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日本酒業界に「現行法でも新規参入は可能」という発言があります。 事実と照合します。 酒税法第10条第11号。「需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許を与えることが適当でないと認められる場合」は、税務署長は免許を拒否できる。清酒については、この規定に基づき、約70年間にわたって国内向け新規免許の発行が原則停止されてきました。 では今現在、清酒製造に新規参入するにはどうするか。制度上の経路は3つです。 1つ目は廃業した酒蔵の免許を「買い取る」方法。倒産・廃業した酒蔵の法人ごと取得し、その免許を引き継ぐM&Aです。「新しい会社を作る」のではなく、「既存の免許枠を市場から調達する」行為です。 2つ目は2021年に創設された輸出用清酒製造免許。これは国内では販売できません。国内市場向けの新規参入とは別物です。 3つ目は清酒以外の免許(どぶろく特区など)を活用したクラフトサケの製造。これは厳密には「日本酒(清酒)」の製造ではありません。 「現行法でも新規参入は可能」という言明は、この3経路のいずれかを指しています。つまり、免許の新規発行ではなく、既存枠の移転か、国内市場外の特例か、清酒以外の代替手段です。ゼロから清酒製造免許を発行してもらう経路は、2026年5月現在、存在しません。 問題はここです。「新規参入できる」と述べているアカウントは、自らのプロフィールに「2014年設立公設民営酒蔵」と記しています。公式サイトの沿革によれば、1929年創業の赤名酒造合名会社が2004年に経営破綻し、飯南町が施設を取得。その後、新経営陣が旧法人の株式を取得して廃止し、株式会社として設立し直しました。 要するに、1929年に取得された既存の清酒製造免許を組織変更によって引き継いだ事業体です。「新規参入」ではなく、「免許継承」です。 この経路を辿れた背景には、廃業という前提と、地方自治体(飯南町)による施設買い取りと改修支援という特殊な条件が揃っていた事実があります。全国で廃業酒蔵の免許が市場に出るかどうかは、需要側がコントロールできる変数ではありません。 2025年5月、政府はようやく約70年ぶりに国内向け新規免許発行の「一部解禁を検討する」方針を示しました。「検討開始」であり、具体的な条件もスケジュールも未発表です。現行法制でできないと言われているのは、この文脈の話です。 「できる」という言明は、条件と経路を明示しなければ情報として機能しません。制度の壁を乗り越えた経験を持つ事業者が、その経路の詳細を省いて「できる」と述べるとき、聞こえ方と実態の間に距離が生まれます。