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批判メール、個人情報漏洩に対する出勤停止処分(令和2年7月16日東京地裁)

概要

学校法人に勤務する職員2名が、それぞれ平成27年5月29日付で受けた出勤停止5日間の懲戒処分について、無効確認や未払賃金等の支払を求めた事案。
原告Aは、学園のメールシステムを用い、勤務時間中に複数の職員へ、理事長・常務理事・理事らに侮蔑的なあだ名を付けて批判・揶揄する内容のメールを送信していた。被告は、これが職務専念義務違反、私用メール、学園秩序を乱す行為等に当たるとして懲戒処分を行った。原告Bは、短期大学の認証評価業務に必要であるとして人事部から職員の人事情報一覧を取得し、これを退職者一覧等に加工した上で、部下や原告Aに送信した。被告は、これが個人情報保護規則に反する目的外利用・提供に当たるとして懲戒処分を行った。両名は、処分が不相当に重く、手続にも問題があるとして争った。

結論

一部認容、一部棄却

要旨

原告 Aは、学園の貸与パソコンとメールシステムを使い、勤務時間中に複数の職員へ、理事長・常務理事・理事らを侮蔑的なあだ名で呼び、批判・揶揄するメールを送信していました。被告は、これを職務専念義務違反、業務用システムの私的利用、学園秩序を乱す行為等として、出勤停止5日間の懲戒処分を行いました。

原告Bは、学事部長として短期大学の認証評価業務を担当していたところ、人事部職員から、職員の人事コード、氏名、生年月日、採用年月日、所属、役職等を含む人事情報一覧を取得しました。Bはこれを退職者一覧等に加工し、同じ業務を担当する部下のほか、送別会を私的に企画していたAにも送信しました。被告は、これが個人情報保護規則に違反する目的外利用・提供に当たるとして、Bにも出勤停止5日間の懲戒処分を行いました。

裁判所は、両名の懲戒処分の無効確認について、確認の利益を認めました。懲戒処分を受けると翌年度の昇給が停止され、その後も1号俸低い給与・賞与が継続する仕組みであったため、処分の有効・無効が将来の賃金額にも影響すると判断されたためです。

Aについて、メールの内容が学園経営に関する建設的な意見というより、理事ら個人を一方的に侮辱・揶揄するものであり、業務上のものとはいえないとしました。また、勤務時間中に学園のメールシステムを用いて、複数の職員に短期間で繰り返し送信していたこと、過去に同様の行為で口頭注意を受けていたことを重視し、職務専念義務違反、職務外目的での施設・物品使用等の懲戒事由に該当すると判断しました。処分の重さについても、出勤停止5日間は裁量権の逸脱・濫用には当たらないとして、Aの請求はすべて棄却されました。

Bについて、裁判所は、Aへの人事情報の送信は、認証評価業務とは関係がなく、送別会を私的に企画する便宜のためであったことから、個人情報の目的外利用・提供に当たり、懲戒事由は存在すると判断しました。もっとも、本件情報は生年月日を除けば学園内部で必ずしも秘匿性が高いものとはいえないこと、部下やA以外への漏えいや学園に具体的損害が生じた事実がないこと、Bが故意に虚偽の理由で情報を取得したとまでは認められないこと、過去に懲戒処分歴がなかったことなどを考慮し、出勤停止5日間は重すぎると判断しました。

結果、Bに対する懲戒処分は、社会通念上著しく妥当を欠き、使用者の裁量権を逸脱するものとして無効とされました。被告には、Bに対し、出勤停止期間中の給与、平成27年冬季賞与の差額、昇給停止に伴う平成28年4月以降の給与・賞与差額として、合計54万4468円の支払が命じられました。ただし、裁判所は、Bについても懲戒処分自体の必要性はあったと見ており、無効理由は処分が重すぎたという相当性の問題にとどまるため、不法行為は成立しないとして、慰謝料・弁護士費用の請求は認めませんでした。

事業者が気をつけるべき点は、第一に、勤務時間中の私用メールや業務用システムの不適切利用については、内容・頻度・送信範囲・過去の注意歴を具体的に把握し、記録しておくことです。内部批判であっても、建設的意見と人格攻撃・侮辱的表現は区別されます。役職者等への不満が含まれる場合でも、侮蔑的表現を繰り返し、業務用システムを使って複数職員に送信する行為は懲戒対象となり得ます。

個人情報の取扱いでは、社内の職員同士であっても業務上必要な範囲を超えた提供は問題になります。送別会や便宜目的であっても、人事情報を安易に提供すれば、目的外利用・提供と評価され得ます。人事データの取得・利用・共有については、利用目的、共有範囲、権限者を明確にし、必要最小限に限定する運用が重要です。

懲戒処分では、懲戒事由があるかと処分の重さが相当かは別問題です。本件Bのように、違反行為自体は認められても、出勤停止まで科すのは重すぎるとして無効になることがあります。処分を選択する際は、情報の秘匿性、漏えい範囲、実害の有無、故意・過失の程度、過去の処分歴、反省状況、他事例との均衡を丁寧に検討する必要があります。

懲戒処分が昇給停止など将来の賃金に連動する制度では、処分の影響が長期化します。そのため、出勤停止自体が短期間であっても、実質的な不利益は大きくなります。事業者としては、処分に伴う昇給停止・賞与減額の効果まで含めて、全体として過重にならないかを確認すべきです。処分手続では、事情聴取、弁明機会、処分理由の明示、不服申立手続の整備・周知も重要です。

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