彼に全てを押し付けて
最近オリジナルの小説を書いてますがリゼロに引っ張られてしまう
オリジナルかける人すげーと思いました
レムの記憶は戻るんでしょうかね
戻ったとしてもオットーとは仲悪そうだなあと思いました
お互いにスバルくんの解釈違い起こしてそう
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『寂しくなってしまいますね』
『長居しても事態の進展がないし、ずるずるお世話になりっ放しでもしょうがないからさ。――本当なら、ゆっくり静養でもしてるべきなんだろうけど』
『ナツキ・スバル様にその意思がおありでしたら、当家としてはいつまで滞在していただいても構わないのですが……そうも言えませんよね』
『厚意は嬉しいですし、学ぶ点も多いとは思うんですけど、こっちも片付けなきゃなんない課題が山積みで。白鯨のことも『怠惰』のことも、互いの状況が落ち着いてからじゃないと丸ごと商人勢に持ってかれかねませんから』
『女々しい態度でしたね。ただ、大恩のある方にさしたる助力もできず、足りない自分を恥じ入るばかりで……』
『貸し借りを即返済ってのは取立人にとって楽な相手だけど、自分が大変なときにそこまで気を遣わなくて大丈夫ですよ。ってか、ちゃんと報酬はもらったわけだし』
『欲のないお話です。負傷した地竜を治療して、それを引き取りたいだなんて』
『命の恩人……ならぬ恩竜か。付き合った時間は短いですけど、くぐった死線の数は下手したら俺の人生で最多の相棒なんで。今後も俺の苦難に付き合わせる意味で、パトラッシュからしたらたまったもんじゃないかもと思ったりもしますが』
「…クルシュ様、大丈夫ですか?気分が悪いようでしたら、フェリちゃんが…」
「いえ…大丈夫。これを見ることで、私は向き合わなければなりません」
「クルシュ様…」
『白鯨討伐の結果に名前入れてくれるって話だし、『怠惰』討伐とエミリアたんの無事は守れた。その上で気に入った地竜ももらえる……報酬としちゃ、上々でしょ』
『白鯨を討った、ということがどれほど大きなことなのか、自覚のないところがスバル殿の美点と言えましょうな。いずれもっとちゃんとした形で、その大業に世界が報いることがあるでしょう。その日が楽しみですよ』
『そんな大それたことしてねぇと思うけどなぁ、俺。鯨の鼻先で餌の振りして走り回ったってのが実状じゃね?』
「そんな事ないわ、スバルが居なかったら…」
エミリアの言葉が潰える。
彼が大罪司教になった世界線では、クルシュは白鯨に負けていた。
きっと、スバルが戦わない世界線では、白鯨はずっと生きている。
それが、
「…もっと酷いことになってた」
酷く恐ろしくて。
『ホントに連れて帰るの?』
『連れ戻るよ。ここにいて静養してても治るわけじゃねぇし……いや、今のは別にお前に皮肉言ったわけじゃねぇけど』
『わかってるってば。スバルきゅん、そこまで性格悪くにゃいもんネ』
「無自覚にしても、皮肉としては十分な言葉だな」
「うん、でもスバルはそんなこと言う子じゃないよ」
「ああ、分かっているとも、ラインハルト」
『にゃに?』
『いや、色々と助かったってちゃんとお礼言ってなかった気がして。俺の体の治療もそうだし、ぶっちゃけ白鯨とか『怠惰』のときもお前いなかったら無茶利かない場面とかいっぱいあったしな。……レムのことも、感謝してる』
『……それ、嫌味とか皮肉じゃにゃいと思うけど、それにしかにゃってにゃい』
「?素直なお礼だったと思うけど…」
「素直なお礼だからこそ、ってことなのよ」
『指ほっそ、手ぇちっちゃ。ごつごつして指は男らしい……みたいな展開になるかと思いきや、そんなこともないのね』
『こんだけ完璧に可憐に装ってるフェリちゃんが、そんにゃガッカリ展開にゃんて見せちゃうわけにゃいでしょ?無駄毛も肌荒れも一切にゃし、天然ものです』
『だが、男だ』
『そう、フェリちゃんは身も心も男にゃのです』
『その自負がある癖にその格好かよ。それって、男としてどうなん?』
『だってぇ、フェリちゃんにはこういう格好が似合うってクルシュ様が仰ったんだもーん。そのものにはそのものの、もっとも魂を輝かせる姿が似合う。――クルシュ様のお言葉に、フェリちゃんは全身全霊で応えるだぁけ』
『でもそれは……』
『――カルステン家がどうなろうと』
『……え?』
『クルシュ様だけは、必ず私がお守りする』
「…フェリス?」
「…クルシュ様、フェリちゃんは」
クルシュが目を見開いてフェリスを見る。
フェリスは、少し悩ましげに目を逸らす。
「…知られたくない会話まで…ほんとに、最悪な部屋かしら」
この先に訪れる会話が、恐ろしくて。
――帰路につきながら、竜車は微妙に重苦しい空気で満たされていた。
『なんだかひょっとして、話題がなくて困ってたりします?もうこの、重苦しい沈黙というかそういうのに僕耐えられないんですが』
『さらっと入ってきてなにを言い出すんだよ、お前。っていうか、いたの?』
『ひどいですねえ!?いるに決まってるじゃないですか!僕がそもそも、どんな条件でナツキさんに協力したか覚えてないんですか!?』
『思い出した思い出した。そうそう、確かロズワールに会わせてほしいって話だったよな。……しかし、なんていうかあれだな』
『なんです?』
『いや、男に走るだけならまだしも、相手がロズワールっていうのはどうなのかなって思ってさ。……あ、俺はノーマルだし、エミリアたんがいるから狙われても困る』
『そういう話じゃないはずなんですけどね!あんた、僕のことなんだと思ってたりするんですかねえ!?』
『賑やかし系商人?』
『イロモノ扱い!!』
「ほんとに酷いなこの人!!」
「これはスバルの照れ隠しかしら。ツンデレというやつなのよ」
「そうだッぜ、オットー兄ィ。大将は素直じゃないッからなァ」
「ガーフィールも相当でしてよ」
「その通りだわ、ガーフ」
『なんだか……二人ってすごーく仲良しなのね。びっくりしちゃった』
『おいおい、エミリアたんてばそんなのよしてよ。こんな金に飢えた亡者と一緒とか……俺は君からの愛にだけ飢えた亡者だよ』
『亡者じゃん!亡者じゃん!っていうか、僕は亡者じゃないですけど!』
「オットーくんはスバルのユージンだものね!」
「エミリア様の眩しい笑顔が今は苦しい…」
「汚れた考えをしているからよ、いやらしい」
「いやらしくはなくないですかねぇ!?」
『気まずい空気を読んで黙るとか、俺らしくなかったな』
『そうね、スバルらしくない。私の知ってるスバルはもっといつも元気で、無茶で、こっちの気持ちなんて全然関係ないぐらい気持ちよく騒がしい人だもん』
『それ、空元気で空気読めない奴って風に翻訳できる気がするんだけど』
『もうサッと、隣に座るよね、スバル』
『そら、好きな女の子の近くにいたいと思うのは当然というか当たり前だから。なるたけ近くで、エミリアたんの吐いた空気で呼吸してたいね』
『途中まで恥ずかしかったのに、途中から急にすごーく嫌な感じになったんだけど』
『いやほら、いつもの俺でいこうと思うとついこういう発言が』
『そうよね、スバルってそういう人。そんなだから、いつだって私はスバルの言うことちゃんと受け止めてあげられなくて』
『ふざけてる風を装わないと本気で口説くのもできない男の子心理なんだよ。俺がエミリアたんを好きなのも、エミリアたんをエロい目で見てるのも、エミリアたんの助けになりたいのも全部本当の本気。信じてくれていいぜ?』
『信じるけど、受け入れるのとはまた別のお話だからね?』
『いいよ。信じて、その上で受け入れてもらえるように努力すっから』
「ほんとに、スバルはいい加減なことばっかり言うの!なのに、私が困ってたり迷ってたりする時は急にちゃんとして…」
エミリアの言葉が止まる。
死に戻り、していたのだろうか、と。
あの時も、あの時も。
この先の映像を見れば、今までのスバルとの記憶が、嫌なふうに書き換えられたら。
そう思うと辛くて。
「…エミリア」
『気落ちして下向いてるより、こっちの方が俺らしいもんな。だろ、レム』
『……今、なにか言った?』
『エミリアたんの綺麗な髪の毛持ち上げて、うなじ視姦したいなって』
『すぐそうやって誤魔化す。……レムさんのこと、気にしてるでしょ』
『気にしてる。すっげぇ、気にしてる。どうにかしなきゃってずっと思ってるし、ずっと考え続けると思う。エミリアたんを一番に考えてたいとは思うけど……これは順番つけられることじゃねぇんだ。ごめん』
『怒ったりしたらすごーく嫌な子じゃない、私。そんな大事なことで怒ったりしないもの。……あの子がスバルにとって大事な人なの、見てればわかるから』
「…見てれば、わかる」
エミリアが眉を顰める。
自分の発言全てが、スバルを傷つけているような気がして。
「…エミリア、そんな顔をするものじゃないのよ。スバルは、エミリアに救われているかしら。あの時から、ずっと」
「…そう、ね。ありがとう」
『好きな子、なんでしょ?』
『好き、大好き。エミリアたんとおんなじぐらい好き』
『こういうこと言うとなんだけど……スバルって、浮気性なの?』
『わりと一途なつもりでいたはずなんだけど、あんだけ尽くされて心動かない奴ってもはや血も涙もないと思うんだよね』
『私のこと、好きだって言ったくせに』
『言っとくけど、俺もレム好きだけどレムの方が俺のこと超好きなんだよ?べた惚れだから、マジで不思議なことに』
『わかる気がする』
『へ?』
『レムさんがスバルのこと、すごーく好きになる理由。きっと間近で、スバルのいいところばっかり見せられちゃったのね。スバルって、時々すごーくかっこいいことする病気みたいだから』
『病気て。反論は……まぁ、できねぇけど』
『私、そんな簡単に陥落したりしないから』
『その方が挑み甲斐があるよ。いずれエミリアたんも俺にメロメロにさせて、目を覚ましたレムと俺を取り合って大岡裁きだ。ああ、考えただけでニヤニヤする!』
「…そうね、レム…は、あれだけスバルに無償の愛をあげて…好きにならない方が…でも…」
エミリアが思考をぐるぐると回す。
「無償の愛…それをあげてるのは、スバルの方かしら」
「えっ?」
「拷問をされても、暴言を吐かれても、スバルはあの娘を見捨てなかった。無償の愛をあげているのは、スバルの方なのよ」
「…そう、なのかな」
そうかも、と思えてきた。
思ってはいけないと思うのに。
スバルにとっても、大切な人だから。
『見た感じ誰もいませんよ、ナツキさん。荒らされたとかそういうんじゃなくて、誰も戻っていない感じです』
『ラムが言ってた『聖域』ってのは確か、こっから七、八時間の距離って話だったはずだが……王都で三日も居残ってた俺らより、帰りが遅いってどういうことだ?』
『魔女教を討伐できたっていう状況が把握できてないから、警戒してるんじゃ?』
『領地見捨ててロズワールが?俺の想定だと、『怠惰』とロズワールが真正面からやり合ったら十中八九ロズワールが勝つ。真正面からやらないのが『怠惰』のやり方だと思うけど……それにしたって、偵察ぐらいするだろ』
『慎重策をとってるか……』
『『聖域』でなにか、問題でも起きてる……?』
『いずれにしても、どうにかしなきゃだ。……とりあえず、屋敷の方に戻ろう。レムを落ち着かせてやりたいし。オットー、お前も泊まる場所ないだろうから屋敷だ』
『うええ!?へ、辺境伯のお屋敷で御厄介に!?そんなとんでもない状況に与るくらいなら、竜車で寝泊まりする方がいっそ気楽なんですが!』
『うるせぇ、巻き込まれろ。もはや一蓮托生だ。死にかけるまで扱き使ってやるぜ』
「聖域、ッてこたァ…」
「…あの惨劇を、一度で回避出来たとは思えませんわ。恐らく…」
「ッ…!大将ッ…!」
『帰ってきたぜ、ロズワール邸。さあ、懐かしの我が家……』
『荒らされてるんじゃなくて……整えられてる!?』
『――誰ッ!?』
小さな、かすかな、聞き逃しかねないわずかな音がして、スバルは焦燥感に導かれるままに視線を動かす。
だが、その影に意識が追いついたときにはすでに遅い。
影は、すでにスバルの後ろへと回り込んでおり――、黒い影がスバルを真後ろから覆うように迫り、スバルは見た。
その人影の中にはっきりと浮かぶ、白い牙だらけの獣のような口腔を。
――そして次の瞬間、迂闊にもスバルの意識は、世界は、暗転していた。
「…わたくし…ですわね」
「あァ、くッそォ…見てるしか出来ねぇのが歯痒いぜェ…まるで、試練みたい、な…」
「…試練」
ガーフィールの言葉にベアトリスが声を重ねる。
「…確かに。自分の記憶からなるのが試練だったから、人の記憶を見るこれとは少し違うけど…」
「…何にしろ、いい着眼点かしら。感謝するのよ、ガーフィール。」
「?あァ…」
『えっと、なにがあったんだっけ、エミリアたん』
『屋敷の中に入ってすぐ、スバルが悲鳴を上げたのが聞こえたの。もう私もオットーくんも驚いちゃって。それで中に飛び込んでみたら……』
『俺、寝てたりしたの?』
『ちょっと語弊があるけど……大枠は間違ってない、かも?』
『エミリア様、少しよろしいですの?』
『お飲み物と代えの手拭いを――ああ、お目覚めになられたのですわね』
『お初にお目にかかりますわ。わたくし、ロズワール・L・メイザース辺境伯の屋敷にて使用人を務めさせていただいております、フレデリカ・バウマンと……』
『顔恐ッ――!?』
丁寧な口調で自己紹介をするのを遮りつつ、スバルの口が率直過ぎる感想を漏らす。
と、目の前でそれを聞いた当事者である女性の表情がかすかに固まり、その凶悪な瞳が何度かの瞬きのあと――ジワリと、涙が浮かんだ。
『ふ、ぇ……』
『あれ?』
『スバルのバカ!!』
「大将!?」
「スバル!お前はどうしていつもそうなのかしら!」
「ほんとに、すごーくよくないと思うわ!」
3人が叫ぶ。
『女の子になんてこと言うのっ。フレデリカがどれだけ献身的にスバルに……』
『お、おやめになってくださいまし、エミリア様。いいのですわ。わたくしが、わたくしが悪かったのでございます。お屋敷に呼び戻していただけたのがあまりに嬉しくて、調子に乗っていましたのですね。……自分が、人に好かれるような見た目でないことも忘れて』
『驚かせてしまって申し訳ございません。また、先ほどは大変な失礼をいたしてしまいました。お戻りになられたナツキ・スバル様を、不審者と間違えるだなんて』
『不審者って……あ、待て。なんとなく、話の繋がりがわかってきたから』
『屋敷に戻ってたフレデリカさんで、不審者と勘違いした俺を撃退。で、あとから入ってきたエミリアたんと話して誤解が解けて今に至る……ってとこ?』
『大正解ですわ……頭の回転が速くていらっしゃるのですわね』
『流れでそのへんは読めないことも……いや、その前に』
『初対面の初顔合わせで、いきなりひどいこと言ってすみません。寝起きだとか悪ふざけとか、女の人に許されないことしたと思います。煮るなり焼くなり……あんまり痛くはしないでくれると助かります』
『――ふふ、面白い方ですわね』
『こちらこそ、謝罪しなくてはいけませんわ。わたくし、エミリア様のお言葉に従ってスバル様を試させていただいておりました』
『試し?』
『屋敷を守る使命感があったとはいえ、客人であるスバル様にご無礼を働いてしまいましたから。これはもはや、わたくしは責任を取るには首を差し出すより他にないものと覚悟いたしたのですわ』
『いや、それは覚悟決めるの早すぎるだろ。話し合えばわかる男よ、俺?』
『と、そのようにエミリア様も強硬に主張されましたわ。それはもう一生懸命に、聞いているこちらが赤面しそうになるほどスバル様への美辞麗句を並べ立てて……』
「ふふ、スバル様は見てて退屈しない方ですわね」
「姉貴ッにも分かるかァ!俺ッ様もそう思っててよォ…」
「ガーフィールのスバル様への忠誠心には驚かされましてよ…」
不思議では無いけれど、と言いたげに笑う。
『そういえばちらっと聞いたことあったな。俺が屋敷にくる少し前に辞めたメイドがいたって。俺が屋敷きて一ヶ月だから……辞めて三ヶ月ぐらいか?』
『そうなりますわね。わたくしの一身上の都合での辞職でしたの。ここを離れるのはひどく寂しかったのを覚えていますわ。……思った以上に早く、戻ってくることになってしまいましたけれど』
『戻ったってのはここ二、三日の話だよな。俺らが村を出てから三日……いや、移動時間含めて四日か。かなりのすれ違いっぽいけど』
『わたくしも戻って屋敷にきてみればもぬけの殻でしたので驚きましたわ。幸い、旦那様の執務室に置き手紙がありましたのでそこまで困惑せずに済みましたけれど』
『置き手紙?』
『ええ、ラムから。あの子から屋敷へくるよう呼び出しておきながら、ああして連絡業務を適当に……そこも、あの子らしいところだと思うのは甘やかし過ぎですわね』
『ラムがフレデリカを呼び戻したってのは?』
『その理由はわたくしもはっきりとは。ただ、当事者であるエミリア様がいらっしゃるのでしたらわかると思いますわ』
『ラムの家事能力が壊滅的で、お屋敷がひどい有様になっていったから……よね。なんだか数日で、もうどんどん住める場所がなくなっていっちゃって』
『切実な理由だった!そしてホントに口ほどにもねぇ……いや、あいつは自分じゃダメだって自己分析してた!正しかったけど、少しは見返す努力しろよ!』
「…」
ラムが顔を顰めている。
「ら、ラム…?」
「これくらいで傷つくほどあの娘はヤワじゃないのよ。どうせエミリアの反応を楽しんでいるだけかしら」
『でも、フレデリカが戻ってくれたおかげでお屋敷が綺麗になってるじゃない。変な意地張って事情を悪くするより、できる人に任せるラムの判断は正しいと思うわ』
『エミリアたんにそんな気ないと思うけど胸に痛いよその台詞!そして、でもあいつが即行で諦める理由にはならないとも思うんだ!』
『ラムの評価はともかく、わたくしとしては久しぶりにやりがいのあるお仕事をさせていただきましたわ。幸い、皆様が留守にしていらしたので、お世話に回る時間の分も屋敷の清掃や片付けにあてられたんですもの』
『ラムひとりじゃ屋敷が回せないから、誰かを頼るのは当然の帰結……か』
「…あ」
レムのことを思い出しているのだと、エミリアは胸を痛める。
「…そうよね、前は2人で回してたんだし…」
「…暴食…」
ラムが、そう呟いて、口を閉じる。
『屋敷の前に止めた竜車で、もう御者の方が一時間近く放っておかれていらっしゃいますけれど……よろしいんですの?』
『うん?ああ、オットーのことか。そうか、一時間も放置……うん、まぁ、いいんじゃない、別に。パトラッシュはちゃんと厩舎入れて休ませてやりたいけど、オットーの方はそんな気遣わなくても』
『死線を一緒にくぐった仲だったのに薄情もいいとこですねえ、ナツキさん!まさか僕ぁ地竜より優先度が下とは思いませんでしたよ!』
『違うな、間違ってるぞ、オットー』
『なにがですか。今さら、さっきの発言を撤回しようとかしても遅い……』
『地竜より優先度が下なんじゃない。地竜より優先度がずっと下なんだ』
『二番底じゃん!なお悪いじゃぁないですか!』
「ほんとに僕の扱い酷くないですか!?」
「えぇ、そうですわね…」
「認められた!?否定された方がまだマシだぁ!!」
「やかましいやつかしら」
「その通りです、ベアトリス様」
『中に寝かせてる女の子、どうします?ずっと竜車に押し込めておくのは可哀想ですし、お忙しいんでしたら僕が部屋まで連れて……』
『――レムに触るな』
『……運び込むのは俺がやるから、お前はいいよ。女の子抱え上げて、お前の腰に悲鳴を上げさせるのもよくないし』
『言っときますけど、行商人は仕事柄もっと重たい商品の持ち運びもしますんで、ナツキさんが思ってるほど僕ぁひ弱じゃぁないと思いますよ』
『よくない傾向だな……クソ、情けねぇ。どうして俺はいつもこう……』
もっと、うまくやる道はきっとあったはずなのだ。
自分にできる最善を尽くしたと、数日前のループの終了直前までは思い込んでいた。
でもきっと、もっと完璧で一部の隙もない、最高で最善の結果もどこかにあった。
スバルはそれを見つけ出す道を取りこぼし、そこそこの道を妥協の意思で通り抜けて不完全な未来に辿り着くことしかできなかった。レムの犠牲は、その代償だ。
スバルがもっと賢ければ気付けたはずだったのだ。
屋敷からエミリアたちを避難させる前、スバルがクルシュの使者に持たせた親書は中身が白紙になっていた。
あれは使者に同行していた魔女教徒がすり替え、こちらを撹乱しようとしたものと判断していたが、それはおかしいのだ。
あの時点で魔女教がスバルたち一行の脅威を把握していたはずもなく、また親書をすり替えることによるエミリア陣営への不信感の植え付けなどと迂遠な手段を用いるとも思えない。
なにより、それをするならば白紙であるより内容を改竄してしまう方がよっぽど効果的ではないか。
ならばなぜ、親書は白紙になっていたのか。魔女教徒の手によるものでないとしたら、その答えはひとつだけだ。
それが『暴食』の権能によって、記憶と名前を喰われた存在の辿る末路。
世界からその存在を抹消されて、わけのわからない継ぎ接ぎだらけの世界が残る。
意識しなければ気付けない違和感は、存在の抹消で意識することすらできない。
そうなればその存在は、なんのために誰のために――。
親書が白紙であったその事実をもっと深く受け止めていれば、もっとちゃんと考察して真実を看破していれば、ひょっとしたらどうにかできたのではないだろうか。
エミリアの発言を思い返せば、親書が届いたのは最終日の前夜。
その時点で中身が白紙になったのなら、レムが暴食に襲われたのはその時間前後ということになる。
その時点ならばスバルはレムと別れてまだ時間が経っていない。
合流の目は、極小ではあるが残されていたはずだった。
だが、現実にはスバルはそのチャンスを見落とした。
どうして見落としたのか、今となってはもはやわからない。
違和感はなかったのだろうか。
「…焦ってますね、ナツキさん」
「…無理もないのよ、今のスバルには」
時間も、頼るという選択肢もないから。
『よぉ、久しぶりだな』
『――屋敷が騒がしいと思っていたら、戻ってきていたのかしら』
『それにしてもけっこう顔合わせんの久々だよな。前回はペテ……いや、あれはなしだから……王都出発前が最後か。十日ぐらいになるよな』
『まだそんなもんなのかしら。ベティーからしたら、この部屋の中で過ごしているうちは外の時間の経過の大小はあまり興味ないのよ』
『お前が戻ったということは、ここしばらくの騒ぎは収まったと見ていいのかしら』
『気付いてた……って、それは当たり前か。エミリアたんとかラムもお前を探し回ったって言ってたし、あとでちゃんと謝っとけよ』
『俺への感謝とかは別に金輪際言わなくてもいいけど、二人にはちゃんと言えよ。二人とも、お前を屋敷に残すのは心配してたんだから』
『心配してくれなんて……』
『頼んでないなんてダサいこと言うなよ。世の中の大半の人間は産んでくれなんて頼んでなくても産まれてるし、心配されたくなくても心配される。……後半は、お前云々じゃなく周りの人がいい人だって話だけどな』
『でも、けっきょくは屋敷を出ていったかしら。……ベティーを置いて』
「…」
ベアトリスの表情が曇る。
どうしても、心を開いていない頃の自分の発言は。
「ベアトリス…」
『お前は、レムを覚えているか?』
『答えてくれ。お前は、この屋敷にいたレムのことを覚えているよな?』
『――答えたく、ないのよ』
『ま、待て。答えたくないって、どういうことだよ。今の質問は、YESかNOのどっちかしか答えがないだろ?』
『イエスもノーも意味がわからないかしら。それにベティーの答えはそれこそ同じなのよ。答えたく、ない』
『答えに、なってねぇって言ってんだよ!』
『俺がお前から聞きたい言葉は、そんなんじゃないんだよ!』
『お前が聞きたい言葉を、どうしてベティーが言ってやらなきゃならないのかしら。……あまり騒がないでほしいのよ。書庫が、乱れるかしら』
『お前の今の質問は、『暴食』に喰われた誰かのことを問い質す言葉なのよ』
『こんなこと、暴食の権能を知っていれば見当がつくかしら。ロズワールもにーちゃも、シャウラだって知っていることなのよ』
「シャウラ…」
また、彼女の名前が。
『お前らは、魔女教のことをどれだけ知ってるんだ?ロズワールも、エミリアがハーフエルフだって知れ渡れば魔女教が動くってわかってたはずだろ。なのに、俺が動かなきゃこの屋敷も、村も、どうにもならなくなってた。どうなってる?』
『なんの対策も打ってないはずがないって、レムもクルシュさんも言ってた。だけど、俺にはなんの対策も打ってなかったようにしか思えてならねぇんだよ。だってそうでなけりゃ、あんなひどいことになんか……』
『ベティーにはロズワールがどこまで考えていたのか計り知れないかしら。ただ……ロズワールがなにも手を打ってなかったってことはないと思うのよ』
『思い違い、じゃないのか。もしくは買い被りだ。ロズワールがなんかしてたってんなら、俺があんなに苦労したはずが……』
『お前にわからないのなら、きっと誰にもわからないことなのよ』
「…何もしていなかった訳では無いようなのよ、そのせいでこんなことになったのだから」
「…そうだ〜ぁね」
『待て、それより魔女教の話だ。お前が魔女教のことを知ってるってんなら、知ってることを洗いざらい話してもらうぞ。大罪司教のことも、『暴食』のこともそうだ。聞きたいことは山ほど……これのことだって』
『魔女教の、深い部分にこいつが関係してるってのはわかってる。中身は俺には読めねぇけど、禁書庫の番人って立場のお前ならなにか……』
『どうして、よりにもよってお前がそれを……』
『奪い取った、ってほど欲しい本でもなかったんだけどな。言ったろ。魔女教が屋敷を囲って悪さしてたって。その首謀者から取り上げたんだよ。持ち主は……もうこの世のどこにもいない』
『これの持ち主は……死んだって、言ったのかしら』
『……ああ。死んだよ。車輪に噛まれて……俺が殺したんだ』
『お前も、ベティーを置いていったのかしら、ジュース……』
「…エミリア」
「スバル…」
『お前が知る必要はないのよ。それより、『怠惰』を殺したのがお前だっていうなら魔女因子はどうなったのかしら』
『事情通がなにも知らない奴に専門用語ちらつかせてんじゃねぇよ。なんなんだ、魔女因子ってのは。聞くだにいい印象がねぇぞ』
『知らない……?まさか、本当に?それなら、お前はいったいなんのために『怠惰』を殺したっていうのかしら。意味がわからないのよ』
『降りかかる火の粉を払っただけだ!お前はなにが言いたいんだよ!』
『こんなこと、知らない。……ベティーの判断できる領分を越えているのよ』
首を横に振るベアトリスが、訝しむスバルの方へ唐突に福音書を投じる。
『急になにしやがる。危ねぇ本だなんて言わねぇが、不気味な本には変わらないんだぞ。もっと丁重に扱え!』
『――それはお前が持っておくのが正しいかしら。魔女因子がなにを選ぶのか、選ばないのか。どちらにせよ、いずれ選択は迫られるのよ。そのときに少しでも、それがお前の判断材料になるのなら、ジュースも浮かばれるかしら』
「スバル…」
「…ごめんなさい」
解釈違いで喧嘩してる二人かぁ……みたいなぁ……🥲