『自閉症の脳を読み解く』など数々のベストセラーで知られるテンプル・グランディンの最新作『ビジュアル・シンカーの脳~「絵」で考える人々の世界』刊行を記念して、本文の一部を特別公開します。
(※NHK出版公式note「本がひらく」より、一部編集して転載)
全米大学教授トップ10(CEOWORLD誌)、世界で最も影響力のある100人(タイム誌)にも選出されたグランディンは、自閉スペクトラム症の当事者であり、同啓発活動において世界的に影響力のある学者のひとりです。本書では、自身も視覚思考者(ビジュアル・シンカー)であるグランディンが多くの実例や最新研究をもとに、ものづくり、ビジネス、教育に革新をもたらす新たな才能の世界を示します。
視覚思考(ビジュアル・シンキング)とは何か
私は自閉スペクトラム症(ASD)であるため、4歳になるまで言葉が出なかった。8歳になってやっと字が読めるようになったのは、発音とつづりを結びつけて単語を学ぶ音声学習法の個人指導をたっぷり受けたからだ。
小さいころ、まわりの世界を言葉で理解できなかった。画像で理解したのだ。たしかに今では言葉を話すが、それでも考えるときにはおもに「絵」を使う。私の思考は言葉がなくても豊かで生き生きしている。視覚的なイメージが次から次へと思い浮かぶ。グーグルの検索画像をスクロールしたり、インスタグラムやTikTokのショートムービーを見たりしているように、画像で考える。これが視覚思考(ビジュアル・シンキング)だ。
私は自閉スペクトラム症であるとともに視覚思考者(ビジュアル・シンカー)でもある。視覚思考は、よく視力に関係すると誤解されるが、見ること自体に関係するのではない。脳が視覚の回路を使って情報を処理する思考のプロセスである。つまり、考える方法が言葉で考える通常の言語思考と異なるのだ。この考え方を理解するには、第一に、こういう考え方が存在することを理解しなければならない。
私は自分の考え方がふつうと異なることを知らなかったので、ほかの人がみな自分と同じ方法で考えているわけではないとわかって戸惑った。仮装パーティに招待されて出かけて行ったら、仮装していたのは自分だけだったときのような気分だ。たいていの人と私自身の思考のプロセスがどう違うのか、想像するのは難しかった。だれも彼もが絵で考えているのではないと知ったとき、人はどんなふうに考えるのかを明らかにし、自分と同じように考える人を見つけることが私の使命になった。それ以来、私のような視覚思考者がどのくらいいるのか研究を続けてきた。資料を調べ、じっくり観察し、自閉スペクトラム症や教育関係の会合で講演をしたときに簡単な調査を行ない、親や教育者、障害者支援者、仕事関係者など、たくさんの人と話をした。
さらに、視覚思考には二種類あるのではないかと考えるようになったが、それはある日、突然、思いついたのではない。当時は証明できなかったが、ある種の視覚思考者が私とまったく異なることにそれとなく気づいたのだ。空間視覚思考者、絵でなくパターンや抽象的な概念で考える人たちだ。
最初にこの相違を感じたのは、エンジニアや機械設計者と仕事をしていたときだ。その後、私の観察を裏付けている科学文献を見つけ、うれしくて天にも昇る心地だった。心理学者のマリア・コジェヴニコフの論文によると、視覚思考者には、私のような絵で考える「物体視覚思考者」と、数学の好きな「空間視覚思考者」という二つのグループがあって、後者はこれまで見過ごされてきたが、視覚思考者の重要な一集団で、パターンで考えるというのだ。「やはりそうだったのか」との思いはとても強く、自分の個人的な体験にとどまらず、学校や職場を含めた社会というもっと大きな視点から視覚思考を眺める必要性を感じた。
自分が視覚思考かどうか、どうすればわかるのだろう。音楽が好きか、絵を描くのが上手か、機械を組み立てるのが得意か、それとも文章を書くほうがいいか、こういうことが手がかりになる。視覚思考は、たいていの特質と同じように程度に幅がある。大方の人は言語思考と視覚思考の両方を組み合わせながら考えるものだ。研究、知見を通して自分がその幅のどのあたりにいるのか見つけてほしい。
私は自閉スペクトラム症の支援活動にも長年携わってきた。何よりも大切なのは、子どもたちが幸せな人生を送れるようにすることで、その第一歩は、子どもたちがどんなふうに考えるのか、それゆえどうやって学ぶのかを理解すること。経営者には、従業員全員の能力を正しく評価し、履歴書にとらわれずに、視覚思考者や多様な思考タイプの人たちができることを見きわめてほしい。