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彼が望むのはいつだって/Novel by 春風

彼が望むのはいつだって

11,179 character(s)22 mins

フード被ってる時の敬語スバルくん新鮮で好きです。
ペトラちゃんの言葉は小学生の時と高校生の今では違う受け止め方ができて楽しいです。
小学生の時はレムとエミリアが好きで、スバルくんは普通くらいだったんですけど、Web版読んだらスバルくんが一番になりました。
Web版読んでてスバルくん嫌いな人っていないと思ってるんですけど、どうですか?
アニメだと独白がないので嫌いになる人が多いのかなって思ってるんですけど…
演説シーンでスバルくん推しが増えるのはもう決定事項なんですけどね

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『――整理、しよう』
『これより我々は魔女教が待ち受ける、メイザース領へ向かう。目的は魔女教の殲滅――ここには、率いている大罪司教の捕縛が必須の条件だ。そして、魔女教との戦いに巻き込まないためにも、ロズワール辺境伯の屋敷関係者と周辺の住民には避難してもらう。避難のための足に関しては……』
『アナスタシアさんとラッセルさんに頼んで行商人を確保済み、だ。……悪い。もう落ち着いたから、大丈夫だ』
『気にする必要はない。むしろ、私の理解が正しくできているかが確認できてよかったよ。あまり、君は説明がうまい方ではないようだから』
『前置き通りに、こんだけ大勢に囲まれて真ん中で話すとか慣れてねぇんだよ。引きこもりの対人能力は相手の人数に比例して低下するのを覚えとけ』

「…これは…」
「ユリウス、ここの会話は覚えてたりする?」
「ええ、ここは記憶にあります」
「…!じゃあ…」
「安心するのはまだ早いんじゃにゃい?戻る地点がどこになるかはスバルきゅんにも分からないんだし」
「そう、ね…スバル…」
「そんな心配そうな顔しなくてもいいのよ、エミリア。スバルならきっと何とかできるかしら」
「!そうね…信じるしか、出来ないもの」
スクリーンに流れる死を見ることしか。

『魔女教の大罪司教は、強敵だ。魔女教の奴らも一筋縄じゃいかねぇし、戦いだってきっとこっちにも犠牲が出る。俺はまず、それをみんなに知ってもらわなきゃいけない』
『白鯨も倒して、ホントならすぐにでも王都に凱旋したいとこだと思う。疲れてるし、ケガしてない人だっていやしない。そんな状況で俺の……俺の主を守るために、力を貸してくれるみんなにはなんて言ったらいいのか……感謝、しかない』
『大罪司教を、今度こそ仕留めよう。そのために俺のできることは、俺の差し出せるものは全部、惜しみなく出すつもりだ。だから、力を貸してくれ』
『みんなが必要なんだ。――一緒に、俺の大事な人たちを、守ってくれ』
『スバル、顔を上げたまえ』
ユリウスの声に、ゆっくりとスバルが顔を上げる。
そのスバルの前に広がったのは、朝焼けの世界で目を焼くような光の乱舞。
――膝をつき、抜き放たれた剣を掲げる騎士たちの姿に他ならない。
『何度繰り返しても、どんだけ俺が馬鹿で戻ってきても……力、貸してくれるんだな。何度も、俺を立たせてくれるんだな』
『これから決戦だってのに、盛り下がる雰囲気のこと言って悪かった。忘れて……くれなくてもいいけど、みんなには内緒な』
『エミリア様とお会いする前に、よい土産話ができたとしておこう。それで、魔女教の話をしてもらえるだろうか』
『流れの傭兵なんて立場の人間を高貴なエミリアたんの前になんか出さねぇよ。仕事終わったら小金受け取って帰れ。――じゃ、話すぜ』
『まず、魔女教を率いてる大罪司教なんだが、『怠惰』の担当で――』

「スバル…」
「…これならきっと、大丈夫かしら」
ベアトリスが目を伏せて微笑む。

『パックが使えなくて、エミリアたんもペテ公と会わせられない以上は候補から外れる。……ユリウス、お前の精霊魔法で人ひとり氷漬けにとかできないのか?』
『難しいと答えるしかない。確かに六精霊との契約で私は火の系統も扱えるが、純粋な精霊術師とも精霊とも言えないのでね。そこまで精緻な術の行使を期待されれば、自信の面で肯定はできかねる』

「氷漬け…私が戦えたら、手伝ってあげられるのに…」
「氷漬け以外の方法で撃破するしかないかしら」
「系統が違う以上、魔法で倒すのも難しいようね。バルスは魔法がろくに使えないし…どうするつもりなのかしら」

『確認するが、スバル。本当にこの通りに動いて、君はいいのだね?』
『くどいぜ。立案したのが俺なのに、その俺が『やっぱやーめた』とか言い出せるわけねぇだろ。……エミリアたんは、怒るだろうけどな』
『しかし、これではあまりに君が報われない。もっと私たちに負担をかければ、条件を見直すことも……』
『そうやって『嫌だ!』ってなんて甘えるチャンス、俺に与えてくれんなよ。絞り出してるように見える俺の勇気だって、全部借り物なんだからよ』
『別に最終的にエミリアたんと笑い合える未来を投げ出したわけじゃねぇんだ。ただ、そこに行くまでの道筋がちょいと険しく見えるだけ。それも、別に俺らがうまくやれば俺ら以外の誰が気付くわけでもねぇ険しさだ。楽勝だろ?』
『……楽勝、などと吹聴できる君の図太さが羨ましいな。私はどうしても、正当に評価されないものに対して心がざわめくのを抑えられない。未熟者だよ』
『おいおい、頼むぜ、最優の騎士さんよ。俺がこうやって楽観的に構えてられんのも、最終的にエミリアたんと熱く抱擁するのにも、お前の力が不可欠なんだぜ?……おい!なんてこと言わせんだ!本音じゃねぇぞ!勘違いしないでよね!』
『君は忙しい男だな。――だが、気持ちは伝わったとも』

「…スバルは、少々自己犠牲に走りやすいところがある。そこが気掛かりだな」
「そうだね。そこがスバルのいい所だとも僕は思うけど…」
「スバルの自己犠牲はもう治りそうにもないのよ。最近やっと周りを頼り始めたくらいには自分を追い詰めやすい性分なのよ」

エミリアとラムが降りて村に合流し、竜車への乗り込み作業が始まる。
村人たちはずいぶんと素直に討伐隊の面々に従っているようで、ごねる様子も大した不安も見せず、それどころか滅多に見かけない規模の竜車の群れにいくらか興奮しているものが多いようにすら見受けられた。
そんな彼らの手際の良さにエミリアはひどく驚いたのだが、そんな彼女をもっとも驚かせたのは、エミリアが乗る竜車の割り振りを聞いたときだった。
『――よろしくお願いします、お姉ちゃん』
『えっと……』
『これって、なにかの間違いじゃないの?だって……』
『間違いじゃありませんよ。エミリア様にはこちらの竜車に、この子たちと一緒に乗っていただきます。竜車の人員配置の問題で、どうしても仕方ないのです』
『他に竜車はないの?この子たちだって……』
『自分と乗るのは嫌がるはず、ですか?』
『それ、この子たちに確認したんですか?嫌がられる、嫌われていると、そう思い込んでいるだけでは?』
『聞かなくたってわかってるもの。だから、この子たちのためにも別の竜車を……』
『子どもをダシにして、自分の弱さから逃げるのはよくねぇと思いますよ』
『どうだい、ペトラ。君はあのお姉さんと、一緒の竜車には乗りたくないか』
『そんなことないよ?わたし、お姉ちゃんと一緒でいい』
『……え?』
『お姉ちゃん……お芋のハンコのお姉ちゃんでしょ?いつもスバルと一緒に、朝のラージオタイソーを見にきてくれてた』
『お顔は見えなかったけど、お姉ちゃんがいつも楽しそうにしてたの、わたしも見えてたもんスバルがすごく楽しそうにお姉ちゃんと話してるの、見てたもん。スバルがすごくお姉ちゃんを……だから、わたしもお姉ちゃんのこと、恐くないよ?』
『お姉ちゃん、一緒に乗ろ?みんながお姉ちゃんをひとりぼっちにさせようとしてるって、言われたの。でも、わたしは手を繋いでてあげるから』
『――うん、うん』
『もう、さびしくしなくていいんだよ?』
無邪気で、無垢で、この世の理不尽も悪意も、なにも孕んでいない眼差し。
エミリアにとって当たり前にあった感覚が、当たり前にあった迫害が、当たり前のはずの差別が、そこに感じられなかった、それだけのことで。

「…スバル、だったんだ…」
「子供というのはいつだって無邪気で残酷な生き物かしら。今回は、エミリアにとってはそれがいい方向に動いたようなのよ」

――時は少し戻り、メイザース領へ向かう最中の作戦会議の場面へ。
『村人やエミリアたんに、魔女教が迫ってるって事実は知らせない。避難の理由は……ぼんやり、山賊やら野盗やらが近くに紛れ込んだとかでいいと思うんだが』
『事実を隠匿する根拠は……これは、聞くまでもないことか』
『悟り切った反応をありがとよ。……みんなが思ってくれた通り、魔女教がこの騒ぎに関係してるとばれた場合、被害者の意識の矛先がエミリアたんに向く可能性が高い。そんな風に思う連中だなんて、俺も思いたくなかったんだが』
『山賊、そのあたりで統一するか。王都方面を騒がせてた奴らがこっちに入り込んで、同盟関係にあるクルシュさんの陣営が助太刀に参上。そんなとこでどうだ?』
『陳腐ではあるが、言うほど穴のない意見ではあるね。問題はエミリア様や村の人々がそれに騙されてくれるかだが……』
『実際、これだけ数揃えてるとこと、先行してる行商人部隊の存在があれば不自然さから目をそらすには十分だと思うぜ?それに、全員を全員、騙すつもりがあるわけじゃない。そのあたり、見誤らない相手には心当たりがあるからな』

「山賊…良い言い訳を思いついたものなのよ」
「スバル…」


『エミリア様が批判の的ににゃらにゃいようにしたいってのはわかるけど、でもでもそれだけにゃらさっきのスバルきゅんの意見はよくわかんにゃいよネ?』
『わからない……ってのは、どこが?』
『エミリア様と感動の再会をするつもりがない、って部分だヨ、スバルきゅん』
『クルシュ様との同盟締結に、白鯨討伐にも協力。さらにまさに今、領地を脅かす外敵を倒すために援軍を連れて戻る――これ、どこの英雄譚って感じにゃのに。手酷い別れ方したって聞いてるけど、汚名返上して余る活躍ぶりだと思うけどにゃー』
『改めてそれだけ羅列すると頭悪い活躍ぶりだな。……ま、実際俺がやらかしたことのツケを考えると、それぐらいの手柄でもなきゃ挽回できるとも思えねぇけど』
『スバルきゅん、もちょっと客観的に自分の行いを振り返った方がいいんじゃにゃいかなーってフェリちゃんは言ってみる』

「…スバルが全部悪いわけじゃないのに…私も、スバルが悲しむのがわかってたのに…」
「スバルは自罰的な考え方をすることが多いのよ…スバルの、悪いくせかしら」
「フェリちゃん的にはスバルきゅんのああいう考え方は直した方がいいかな〜って思いますよ」
「…そうだね。スバルは少々悪意の矛先を自分に向けてしまうところがある」

『なかったことになんか、できるわけがねぇ。あれがあのときの、俺の本音だ』
『だからこそ、本音は手柄持って帰ってあんときのことを全部詫びたいんだが……』
『俺がいるとわかれば……いや、俺が村に残って外敵と戦うとわかったら、それで大人しく逃げてくれるような子じゃないんだよ。十中八九、一緒に残る。それでなくても途中で引き返してきちまう。あの子はそういう子だ』
『ケンカ別れした相手を死地に置いてって、それでせいせいしたって胸を撫で下ろせる子だったら……俺もこんなに入れ込まなかっただろうよ』

「スバル…」
スバルの言葉は正しい。
エミリアは、スバルを危険な場所に置いてなんて行けない。
「…ごめんね」

『外敵が魔女教であって、それがエミリアたんを狙っていると本人に気付かせないこと。外敵と戦う討伐隊に自分縁の……つまり、俺がいると報せないこと。これが、エミリアたんを戦場から遠ざける必須条件だ。言い切るぜ』
『そこまで警戒しにゃきゃダメにゃこと?エミリア様なら、討伐隊に加わっても足引っ張らにゃいと思うヨ?あの大精霊様だってついてるんだし……』
『クルシュさんの例を考えると、エミリアたんの名声値稼ぎには陣頭指揮してもらうのが最適だと思うんだが……今回は見送らせてもらう。魔女教と――大罪司教の試練を、エミリアたんに受けさせるわけにはいかない』
『村人の説得には俺と……クルシュさんのとこの軍隊ってわかった方が安心してもらえるだろ。フェリスとヴィルヘルムさんあたりに協力してもらいたい』
『承知しました』
『りょうかーい』

「…ただ戦うだけならエミリアは力になるのよ。でも、相手が魔女教ならそれは悪手にしかならないかしら」
「…そうね…」
「魔女教の執着は異常です。エミリア様ならよくお分かりとは思いますが…」

『白紙の親書を持ち込んだ行商人に続いて、今度は武装集団の登場とは……ここがどなたの領地であるのか、理解していないようだわ』
『行き違いのすれ違いで色々あるとは思うけど、そんな敵意満々で睨むなよ。久々の再会なんだし、笑顔でタップ踏んでくれていいんだぜ?』
『身勝手な言い分を……聞き覚えのある戯言だわ』
『……バルス?』
『そ、正解。しっかし、真面目にすげぇなこのローブ。知り合いと会話しても、疑ってじっくり見て半信半疑ってレベルか。鬼がかってんな』
『いちいちしまらないところがまさしくバルスだわ。ご機嫌を損ねて王都へ置き去りにされたと聞いていたけど……どの面を下げて戻ってきたの?』
『ホントに容赦ねぇな、お前!?イマイチ反論もできねぇけどこの面下げておめおめ舞い戻ってきたよ!ただで戻ったわけじゃねぇけどな』
『それで、どんな用件でこんな大人数を連れ帰ったの?報復のつもりなら、ラムは留守を預かる身として徹底抗戦せざるを得ないけれど』
『俺ってそんな恩知らずだと思われてんの!? 悪いことすりゃ叱られて当然だろ。それで逆恨みしたり拗ねたりなんて……まぁ、してたけど』

「あれを叱られたと拗ねた…なんて言葉で片付けてしまえるのがバルスをバルスたらしめる所以ね」
「喧嘩…なんて優しい言葉で片付けていいのかな」
「スバルがそれでいいと思っているのだから、いいんじゃないかしら?」

『報復なんてもってのほかだし、悪ふざけでこんだけの大人数巻き込んだわけでもない。……行商人の人から、親書は受け取ったか?』
『……白紙のそれを親書と呼べるなら、受け取ったわ。ラムとしては果たし状のような意味合いで受け止めたけれど』
『お前そんな血気盛んだったっけ?なんでもかんでも攻撃的に捉えてないで、ちょっと小魚食べてカルシウム補給して落ち着けよ』
『それじゃ、親書の内容はともかく、形式としては信じていいということね。そうなると、本来の内容はなんだったのかしら?』
『そらもちろん、俺が王都へ残った本来の目的――エミリアたんとクルシュさんの陣営の、同盟締結に関しましてですよ』

「白紙の手紙が届けば、この反応も致し方ないものかしら」
「…うん、スバルはそれを知らなかったんだし、仕方ないと思うけど…」

『クルシュ・カルステン公爵閣下の名代として、此度の遠征に派遣されましたヴィルヘルム・トリアスと申します』
『同じく、クルシュ様の一の騎士のフェリスでーす。後ろの集団の団長がヴィル爺で、フェリちゃんは副団長ってとこかにゃ? よーろーしーくっ』
『ご丁寧な挨拶、痛み入ります。ラムと申します。ロズワール・L・メイザース辺境伯の屋敷にて、侍従長を務めさせていただいております』
『今回、二人と他の人たちにきてもらったのは他でもない。ラムも気付いてると思うが……森に潜んでる、怪しげな連中を追っ払うための増援だ』
『……バルスはどこでそれを』
『王都の方じゃむしろ有名な話だぜ? ハーフエルフを支援すると表明して、周りに総スカン食らってる辺境伯の領地。――売り出し中の山賊共が、一時の隠れ蓑として選ぶにはこれ以上の場所はない、ってな』

「上手い言い訳ね」
「スバル殿は頭の回転が早い方ですからな」
「ナツキさんは取り繕うのが上手ですから」

『というのが建前』
『は?』
『声小さくするのと、驚いて声をでかくするなよ、周りに聞かれたくねぇ。……森にいるのは魔女教だ。狙いはエミリアで、村の連中も皆殺しにするつもりでいる』
『ちょっとちょっとちょっと、どうしたのさ。話が違うじゃにゃい。誰にも言わないで、山賊って方向でいくんじゃにゃかったの?』
『そんな子供騙しで、うまいこと全員騙せるわけねぇだろ。最初からラムには事実を教えとくつもりだったさ。避難する側にもこっちの事情に通じてる奴がいないと、不測の事態に対応できねぇし』
『――彼女は信用してもよろしいのですな?』
『こっちと通じるのにラムより適任はいないさ。なにせ、口裏合わせがうまくいかなきゃエミリアたんが面倒なことになって……それはイコールでロズワールに不利だ。お前ならそのあたり、判断を間違わないだろ?』
『どうしたの、バルス。しばらく見ない間に、ずいぶんと小賢しい頭が回るようになったのね』
『思考停止してると碌な目に遭わないって体当たりで学んだんでな。で、実際のとこどうよ、答えは』
『――それがロズワール様の利になるのであれば、ラムはなんでもするし、なんでも協力する。この答えで、満足?バルス』
『ああ、ばっちりだ。お前は従者の鑑だぜ、ラム』

「ラムが褒められたいのはロズワール様ただひとり。その辺を弁えるべきね、バルス」
「本当にお前は男の趣味が悪いのよ」
「ベアトリス様だけには言われたくありません」
「まあまあ、2人とも落ち着いて?」

『前々からそうだと思っていたけれど、バルスはどうやら本当に馬鹿なようね』
『そんなに褒められると照れるな』
『言ってなさい。……本当に、エミリア様にはなにも言わないでいいのね』
『だぁーかーら!どいつもこいつも俺の未練を引っ張ってくれんなっつの。平気、大丈夫、問題なし!むしろ、大事なあの子のピンチを人知れず颯爽と救っちゃうとかシチュエーション的に超燃えねぇ?』
『うちの使用人見習いと一緒で、心労をお察しするわ』
『少々、突飛な行動と言動と感情表現が目立ちますが、スバル殿は見所のある人物ですよ。この歳をして、教えられることが多々あります』
『フェリちゃんはヴィル爺ほど攻略されてにゃいから、素直にラムちゃんの言葉を受け取ってみたり?まあ、少しはマシになったかにゃーとは思うけど』
『ずいぶんうまく取り入ったようね』
『お前、俺の評価異常に低いよね。正当といえば正当なんだけど凹むわ』

「ラムの評価が低いのではなく、周りの評価が高すぎるのよ」
「ベティーはスバルを正当に評価しているのよ」
「この中で一番高評価つけてる人が何を言ってるんですか」

『ちょっと久々の対面であれなんだが、話を聞いてもらっていいかよ、みんな!』
『とりあえず、この騒ぎは俺のせいだわ。ちょっと色んな場所に話が通り辛くなってたみたいでさ。うまく調整したいんだけど……いいか?』
『――話を、聞かせてもらおうかの』
『状況がわからず、不安でいたところじゃ。その説明をしてくれる……それが村の恩人ともなれば、聞かぬわけにもいくまいて』
『村の恩人て、オーバーな。俺は別に……』
『それこそ謙遜がすぎますよ、スバル様。あの夜、スバル様が森に入って子どもたちを連れてきてくれなきゃどうなっていたことか。そのあとのことだって、村の人間で知らない奴はいやしません』
『不安そうにしなくたって、みんな話を聞きますよ。ロズワール様がしてくれたのと同じぐらい、スバル様にだって世話になったんですから』
『不安そうとか、強がってる俺の小ウサギマインドを見抜くなよ。……嬉しいけど、マジ照れ臭い!決め顔作った俺が馬鹿みたいじゃん!』
『んじゃま、ちょいと静粛にお耳を拝借。平和でのんびり暮らしてたみんなにゃちびっとショッキングな話だが、どうぞ落ち着いて聞いてくれ。実は……』

「大丈夫、かな…」
「村人の不安を消す…それが、いちばん難しいところなのよ」

『ってなわけで、領主不在の状況で勝手ながら動かさせてもらったわけだ。きてくれた討伐隊は王都指折りの精鋭部隊で、おまけに所属は公爵家!筋金入りのプロフェッショナルなんで任せて安心……どう?』
軽妙な語り口でセールストークのように安心を押し売りし、最後の最後で首を傾けて反応をうかがう。
できる限り、不安を煽らないように楽観的な態度を心がけたつもりではあるが、それでも事が事なだけに村人の動揺は隠せない。
『急にそう言われても、家畜の世話もあるし……』
『畑の手入れもある。村から出ない方向で話を済ませるわけにはいかないのかね』
『これだけ人数が揃っているなら、村の防備を固めれば山賊も手出しできないんじゃないか?』
『勘違いをしているようだけれど、あなたたちに選択肢を与えているわけではないわ』
なだめてすかしてどうにか妥協点を探ろうとしたスバルを追い越して、いっそ薄情に思えるほどに冷たい声音で切り込むラム。
『バルスが話しているから提案に感じているようだけれど、これはもっと上の思惑――領主、ロズワール様の意向が働く領主命令よ。あなたたちの安全も、生活も、それらは全て二の次。ロズワール様の名代に従いなさい』
『その言い方はねぇだろ!お前が言い方キツイキャラなのはわかってっけど、さすがにここじゃ聞き流せねぇぞ。この人たちだって生活が……』
『自覚が足りないのはバルスも同じことよ』

「…うーん、まあ、そうですね…」
「ロズワールがいないから、スバルが頑張らないといけない、ってこと?」
「だいぶ優しい言い方になってますが、そういう認識で大丈夫です」

『この場で、ロズワール様の名代を名乗れるのは現状、王都での交渉を任されていたバルスだけよ。領主の名代として、領民に対して義務を果たしなさい』
『義務って……』
『領主は領民の生活と安寧を守る義務がある。身の安全を守るために避難させるのも領主の務めなら、それに伴う弊害への保障も領主の務めよ』
『お前、本当にわかり辛い。なんなの?それとも俺がリーディング女心のレベルが低すぎてお話にならないだけ?超めんどい』
『ラムを簡単に理解できると思われるのは心外だわ。ラムの全てはロズワール様に捧げているもの。バルスに理解なんてされたくもない』

「い、言い方がきつい…」
「あら、ラムはいつでも優しいわよ」
「どの口が…」
オットーの胃がキリキリと痛む。

『あー、ラムの言い方が悪くてごめん。でも、俺の意見もぶっちゃけ同じだ。みんなに避難してもらう……ってのは決定事項だ。命令とかそういうのはなるたけしたくねぇんだけど、ここにいて安全が確保できるかっていうと危うい。リスク回避のために割ける労力は割くべき、ってのが俺の意見だ』
『もちろん、みんなの意見もわかる。家畜の世話も畑の手入れも、急にお出かけって言われたって準備もろくにできねぇだろうさ。だから、そのあたりの保障は……俺に権限なんてあるわけじゃねぇけど、下げられる俺の頭は一個しかないから、この頭下げてロズワールに頼み込む。どうにか、みんなに不利益いかないよう頑張るから』
話しながら、スバルは自分の手の届く距離の短さを改めて実感する。
それを情けなく感じながら、それでも誠意だけはしっかり示そうと心に決めて、皆に見えるようその場に膝をついた。
どよめきが広がり、ラムも目を見開く。
ただ、後ろに控えているヴィルヘルムやフェリスといった面々だけは、仕方なさげにスバルのそれを見守っていた。

「スバル…!」
「…スバル、らしいのよ。でも…」
そんな簡単に頭を下げられるところもスバルらしいが、どうしても動揺が来てしまう。

『――どうかみんな、色々と言いたいことはあるだろうけど呑み込んでほしい。その上でひとつ、俺たちにみんなを守らせてくれ』
『頼みます。そのために俺、戻ってきたんだよ』
押し黙る村人たちは、まるで喉にものを詰まらされたように沈黙する。
それもそのはず――彼らにとっての恩人であるところのスバルが、自らの額を地面に擦りつけて、『守らせてほしい』と懇願しているのだから。
これでは立場があべこべだった。
傍目から見たら意味のわからない光景、でも確かにそれはスバルらしい姿で。

「スバルきゅんらしいけど、恩人としての威厳ってやつはなくなっちゃうんじゃない?」
「スバル殿に求められているのは威厳ではない…という話ではないですかな?」
威厳ではなく、驚くほどの優しさを。

『――ああ、しょうがないなあ、スバル様は』
『そんな一生懸命に、守ってくれるなんて言われちゃ仕方ない』
『やだねぇ。あたしゃ、なんだかしばらくぶりに胸が熱くなっちゃったよ』
『スバル様は本当に、困ったお方だ』
『……ありがとな、みんな』
『――それはこっちの台詞ですよ、スバル様』
困ったような笑顔に囲まれて、スバルは泣きそうな顔で笑ったのだった。

「全く、スバルはしょうがない契約者なのよ」
「でも、ナツキさんらしいですね」

『ひとつだけ、お願いがあるんだが』
『屋敷にいるエミリア……ハーフエルフの子と、誰か同乗してほしい』
『王都でお触れが出て、王選の話はみんなも知ってると思う。領主のロズワール……様が候補者の支援者で、その支援する相手がそのハーフエルフの子だってことも』
『みんなが不安に思ってるのはわかってる。色々と、消化し切れない部分があるのも承知の上だ。でもその上で頼みたい。あの子を、ひとりで竜車に乗せないでくれ』
声に、不安や悲嘆が乗らなかったかどうか自信がない。
スバルの言葉を聞いて、村人たちは顔を見合わせると思案げな表情を浮かべる。
ただ、考慮してくれているだけでも以前とは違う展開か、と思えなくもない。
もっとも、肯定的な返事が期待できる雰囲気でもないと感じ、スバルは早々に「悪かった」と見切りをつけようと手を上げかけ、
『――ペトラ?』
止めようと手をスバルが上げるより早く、小さな掌が上へ向けられていた。
驚き、その手の持ち主をスバルが見つめると、彼女はその赤い頬を膨らませて、周りの大人たちを見つめると、
『どうしてみんな、お話を聞いてあげないの? スバルがあんなに困って、泣きそうな顔でお願いしてるのに。どうして助けてあげようとしないの?』
それはひどく真っ正直で飾りっ気のない、だからこそ心を抉る言葉だった。
大人たちが抱くしがらみの一切がないそれは、子どもにしか許されない世界で一番強烈な一発だ。
大人たちは先ほどを上回る罪悪感に顔をしかめ、少女をなだめる言葉を探そうとするが――、

「ペトラちゃん…」
「そうだッなァ…大将に助けられておいて、大将のたった一つの願いッを突っ撥ねるなんざ、酷すぎる話だ」
「…その通りなのよ、でも、大人になればなるほど難しくなってしまうかしら」

『屋敷のおねえちゃんって、いつも白い服を着てるおねえちゃんでしょ?ラジーオタイソーのとき、ハンコを持ってきてくれてる』
『ん、あ……!そう、そうだよ。ハンコのお姉ちゃんだ』
『頼んでいいか?あの子は強がりで意地っ張りで意固地なくせに、さびしがりで誰かが見ててあげないと心配なんだ』
『仕方ないから、スバルの代わりに見ててあげる』
『こうやって、お互いの小指を差し出して引っかけ合う。で、指切りげんまんって歌いながら切るのが俺の地元のナウい約束の交わし方。やれるか?』
『や、やるっ』
『今度こそ、後顧の憂いなくいこう。やろうぜ、みんな!』
『――あ!隠密行動だからみんな静かに、静粛に!』

「最後まで締まらないやつかしら…」
「大将…」
「スバル殿は人を勇気づける才能がおありですな」
「相変わらず評価がめちゃくちゃに高くて友人の僕としては驚きを隠せませんよ」
「友人を強調してくるんじゃないかしら」

Comments

  • シン
    November 10, 2024
  • アル

    魔女のお茶会が楽しみだわ…どういう反応になるのか気になる所…

    October 21, 2024
  • レム、クルシュさん会話に入ってきてない? すでに、って感じですかね? ちなみに視聴側の全員もレムに関しては覚えがないってことになるんですかね?

    October 21, 2024
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