【前編】「視覚でひらめく」人々の驚きの思考法と、新たな才能の世界

2023/08/04

ファイルする人、積み上げる人

 記憶は学習にも関係するが、デンバーの高度発達研究所の心理学者リンダ・シルヴァーマンは、学習スタイルの相違について発表したときに、書類をファイルにとじてキャビネットにきちんと並べる人と、書類の山に囲まれている人を比較した。「ファイルする人(きちんとした人)」と「積み上げる人(だらしない人)」。みなさんは自分がどちらのタイプかわかっているだろう。そこから自分の思考法について何がわかるのだろうか。

 書類をファイルしない人にきちんと整理させたら、何も見つけられなくなってしまうとシルヴァーマンは述べているが、これは図星だ。彼らは、整理しなくても何がどこにあるのか、ちゃんとわかっている。「だらしない状態」は組織化されていて、それを頭の中で見ているのだ。つまり視覚思考である。

 これは、私にもずばり当てはまる。オフィスは、専門誌や雑誌がごちゃごちゃと積まれ、書類の山がいくつもできていて、混沌の極みに見える。それでも、でたらめに積み上げられているのではなく、それぞれプロジェクトごとにまとめられているのだ。私は決まった山から必要な書類を取り出せる。だらしなく積まれた書類の山から特定の資料を見つけるのは、天才の証拠ではないかもしれないが、脳がどんなふうに作用するのかを知る手がかりになる。知性や能力などについては、だらしない人ときちんとした人をくらべて決定的な結論は出せないとシルヴァーマンは指摘している。これは正しいが、それでも、だらしない人は知性や能力が劣るという型にはめられやすい。プリントをきちんとバインダーにはさんでいる学生と、ばらばらのままリュックに詰め込んでいる学生では、バインダーの学生のほうが品行方正で成績もいいと思われる。ただし、こういう学生は学校でだけ優秀な可能性もある。

 発達心理学者のサイモン・バロン= コーエンは、著書『ザ・パターン・シーカー――自閉症がいかに人類の発明を促したか』で、自閉スペクトラム症の人は世界の革新に大きな貢献をしているというすばらしい説を唱えている。「極端にシステム化する人びとは、人づきあいや、人間関係を維持するといった日常生活のごく簡単な社会的タスクでさえ困難だが、生まれつき、あるいは経験を通して、ほかの人がつい見すごしてしまうパターンを簡単に見つけることができる」。これは、自閉スペクトラム症で視覚思考の人がどんなふうに考えるのかを的確に描写している。

 ところが、バロン= コーエンも言語思考の重要性を高く評価し、認知革命から「言語という人間のすばらしい能力」が生まれたと唱える。この説は人間を理解する歴史で幅をきかせている。何らかの摩訶不思議な経緯から、言語は思考を意識に変換すると考えられ、一方、視覚思考はその過程のどこかで抹殺されてしまったのだ。

続く

後編では、思考タイプ判定テストを公開。あなたは視覚思考タイプ or 言語思考タイプ?

テンプル グランディン Temple Grandin

コロラド州立大学動物科学教授。動物学博士。自閉スペクトラム症の当事者であり、同啓蒙活動において世界的に影響力のある学者のひとり。自叙伝をもとにしたテレビ映画「テンプル・グランディン~自閉症とともに」は、エミー賞7部門とゴールデングローブ主演女優賞などを受賞、大きな話題となった。著書に『自閉症感覚』『自閉症の脳を読み解く』(以上、NHK出版)、『我、自閉症に生まれて』『自閉症の才能開発』(以上、学習研究社)など。2010年にタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2016年にアメリカ芸術科学アカデミー会員にそれぞれ選出された。コロラド州フォートコリンズ在住。
写真:Kelly Buster

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