『ToR - Promise Horizon -』(第4稿)Part.4

第4幕:天空の神々

「時空ナビゲーションシステム、
完全沈黙! 次元の壁を維持できません!
このままじゃ実数空間に弾き出されるわ!」

巨大タイムマシン『NOA』の艦橋に、
水原の悲痛な叫びと、
けたたましい警報音が鳴り響く。

恐竜時代から脱出する際、
隕石の破片が船体の機関部を直撃した代償は、
想像以上に致命的だった。

「どこでもいい、一旦外に出ろ!
船が時空の波に潰されるぞ!」

大地は操縦桿を強引に引き倒した。

——ドッゴォォォォォン……ッ!!

激しい衝撃と共に、
NOAは時空のトンネルから吐き出され、
硬い地表へと激突しながら
長く、無惨な轍を刻んで停止した。

艦内は真っ暗になり、
予備電源の赤い光だけが点滅している。

「……水原、無事か」

「ええ、なんとか……。

でも、NOAは完全に死んだわ。
二度と飛べない」

コンソールから立ち上る黒煙を払いながら、
水原が呻いた。

大地は強引にハッチをこじ開け、
外の空気を吸いに出た。

だが、そこに広がっていた景色を見て、
二人は言葉を失った。

2136年の未来でも、恐竜のいた荒野でもない。

空は薄暗く、太陽は本来の黄金色を失い、
病的なまでに膨張した赤黒い光を放っている。

大気は極端に薄く、
地表はひび割れたプラチナホワイトの
幾何学的なパネルで覆い尽くされていた。

「ここは……西暦何年だ?」

水原が携帯端末の空間スキャナーを起動する。

「信じられない……。
私たち、未来へ飛ばされすぎたのよ。
ここは……今から約50万年後の地球」

その時だった。

音もなく、灰色の影が瓦礫の向こうから現れた。

身長は低く、極端に細い手足。

だが、頭部だけが異様に発達しており、
瞳孔のない漆黒の巨大な目が、
大地と水原を静かに見つめていた。

「——グレイ」

大地は反射的にハンドガンを構えた。

『特異点の旅人よ。武器は不要だ』

大地の脳裏に、
直接テレパシーのような無機質な音声が響いた。
彼らは襲いかかってくる気配を見せない。

それどころか、ひしゃげたNOAの残骸を見るその漆黒の目には、
「計算通り」と言わんばかりの静かな納得が浮かんでいた。

『我々は、貴様たちがここに墜落するのを待っていた』

「待っていた……?
お前ら、何者なんだ。
人類を滅ぼそうとする侵略者か?」

『否定する。
我々は「人類の末裔」だ』

グレイの代表者が、ゆっくりと歩み寄ってくる。

『度重なる環境の激変を生き抜くため、
我々は感情というノイズを切り捨て、
演算能力に特化した。

だが、その進化は袋小路だった』

グレイは、赤黒く膨張した太陽を指差した。

『地球の環境崩壊は最終局面に達している。
我々の演算能力をもってしても、
この星で生き残る確率はゼロだ。

我々には、この危機を乗り越えるための
「環境適応の進化プロセス」が、
歴史上から欠落している』

「欠落している?」

『ああ。我々が生き残るためには、
我々の祖先である「アヌンナキ」が、
正しい歴史のルートを辿らねばならない。

だが、我々自身は歴史の観測者だ。
直接過去に干渉すれば、
パラドックスによって
我々自身が自壊してしまう』

グレイは、足元のプラチナホワイトのパネルを開いた。

そこからせり上がってきたのは、
流線型の美しい涙滴型をした、
数メートルほどの小型の機体だった。

『これは、我々が組み上げた高精度な時空転移艇だ。
大破したその巨大な船とは違い、
任意の時代、任意の座標へ 誤差ゼロで跳躍できる』

「……これを、俺たちにくれるって言うのか?」

大地は警戒を解かずに問う。

『肯定する。
貴様たちイレギュラーな特異点の手で、
我々の祖先を導け。
それが、貴様の歴史を修復する鍵にもなる』

敵だと思っていた存在が、
自分たちの絶滅を回避するために、
最高の移動手段を「意図的に」手渡してきたのだ。

介入合戦の裏側に潜む、
途方もなく入り組んだ因果の糸。

「……貰えるもんは貰っておく」

大地は水原と顔を見合わせ、
小型の時空転移艇へと乗り込んだ。

「お前らのご先祖様を、
どこへ連れて行けばいい?」

『まずは、我々と貴様の時代の中間……
数万年後の未来へ向かえ』

グレイから託された時空転移艇は、
NOAの激しい揺れが嘘のように、
静かに、そして滑らかに時空を滑った。

到着したのは、数万年後の地球。

そこには、大理石のように白く透き通る肌を持つ、
長身で美しき超人類——
「アヌンナキ」たちが存在していた。

彼らは精神文明と遺伝子工学を極め、
不老不死に近い肉体を得ていたが、
地球環境の緩やかな悪化により、
種族としての限界を迎えていた。

彼らは絶望し、
ただ美しく滅びることを待っているかのようだった。

「お前たちがここで終われば、未来の歴史が崩壊する」

大地は、アヌンナキの指導者であるエンリルを説き伏せた。

「俺たちの船で、過去へ飛べ。
地球がまだ若く、生命力に満ちていた時代へ」

エンリルは、大地の泥臭い説得と、
時空転移艇という神の如きテクノロジーを前に、
ついに決断を下した。

『……よかろう。我々は過去の地球へ降り立ち、
新たなる文明の種を蒔こう』

大地はアヌンナキの一族を転送艇に乗せ、
紀元前1万年の古代地球——
メソポタミアの荒野へと跳躍した。

——紀元前1万年。

アヌンナキたちは古代の地球に降り立ち、
原始の人類に知恵と技術を授ける「神」として君臨した。

彼らは黄金のジッグラトを建て、
人類史の夜明けを牽引した。

だが、歴史の収束は容赦なかった。
氷河期の融解による、超巨大な「大洪水」が、
彼らの築いた黄金の都市を
完全に飲み込もうと迫ってきたのだ。

『結局、我々はどこへ逃げても滅びる運命にあるのか』
濁流を前に、エンリルが静かに目を閉じる。

「諦めるな! レプティリアンは地下へ逃げた。
なら、神様を自称するお前たちは、
もっと高いところへ逃げろ!」

大地は、時空転移艇のコンソールを叩きながら叫んだ。

「地球がダメなら、星の外へ逃げるんだよ!」

「星の外って……大地、本気!?」

水原が驚愕の声を上げる。

「グレイの計算通りなら、
彼らはここで死ぬわけじゃない。

水原、転送艇の空間拡張フィールドを最大にしろ!
アヌンナキの神殿ごと、火星の地下空洞へ転送する!」

大地の無茶苦茶な作戦に、水原は一瞬だけ呆れ、
すぐに口角を上げてキーを叩いた。

大洪水がジッグラトを飲み込む直前。
黄金の塔とアヌンナキの一族は、時空転移の光に包まれ、
地球上から完全に姿を消した。

——火星、極冠地帯の地下深く。

冷たく赤い大地の下に、彼らは転送された。

『……ここは、隣の赤い星か』

エンリルが、ホログラムで外の景色を確認しながら呟く。

「そうだ。ここなら、地球の大洪水も届かない。
お前たちの技術なら、
この星の地下でも十分に生き延びられるはずだ」

大地は転送艇のタラップから、エンリルを見下ろした。

エンリルは深く息を吐き、大地に向かって頭を下げた。

『特異点の旅人よ。
我々に再び生きる道を示してくれたこと、 感謝する。
我々はこの星で適応し、
いつか再び、 あの青き星へと帰還する日を待とう』

火星の地下で途方もない時間をかけて生き延び、
極端な環境に適応していくアヌンナキ。

彼らは人類が滅んだ遥か未来の地球へと帰還し、
やがて環境に適応した姿——
あの「グレイ」へと進化を遂げるのだ。

大地の行動によって、
途方もなく巨大な因果のループが繋がった。

50万年後のグレイたちは、
火星由来の技術と環境適応力を獲得したことで、
滅亡を回避する未来のルートを確固たるものにするはずだ。

小型タイムマシンのコックピットの中で、大地は呟く。

「過去を救うことが、未来を創ることに繋がってる……。
歴史ってやつは、本当に全部繋がってやがるんだな」

高精度になったタイムマシンと、
グレイから得た究極の演算理論。
装備と知識は、確実にアップデートされている。

「さあ、帰ろう大地。私たちの時代へ。 」

水原の言葉に深く頷き、
大地は時空転移艇のレバーを押し込んだ。

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コメント

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小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『ToR - Promise Horizon -』(第4稿)Part.4|古井和雄
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