https://x.com/hosodatetsuya/status/2059107427019280733
以上のような話が「パパ友から聞い」た話という子どもの誘拐話が拡散していた。これはコミュニティノートにもある様にディズニーランドなどの目立つ場所で「子どもの誘拐」が行われているという都市伝説の一類型だろう。この都市伝説類話の特徴の一つとして見られるのは、一見すると自分の子どもとは見た目が違うもののよく見ると見覚えのある「靴(靴下)」が自分の子どものもので、そこから誘拐がわかったというものだ。この投稿だけならこのアカウントの周辺でこの話が流布していただけの可能性もあるが、この投稿の1か月前には次のような「怖い話聞いた」という伝聞調の投稿がスレッズで拡散していた。
https://www.threads.com/@insta.by.jin/post/DXixyDNkxm4
こちらは水族館ではなくディズニーランドでの誘拐話となり、靴の話は出てはこないが、誘拐部分の共通点としては子どもが着替えさせられた、つまりは見た目がわかりづらくされていたという部分が共通している。この「ディズニーランドなどで子どもが誘拐されそうになった」という都市伝説については渡辺良智『子供たちはどこへ消えるのか ー都市伝説生成の背景を探るー』によれば、少なくとも1996年ごろには新聞でも取り上げられているほどに噂が流布していたことがわかる。
日刊ゲンダイ(1996・6・10)
『WTDL舞台に誘拐ミステリー!!!/噂、デマが飛び交って大騒ぎ』
東京から遊びに行った子供がトイレで注射され、髪の毛を切られて連れ去られそうになった。犯人は東南アジア系のグループで、子供の臓器売買が目的らしい。
東京新聞(1997・1・13)
『「夢の世界」を襲う恐怖”/検証・東京ディズニーランドのウワサ』
・小学五年生の男児が両親とディズニーランドに出掛けた。一人で別行動して一時間過ぎても待ち合わせ場所に来ないため、ディズニーランド側がゲートを閉めて捜した。男児は髪の毛を刈られて麻酔薬を注射され、ベビーカーで連れ出されようとしていた。犯人は日本人男性。臓器売買のターゲットにされた。ディズニーランド側は 「最近よく起きている」と説明した。
・ディズニーランドのトイレで、小学校高学年(中学生の例も)の女児がいなくなった。両親がディズニーランド側に捜索を依頼、ゲートを封鎖して捜した。係員が挙動のおかしい人を見つけ、その人が女児を連れていた。 ヘアスプレーで髪を染められ帽子をかぶせられたうえ、服も取り換えられていたが、靴で分かった。犯人は東南アジア系で、女児がトイレから出てくるところを突き飛ばし、薬で眠らせた。
渡辺はこれ以外にも2002年までこの誘拐都市伝説の類話をいくつか挙げているのだが、この様に90年代から日本においても定期的にこの話が流布されている事が窺える。当然、ネット上でもいくつかこの話は取り上げられており、1996年頃にこの都市伝説が流行ったと書いている「TDL(東京ディズニーランド)の誘拐団」、2008年のmixiにおいて「遊園地での誘拐伝説」、またwikipediaにも東京ディズニーランドの都市伝説で取り上げられるなどしているわけで、事程左様に有名な部類の都市伝説だと言える。
そしてこの都市伝説だが、今年の初めごろのエプスタインファイルの話がまだ盛んな頃にディズニーとこの「誘拐」と絡めた少し投稿が拡散しており、この時点でこの都市伝説が復活したのだと思われる。そしてエプスタインファイル部分は切り落とされ、昨今の排外言説であったり、その中で語られることが多い臓器売買の為の誘拐などと接続する事によって、この都市伝説の類話が再度拡散をしているのだと思われる。例えば次のインスタの投稿などはスレッズの投稿を再活用してこの話を流布している。
https://www.instagram.com/rescuehouse_bousai/reel/DX6phtMBo0Z/
このインスタ投稿ではカツラを被せるなど、スレッズ投稿にはない従来の都市伝説部分の追加や、そもそも「都市伝説」でこういった話がある事を途中で示しつつも、実際にこういった誘拐が起きている様に誘導している。そしてその根拠の数字として2026年1-3月において埼玉県における略取誘拐・人身売買の認知件数が前年同期比から「257.1%」となった事例を挙げている。
これは埼玉県警の犯罪統計に記載されたデータとなる。データが更新された1-4月期については増減率100%となっているが、依然として高い数値である事には違いない。
ただこの「略取誘拐・人身売買」についてだが、どういった種類の「誘拐」かと言えばその多くはSNSを介した子どもの誘い出しである可能性が高い。それは埼玉新聞を用いて2026年1月から5月の現時点で発生した記事になった誘拐事件について扱われたであろう実際の事件を列挙してみるとわかる。
【2026年1月~5月17日時点で埼玉新聞記事にある誘拐事件】
・2月10日:女子高生を“わいせつ目的”で連れ回す 車に乗せた男逮捕、誘拐した疑い
・2月26日:逮捕4度目…女子中学生の性的姿態を撮影 無職の男逮捕、16歳未満だと知っていた疑い
※別の女性の未成年者誘拐事件で逮捕されている。記事そのものは児童ポルノによる逮捕
・3月 1日 :家にいていいよ…女子高校生を誘拐した疑い、男逮捕 SNSで誘い出し、自宅に宿泊させる
・3月17日:女子中学生と宿泊施設へ…「せき止め錠をあげるよ」と誘った男逮捕、未成年者だと知っていた疑い
・3月27日:好きだ…10代女性を車に乗せる 無職の男逮捕、未成年者だと知っていた疑い「会いたい」
・4月28日:女子中学生を誘拐、親の許可を得ず…男逮捕、「家に来れば」と誘って自宅に泊めた疑い
・4月25日:女子高生を誘拐…「逃げれる場所あるの?」と誘い出した男2人逮捕
※埼玉新聞HPで「誘拐」で検索。埼玉県の警察署による逮捕事件のみを列挙
以上の様に計7件の事件が記されている。ただ2月26日の事件については過去に未成年者誘拐事件の逮捕に触れているが、果たしてこれが何時であり、また埼玉県の事件であったかは不明なので、それを数に入れない場合は6件となる。これらの記事が書かれる事件としては10代女性をSNSなどで誘い出しての誘拐というもので、少なくとも記事上における容疑者は外国籍とされている人間はおらず日本人と考えるべきだろう。なお、2026年より前を検索してもこの種の誘拐が大半となる。
昨今、「略取誘拐・人身売買」は増加傾向にあり、そういった言説もこの都市伝説流布の背景にあるのだろう。ただここでいう「略取誘拐・人身売買」はSNSを介して子どもを誘い出すという犯罪手法の増加が一番の要因だと思われる。例えば、2026年2月26日の朝日新聞「SNSから犯罪被害、小学生は10年で4倍に 少年が不正アクセスも」の中で”SNSがきっかけの事件のうち「重要犯罪等(殺人、強盗、不同意わいせつ、不同意性交等、略取誘拐、逮捕監禁)」に限ると、被害を受けた子どもは598人で、不同意性交等、不同意わいせつ、略取誘拐がほとんどを占めた”とあり、SNSを介して子どもが被害に遭っている旨を伝えている。実際に略取誘拐・人身売買の認知件数が右肩上がりなのは事実であるが、ただ今現在起きている多くの誘拐事件はSNSを介して子どもを誘い出すという手法が多いのが現状だろうで、行政の対応としてはこれへの注意喚起が多い。親にとって誘拐は恐ろしい犯罪である。とはいえ都市伝説を流布して恐怖と排外を煽る必要はないよねと。
【追記】
資料上では「略取誘拐・人身売買」というカテゴリになっているのだが、これについて少し付け加えておく。警察庁の「令和6年の刑法犯に関する統計資料」によればこのカテゴリのうち「人身売買」の認知件数は0件であったりする。つまりこのカテゴリは実質「略取誘拐」の数字となる。
「人身売買」の判定がどの様なものかは詳細はわからないが、あくまでも令和6年(2024年)以前の統計上では人身売買は発生していない事となる。
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