TBSホールディングス(HD)が株主提案を出した英投資家とバトルを繰り広げている。持ち合い株の東京エレクトロン株を現物配当するように求めた株主提案をTBSが拒否。英投資家は「TBSの放送事業は副業。本当は投信だ」と反論し、改めて持ち合い株の多さを非難した。6月に開かれる予定のTBSHDの株主総会に向け、激しい応酬が繰り広げられることになりそうだ。
ことの発端は、英運用会社のアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が5月1日にTBSに出した株主提案。持ち合い株として保有する東京エレクトロン株の4割(約306万株、時価にして600億円超)を、TBSの株主に現物配当しろ、という内容だ。現物配当という珍しい要求をしたのは「現金配当だと配当原資を指定できないから」(AVI)だ。例えば単なる現金での増配要求だと、TBSが手元資金を使って応じた場合、持ち合い株の減少にはつながらない。AVIはTBSの持つ持ち合い株の多さという問題により焦点を当てるため、あえて現物配当という要求を繰り出した。
実際の現物配当には源泉徴収税などの諸手続きが煩雑になる。会社側はその煩雑さが株主の利点にならないとして拒否の理由の一つに挙げた。だがAVIの要求をよく見ると、TBS株主は東京エレクトロン株を現物株として受け取るか、それとも現金で受け取るか選択できるとある。AVI側も「実際には多くの株主が現金を選ぶだろう」と判断している。しかし多くの株主にこの選択権が周知されているとは言い難く、株主提案の可決に向けたハードルになってしまう可能性がある。
現物配当という奇手を繰り出した是非はさておき、AVI側が最も言いたいのは持ち合い株によって「会社資産価値の半分以上を、放送事業に関係のない国内有価証券に集約しているリスク」だ。今回の株主提案は、そのリスクを軽減するための「最初のささやかな一歩」としており、長期戦を覚悟しているフシもうかがわせる。
AVIはTBSの拒否回答を受けて改めて声明を出した。それによると「全資産の72%を主力の放送事業と無関係の有価証券、不動産および現金が占めている」ことにより、TBSは「いわば副業として放送事業を行っている4500億円を運用する証券投資信託である」と断じている。さらに「うち3000億円を古くからの会社同士、および個人の関係という以外に客観的な投資基準も持たず、わずか5社に投資している」ことも問題視している。仮にTBSが投資ファンドだとしても、こんなポートフォリオは「投資マネジャーは必ずや職務怠慢で訴えられる」というわけだ。
持ち合い株を全否定できない日本の経営者は多い。持ち合い株は何かあったら自分たちに味方してくれる安定株主でもあったという歴史があるからだ。実際TBSには、十数年前に楽天が買収を仕掛けてきた際に多くの安定株主のおかげで独立を守り切った「戦績」がある。
しかし世の中はコーポレートガバナンス全盛期。資本効率の低下にもつながる持ち合い株への批判は、かつてないほどに高まっている。さらにまもなく適用が始まるコーポレートガバナンス・コードの改定案では、一段と持ち合い株への視線が厳しくなる。
持ち合い株は「縮減すべきもの」に
これまでのコードでは持ち合い株(いわゆる政策保有株)に関しては「政策保有に関する方針を開示すべきである」となっていたが、改定案では「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである」と変更される。つまり持ち合い株は「縮減すべきもの」という前提が初めて盛り込まれるのだ。大和総研の鈴木裕氏は「今後は政策保有株の縮減方針が書かれていなければ、コーポレートガバナンス・コードにコンプライしたことにならないのではないか」と指摘する。
TBSも東京エレクトロン株を絶対に売らない、と言っているわけではない。今後も「企業価値向上のための投資拡大に際しては、東京エレクトロン株を適宜活用(売却して投資資金に充当するという意味)していくことが十分に想定される」と反論している。また保有する東京エレクトロン株からの配当金も2018年3月期に39億円弱など、業績に毎年大きな貢献があるという。
TBSも「持ち合い株が客観的に多いということは当然認識している」(幹部)わけで、こうなると時間軸の問題、とも思える。両社のやりとりは「すぐにやれ」「いや、やる時はちゃんとやるから」という言い合いに近い。TBSにはほかにも安定株主が多いことから、今回の株主総会で株主提案が勝つ可能性はあまり高くはないだろう。しかし持ち合い株への包囲網が着実に、じわじわと狭まっているのは確かだ。
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