優しいあなたの描く終末
遅くなって申し訳ありません...!!!
アヤマツは文字数が多くて大変でした...!!
少しいつもより長いですが、飛ばし飛ばしよんでください〜!!
3期始まりましたね...!!
シリウスが出てきた瞬間に妹が「絶対やばい人だ...ミイラだもん」って言ってて確かにあの見た目なら近づかないなまずって思いました。
スバルくんは5章あんまり死なないので安心して見れます。
来週も楽しみだ
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「...これから流すのは、ナツキ・スバルが剣聖ラインハルトと出会えなかったら、というお話です。世界があの人に優しくないから起こってしまった悲劇を、ご覧下さい。」
そんな声とともに、スクリーンが起動する。
そこに映ったナツキ・スバルは、まるで人を殺したかのような顔をしていた。
懐かしの路地裏でスバルはチンピラに過剰とも言える暴力を振るう。
『首、絞めるのはスマートじゃないな。……感触も気持ち悪いし、もうやめよう』
そう言って、スバルは目の前の人間にナイフを突き刺す。
88回。
ナツキ・スバルがこうなってしまうまでに死んだ回数だった。
「ス、バル...?こんなこと...」
エミリアは目の前の光景を受け入れられない。
スバルが死に戻りをしていると知った時、エミリアは今後これ以上に驚くことは無いだろうと思った。
だが、それ以上にエミリアは衝撃に頭を殴られた。
優しいスバルが、エミリアには絶対に向けない顔で人を殺している。
きっとスバルの口ぶりを聞くに、今までの世界線でも彼は人を殺している。
「...そんな、僕と出会わなかった、それ、だけで」
ラインハルトは冒頭に流れた声を思い出す。
スバルが助けを求めて、ラインハルトはスバルと出会う。
それが無いだけで、スバルはまるで人が変わったようになってしまった。
88回繰り返しても、それでもエミリアは救えなかった。
衛兵を使ってもそれは変わらなかった。
ここまでかと悟り、スバルは死ぬためその場を離れようとする。
『――そこまでだ』
残酷なまでに、赤い炎が揺らめいていた。
『騎士ラインハルト……!』
『君たちは下がっていてくれ。彼女は……『腸狩り』だ。すでに犠牲者が多すぎる。これ以上は出したくない』
『ラインハルト・ヴァン・アストレア。『剣聖』の家系ね。素敵、素敵だわ!』
『過分な評価の重みに潰れそうな日々だよ。君は、『腸狩り』で間違いないね』
『ええ、その通りよ。いけないわ。どうしましょう。本命のお仕事があるのに、こんなところであなたと顔を合わせてしまうだなんて』
『本来であれば、僕は投降することをお勧めするんですが……』
『この惨状を前にして、あなたは私にそう言ってくれるの?優しいのね。私にとっても、彼らにとっても残酷なぐらいに』
『――いえ、僕も同意見です。ここで君に手心を加えることは、彼らの死に対して誠実とは言えない。だから、投降してほしいとは言いません』
『腰の剣は使わないの?噂に聞く、龍剣の切れ味を肌で感じてみたいのに』
『生憎、この剣は抜くべき相手を見極める性質があるんだ。少し厄介な性質ではあるが、剣は君をお気に召さないらしい。代わりに、こちらでお相手しよう』
『『腸狩り』、エルザ・グランヒルテ』
『『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア』
圧倒的な力が歪みを生み出す。
その光景を、ナツキ・スバルは目を見開いて、見ていた。
頬を伝った涙と、震える膝の原因も、わからぬままに――。
レムは、スバルがもう救えない所まで行ってしまっていることに気づいた。
彼はもう道を誤った。
それは、彼の瞳を見て、そこに仇と同じものを見てしまった時点で、確信に変わってしまうのだ。
「...ナレーションの口ぶりから、これはおそらく仮想の世界...死に戻りで生まれた世界ではなく、『道を踏み外したら』の分岐世界、なのでしょうね。...それでも、レムの英雄に、そんな顔はさせたくなかった。」
『――あなたは、どうして私を手助けしてくれるのかしら?』
『別に信用してくれなくてもいいけどな。衛兵に囲まれて、リベンジできなくなってもいいって言うんなら、俺を斬り捨てて好きに逃げろよ。衛兵は血眼になってお前を探してる。俺が見当違いの方向に誘導してやったから、こっちに気付くのにもうしばらくはかかるだろうよ。傷は?』
『すごく痛いわ。痛くて痛くて、死んじゃいそう。ふふ、素敵ね』
『俺にはわからねぇ感性だよ。死なれちゃ困るから、なんとかしてぇけどな』
『貧民街の、南東まで道を作っていただける? そうすれば、私は妹と合流できる。傷の手当ても、逃走経路も用意してくれるはずだから』
『妹!はっ、姉妹でとは抜け目ねぇし、救えねぇ話だ』
『わからないのは、あなたの目的ね』
『お前に貸しを作っておきたいんだよ。いつか、役立つときがくるかもしれねぇ』
『貸し、ね。それが不思議だわ。――あなた、そんなに私を殺したがっているのに』
『俺は、お前を殺したい。きっと、いつか殺すよ。だけど、今じゃない』
『そう...素敵ね。あなたと、私とを憎しみで結び付ける。いずれ、必ず。きっと、あなたの言葉は私に証明されるわ。それはとてもとても、素敵なことね』
「ダメだ!大将!そいつはッ...」
エルザを助けたスバルにガーフィールは顔を歪める。
ガーフィールだけじゃない、エミリアもラインハルトもラムも、スバルの行動に目を開く。
「...どうして...?」
エミリアもこのスバルは分岐世界の存在しないスバルだと理解はできている。
それでも、どうしてその子を助けるのか、エミリアには分からなかった。
『また必ず会いましょう?』
『じゃあね、お兄さん。エルザのことは感謝してあげるわあ』
エルザと別れ、スバルは盗品蔵へ向かう。
『...これからの俺の行動次第、か』
スバルが向かった盗品蔵は、氷に包まれていた。
そこには人の姿はなく、エミリアがやったことだけが分かった。
『できれば、サテラのことをもっと詳しく知っておきたいけど……』
『――それは、お前らが教えてくれるのかな?』
氷漬けになった盗品蔵の前で、スバルはポケットに両手を入れながら振り返る。
人の気配は、ない。
なのに、スバルの視界には無数の人影が立っているのが見えた。
凡庸な顔ぶれ、老若男女が適度に入り乱れ、統一感のない集団。
ただ一つだけ、その集団の中に統一されたものがあるとすれば、その双眸だ。
いずれも、目が死んでいる。
狂気に染まり、狂喜を求め、そのために。
きっと、鏡を見れば、スバルも同じ目をしているはずだ。
その感傷に頬を緩め、スバルは頭上を仰いだ。
怖いぐらいに冴えた月が、凍れる盗品蔵と、狂人たちを無言で見下ろしていた。
「魔女、教徒」
レムは、虚ろにそう口走っていた。
エミリアをサテラと呼び、狂気に満ちた瞳をしている。
スバルは、魔女教徒に堕ちたのか?
レムは首を振る。
「そんな、それだけは、有り得ませんよね...?スバルくん」
他の何がどうなっても、魔女教徒には、それだけには、ならないで欲しかった。
『王選!銀髪のハーフエルフ!ロズワール・L・メイザース辺境伯の推薦!サテラじゃなく、エミリア――!』
『王選、王選か……王様候補ってことは、やんごとなき身分。道理で、ただ歩いてるだけでも気品とかに溢れてたわけだよ。エミリア、エミリアかぁ』
にこりとスバルは微笑む。
最も、エミリアやレムに向ける優しい笑顔ではなく、狂気に満ちた笑いだったが。
『当然、こいつらとの関与を疑って人は近付かない。俺を危険から遠ざけるための、苦肉の手立てだったわけだ。可愛い顔して、可愛いこと考えるなぁ』
健気な子、優しい子。
エミリアを思い、スバルは頬を紅潮させる。
『――ナツキ・スバル!寵愛の信徒よ!ここにいるのデスか!?』
その声に、スバルは瞳を冷たく伏せる。
『探したのデス!何故に、何故に、何故にこんなところで怠惰を貪っているのデスか!?我々は!勤勉に!魔女の導きのままに、愛に応えねばならぬ身だというのにぃぃぃぃ!』
『言い掛かりはやめてくれよ、ペテさん。俺は『福音』の指示に従ってるだけさ。『福音』が俺にここで過ごせって命じたんだ』
『なんと!『福音』がアナタにそのようなことを!?この時期に、この機会に、こんな状況で、アナタほどの敬虔な信徒を何故に遊ばせておくのか、いったい魔女は何をお考えなのか、ワタシ如きでは推し量ることさえ!さえ!できぬのデスか』
「ああ...スバルくん、どうしてなんですか...殺人を犯すよりも、レムにとってはこの方が余程...」
レムは悲しみに顔を歪める。
大好きなあの人が、大嫌いなやつと話している。
姉様から、レムから、すべてを奪ったヤツらと。
「...魔女、教」
ラムは、小さくそうつぶやくしかできなかった。
「...スバル...どうしてなの?」
エミリアは顔を歪める。
その場にいた全員が悲しみに、一種の怒りに、支配される。
ユリウスやエミリア、レムは特にその感情が顕著だ。
一緒に魔女教を倒した。
自分を傷つけた魔女教に立ち向かってくれた。
疑った時もあったけど、そうでは無いと確信できた。
そんなスバルが、違う世界で魔女教徒として過ごしている。
「...スバル」
ラインハルトは己を責める。
スバルがこうなったのは、自分が理由なのだと、知っているから。
『で、この隠者生活してる俺に何の用事だって?』
『ご存知ないのデスか?この国で、今まさに行われんとしている愚かな行事を!』
『国で、これからってことは……王選のことか?』
『そうデス!王選!デスが、問題はそこではないのデス!重要なのは王選そのものではなく、王選に参加する存在!すなわち、銀髪の半魔!』
『見るのデス!風体も!出自も!まさしく、魔女への冒涜!ワタシたちにとって見過ごすことなどあってはならない存在!これは、試練の時なのデス!』
『試練』
『そうデス!!』
『合えば擁し!合わねば排し!魔女に相応しき器であるか確かめ、それに適うのであれば我らの下へ受け入れるのデス!そのための試練を、行わねば!』
『それを、俺に手伝えって?』
『ええ、その通りデス!他のものにも声をかけましたが、不信心なあのものたちが応じるとはとても思えないのデス!唯一、『憤怒』だけは可能性がありましたが、今は王国から遠く……故に!我々だけでも赴かねば!』
『で、同行したらいいのかな?勝手がわからないんですが、司教様』
『同行してくださるのデスか!あぁ!嗚呼!それはなんとなんとなんとなんとなんとんとんとんとんとんととととと……喜ばしいことなのデスか!』
『一緒にいくって言っただけではしゃぎすぎでしょ』
『すぐにでも、発つのデス!道中、すでにワタシの『指先』には指示したあと……それぞれと合流し、メイザース領へ。そこで、『福音』の導に従うのデス!』
『了解。……ところで、試練って何をするんだ?』
『当然の疑問デス。魔女の器に相応しきものか試す……すなわち、入れ物が魔女の魂を収める強度が、質が、何よりも資格があるか、試す行いデス!』
『――さあ、さあさあ!さあさあさあ!行くのデス!試すのデス!此度の器が相応しからんば、魔女は再びこの世に再臨せりデス!この、我々が数百年ぶりに、全ての席を埋めたこの機会に!』
『魔女サテラが下りてくるとなると、器の子は……』
『尊い犠牲となるのデス!デスが、それは光栄なことなのデス!代われるものならワタシが代わりたいほどに!この身を差し出せばサテラの御心に適うならば、ワタシは何度でも、どれほどの苦痛にも耐え、再会のときを望むのデスから!』
『そうか、消えるのか』
『へえ、そうか』
ナツキ・スバルは酷く陰惨に笑う。
そこには、愛があった。
「...スバル、どうして」
エミリアは涙をこらえることで精一杯だった。
半魔なんて呼び方、聞きたくない。
スバルも、そんな人と一緒に居ないで。
そんなことよりも、もっとずっとエミリアを苦しめた事実。
それは、スバルは変わらずエミリアが好きだということだ。
「...わからないよ、スバル」
かつて、互いに傷をつけた言葉を、エミリアは囁く。
スバルは、ペテルギウスの命を刈り取る。
『こんなこと言っても信じちゃもらえないだろうけどさ』
『俺は、ペテさんのこと、嫌いな奴の中じゃマシな方だったよ』
『ここまで、状況を作るのに苦労したぜ。頭がおかしいふりして、あんたはちょっと周到すぎた。正直、本当に何度も頭を抱えたよ』
『俺が、ここまでくるのにどれだけ試行錯誤したかって話。いや、作戦もそうだけど切り札とかも本当にヤバかった。マジで、ホッとしてる』
合間に絞り出すようなペテルギウスの声が混じるが、スバルは気にせず続ける。
『最初は『見えざる手』も見えなかったし、どうしたもんかって焦ったさ。『指先』の対処にも困らされて……今は、なんとかできた達成感に満たされてる』
『だから間違いなく、あんたは俺にとって、この世界で一番言葉を交わした間柄だ。すげぇ勝手な話だけど、友情みたいなもんも感じてる。目標に向かってひたむきで、持ってるカード全部使って戦い抜こうとする姿勢とか、感銘とか受けなくもない』
『背信者!魔女の寵愛に背く裏切者!許すわけに、許すわけには、いかないの、デス!!』
『人生で一番長い三日間だった。あんたにとっちゃ、ほんの短い付き合いだっただろうけど……』
『ナツキ・スバルぅぅぅぅ――!!』
『エミリアを狙ったんだ。――後悔は長くしろよ』
それは、まるで王都で醜態を晒したスバルの精神性のまま、力だけを手にしたようだった。
「...やめて、スバル...私のためなら、どうして...」
その映像は、見ている全員の心に切り傷を刻む。
優しい彼を知っている。
不器用だけど安心できる言葉をくれる。
そんな彼の、そんな冷たい顔を、嫌な顔を見るのは、辛いから。
『あらあ?こっちももう終わってたみたいねえ』
『ああ、片付いた。助かったよ、メィリィ』
『いいのよお。報酬はもらってるし、エルザもお兄さんにはお世話になったものお。でもよかったのお?この人たち、お兄さんの仲間だったんじゃなかったあ?』
『どうだろ。最後に殺そうとしてこなければ歳の離れた友達って言えたかもだけど、俺のこと殺そうとしたからなぁ。惜しくも友達落第じゃね?』
『ふーん。それなら、わたしはお兄さんのこと殺そうとしないからあ、お兄さんのお友達ってことお?』
『その理屈だとそうだな。俺とお前は友達だよ、メィリィ』
『わあい、やったわあ。これで、ペトラちゃんたちと合わせてお友達たくさあん』
『へえ、意外だ。こんなこと言ったらあれだけど、ちゃんと友達いるんだな』
『そうよお。もう、みいんなわたしが殺しちゃったんだけどねえ』
『なんにせよ、足りない手数をメィリィが補ってくれたおかげで助かった。でなきゃ、あちこちに潜伏してる『指先』を皆殺しにするなんて俺一人じゃ無理だったし』
『別にいいけどねえ。だけど、わざわざわたしたちじゃなきゃダメだったのお?もっとちゃあんとした国の騎士さんとかに頼めばよかったのにい』
『それだと、俺の目的の一部が果たせなくてさ』
『目的?』
『こっから先は大人の話だ。メィリィみたいなお子様は知らなくてよろしい』
『あ!もう、そんな風に子ども扱いするんだからあ!お兄さんなんてもう、知らない知らない、知らないんだからあ!』
「ペトラが死んでる世界線...なのかしら」
苦虫を噛み潰したようにベアトリスが呟く。
スバルが助けてくれた全ての人は、スバルが敵に回れば当然だが、死にゆく。
そんな当たり前のことに、絶望は潜んでいたのだ。
『白鯨の霧ってのはおっかねぇもんだ。他人の記録を消しちまうなんて』
クルシュが白鯨に殺された。
それはスバルだけが知る事実だ。
『王選候補者の一人である、エミリア。長年、世界を苦しめてきた邪悪の徒、魔女教の大罪司教『怠惰』を討伐……!』
そうなったのは、スバルがロズワールに功績を譲ったからだ。
『気持ち悪いぐらい話のわかる奴だったからな』
『いいさ。好きにしろよ、辺境伯さん。あんたがエミリアの味方をする限りは、俺もあんたの味方をしてやる。あんたの期待通り、王になるのはエミリアだ』
もしもロズワールがエミリアを害するのなら
『エミリアのために並ぶ墓標が、一個増えるだけの話だ』
『...せっかく拾ったんだ。役立ってもらわなきゃ困るぜ、『青』さん』
洞窟の奥に作られた洞窟に、フェリスが鎖で繋がれている。
『……誰か、教えて。教えてよ。私は、何のために……殿下は?私は、何のために。誰かがいたの。いたはずなの。そうじゃなきゃおかしい。なのに……』
『しかし、参ったな。これはちょっと時間がかかりそうだ。白鯨の霧に消されると、記憶が違和感を持たない程度に変化に対応するってのが俺の見立てだったんだが、この調子を見るとな』
『誰か、誰か教えてよ……殿下、殿下は? 殿下、誰と一緒に……?』
『欠けた記憶を補い切れないぐらい大きいと、こんな風になっちまうのか。それでも、せっかく見つけた駒なんだ。大丈夫だ。俺はきっと、お前の心のひび割れを埋めてみせる』
『誰か、お願い……教えて。私は、私はどうして……』
『今度は、お前が自殺しない方法をちゃんと見つけてやるからな』
「な、にこれ」
フェリスが呟く。
「クルシュ様が死んだ世界?だから、私が壊れて...」
クルシュが死ぬのは不思議では無い。
スバルが味方でない以上、白鯨と万全の状態で戦うことなど不可能だ。
でも、だからといってーー。
『九十二番!百十四番!百二十三番でもいい! どこだ!?どこにいった!?僕を誰だと思ってる!?僕を残して、この状況で勝手に逝くなんて、いったいどこまでお前たちって女は無責任で身勝手なんだ!?どいつもこいつも、この僕の限られた資産ってものを蔑ろに――』
不快な声をレグルスが叫ぶ。
『――その、聞くに堪えない口を閉じてくれると嬉しいのだけれど』
『な、にが……』
『この炎は、あなたのたくさんの奥さんからの絶縁状へのサイン。有体にいえば、恐怖で縛れる愛情はおしまいってことのようね』
『賊が!この僕を誰だと思ってる!?馬鹿な真似をしたことを後悔……』
レグルスの腕をエルザが切り落とす。
『不死身?無敵?どちらだか忘れたけれど、その種明かしは済んでるそうよ。今のあなたはなんというか、ただ不愉快なだけの虫みたいな人ね』
『――ッ! お前みたいな、娼婦が――』
レグルスの足をエルザが切り落とす。
『――僕を』
『その状態でも、まだ何か言おうとするのは立派なものね』
『こんな、馬鹿なことがあってたまるかよ。……僕は、僕はこの世界で最も、完成された存在だ。多くを求めず、足りることを知って、無欲で清貧に、生きて……その、僕が、なんでこんな、お前たちみたいな、欠陥人間共にいいように……』
『そんだけ普段から悪し様に罵ってりゃ、離婚調停に持ち込まれて当然だろ』
『なぁ!?』
『まさか、ここまで周囲が協力的に運ぶとは思わなかったぜ、レグルスさん』
『お前、なんでここに……いや、お前が、仕組んだのか……?』
『他に何がある?』
『のろ、われろ、このゲス野郎!お前、自分が何をしたかわかってるのか!?愛する妻を、妻たちを!僕の前で、屋敷ごと焼き殺したんだ!それがどれだけ非道で、悪魔じみた行いかわかるのかよ!?この妻殺し野郎!』
『予想外の切り口すぎて、俺も開いた口が塞がらねぇや。……言っとくけど、お前の心臓対策に命を差し出してくれたのは、他でもない奥さんたちだからな?』
『――馬鹿、な』
『みんな、お前に一矢報いれるなら死んでも惜しくないってよ。あそこまでひでぇ言われよう、俺もなかなか聞いた覚えがねぇや』
『そんな、誰が信じるか……。僕は、僕は妻たちを愛してた!だから、あいつらだって僕を愛するべきだ!そうだろう!?でなきゃ、おかしいだろうが!なのに!あいつらが妻失格なだけで、どうして僕がこんな目に!』
『……本気で、言ってんだろうな。ホントにそれが怖いよ、お前らは』
エルザにちらりと視線を送る。
『あら、心配してくれているの?安心して。どこもケガなんてしていないから』
『心配なんてしてねぇよ。それより、これはなんなんだ。こんな悪趣味な状況にしろなんて言ってねぇぞ』
『手足があるとうるさそうだったし……それに、あの人たちからの言葉は伝えてあげた方がよかったでしょう?』
『……それは、そうだな』
エルザがレグルスの胸にククリナイフを突き刺し、持ち上げる。
『ぎ、ぁっぁぁ!』
『一思いに?』
『いや……』
『そこの、弱火のところに放り込め。焼け死ぬのを見届ける』
『ええ、わかった』
身を焼かれ、死ぬまで炎に炙られ続ける男の絶叫が夜空に木霊する。
それを顔色も変えずに、スバルはエルザは並んで見守り続けた。
『虫の方が、鳴き声が心地良い分、あれよりマシね』
スバルが小さく頷く。
それは、まるで悪夢だった。
スバルが優しさによって守った全ての人は死に、優しさによって倒した敵は悪意によって殺される。
功績は同じでも、被害がまるで違う。
これは、ナツキ・スバルへの冒涜だと、エミリアは思う。
「...スバル」
『こ、れは……っ』
『ごめんネ。ホントにごめんネ。こんなこと、したくなかった。ホント、ホントだよ』
驚愕に声を震わせ、男はカウンターに肘を強くついた。
しかし、崩れる体を支えられずに上体が滑り、座っていた椅子を倒して店の床に倒れ込む。
その横転に巻き込まれ、カウンターに置かれていたグラスとボトルが床に落ちて割れると、飛び散った中身が男の白い制服を酒臭く汚していった。
手足の自由は利かず、血の気は徐々に引いていく。
唇が青紫色になり、視界が濁っていく感覚に男は何度も瞬きを繰り返し、間近に迫る終焉を遠ざけようと試みていた。
その男の懸命な足掻きを、スバルはテーブル席に座ったまま見下ろしている。
『『最優』なんて呼ばれてるのも納得だよ、ユリウス・ユークリウスさん』
『き、さまは……』
『けど、自分の立場を弁えるんなら、もう少し周りに気を遣った方がよかったな。今をときめく王選候補者、その一の騎士って立場なんだ。当然、主人だけじゃなく自分が狙われることも計算に入れとかなきゃ。もっとも……』
立ち上がったスバルは腕を伸ばした。
その腕が向かったのは、倒れるユリウスの隣の椅子に座っていた人物だ。
亜麻色の猫耳に愛らしい顔立ち、華奢な肩をそっと引き寄せ、頭を撫でてやる。
それだけで、『青』は陶然とした様子で眦を下げた。
『ふぇ、りす……君は……』
『傷心につけ込むのもなかなか苦労したんだぜ?まさか、あの子以外の誰かの命のためにこんだけ腐心する羽目になると思わなかった。その甲斐はあったけどさ』
『貴様、は、何を企んで……』
『お前にはもう関係ない。安心しろよ。俺の見立てじゃ、お前が脱落すればお前の主人には危害を加えなくて良くなるはずなんだ。奮起した場合はわからねぇけど』
『昔の友達に呼び出されて、酒場で一杯飲んだ途端にこれだ。信頼ってのは甘い毒だね、『最優』さん。それに溺れて、見誤ったんだ』
『誰にも誇れることをするのは楽だよな。生きやすくて羨ましいよ。死ぬけど』
しゃがみ込み、朦朧とする意識にあるユリウスの顔を覗き込む。
すでに、ユリウスの視線はスバルを見ていない。
自分を、殺す指示を下した男に拘泥していない。
『どこまでも騎士だな。憎たらしいったらねぇ』
ユリウスは目を伏せる。
目の前で起こる最悪に、もう耐えられなかった。
スバルはユリウスを嫌っている。
だが、ここまで邪悪な顔を向けられたことは無い。
嫌がる顔の奥に信頼があることを知っていたから。
「...スバル...君は、私は」
『――おや、お取込み中でしたか?』
『時間通りだな』
『ええ。時間は有限、『金銭と時は等価値』ってのが商人の考えですから』
『まだ商人を名乗れるなんて、ずいぶん厚顔だな。『死の商人』だろ』
『それを言われると何とも』
オットーは眉を顰める。
スバルと自分は友人だ。
そう思っているからこそ、この世界のスバルは好きになれない。
スバルは目つきが悪いが優しい顔をしている。
口が悪いが人の欲しい言葉を言える。
そんなスバルの、最悪の未来がこれなら。
「...やっぱり、あなたは無理をする人ですね」
『お兄さんとは、ずうっと最初からやってきたじゃない?この調子で、お兄さんが楽しいことをどんどん手伝わせてくれると嬉しいわあ』
『別に私はあなたに肩入ればかりするつもりはないけれど、あなたは今も、機会があれば私を殺そうと思ってる。それが、なんだかとても心地良いのよ』
『スバル様がいてくれれば、殿下の夢が叶います。だから、私はずっとついていきます。……でも、あれ? 殿下と、スバル様は、いつ、どこでお知り合いに……』
『汚れ仕事を頼む間柄でしょう?仲間だなんて馬鹿馬鹿しい。僕もあなたも、家族にも顔見せできない親不孝者ですよ。いっそ、死ねたら死んだ方が楽なんですがね』
『あと一歩、あと一歩で宿願が叶うかもしれないところへきているのさ。そーぉのためなら、私は悪魔に魂を売り渡していい。君という、悪魔にねーぇ』
もうやめて、とエミリアは耳を塞ぐ。
スバルは優しくて、不器用な人。
大好きな、私の騎士様。
そんなスバルにこんなことさせないで。
お願いだから。
「私のためなら、やめて、スバル...」
『――そこまでだ』
『ラインハルト、ヴァン、アストレアぁぁぁ……』
『自己紹介の必要はなさそうだ。僕も、君と交わす言葉を多くは持たない』
『人を憎む機能が、お前にもあったんだな、『剣聖』!』
『僕も、驚いているよ。自分の中に、こんな感情があるとは思わなかった』
『新しい自分を発見したか。ハッピーバースデー。誕生日おめでとう、ラインハルト』
『悪いが、今日は僕の誕生日じゃない。だが、君の命日にはなる』
『笑わせてくれるな、ラインハルト!『剣聖』! 王国の剣!お前は、このルグニカ王国を守る騎士なんだろ!?お前の、どこが国を守った!?言ってみろよ!』
『それが、俺からお前への贈り物だよ!お前を殺すために、俺が仕掛けた罠だ!』
『僕を、殺すために……?』
『俺が!いったい、どれだけお前を殺そうとしたと思ってる!?俺がいったい、何度何回何千回!お前に挑んだと思ってるんだ!?』
『俺は、騎士としてのお前を殺してやる。『剣聖』なんて大仰な名前を地に落として、この足で踏み躙って、汚ぇ痰を吐きかけてやる!』
『そんなことの、ために』
『そんなこと!ああ、そうだよ、そんなことだ!俺はそんなことのために、周りにいた奴らの命を全部使って、お前を地に落としたんだ』
『お前は英雄だよ、ラインハルト。俺にラインハルトは殺せない。だが、俺でも英雄を殺すことはできる。――これが、お前の殺し方だ、ラインハルト』
『……なぁ、なんでなんだ?』
『なんで、お前はそんな強いんだ?お前は、なんで、俺があいつらを、死なせなきゃ届かないぐらい、強いんだよ?』
『お前みたいだったら、よかった。お前みたいに、真っ直ぐに、何もかも救える力があれば、よかった。俺は、お前が羨ましい。俺は、お前が憎たらしい』
『君は……』
『――俺は、お前になりたかったよ、ラインハルト』
『――僕は、君の気持ちはわからない』
ラインハルトが目を細め、軽く腰を屈めた。剣に手を伸ばす様子はない。
彼の目から見ても、スバルを倒すのに武器はいらないというわけだ。
正解、それで間違いない。
スバルの脆弱な体など、彼の一撃で木端微塵だ。
ならばせめて、ならばせめて――、
『――諦めるには、まだ早いんじゃないかしら?』
『君は――!』
ラインハルトが飛び出した瞬間、横合いから黒影が飛びかかっていた。
激しく軋る音を立てて、黒影が叩きつけた斬撃をラインハルトの手刀が迎え撃つ。
『本当に規格外なのね、あなた』
『死に損ねたみたい。この状況だと、改めて死ににきたみたいにも思えるけれど』
『エルザ……』
『メィリィは、そう、死んだの。姉不幸な妹ね』
『妹の仇でもあるようだし、踊っていただけるかしら?』
『すでに武器はない。それに、君は自分が誰を庇っているのかわかっているのか?』
『難しい話は好きじゃないの。私は、私のやりたいようにする。後ろの彼は、そんな私をやりたいようにさせてくれる。だから、上客なの』
『これが、きっと最後の機会になるわね。楽しかったわ。すごく、素敵だった』
『エルザ! 俺は……!』
『さよなら』
しばらく呆然としていた。
ラインハルトは、スバルの言葉を脳内で反芻していた。
お前は、英雄にしかなれない。
そんなことを、スバルが。
『お前にできないことは俺が何とかしてやるから』とあんなにも素敵な言葉をくれたのに。
「...君が、こうならなかったことに安堵している僕は、最低なのだろうか」
『――そこまでよ』
『ぐ、ぁ……な、にが……』
『――そこまでよ、悪党』
『――エミリア』
『私のことを、知っているの?』
名前を呼ばれ、意外とばかりに眉を上げたエミリアの反応にスバルは吹き出した。
『何がおかしいの?』
『いや、ごめん。なんていうか、嬉しくて、かな。君がその、なんだ。全然変わってなかったのが、報われたような気分になって』
『どういう、意味?あなた、私とどこかで……?』
『リア、ダメだよ、相手の話をまともに聞いちゃ』
『――パックか』
『気安く呼んでくれるもんだね。これだけ派手にやらかしてくれて、いったい、どんな風に落とし前を付けるつもりなのかな?』
『落とし前は付けるさ。お望み通りな。――逃げる方法なんて、どこにもないし』
『――?潔いんだね?怪しいなぁ』
『今から、俺が話すことは、全部頭のおかしい奴の妄言だ。忘れてくれ』
『――え?』
『今、王都を燃やしてる炎は俺が起こした。王都だけじゃなく、この炎は国中を焼き尽くそうとしてる。誰にも防げなかった。これは国や、国を守る騎士の失態さ。ラインハルトの、『剣聖』って名誉も地に落ちる。親竜王国ルグニカを守るはずの盟約ってのも、どこが起点になったかわからない以上、龍も救いようがない。これは、何度もやって試したから間違いない。結局、ラインハルトも龍も、体は一個なのさ』
『国中を燃やした?あなたが?それは、国を滅ぼそうとして?』
『いいや、違うよ。これが、君を王様にする、たった一個のやり方だからさ』
『国を滅亡へ追いやる終の炎――この厄災をばらまいた張本人を、ラインハルトでもなく、神龍でもなく、君が討ち果たすんだ。残った王選候補者の誰にも、これ以上の功績を作ることはできない。君は、四百年の停滞を壊し、世界を救った英雄だ!』
『そんな、わけない……あなた、何を言ってるの!?やめて、全然わからない!何を言ってるのか、わからない!!』
『わからなくていい。わからなくていいんだ。あとのことは全部、君の周りの奴らが勝手に祭り上げてくれる。君は、君の望みをそこで叶えればいい。そのためだけに、俺はこうやって国を焼いたんだ。何もかも、君のために』
『嘘よ、嘘、嘘!だって、私は……あなたは、どうして、私を……』
スバルは、自分が過ったことを知っている。
スバルは、自分が正しくないことを知っている。
スバルは、これがエミリアを喜ばせる方法でないことを知っている。
でも、これしか方法がなかったのだ。
エミリアの望みを叶え、エミリアを王にし、エミリアへの想いを形にする。
それがわかっていて、最初から間違っていると知っていて、スバルはここへきた。
だから、ナツキ・スバルは笑った。嗤った。哂った。
『――俺を見ろ、エミリア。俺を見て、俺を憎んで、俺を刻み込め』
『あなたは、誰、なの?あなたは、どこの、誰なの……?』
『――俺の名前はナツキ・スバル』
『すば、る……』
『――魔女教大罪司教、『傲慢』担当、ナツキ・スバルだ!』
『大罪司教……!』
『世界を焼き焦がし、国を揺るがし、英雄を殺し、そして――』
『――君に、殺される男だ』
衝撃が、胸の中心を穿ったのを感じて、スバルは薄く微笑んだ。
膝からその場に崩れ落ち、スバルは支えもなく倒れ込み、転がった。
エミリアに届くこともなく、その横を無様に、石畳を受け身も取れずに転がっていく。
やがて、大の字になって空を仰げば、赤々とした王都を見下ろす蒼穹がある。
赤と青に挟まれた世界で、ナツキ・スバルは終わりを迎える。
『どうして?』
『どうして?』
繰り返し、重ねられた問いかけ。
その『どうして』が、いったい何を意味しているのか、スバルは考えた。
『どうして』、こんなことをしたのか。
『どうして』、こうなるしかなかったのか。
『どうして』、自分に殺されるためにここへきたのか。
きっと、色んな『どうして』がそこにあって。
その、全部の『どうして』に答えを返してあげたいけれど、スバルに残された時間はあとほんのわずかしかなくて。
だからスバルは、息を抜くように、最後の一息に答えを乗せた。
『――愛してる』
映像が途切れ、世界は暗闇へ戻る。
「...スバル、あなたは」
「お疲れ様でした。次は、ナツキ・スバルの...第二幕を放映します」
無情にもそんな音声が流れ、エミリアたちは意識を失う。
「...すば、る...ご、めん」
どさ、と布の重なる音がする。
時間がなくなっていく