の体液飲んでる暇があったら、その子を安心させてあげたい』
『それはいいけど、君はいいのかい?』
『なにがだよ』
『ボクの前から帰って、だよ。――強欲の魔女に話を聞ける機会なんて、君以外の誰が求めてもそうそう得られるものじゃないのに』
「確かに、強欲の魔女の知識に触れられる機会はまたとない。だが……」
「ユリウス……」
ユリウスの早口にラインハルトが気まずそうな顔をする。
『お前は……俺が知りたいことの、答えを知ってるのか?』
『このボクに、知識の在り処を問う――か』
『やはり、君は面白い存在だよ』
『問答を交わすのなら、これだけの空間があれば十分。知りたいことを知る。そのための欲求を――強欲を、ボクは肯定しよう』
『さあ、なにが聞きたい?知り得ることであるならば、ボクはなんでも答えよう。飢餓から世界を救うために、神と異なる獣を生み出した『暴食の魔女』ダフネのことか?世界を愛で満たそうと、人あらざるものたちに感情を与えた『色欲の魔女』カーミラのことか?争いに満ちた世界を嘆きながら、あらゆる人々を殴り癒した『憤怒の魔女』ミネルヴァのことか?安らぎをもたらすそのためだけに、大瀑布の彼方へ龍を追いやった『怠惰の魔女』セクメトのことか?幼さ故の無邪気と無慈悲で咎人を裁き続けた『傲慢の魔女』テュフォンのことか?』
『ありとあらゆる叡智を求めて、死後の世界にすら未練を残した知識欲の権化。『強欲の魔女』エキドナのことかい?』
『それら全ての魔女を滅ぼし、自らの糧として世界を敵に回した『嫉妬の魔女』――彼女のことかい?』
「嫉妬の魔女…」
「その正体を…エキドナは当然だけど、知ってるのね」
「スバル……大丈夫、よね」
これ見てるロズワール泣いて喜んで画面にしゃぶりついてそう