コンテンツにスキップ

動物哲学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
動物哲学
初版(1809年)の標題紙
著者ジャン=バティスト・ラマルク
フランス
題材動物学進化
出版社国立自然史博物館 (フランス)
出版日1809

動物哲学』(どうぶつてつがく、Philosophie zoologique)はフランスの博物学者ジャン=バティスト・ラマルクによる1809年の著書。ラマルクは本書の中で自身のダーウィン以前の進化論の概要を説明しており、その一部は現在ラマルキズムとして知られている。

ラマルクは著書の中で、動物種が環境の影響を受けて特性を獲得することを可能にする2つの法則を提唱した。第一の法則は、使用または不使用によって、世代を超えて身体構造が成長または縮小するというものである。第二の法則は、そのような変化は遺伝するというものである。これらの条件を総合すると、は環境への適応によって絶えず変化し、分岐する進化の道筋を形成するといったものになる。

ラマルクはフランスの著名な動物学者キュヴィエにはほとんど無視されたが、海外では大きな注目を集めた。地質学者のチャールズ・ライエル比較解剖学者のトマス・ヘンリー・ハクスリーなどの19世紀の科学者たちによって注意深く読まれたが、その主張は否定された。チャールズ・ダーウィンはラマルクを重要な動物学者として認め、彼の理論を自然選択によるダーウィンの進化論の先駆けと位置づけた。

シャルル・テブナンが描いたラマルク(1802年ごろ)

ジャン=バティスト・ラマルク(1744年 - 1829年)は、フランス科学アカデミーの会員であり、パリ植物園植物学教授を務めた後、新しくなった国立自然史博物館の初代動物学教授となった。無脊椎動物、特に軟体動物分類学に関する研究で有名になった。しかし、最も有名なことは、今日名前を冠して呼ばれるラマルキズムという理論、特に環境(ラマルクはこれを生命の条件と呼ぶ)が動物の永続的で遺伝的な進化的変化を引き起こすという見解である[1]。1802年の『生物体の組織に関する研究』(Recherches sur l'organisation des corps vivants)、1809年の『動物哲学』(Philosophie zoologique)、そして後に『無脊椎動物の自然史』(Histoire naturelle des animaux sans vertèbres)(1815年 - 1822年)でこの理論を説明した[1]

ラマルクは、不使用による機能喪失の例としてメクラネズミ(Spalax)を使って説明した。この動物の小さい目は皮膚の層で完全に覆われている。

ラマルクは『動物哲学』の中では環境の影響によって新たな特性を獲得できるという考え方を、法則と呼ぶ2つのルールにより提唱した。第一の法則は、身体構造の使用または不使用によって、数世代にわたって身体構造が成長または縮小するというものである。第二の法則は、このようにして生じた変化は遺伝するというものである。ラマルクの法則は、動物が環境に絶えず適応していくことを示唆している[1]

この著書の中でいくつかの痕跡器官に名前をつけており、その中で「モグラのように地下に生息しモグラよりも日光に当たらないと思われるオリヴィエSpalaxは視覚を完全に失っておりこの器官の痕跡しか残っていない」との記述がある[2]

ラマルクは種分化を次のように説明した[3]

as new modifications will necessarily continue to operate, however slowly, not only will there continually be found new species, new genera, and new orders, but each species will vary in some part of its structure and form ... individuals which from special causes are transported into very different situations from those where the others occur, and then constantly submitted to other influences – the former, I say, assume new forms, and then they constitute a new species.[3]

新たな変化は必ず継続して起こるが遅いため、新しい種、新しい属、新しい目が絶えず発見されるだけでなく、それぞれの種は構造や形態の何らかの部分において変化するであろう。・・・特別な原因によって他の個体とは全く異なる状況に運ばれ、その後絶えず他の影響を受ける個体―前者は新しい形態を呈し、そして新しい種を構成する、と私は言う。

異なる種類の動物間のギャップは、中間形態の絶滅により生じたと主張した。

a branching series, irregularly graduated which has no discontinuity in its parts, or which, at least, if it's true that there are some because of lost species, has not always had such. It follows that the species that terminate each branch of the general series are related, at least on one side, to the other neighboring species that shade into them.[4]

分岐した系列は不規則に進み、その部分に不連続性はなく、または少なくとも種の消失によって不連続性が存在するとしても、常にそうであったわけではない。したがって、一般的な系列の各分岐の末端に位置する種は、少なくとも片側において、それらに徐々に進んでいく他の隣接種と関連している。

ラマルクは生物変移説を提唱したが、すべての生物が共通の祖先を持つとは考えておらず、むしろ単純な生命形態が自然発生によって継続的に生み出されると考えていた。また、生来の生命力(ときどき神経液と表現した)が、中世存在の大いなる連鎖英語版に似た直線的な複雑の階段を上って、種を時間とともに複雑化させていくと考えていた[5][6]

ラマルクが1809年に著した『動物哲学』における、動物の起源を枝分かれした進化の経路で示した図

第1部は博物学、第2部は生理学、第3部は心理学に関するものである[7]

(以下の内容の日本語訳は『科学の名著 第2期 5 ラマルク』朝日出版社、1988年。 による)

第1巻

序論

第1部 動物の自然誌、その形質、類縁、体制、分類、綱区分、種についての考察

第1章 自然の産物をとりあつかう人為的方策について

第2章 類縁の考察の重要性

第3章 生物のあいだの種について、また、私たちがこの語にあたえるべき観念について

第4章 動物についての概要

第5章 動物の分類と綱区分の現状について

第6章 動物を体制のもっとも構成的なものからはじめてもっとも単純なものへとたどるとき、この連鎖の一方の端からもう一方の端までの体制に見られる漸退と単純化

第7章 動物の活動と習性におよぼす環境の影響と、これらの生物の体制を諸部位を変化させる原因としての活動と習性の影響について

第8章 動物の自然的秩序について、ならびに動物の全般的分類を自然の秩序そのものに合致させるためにこの分類にあたえるべき配置について

第2部 生命の物理的原因、生命が存在するために要求される条件、生命の運動の刺激力、生命を所有する物体にあたえられる能力、生命がこれらの物体に存在することの成果についての考察

序文

第1章 無機物と生物との比較、動物と植物との比較対象を付す

第2章 生命について、生命を構成するものについて、生命がある物体に存在するのに不可欠の条件について

第2巻(1830年版)

第3章 有機的運動の刺激因について

第4章 機能亢進と被刺激性について

第5章 およそ体制がそのなかに形成された基礎質とみなされる、細胞組織について

第6章 直接生殖あるいは自然発生について

第7章 生命がある物体に存在することの直接の成果について

第8章 あらゆる生物に共通する能力について

第9章 ある種の生物に特殊な能力について

第3部 感性の物理的原因、活動の産出力を構成する原因、最後に、さまざまの動物に観察される知性の行為をひきおこす原因についての考察

序文

第1章 神経系、その形成、その遂行するさまざまな種類の機能について

第2章 神経流動体について

第3章 身体的感覚能と感覚の機構とについて

第4章 内的感性について、内的感性の経験しうる興奮について、内的感性がその活動を生みだすために興奮から獲得する威力について

第5章 動物の活動の産出力と、この力の使用から生まれるいくつかの特殊な事実とについて

第6章 意志について

第7章 悟性、その起源、そして観念の起原について

第8章 悟性の主要な行為について、あるいは、他のあらゆる行為がそこに由来する第一類の行為について

想像について

理性についてその本能との比較について

第1部第7章、第8章に関する追補

ラマルクの進化論は、当時の動物学者や一般大衆には即時的な影響はほとんどなかった。科学史家のリチャード・バークハート(Richard Burkhardt)は、これはラマルクが自身の見解は受け入れられないだろうと確信しており、理論を説得力をもって提示する努力をほとんどしなかったためだと主張している[8]

フランス語圏では、ラマルクとその理論は生前、キュヴィエなどの当時の主要な動物学者たちに拒絶された。しかし、フランスの外、そして死後には、エルンスト・ヘッケルチャールズ・ライエル、そしてダーウィンといった主要な科学者たちが、ダーウィン進化論を予見する理論を提唱した偉大な動物学者として彼を認め、彼らに大きな影響を与えた[1]

1830年から1833年にかけて、チャールズ・ライエルは著書『地質学原理英語版』の中でラマルクの理論を要約し(約6ページで、『動物哲学』への相互参照を交えながら)、厳しく批判した。ライエルはまず、ラマルクが全く新しい機能(「全く新しい感覚、能力、器官の代替」)の発達の例を全く示しておらず、一部の部位の「寸法と強度」の増減が可能であることを証明しているだけだと指摘した。ライエルは、ラマルクが「厳密な帰納法の規則を無視」して「虚構に頼っている」と述べている。ライエルは、議論のためにラマルクが新しい器官の創造について正しかったと仮定し、ラマルクの理論は、動物の性質と形態がその行動を生み出すのではなく、その行動が決定するということを意味すると述べている[9][10]

それは器官ではなく、言い換えれば、動物の習性や、独特の機能を与えている動物の体の部分の性質と形態である。しかし反対に、その習性、生活の仕方、また先祖が生きてきた生き方が体の形、器官の数や状態、すなわち一言でいえば機能を決めてきた。したがって、カワウソ、ビーバー、水鳥、カメ、カエルは泳ぐかもしれないということで水かきを獲得したわけではない。しかし彼らの欲求から食べ物を探して水辺に来て、水の表面に沿って速く動くために足の指を広げて水をかくようになった。繰り返して指を広げていた結果、指の付け根にある皮膚は引き伸ばされ、時間の経過とともに指と指の間をつなぐ幅広い膜になったのである。[9][10]

ラマルクがアンテロープガゼルが「軽快で俊敏な体」を獲得し、素早く走れるようになったと想定したことや、キリンが「長く柔軟な首」を持つようになったと想定したことについてもライエルは同様に批判している[9]

ラマルキズムは、ロバート・チェンバースが1844年に匿名で出版した『創造の自然史の痕跡英語版』によって英語圏で広く知られるようになった[11]

  1. 以下の位置に戻る: 1 2 3 4 Jean-Baptiste Lamarck (1744-1829)”. UCMP Berkeley. 2014年12月31日閲覧。
  2. Dampier, Sir William Cecil; Dampier, Margaret (1924). Cambridge Readings in the Literature of Science: Being Extracts from the Writings of Men of Science to Illustrate the Development of Scientific Thought. CUP Archive. p. 201. GGKEY:2ZAX2F9PQD1
  3. 以下の位置に戻る: 1 2 Packard, Alphaeus Spring (1901). Lamarck, the Founder of Evolution. Longmans, Green. p. 240.
  4. "Outlines of evolutionary biology", by Arthur Dendy and Maurice Burton on page 387
  5. Bowler, Peter J. (2003). Evolution:The History of an Idea. University of California Press. pp. 86–94. ISBN 0-520-23693-9
  6. Larson, Edward J. (2004). Evolution:The Remarkable History of Scientific Theory. Modern Library. pp. 38–41. ISBN 0-679-64288-9
  7. Gillispie, Charles Coulston (1960). The Edge of Objectivity: An Essay in the History of Scientific Ideas. Princeton University Press. p. 271. ISBN 0-691-02350-6
  8. Burkhardt, Richard W. Jr (1970). “Lamarck, Evolution, and the Politics of Science”. Journal of the History of Biology 3 (2): 275–298. doi:10.1007/bf00137355. JSTOR 4330543. PMID 11609655.
  9. 以下の位置に戻る: 1 2 3 Lyell, Charles (1830). Principles of Geology. Murray. pp. Volume 2, Book III, Chapters 1 and 2, Pages 326–366 (Public Domain)
  10. 以下の位置に戻る: 1 2 チャールズ・ライエル 著、河内洋佑 訳、J.A.シコード 編『科学史ライブラリー ライエル地質学原理』朝倉書店、2007年。ISBN 978-4254105889
  11. Secord, James A. (2000). Victorian Sensation: The Extraordinary Publication, Reception, and Secret Authorship of Vestiges of the Natural History of Creation. Chicago: University of Chicago Press. ISBN 978-0-226-74410-0. オリジナルの2008-05-16時点におけるアーカイブ。 2014年12月31日閲覧。