第13話 それってビキニアーマー!?

 見えない壁に弾かれたように、再びジルベルタをマリミアの剣が襲う。

「っ!」

 それをかわしても、さらにまた剣が戻ってくる。

 ジグザグに襲いかかる剣。

 そんな剣の動き、ジルベルタは見たことがなかった。


「ああ、もうっ!」

 苦し紛れに炎をまき散らしながら剣を振り、地面を蹴って大きく後ろへ下がる。

「なんなのよそれ……」

 落雷の如く、軌道を変えながら襲いかかる剣だった。

「ボーハイムの稲妻……稲妻ってスピードじゃなくて、そっち?」


「現役時代だったら、今ので仕留めていたわ」

「でも今は違うんでしょ」

「…………」

 確かにそうだ。鍛錬を怠った自分の怠慢だ。

「忘れて。負け惜しみよ……これが、今の私の実力だわ」


 するとジルベルタが少し困ったような顔をした。

「でも、子持ちで一戦を離れていたとは思えない動きだった。リハビリしたら元に戻るでしょ」

「えっ?」

 ジルベルタは剣を納めた。それを見て、マリミアもまた剣を鞘に戻す。


「もういきなり斬りかからないでね」

「お互いの腕は見せたからね。でも奇襲は戦いのお約束……って、えっ!?」

 ジルベルタの目が驚いたように見開かれる。

「どうしたの?」

 その視線は、マリミアの胸元に注がれている。どうしたのかと視線を落とすと、服が切られて、下に着ていた下着タイプの装甲が露わになっていた。


「うっわ!? それってビキニアーマー!? 今でもそれ着ている人いるんだ!」


 マリミアは赤くなって、慌てて胸元を隠す。

「わ、私が現役の頃は、これが流行だったの!!」


 うろたえるマリミアをニヤニヤした笑みで見つめた。

「ふっふ~ん? それで、そっちのおじさんをオトそうってワケなんだ~。へ~」


「ちっ、ちが……!!」

「じゃ、まーそゆことで!」

 ジルベルタは立ち去ろうと背を向けた。その背中に向かってイオスが尋ねる。

「君はどうして冒険者になろうとしているんだ?」

「へ?」


「今は平和な世の中だ。確かに低レベルな魔物はいるが、治安兵も組織された。昔ほど冒険者の需要はない。金を稼ぎたいのなら、他にいくらでも職種はある。どうして危険な冒険者にこだわるんだ?」

「平和な世の中が問題なのよ」


 ジルベルタは暗い顔で答えた。

「新しい世の中で成り上がるには商売で儲けるしかない。頭が良くなきゃいけないし、計算もできないといけない。時勢を読む力も、人と付き合う政治力だっている。でも、あたしにはそんな頭はないの」


 ジルベルタは剣を抜き、それを空に向かって掲げる。

「小さい頃、英雄物語が好きだったわ。あたしの剣の才能はみんなが褒めてくれた。いずれ英雄になるってチヤホヤしてくれた。でも、いざ戦場に出られる歳になったら……もう戦争は終わってた」


 マリミアは眉を寄せて、諭すように言った。

「でもねジルベルタ。戦争は格好いいものでも綺麗なものでもないわ。大勢の人が死ぬ、とてもつらく苦しいものなのよ?」


「あーはいはい。聞き飽きたわ、それ。でも今のままじゃ、あたしは誰にも知られない、取るに足らない存在で終わる。長生きしたって、そんなの死んでないってだけよ。それよりもあたしは、あたしのことを大勢の人に知ってもらいたい。感謝されたいし、尊敬だってされたい。歴史にも名を残したい。そして――あたしは特別な人間なんだって証明したいの」


 ジルベルタは軽く剣を振ると、鞘に納める。

「あの勇者ヘス・ペロスだって、最初は一介の冒険者だった。だからあたしは新しい魔王を倒して、新しい勇者になるの。だから、放っておいて」

 そう言い残し、ジルベルタは去って行った。


 確かに人がどう生きるかは、その人の問題だ。

 相手が並の魔族であれば、イオスも口出しをしなかったかもしれない。

 しかし、ヘルケルが魔界から転生した現実を見せられた後では、嫌な予感しかしなかった。

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