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誰も彼を分からない/Novel by 春風

誰も彼を分からない

8,366 character(s)16 mins

アニメとWebは流れ違うのでちょっと苦戦してます。
更新頻度落ちても許してください。
もう少し原文省いて何とかいい感じにします。
頑張ります。

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スバル達は王都に戻り、レムたちの惨状を知った。
そして、スバルは、
迷いなく、喉を短刀で突いた。
もう、間に合わないのに。

「っ、ぇ?」
「スバル…?」
当然といえば当然、彼にとってはレムも救いたい対象で。
「…君は私を狂人だと言ったけどね〜ぇ、…君の方が余程狂人だよ」
「…スバル、どうして…?」
彼にとっては、繰り返される命。
だからといって、それに耐えられるほど彼が強くは無いことも知っていて。
「…ダメです、ナツキさん。それは…」

『――レム』
『ここにいらしたんですね』
『彼女は……』
『なにも変わってないですよ。なにができるってわけでもないのに、俺はここにいただけです。不甲斐なくて女々しい話ッスけど』
『そんなことは。彼女も、それを喜んでくれているんじゃないでしょうか』
『出過ぎたことを言ってしまいました。お気に障りました、よね』
『いや、こっちこそすいません。単なる八つ当たり……逆恨みッスよ、今のは。これじゃ、レムに本気で怒られちまう。『そんな風に人に当たって傷付けて、ダメじゃないですか、スバルくん』って感じに』
『なんか、俺に用事があったんじゃないですか?』
『はい。一度、皆さんで顔を揃えてお話がしたいと。談話室の方に集まっていますので、できればその……』
『ナツキ・スバル、ですよ』
『……ごめんなさい。ナツキ・スバル様、ですよね。ちゃんと覚えます。多大な恩のある方だと聞いているのに、失礼をして申し訳ありません』
『仕方ないですよ。今は覚えることが多すぎるとこでしょうから気にしません』
『じゃ、またあとでな、レム』
『談話室でしたっけ。待たせすぎても悪いし、いきましょうか』
『はい。そうしましょう。ナツキ・スバル様』
『迎えにきてもらってすみませんでした――クルシュさん』

「私…」
「…ベアトリス」
「分かっているのよ、エミリア。でも、騒ぎ立ててもきっと何にもならないかしら。ベティー達には、こうして見守ることしか許されていないのよ」

『スバル……』
『大丈夫。もう落ち着いてるよ、エミリアたん。――俺は、大丈夫だ』
『じゃあ、主立った顔ぶれも揃ったし、お話しようか』
『反対もにゃいみたいだからさっそくだけど……状況の確認、しよっか?』
『話によると、副長たちが王都の騎士団を連れて街道に戻ったときには、もう大罪司教のどっちも残ってにゃかったってお話。残ってたのはうちの騎士の死体と……』
『私と同じような境遇の方々だけ、ですね』
『自分の記憶が消されてる……か。これも、大罪司教の仕業だと思うか?』
『十中八九、ネ。これまでにも、クルシュ様と同じような症例の患者は何人か診たことがあるんだヨ。本人の記憶が急にさっぱり消えちゃって、フェリちゃんの魔法でも復元できにゃいみたいにゃことが。今までは原因不明ってことになったけど……』
『『暴食』の大罪司教――その権能と見て、間違いないでしょうな』

「…ここは…」
「姉貴!起きッたのかァ!?」
「フレデリカ、説明はベティーからするかしら」
「暴食…」
この部屋も暴食の仕業なのか?とエミリアに疑問が過ぎる。
が、暴食の権能だけでここまでのことが出来るのか?
或いは、他の魔女教が…
「エミリア様」
「…あっ、どうしたの?ラム」
「不安は分かります。ですが、そんなに強く手を握られては怪我をしてしまいますよ」
「…ごめん、ラム」
「いえ、構いません」

『『怠惰』の大罪司教を片付けたと思ったら、すぐに『暴食』と『強欲』だにゃんてお話ににゃらないよネ。働き者にもほどがあるって話じゃにゃい。まーあ、魔女教徒がこれだけ一斉に動き出すにゃんて珍しいことも、こうしてエミリア様が台頭してくるような珍事あってのことのはずだけどネ』
『わ、私……?』
『ハーフエルフであるエミリア様の存在を、魔女教の奴らが見逃すはずにゃいじゃにゃいですかぁ。いつもは不気味なぐらい静かに隠れてる奴らにゃのに、あいつらが大騒ぎするときは決まってそれ絡みにゃんですから』
『その……私、その魔女教っていうのについてよく知らないんだけど……魔女っていうのは、『嫉妬』の魔女のことよね?』
『ごめんなさい。それが知っていなきゃいけないことだっていうのはみんなの反応でわかるんだけど、知らされてないの。本当に』
『でも、エミリアたんは確か『嫉妬』の魔女については知ってたはずだ。だって俺はそれで……』
『住んでいた森の近くの集落で、その……『嫉妬』の魔女と似てるって理由で嫌われてたの。だから、『嫉妬』の魔女がどんな扱いをされる存在なのかはわかっているつもり。でも、魔女教なんて人たちのことは……』
『エミリア様がどんにゃ生活をしてたのかはこの際、置いておこうか。それにしても……当事者がこれっていうのはどうにも、お話ににゃらにゃいね』
『そんな言い方はねぇだろ。わからないことをわからねぇって言うのに、どんだけ勇気がいるか考えたことあんのか?必要なこと聞いて、なにが悪いってんだ』
『スバルきゅんが言うと説得力があるよネ。ホントに、主従揃って』

「…」
ベアトリスの表情が険しくなる。
フェリスは少し居心地が悪そうに目線を逸らす。
「…仲間割れしてる場合じゃないように思えるかしら」

『フェリス。今の言い方は聞き捨てなりません。謝罪しなさい』
『ナツキ・スバル様の言葉の通り、知らないことを聞く姿勢に笑われるような点はありません。あなたにそれを嘲る資格もない。わかりますね』
『……はい、クルシュ様』
『エミリア様、失礼を謝罪します。スバルきゅんも、メンゴ』
『お前は……いや、もういい。それより、魔女教の話をしよう。エミリアたんも聞きたがってるし、ぶっちゃけ俺も細かいとこまでは知らないから』
『まず、魔女教っていうのはエミリア様の仰った通り、『嫉妬』の魔女を崇める集団のことです。四百年前、魔女が台頭してた頃から活動してる筋金入りの狂信者。騎士団にとっても、即時滅殺の掟があるぐらいの極悪人の集まりです』
『即時滅殺って……そんなひどい命令が通るような、人たちなの?』
『目的のためなら、村だろうが都だろうが平気で敵に回す連中にゃんですよ。実際、今回も辺境伯のお屋敷の近くの村は危にゃかったですし、南のヴォラキア帝国でにゃんか都市ひとつ、今回出張ってきた大罪司教に落とされてますヨ?』
『ちょっと話が一足飛びましたけど、魔女教には大罪の名を冠する六人の司教――いわゆる、組織の幹部ってのがいるってお話です。それぞれが『嫉妬』の魔女とは別にいたという六人の魔女、彼女らの大罪の名を背負っているとか』
『六人の魔女……『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』『憤怒』『傲慢』の六人、よね』
『はい、そうですネ。その中でも特に有名なのが『怠惰』と『強欲』。強欲はさっき言ったように、都市を滅ぼした大暴れで有名。怠惰は逆に、魔女教の騒ぎが起きた場合は大抵がこの司教の仕業だってことが理由でした。でも、その怠惰に関しては今回の討伐隊の活躍で見事に討伐成功……というわけです。だよネ、スバルきゅん』
『ああ……『怠惰』のペテルギウスは確実に死んだ。俺がこの目で、霧散するところまで見届けたから間違いない』
『その大罪司教の残りが五人。その内の二人が今回、クルシュ様たちを襲ってくれやがった下手人ってことです。魔女教徒は神出鬼没で、しかも活動していにゃいときの潜伏手段は一切が不明。根絶は四百年たっても進んでにゃい。奴らの目的は……『嫉妬』の魔女の復活、だにゃんて言われてますネ』
『魔女の、復活……!?』
『復活って、そんなことできるのかよ。『嫉妬』の魔女ってのは四百年前に死んだんだろ?それを生き返らせるなんて……』
『スバル殿、『嫉妬』の魔女は死んでなどおりません。いまだ、その命は世界の端にて繋がれております。忌々しいことですが』
『大瀑布の近くにあります、封魔石の祠。魔女は今もそこに、滅ぼし切ること叶わず封じられたままでいるのです。賢者と龍、そして剣聖の力があってなお、彼の存在を滅し切ることはできませなんだ』
『封印……いや、そういえば聞いたことが……でも、それならなおさら、復活だなんて方法は祠をぶっ壊せばいいだけの話じゃないのか。なんでそれをしない?』
『まず、祠に近づくのがほとんど不可能である点ですな。大瀑布の傍ではマナの働きが著しく低下します。その中、祠にいる魔女の瘴気に耐えることのできる存在はまずいない。また、物理的に賢者の監視網を抜けることもできない』
『賢者シャウラ。初代剣聖や神龍ボルカニカと共に魔女の封印に尽力した英雄、ですな。今も大瀑布近くのプレアデス監視塔で隠遁されているとか。もっとも、隠遁とは名ばかりで、魔女復活を目論む輩がいないか目を光らせている――というのが、実際の話でありましょう』
『魔女が引っ張り出せない理由は、まぁわかった。でも、それだけじゃやっぱり復活云々って話とは関連性が弱いと思うんだが……』
『そんにゃこと言われても、フェリちゃん魔女教徒じゃにゃいんだからホントのとこにゃんてわかんにゃいよぅ。捕まえた捕虜が尋問か拷問で、なにかしら利になることを吐くのに期待するしかにゃいんじゃにゃい?』

「シャウラ…」
プレアデス監視塔にいた、スバルをお師様と呼ぶ少女。
「ちゃんと覚えてる…よね」

『とりあえず、魔女教についてはそんにゃところかにゃ。じゃあ、それを踏まえた上での今後のお話をまずしちゃおうか』
『ぶっちゃけ、この同盟の話……にゃかったことにしにゃい?』
『今、なんてった?同盟取り消しって言ったか?どういう意図だ』
『そのまんまの意味だってばぁ。だって現状、もうお互いに同盟を組み続けるメリットってものがほとんど感じられにゃい気がするんだよネ』
『採掘権云々はともかく、白鯨討伐への協力って点で合意して、実際にそれはやってのけた。いいとこだけかっさらってサイナラってのは、いくらなんでも醜聞に過ぎるんじゃねぇのか、オイ』
『デメリットの方が大きくにゃりすぎた、ってことだよ、スバルきゅん』
『あぁ?』
『いーい?『暴食』と『強欲』の大罪司教が同時に顔を出した前例ができた以上、『怠惰』を討伐したエミリア様の陣営にはこれまで以上に魔女教がちょっかいをかけてくる可能性が高い。今回、クルシュ様がこうして被害に遭われたのに……それ以上、関わり合いににゃりたいだにゃんて、思えると思う?』

「…間違ってはいませんね」
「オットー兄ィ、でもよォ…」
「…損得で割りきれる人間の考え方ですわね、合理的ではありますが、好ましくありませんわ」

『私は、その意見には反対ですな、フェリス』
『それはどういう意図にゃのかにゃ?クルシュ様がこうして『暴食』の被害を受けたのに、それでもエミリア様たちと同盟を続けて魔女教に関わる。そのメリットは?』
『『暴食』を……我らの主の報復を、行う機会が訪れましょう』
『それって、クルシュ様のお命よりも大事にゃの?』
『魔女教と関わり続ければ、今回みたいにゃことはきっと訪れる。そうにゃったとき、今のクルシュ様には自分の身も守れにゃい。傷も心も、フェリちゃんが癒してみせる……でも、死んじゃったらおしまいにゃんだよ?』
『だが、そもそもこんな状況を引き起こした張本人をみすみす逃すことなどできるはずもない。それにクルシュ様の記憶も、その大罪司教を倒せば戻られるやもしれぬ。我々が手を引くのはあまりにも軽率だ』
『やった奴を倒せば戻る?にゃに言ってるの、ヴィル爺。失われた記憶を、喰った本人を倒せば戻るにゃんて、夢か絵物語の見過ぎにゃんじゃ……』
『――フェリックス!!』
『フェリックス。今の言葉、スバル殿の前で二度と口にするな』
『――ごめん』

「絵物、語」
エミリアが復唱する。
プレアデス監視塔で、エミリアは名前を奪われた。
だからこそ、エミリアには。

『……エミリアたん』
『大丈夫、なんてわかったようなこと、私は言えない。スバルの気持ち、わかってあげたいけど……忘れてしまったその子のこと、なにもわからない私がなにを言っても卑怯にしかならないと思うから』
『大丈夫なんて口が裂けても言えねぇが、今は大丈夫だ。フェリスも気にすんな。俺は……希望を欠片も捨てちゃいねぇ』
『ホント、スバルきゅんてば諦め悪いよネ』
『フェリちゃんは、同盟の継続に賛成しにゃい。クルシュ様の記憶は、フェリちゃんがきっと戻してみせる。だから、『暴食』への報復にゃんて放置でいい』
『どうすべきか、どうなさるか……それも全て、クルシュ様のご判断だ。我々が勝手に、軽々しく判断していい事柄ではない』
『今は、まだ私にはわからないことばかりです。なにひとつ、以前の自分が思い出せません。皆さんにとっても、私と接することは戸惑いばかりだと思います。……それでも、私を尊重してくださる皆さんにまずは感謝を。そしてできるなら、そのご期待に応えたい。そのための努力は、し続けるつもりです』
『どっちにしても、実務的なお話はエミリア様の陣営の内情がちゃんとわかってる……ロズワール辺境伯あたりじゃにゃいとできにゃいしね。まずは辺境伯も交えて話し合いのできる場を設けて、それからってことにしようか』
『ああ、それでいい。それで、今回のことは……』
『他言無用――それだけは、同盟云々は別として守ってもらうよ』
『ユリウスはともかく、アナスタシア様は間違いなくこの状況を利用する。クルシュ様の容体が、あっちの子たちに見られることがなくてよかったヨ』
『……功績の話し合いに関してはあいつらもいなきゃ駄目だろ、そこはどうすんだよ』
『クルシュ様の体調が思わしくにゃいってことにして、フェリちゃんでどうとでもするよ。スバルきゅんたちはただ黙ってくれてればいーの。おわかり?』

「…嫌な言い方かしら」
ぴり、と空気が張りつめる。
理由があるのもわかっている。
それでも、嫌な言い方をされては。
「…ベアトリス、でも」
「エミリア様」
ラムが止めて首を振る。
「…各々がいっぱいいっぱいで語気が荒くなる。それは仕方のないことです。でも、それに抱く怒りや欺瞞もまた、仕方の無いことなのです」
スバルを…というより、ベアトリスをフォローする。

『ヴィルヘルムさん、さっきはありがとうございました』
『大したご助力もできず、至らぬ我が身を恥じるばかりです。なにより今回のことも、お力になれなかった』
『そんなこと、ないですよ。ヴィルヘルムさんがいなきゃ白鯨だって倒せなかったし、そのあとでエミリアたんたちだって安心して任せられなかった。感謝してます』
『状況は落ち着いてないけど、奥さんのお墓参りとかはするんでしょ?まだまだ安心だなんて言えないけど、少なくとも仇は取れたんですから』
『スバル殿、私はあなたに謝らなければなりません』
『ちょ、やめてくださいって。さっきのことなら俺はなんにも、むしろ感謝しかヴィルヘルムさんには……』
『いいえ、そうではありません。私は先ほど、スバル殿のことを思ってあなた方に味方したわけではなかったのです。私は浅ましくも、自分本位な感情であなた方との同盟を継続しようとした。そしてそれを押し隠す己の恥知らずが、今になって恥ずかしい』

「…そんなに悪いことでもないと思いますけどね」
「ええ…ですが、そんなに簡単な話でもないみたいですわよ」

『痛そう、ッスね。でも、傷があるならフェリスに早く治してもらえば……』
『この傷は治りません。相手に治癒することのない傷を与える、『死神』の加護を帯びた斬撃の結果です故』
『治らないって……それじゃ、ヴィルヘルムさん!』
『私の命はこの際、問題ではないのです』
『そんなわけないでしょう。どうすれば……その傷は』
『これは昨日今日、負った傷ではありません。ずいぶん前に負ったものが、再び開いただけのことです。そしてそれが、今の私にはあまりにも大きい』
『『死神』の加護の傷は、加護を受けたものが相手の傍にいればいるほどにその効力を増す。傷を負わせた相手に近づけば、塞がった傷も再び開く、そういう傷です』
『じゃあ、ヴィルヘルムさんに昔、その傷を負わせた相手が近くに……』
『私にこの左肩の傷を与えたのは、先代剣聖』
『テレシア・ヴァン・アストレア。我が妻の剣傷が開いた。――私はそれを確かめるために、魔女教に関わり続けなければならないのです』

「おばあ、さま」
ラインハルトが小さく零す。
その声は、誰にも届くことはなく。
「……私は」
ヴィルヘルムの呟きには、確かな怒りが。

『俺は強いってお前は言ってくれたけど……お前の前でなきゃ、そうやって強がる俺ってのも見つからねぇみたいだよ、レム』
『――お前がここにいるなんて、どういう風の吹き回しなんだよ』
『ボクがここにいたらそんなにおかしいかな? ボクだってこの子とは関わりがあったんでしょ。それなら、ふらりと様子を見にきたっていいんじゃないかな』
『どの面下げて、お前がそういうこと言うんだよ……』
『どうしてそんなに睨むの?ボク、なにかしたかな?』
『……今のお前は、なにもしてないだろうよ。エミリアたんが探してたぜ、こんなとこでうろちょろしてていいのかよ』
『いいのか、って言われたらちょっと微妙だね。ボクはリアに自由を制限されてるわけじゃないけど、あの子を困らせたいかって言ったらそれは違うから』
『今はスバルと話をしておいた方がいいと思ってね』
『……そのなんでもお見通しって態度、腹立つぜ』
『お前、魔女教のことエミリアに教えてないだろ。なんのつもりだ』
『なんのつもりもなにも、知らなくても生きていけることなら知らなくてもいいじゃない。聞かれたら答えるけど、リアも別に聞かなかったし……あんな連中、関わらなくていいなら関わらなくていいんじゃない?』
『そうだな。知らなくていい場所で、知り合う理由がないなら関わり合いにならないのが一番だろうよ。でも、今のエミリアは違うだろうが。あの子は森から出て、王様になるために国で勝負に出たんだ。なら、あいつらとの接触は免れない。――お前はそれを、知ってたはずだぞ』
『魔女教が出てくる、っていう予想はしてたね。でも、やっぱりそれをリアに伝えるかどうかは別問題だと思うけどな』
『エミリアも、その周りも危険にさらすかもしれないってのにか!お前がどう思ってるか知らねぇが、今回だってほっといたらエミリアは……!』
『なるほど。それでリアを助けるために頑張ってくれたんだね。その子も、リアを助けるための犠牲ってことだ。それならボクはその子に感謝しなきゃ……』
瞬間、スバルの意思はあらゆる事柄を無視して拳を突き出す動作に凝縮された。
目の前の精霊に対して、スバルは一切の躊躇なく渾身の拳をねじ込む。
が、精霊はそんなスバルの一撃すらもあっさりと避け、驚いた顔で顔を洗いながら。

「っ…!パック!」
その、あまりにも無神経な言葉に、エミリアは叫ぶ。
「犠牲に…感謝…?そんなの、スバルの前でだけは言っちゃいけないの!」
エミリアの叫びにベアトリスも目を伏せる。
「にー、ちゃ…それは、それだけは…」
「…酷い話ね」
ラムが前髪をするりととき、苛立ったような声を出す。

『急にびっくりするじゃないか、なんなの?』
『二度と、レムに触るな。手でも、口でもだ』
『不用意な言葉だったのは謝るよ、ごめんね。言っちゃいけない言葉だった。代わりにと言ってはなんだけど……『暴食』について少し話そうか』
『……それ聞いて、どうなるんだよ』
『その女の子の、『名前』と『記憶』を喰った存在を知れば、ちょっとはスバルの望みの可能性も上がるかもしれないと思ってね』

「…なんッなんだァ?こいつは」
「少々、嫌な気分になりますね」
「…大精霊様…」
空気が張りつめる。和らぐことなく。

『――取り戻す。レム、必ずお前を、俺は取り戻してみせる』
『俺が必ず……お前の英雄が必ず、お前を迎えにいく。――待っていろ』
『必ず。――必ずだ!!』

「英雄…」
「…オットーくん、今すごーく怖い顔してるわよ」
「えっ、そうですか?」
「ええ、スバルが無理した時によくする顔」
「…はは、気付かれてたんですね」
「…スバルとオットーくんは似てるから、気付くわ」
「そう、ですか」

Comments

  • シン
    November 10, 2024
  • しいゆ
    October 25, 2024
  • yuki
    October 25, 2024
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