light
The Works "不要な愛" includes tags such as "Re:ゼロから始める異世界生活", "リゼロ" and more.
不要な愛/Novel by 春風

不要な愛

13,878 character(s)27 mins

次回のリゼロどこまで行くと思います?
個人的にはレグルスのノミ発言くらいまでだと予想してます。

シリウスのストーカー的愛を聞いたあとだと、サテラは純愛だと思えてきました。

1
white
horizontal

『いったい、なにを……アナタは、なにをしているのかわかっているのデスか!?ワタシは大罪司教、魔女の恩寵に与る大罪司教なのデス!そのワタシを、同じく寵愛を受けるアナタが殴りつけるなど……!』
『言語道断ってか?悪いがそのあたりの話は聞き飽きたよ。お前と信じるものに関しての話し合いをするつもりはもうない。魔女なんざ、クソ喰らえだよ、ペテルギウス』
『よいデス!わかったのデス!アナタが、アナタが魔女の寵愛を、恩寵を、忘れたというのであれば、知らぬ存ぜぬと言い切るのであれば、ワタシはワタシに与えられた愛をもって、その不敬を償わせるだけデス!わからないわからないわからないわからないらないらないらないらないらないないないないないないないいいいいいいい!!何故!何故に! 愛を拒絶するのか!その真意がわからない!』
『――世界が狂ってるのか、自分が狂ってるのか。理不尽な状況に追い込まれて、思う通りになにもかもがいかないとき、思考の袋小路に陥るとそんな風に考えがちだが……』
『まぁ、答えの出難い問題なんだと常々思うけど、これだけは言える』
『狂ってるのはお前だ。俺が正しい。――ここで終われよ、ペテルギウス!』

「…世界が狂ってるのか、自分が狂ってるのか…スバルって、時々すごーく哲学的な話をするのね」
「スバルの故郷ではよく出る話題だったらしいのよ」
「そうなんだ……」

スバルの物言いにペテルギウスの瞳が暗い喜びに打ち震える。
それは彼の信仰を無碍に扱う愚か者に罰を与える、己の勤勉さに酔うが故の薄暗い歓喜の念だ。
同時、ペテルギウスの影が爆発し、足下から無数の魔手がスバル目掛けて伸び上がる。
四肢をもぎ取り、首をねじり切り、血を浴びるために。
だが、身をよじり、大きく左右に跳躍しながら、迫る掌を紙一重でかわす。
迫る腕の数は七本止まり、それはスバルを舐めているからではなく、いまだ自分の手元に『腕』が何本戻っているのか把握していないがためだろう。
いずれにせよ、数は対処できる数で、速度は遅く、不意打ちですらないのであれば、初撃を避けるのはそれほど難しいことではない。
『あり得ない、あってはならない……何故!アナタにワタシの!与えられし寵愛が!怠惰なる権能、見えざる手が見えているのデスか!?』
『俺の体にふんだんに臭いつけてってるらしい魔女に聞いてくれよ。おっと、俺と違ってお前は自由に魔女と面会できる許可証は持ってねぇんだったか?』
『それはどういう意味デスか……!アナタは、まるで魔女に!サテラと言葉を交わしたことがあるかのように……!』
『ハートをギュッと掴まれた仲だよ。文字通り』

「…スバル…」
「欲しくも無い寵愛を羨ましがられて、スバルは可哀想な奴かしら」
「そうですね、魔女の寵愛などというふざけたものに心浮き立つほどバルスは馬鹿ではありませんから」

『『見えざる手』が戻っている!?何故デスか!?指先は……ワタシの指先はどうしたというのデスか!!』
『想定通り、各所の部下――指先を支配するかなにかに使ってた『見えざる手』が、対象を失ったことで本体に戻ってきてるってことだ』
『おらおら、届かねぇとは情けねぇ!無能さらけ出して同情買おうとか、寵愛だのなんだのもらってる身で恥ずかしいとか思わないんですか?あぁなぁたぁ、怠惰ですくわぁ!?』
『――いくつか、気になる点がありマス』
『指先を失ったことは仕方のないことデス。ワタシの勤勉さが足りなかった、考えが及ばなかった、怠惰であった!それは認めるのデス、認めざるを得ないのデス。デス、デス、デス、デスが!考えてもわからないことが多すぎるのデス!見えざる手が見えていることも、指先の位置を割り出した手腕も、そうしてワタシの前に身を差し出したのが直接戦闘力のないアナタであることも!』
『故に、ワタシはこう考えるのデス。考えても仕方のないことは考えても仕方がないのデス。故に、怠惰でないワタシは考える必要が、理由が、結果が得られるものについて悩むこととしマス。――何故、アナタはワタシの前に姿を現したのか、挑発的な行動と言動でワタシの目を引くのか。それは』
『『見えざる手』が見えていて、対処するのに時間がかかるのであれば――我が指先を総動員し、数の暴力で片付けさせていただくとするデス!』
『普通に気付かれた――!』

「…まあ、相手もそこに気付かないほど馬鹿ではないよね〜ぇ」
「苦境が重なりすぎて冷静さを与えてしまいましたね……」

『なんデス!?』
共振波が森の大気を盛大に掻き回し、荒れ狂う破壊の奔流となって岩肌の地面をめくり上がらせ、終端の場として絶壁の中央を舞台に暴れ回る。
大岩の真上の崖部分が丸ごと剥がれ落ち、崩落が洞穴を、大穴を、そしてすぐ間近にいたスバルを一部巻き込んで広がる。
当たったら頭蓋をぐしゃりといきそうな岩塊に後頭部を掠められて、命からがらといった様子でスバルが這うようにして砂埃の嵐の中から這い出す。
『あはははー!おにーさんてば、虫みたいに逃げてるよー!ほら、ティビー、見てみな見てみなー!』
『見てますですし、今のはタイミングが悪かったと思うです。今以外のタイミングだったら、お兄さんは袋叩きだったと思うですけど』
『二人とも、よくきてくれやがったな、この野郎』
『およよ、おにーさんってば言いまちがえてるよ?ここはありがとー!どいたしましてー!いえーい!』
『感謝したいようなしたくないような、という気分が出ていて正しい発言だったとボクは思うですよ。ですけど』
『あれが大罪司教ですですか。……見てるだけで、心が不安定になりそうな嫌な感じがするです』
『深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を見ている――と、昔の人は言いました。あんまし真っ直ぐ見ない方がいいぜ。目の端か、鏡に映して間接的に見るのをオススメ。あと近づかない方が吉』

「あいつ……!」
「ガーフに懐いていた子猫じゃない」
「危なかった…!」

『ともあれ、お前らが合流してくれたのはなによりだ。増援潰せたし、ぶっちゃけあとちょっとでガメオベラするとこだった』
『で、肝心要のあいつはどうだ。まだ、合流できなそうか?』
『ユーリさんならもうちょっとでくるはずですです。ボクとお姉ちゃんが先についたのは誤差ですよ』
『ユーリってだれ?ユリウスじゃなくて?ユリウスだったらたぶん、もーちょっとでくるよー。においがしてきたから』
『――やはり、おかしいデス』
『視覚齟齬の術式で隠していた洞穴の場所を、今のは知っていたとしか思えない攻撃デス。森に潜伏させていた指先の存在も、如何にしてか看破せしめた。そしてワタシの『見えざる手』の存在も、それを見通す目も持っている。先に指先を潰して回ったことを考えれば、どうやらそれ以外のことも知られているようデス』
『福音書には!我が運命の導にはなにも記されていない!ならば、アナタの存在はなんなのか!寵愛を受け、にも関わらず魔女を蔑にし!試練を執り行うワタシの前に立ちはだかり、目論見の全てを塞いでみせる……!』
『やはり、やはりやはりやはりぃ、アナタは『傲慢』の――』
『俺の名前はナツキ・スバル』
『銀髪のハーフエルフ、エミリアの騎士だ。『傲慢』だかなんだか知らないが、俺の欲しがる看板はそれだけで、あとはいらねぇ』

「…スバル……!」
「…やはり凄いな、君は」

『もう、けっこうデス』
『愛に対して報いない!その魔女をも恐れぬ怠惰を、後悔するがいいデス!なんたる怠惰!なんたる怠惰!なんたるなんたるなんたるたるるるるるるるぅ……怠惰ぁ!!』
『マジかよ……』
黒い掌の膂力は木々を易々とへし折り、半ばで断たれた倒木を軽々持ち上げる。
絶壁の崩落現場から、スバルの頭ほどの岩塊がいくつも取り上げられた。
なおも無手の掌は獲物を求めて森をさまよい、その手に凶悪な物体を携えて戻っては空へ上がる。
その数、その重量、その致死率――見ただけで、百回死ねる。
『見えざる手が見えているのであれば、純粋な暴力でいかがデスか!百に迫る暴力を、我が権能が示す勤勉な破壊を、全て避けることが叶いマスか?さあ、さあ、さあさあさあさあさあさあぁぁぁぁ!アナタ、『怠惰』デスかぁ!?』
獲物が照準に入った瞬間、姉弟の叫びがそれらの破壊を迎え撃つ。
共振波が大気を揺るがし、投じられていたいくつもの障害物が割れ砕け、飛び散り、粉々に爆ぜていく。
それでも全てを突破できたわけではないが、左右から同時に後ろへ引っ張られて、浮かされるようにスバルの身が後退。
ほんの数瞬後、スバルのいた地点に次々と抗し切れなかった岩塊が激突、衝撃が伝わる。
もうもうと煙が立ち上る向こうで、ペテルギウスの笑声がケタケタと響く。
そしてその笑い声を助長するように、煙の上に再び別の腕が別の質量弾を構えているのも。

「…危ない!スバル、ぼーっとしちゃだめ!」
「大将ッ!気ィ抜くなァ!」
「スバル!もっと早く動くかしら!」

『この場での戦略目的はすでに達成した!指先は壊滅、最後の一ヶ所も見事に生き埋め……!つまり』
『つまりです?』
『どーするの?』
『――撤退!撤退ぃ!!』
『ヤバいヤバいマズイマズイ!チクショウ、想定外!あの腕、人体引き千切る以外にもやれんのかよ!ユリウスの野郎はまだか!パトラーーーッシュ!!』
『うえー!?なにあれー!?』
膝を抱えて丸くなり、体育座りの姿勢になったペテルギウス。
奴は自身の丸めた体を『見えざる手』に掴ませて、無数の魔手を蜘蛛の足のように伸ばして移動しているのだ。
黒い掌の威力は健在で、奴が通る先にある障害は根こそぎ抉られて吹き散らされる。
ただ真っ直ぐに、森を破り捨てながら禍々しい『怠惰』が追ってくる。
『宙に浮いてるですけど、あんな気持ち悪い浮き方初めて見たです!』
『ああ、そうか!お前らにはそういう風に見えんのか!』
『――あぁ!『怠惰』であれ!!』
『しま――っ!』
背後からの雄叫びの直後、黒い光が一瞬にして世界を焼き尽くす。
刹那の瞬間だけ視界を覆ったそれはスバルにはなんの影響もない。
だが、並走していた二人には、
『ぁぅ?』
『…………るっ!』
だらりと力が抜けて、崩れ落ちそうになる姉弟を運よく伸ばした腕が同時にキャッチ。
小柄な体を両脇に抱え込み、朦朧としている二人を抱いたまま森を走る。
ミミとティビーの二人には、この精神汚染があることをきっちり話していた。
彼女らではそれに抗えないだろうということも、汚染を受ければ精神が平衡を失い苦しむことになるのだとも。
だが、その情報を聞いても二人はスバルのところへ助力に現れた。
相対すれば戦意を挫かれると知っていてなお、彼女らはスバルを助けにきた。

「…やっぱりこの攻撃が厄介……!」
「精神汚染は最も戦場をかき乱すんだよ、フェリちゃんとかヴィル爺なら耐えられるけど、耐性のない人は何をしても耐えられにゃいの」

『足手まといは捨てて逃げたらいかがデスか!『怠惰』の権能の前に沈む、その愚かしい怠け者を!何故にそうまでして必死で守るのデスか!』
『ぺちゃくちゃうるせぇよ、バカ野郎!俺はモフリストだぞ!モフリストがモフっ子見捨てて、明日食う飯がうめぇわけねぇだろうが!!』
『愛してるぜぇ!パトラッシュ――!!』
『GO!!』
嘶き、パトラッシュが姿勢を低くして鋭い一足――即、風に乗る。
『お前は最高だ――!』
『誰も、彼も……もう、全部絶対に……!』
『どこまでもどこまでも……いったい、どれほどの手札を隠していたのデスか!これすらも、このことすらもわかっていたとするならば、アナタはいったい……!』
『戻ってきた!』
『ここは先ほどの……!?』
『なにを企み、目論見、狙っているのかはわからないデスが!それもこれも全て全部なにもかもぉ!ここで潰えて消えてなくなってしまうがよい、デス!!』

「危ない!避けて、スバル!」
「逃げきれないかしら!」

『エルドーナ』
『待ち合わせ場所にきてみれば姿が見えないのでね。少々、気を揉んだよ』
『……お前がくるのおっせぇからだよ。どこで道草食ってやがると、こんだけ予定から遅れやがるんだ』
『負傷者を村へ運び込むのに時間がいったんだ。到着して青褪めたものだが……合流できて、なによりだとも』
『うちの女神のおかげだよ。……あとで、お前のとこのオスを紹介してくれ』
『遅れてすまなかった。手筈通り、状況は進んでいるようだね』
『ルグニカ王国近衛騎士団所属、ユリウス・ユークリウス』
名乗り上げ、ユリウスは抜き払った剣を縦に構えてペテルギウスへかざす。
その登場に森の出口で動きを止めていたペテルギウスは目を見張り、続く言葉を待ち構える。
静かな息遣い、沈黙、そしてユリウスの周囲に輝く六種類の準精霊。
『貴様を斬る、王国の剣だ』
『精霊術師、デスか。……どこまでも、本当に、どこまでもぉ』

「ユリウス!」
「全く、遅いかしら!」
「間に合ってよかった……」

『一見して常軌を逸しているのがわかる手合いだ。宙に浮いているように見えるが、あれが君の語った『見えざる手』とやらの力なのだろう?』
『ああ、蜘蛛みてぇに腕伸ばして生やして浮いてるんだよ』
スバルの答えに「それは恐い」とユリウスは小さく肩をすくめる。
それから彼はちらりとスバルが抱きかかえる姉弟の方を見て、
『二人は……負傷をしたのかい?様子がおかしいが』
『言ったろ、精神汚染だ。食らったら心がへし折られる。……だからくるなっつっておいたのに。超助かったけどな』
『やるぜ、ユリウス』
『いいのだね?』
『引けねぇ、曲げねぇ、負けられねぇ。もう誰も、失いたくねぇ』
『私は君を、ひどく打ちのめした男だ。あの行いに私なりの理由と意義があったと今も信じているが、それは君にとって関係のない独善的なものに過ぎない』
『過去を掘り起こし、罪を雪ぐことを求めているわけではない。君の覚悟は重く、そして決断と行動はここまでの道を形作ってきた。故に問いたい。この局面で、私の存在を隣に置き、君は心おきなく本懐を遂げられるのだろうか』
『君は私を、信じられるのだろうか』
『――俺は、お前が大嫌いだ』
『ああ、知っているとも』
『なんか典雅な感じの髪型がイラつくし、喋り方も馬鹿丁寧で胡散臭ぇ。かといって明らかに俺を見下してやがるし、そういや初めて見たときお前エミリアたんの手にキスしてやがっただろ。俺が今後、エミリアたんの全身に余すところなくキスしようとしたらお前と間接キスになるじゃねぇか、ふざけんな』
『手足折られて、頭割られて、永久歯まで根こそぎ歯磨きだ。治ったからいいものの、普通に考えりゃトラウマ確実でお外歩けなくなるレベルだぞ、手加減を知らねぇのか、てめぇ』
『言っておくが、だいぶ手を抜いていたよ』
『マジでか。手加減してあれか。やっぱお前、最高に嫌な奴だ』
『――俺はお前が大嫌いだよ、『最優』の騎士』
『だから、お前を信じる。お前がすげぇ騎士だってことを、俺の恥が知ってるからだ』
『頼むぜ、ユリウス。――俺の全部を、お前に預けっからよ』
『ならば私は全霊で、それに応えよう――』
掲げた剣を天に差し向け、ユリウスが呟けば準精霊がそれを祝福する。
剣の周りを回るように、取り巻く色鮮やかな精霊たちが空を踊り、中でもひときわ強く輝くのは白と黒の準精霊。
輝きは増して、強まり、そして目を焼くほどの光を放ち――

「…やっぱり、ユリウスとスバルはすごーく仲良しなのね?」
「エミリアの認識には些か疑問を呈さずにはいられないかしら」
「全くです、ナツキさんの友人はこの僕ですから」
「お前も変なところで主張が強いやつかしら」

『――クラリスタ』
虹色の輝きの一閃が、迫りくる『見えざる手』を根こそぎ斬り払っていた。
煌めきが乱舞し、光の乱反射を浴びせながら刃の軌跡を輝きで描く。
その軌跡の過程にあったはずの黒い妄念は消失し、起きるはずだった破壊もまたない。
『こちらに触れられるということは、こちらからも触れられるということだ。干渉できる能力であるのなら、六属性を束ねたこの刃に断ち切れぬものはない』
『アナタは、アナタには、見えないはずデス。見えていないはずデス。『見えざる手』が斬られた……!その事実よりも、もっと問題なのはそちらの方デス!見え、見える、見えるはずが、はずが、はずが、ががが、ない、ない、ないのデス、ないのに、デス、のに、デス』
『見てるのは俺だ、ペテルギウス』
『お前の『見えざる手』を見てるのは俺だ。ユリウスは、俺の見てる光景を見ているだけ。思った以上に、気持ち悪い感覚だけどな』

「そんな使い方ができるの…?」
「ええ、出来ますよ、エミリア様。少し変な感覚ではありますが」
「ネクトは意思疎通の高等魔法…。共感性を高めれば自他の境目が曖昧になる…不思議なことでは無いかしら」

『意識的に感覚の一部を共有し、維持することもできるはず――君から最初、この話を持ちかけられたときは正気を疑ったものだったが』
『ちゃんとできただろ?男は度胸、なんでもやってみるもんさ』
『こう言っちゃなんだが、長く続けてたいとは思わねぇな、この状況』
『まったく同感だ。頼まれても二度と遠慮したいものだよ』
『おのれ……おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇ!!』
『じゃ、お前と気分共有ってのもうんざりだ。――とっとと、終わらせようぜ』
『ああ、そうしよう』
『君の目で、私が斬ろう。――我が友、ナツキ・スバル』

「頑張れ大将ッ!ぶちのめしちまえェ!」
「頑張ってスバル!」

『笑えないのデス、冗談ではないのデス、あってはならないことなのデス!そのような手立てで、ワタシの愛を……忠誠を、蔑にしようなどとぉ……!』
『とっとと、終わりにしたいってのはまぎれもねぇ本音だぜ……』
『少しずつ、体が慣れてきた。スバル、速度を上げるが?』
『ああ、ついていくから安心してろ!』
『馬鹿が、馬鹿が、ふざけやがって……ホントにお前は、嫌な奴だ!』
自分の視界を放棄し、見える光景の全てをスバルに委ねるということは、スバルが目をそらさないで戦うことを彼が信じていると命で証明したに他ならない。
さらにさらに付け加えるのであれば、スバルの視覚に全神経を投入するということは単純な話ではない。
スバルの目はあくまでスバルの肉体のものであり、ユリウスの肉体に付属するものではないのだ。
つまりユリウスは今、後ろから客観視点で見える自分の肉体を、第三者の立ち位置から捉えながら動かして戦闘に臨むという荒業を行っているのだ。
『ゲームとかとは違ぇんだぞ……。一度捕まったらそれで終わりのクソゲーだ。それに命預けるとか、どうかしてやがるぜ、俺もお前も』

「信じているからだよ、スバル。私を信じてくれるように、私も君を信じている」
「ベティーもスバルを信じているのよ」
「私も!」
「俺様ッもだァ!」
「芋づる式に信頼が出てきた……」

『こちらにばかり気遣わなくとも、アナタさえ倒せばそれで終わりなのデスから!』
『ユリウス、ヤバい!戻れ!戻って!フォローミー!』
『いやはやまったく……世話の焼けることだ!』
『必死なのはわかるが、少しは自衛したらどうだろうか。これではおちおち、敵と正面から向かい合うこともできない』
『その言葉、お前にそっくり返してやるよ!俺もおちおち落ち着いて見てられねぇよ!必死こいてる騎士様が俺の瞳越しに見えるか、ええ?』
『目をつむる、憂い顔の美丈夫が映っている。家柄と才能に恵まれていそうな顔立ちだ』
『実は俺とお前じゃ見えてる景色が違う疑惑!!』

「よくもそんな言葉を真顔で……」
「恐ろしいやつかしら」
「こうして皆に見られると恥ずかしいですね」
「スバルすごーく元気ね!」

『こんなはずがない……こんなことがあるわけがない……!何故デス、何故なのデス!どうしてこんな、ワタシの権能を!ワタシは、愛されたはず、愛されているはず、愛されているのデス!愛しているのデス!これだけ、これほど、これほどまでに!ワタシは、そうでなければ何故!ワタシという存在を、魔女は導いてきたというのデスか!』
『支離滅裂な発言に付き合ってはいられない。黒い魔手も、相応に数を減らした。そしてなにより、スバルの目を通して戦う方法も体に馴染んだ』
『――そろそろ、本気で貴様を斬らせてもらおう。長きにわたり、王国を……いや、世界を脅かしてきた脅威の一端、『怠惰』をここで断ち切る』
『できるものか!させるものか!ワタシを……ワタシは!四百年間、魔女の寵愛を一身に浴びて、魔女の意思を体現するそのために、勤勉に努めてきたのデス!そのワタシを、あろうことかアナタのような……アナタのような、木端精霊を連れているだけの愚か者に、遮られるなど断じてあってはならないのデス!!』
『ユリウス――!』
『わかっている!大罪司教、覚悟――!!』
『――アルクラリスタ!!』
『そうはさせないの、デス!!ウルドーナ!!』
『燃えろ闘魂!うなれ魔球!――俺の本気は、百二十キロだぜ!!』
『なんデス……!?』
赤の魔鉱石に秘められた破壊のエネルギーが、ユリウスの背を追い越して障壁となっていた土壁へ激突――そこで光と高熱を発して爆砕し、爆炎を上げてペテルギウスの正面を赤で埋め尽くす。
『まさか、これを最初から……!』
『貴様の敗因は、たったひとりで戦いに臨んだことだ!』
炎を破るように飛び出し、ユリウスの突きがペテルギウスの胸部に突き刺さる。
虹の輝きがペテルギウスの体を貫き、極光が痩身を内側から焼き焦がす。

「うぉぉおおおおッ!かっけェ!!」
「スバルすごいのよ!」
「ユリウスもすごーくスバルと息があっててすごいと思うの!」
「流石我が友ナツキ・スバルだ……」

『馬鹿な、バカな、ばぁかぁなぁ……こんな、ワタシの、体が……こんな』
『六属性を束ねた刃は、貴様の体を内から焦がす。貴様の正体がこちらの推測通りなら、このまま掻き消えてしまうがいい!』
『終われない!終われるはずがない!終わっていいはずがないのデス!ワタシは勤勉に努めてきたのデス!怠惰な諦めに、怠惰な終わりに甘んじるなど考えることすら許されないのデス!だから、ならば、なんとしても……!』
『指先を失い、今もこうして肉体を損なう……デスが、デスが、デスがぁ!まだ!ワタシには!残された体が、あるの……デス!』
『あぁ――脳が、震える』
次の瞬間、ユリウスに串刺しにされたペテルギウスの肉体が、まるでぷつりと糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
目から光を失い、だらりと頭を下げた肉体から生気の一切が途絶えて消える。
その反応を見てとった瞬間、スバルはくるべきものがきたと判断。
即座に胸に手を当てて、懐からあるものを抜き出すと同時、
『ユリウス!解除しろ!!』
『わかった!』

「憑依……!」
「スバル、頑張って……!」

『やはり、アナタの肉体はワタシを収める器としての素養がありマス!さすがのアナタも、こうなることまで想定してはいなかったはずデス!あぁ、あぁ!あぁ!アナタ、怠惰デスね?』
脳の隣に寄り添ったのではと疑うほど、至近でペテルギウスの狂笑が響く。
ついで、スバルの肉体はスバルの意に反して、こちらへ向かって走り寄ってくるユリウスへと右手を伸ばす。
そのまま、スバルの影が膨れ上がり、その内から噴き出す『見えざる手』が視認の手段を失ったユリウスを目掛け――、
『うぶぇっ』
『――あぁ?』
ぐらり、とユリウスへの凶行へ及びかけたスバルの肉体が上体を揺らがした。
熱に浮かされたような浮遊感がふいに頭蓋を大きく震わせ、姿勢を維持できないままにスバルはその場に受け身も取れずに倒れ込む。
そうして倒れ込んだスバルの手から、握られていた対話鏡がこぼれ落ち、
『対話鏡越しに位置がわかればこのぐらいは、ネ。それにしてもスバルきゅんてば、自爆覚悟の作戦練るにゃんて、本当にお・ば・か・さ・ん♪』
もう確認することもできない対話鏡の鏡面から、聞き慣れた悪戯な声が鼓膜に届く。
それは鏡越しにこちらの状況をずっとうかがっていたフェリスであり、スバルの指示通り――ペテルギウスの憑依の合図と同時に、スバルの肉体を尋問した魔女教徒と同様の『人形』へと変えたのだ。
もっとも、スバルの意識は健在であり、肉体の自由を奪うにとどめた限定的な水のマナの暴走に過ぎないが。

「えっ、うそ!?スバル、こんなやり方……?」
「いやぁ〜、流石のフェリちゃんも驚いちゃいましたよぉ」
「ナツキさんあんたほんとに命大事にしてくださいよ!」

『まとも、な……精神状態が保てなきゃ、『見えざる手』も出しようがねぇだろ?』
『まさ、か……まさかまさかまさかまさかささささかかかかかか、ワタシが……ワタシがアナタの体を乗っ取ることすらも読んでこれを!?』
『『見えざる手』で人質作戦も無理。そろそろ、諦める気になったかよ?』
『諦めなど……このまま、アナタの肉体を奪い、ワタシはワタシをワタシの、ワタシがワタシでワタシをワタシはワタシがワタシワタシワタシワタシワタシぃっ!?』
『乗っ取られると、フェリスが本気で殺しにかかってきかねないんでな。俺なりの方法で、お前と戦うことにする』
『アナタ、なにを……する気デス、か?』
『強制的に他人に同調する――それが、お前の憑依の正体だ。怠惰のペテルギウス……いや、精霊ペテルギウス・ロマネコンティ!』
『ワタシを――!!』
『ワタシを!精霊などと!そのような下等な存在と一緒にしてほしくないのデス!ワタシは精霊を超克した存在デス!精霊を超越し、たゆたう曖昧な存在であることを脱却し、寵愛によってひとつの意思を獲得した選ばれし存在なのデス!それを!それをぉ!キサマなぞにわかったように語られてたまるかぁ!』

「精霊など…随分言ってくれるのよ」
「ええ、すごーく嫌な言葉」
「魔女教が嫌な言葉以外を話すことなどありませんよ」
「精霊術師としては聞きたくない言葉だね」

『愛がワタシを変えたのデス!愛がワタシに意思を、存在意義を与えたのデス!それも全てなにもかも魔女の恩恵、魔女の寵愛!ならば、ならばならばならばならばならば!この身は、魂は、全て魔女のために、捧げて然るべきなのデス!』
『ご高説、けっこうだ。――なら、特別にお前に会わせてやるよ』
『なにを!誰と!なんの話を――!!』
『お待ちかねの、魔女様に――だ』
『――俺は、『死に戻り』をして』

「スバル…まさか」

暗闇だけが広がる世界に、その存在は導かれていた。
なにもない、自分の体すらもどこにあるのかわからない。
意識だけがあり、それ以外の存在を知覚することができない。
腕を伸ばそうとしても、腕の存在が見えず、腕で触れられるようなものがこの世界にあるとも思えない。
そもそも、手足といった体の部位の認識が曖昧になり始めている。
肉体の有無が、この世界においてどれほどの意味を持つというのか。
世界に置き去りにされて、肉体からも切り離されて、意識だけ魂だけで存在する。
そのひどく頼りない感覚が、その圧倒的な喪失感が、それをひどく懐かしく思う自分がいることに気付き、意識はその事実を認め難いと拒絶の感情を強くする。
だが、それら自身の感情の行き先が、それら持て余した激情の矛先が、全てどうでもよくなるほどの変化が暗闇の世界に訪れる。
それは、漆黒の世界に漆黒を塗り潰すほどの闇をまとって現れた人影だった。
女性である、とそれだけは感じ取ることができる。
顔も、その肢体も、おぼろげで不確かでなにひとつ判然としていない。
そんな世界にありながら、意識はたったひとつの真実に辿り着いて、歓喜する。
目の前に現れたその存在との出会いを祝福し、震えんばかりの感動を理由に。
この存在と出会うために、今日までの日々はあったのだ。
思い出すこともできない、それでも長い長い日々――それはすべて、今この瞬間、このほんの刹那の時間のためだけに費やされてきたのだ。
指先が存在しないのがもどかしい。
今すぐに歩み寄り、手を取りたい。
口が存在しないのがもどかしい。
この思いの丈を言葉にしてぶつけたい。
体が存在しないのがもどかしい。
望まれるのなら、肉の身など全て捧げても構わない。
意識だけであることがもどかしい。
捧げられるものが、これだけしかないのだから。
依然、彼女は沈黙を守り続けている。
だが、その意識が、こちらへ向けられていることだけは如実に感じ取れた。
彼女の意識する世界の中に、自分が入っていると思っただけで天にも昇る想いがあった。
そして、求める『愛』を、その口から告げられて、意識は本当の答えに――。
『――違う』
それは、ひどく掠れた失望に彩られた声だった。
それがどんな言葉であっても、天上の美声を聞いたように心を震わせる準備が意識にはできていた。
なのに、いざその声を聞き入れたにも関わらず、意識に襲いかかったのは溢れ出ることをやめようとしない不安の影。
『愛』を語られるはずだった場所で、待ち望んでいたはずの答えに辿り着ける場所であるここで――。
『――あなたは、あの人じゃ、ない』
声に満たされる失望。
そしてそれは、すぐに別の感情に取って代わられる。
即ち――、
『あの人でない存在が、どうして私とあの人の場所にいる――?』
怒りが、声に込められていた。
それはこちらを否定する言葉だった。
拒絶する言葉だった。
そうして扱われることの意味がわからず、意識は彼女の言葉に取り縋るように嘆きを口にしようとする。
だが、意識には口がない。
意思を伝える手足もない。
意識にあるのは意識だけで、彼女と触れ合うことも、言葉を交わすことも、ましてや彼女に愛されることもできるはずもなく、
『――消えてしまえ』
意識の困惑も戸惑いも嘆きも、彼女にはなにも伝わらない。
伝わったとしても、それはなんの意味も持たない。
彼女にとって、意識は無価値であり、無意味であり、無為であるからだ。
拒絶と否定が、その意識の絶望を肯定する。
そのまま意識はこの切り取られた世界の枠組みから切り離されて、あれほど望んだ邂逅を前に遠く遠く沈むように消えていく。
彼女の姿が遠ざかる。
これほど、あれほど、こんなにも、焦がれた姿が彼方へ消える。
その意識の嘆きを、もはや彼女は一顧だにしていない。
ただ静かに彼女は下を向き、
『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる』
――意識ではない、別の誰かへの『愛』をひたすらに、唱え続けているのだった。

「…あ、れが」
「……サテラ」
「嫉妬の魔女……」
「この、こえ」
どこかで聞いた声だと、エミリアは思った。
それがどこかは、考えないことにした。

『――あぁがぁ!戻ってきたぁ!!』
『いずれ、解き明かしてやるさ……だけど、今は!』
『こん、な……はず、が……ないの……デス……』
『最悪、出ていくまで何回も繰り返すつもりだったが……一回でギブとは、根性なしもいいとこだぜ、てめぇ』
『今度こそ、終わりにしよう』
『魔女よ……魔女よ!魔女よ!魔女よぉ!これほどまでにアナタに捧げ尽くして!あれほどまでにアナタのためになにもかもを捨てて! 思いつく限りの全てをアナタに捧げたというのに、何故デスか!何故なのデスか!何故、ワタシをお見捨てになるのデスか!?何故なのデス!何故なのデスか!魔女よ!それならば……それならば何故、ワタシに愛を……寵愛をぉ……!?』
『お前が捧げたのは信仰でも愛でも、ましてやお前自身でもない。ただ、お前の周りを歩いていただけの通りすがりの人たちだ』
『――脳、が、震、え、る』
『ワタシは、愛されて――』
『ペテルギウス・ロマネコンティ』
『――お前、『怠惰』だったな』

「……やっと、倒せた、の……?」
「……いや、確か……」
オットーは記憶を巡らせる。
直接は見なかったが、自分の背後でスバルはペテルギウスと……。
「まだ、終わってなかった、ような」

Comments

  • レイラ
    Mar 28th
  • シン
    November 10, 2024
  • もう少し地の文を減らしてキャラの反応を増やしてほしいです。今原作でどのあたりなのか分かるぐらいの最低限のセリフでいいと思います……!

    October 23, 2024
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags