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【映画の中の東海】#5 マキノ雅弘と伊良湖岬・名古屋

 日本最初の職業的映画監督で「日本映画の父」と呼ばれた牧野省三(1878~1929)の長男マキノ雅弘(1908~1993)は85年の生涯で250本以上の映画を監督した。昭和37(1962)年12月初めには、翌年の正月映画「大暴れ五十三次」(東映)のロケを愛知県伊良湖岬で行っている。


●伊良湖岬で1か月に3つの映画ロケ

 「大暴れ五十三次」は、鼠小僧次郎吉が江戸を逃れて東海道を西へ向かう途中、知り合った男と意気投合。弥次さん喜多さんと名を改めて珍道中を繰り広げる痛快時代劇。ロケにやってきた一行は次郎吉役の北大路欣也と相棒役の松方弘樹ら出演者30人とマキノらスタッフ90人。京都から車20台を連ねて伊良湖岬に乗り込んだ。

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「大暴れ五十三次」の伊良湖岬ロケを報じる名古屋タイムズ(昭和37年12月6日付け)。弥次喜多と旅芸人の一座との別れのシーン。写真左から北大路、松方

 ところで、この年の11月初めから12月初めにかけて伊良湖岬では、合わせて3つの東映映画のロケが敢行されている。大川橋蔵主演の「花の折鶴笠」、東千代之介主演の「薩陀峠の対決」、そして「大暴れ五十三次」である。これほど伊良湖岬がモテモテだったのはなぜか?その要因を「大暴れ五十三次」のロケを取材した名古屋タイムズが関係者から聞き出している。

<一つは松の木があって、街道の風趣があり、二又の道があるということ。こんな単純な条件を満たすロケ地など京都近郊にいくらでもありそうに思われるが、これがそうそうないという。熱心な東映ファンならよくご存じだろう。枝道の交差点に茶店を作ったり、お地蔵さんを立てたり、目先は変えるが、いつもきまって登場する二又の道のあることを。あれは京都郊外の大原野というところだ。「もう万遍なくとりつくされているので、つくづくいやになって」、こんどはこの伊良湖岬に来たのだそうだ。ここでは北大路と松方が旅芸人の一座と別れを告げるシーンをとった>

 もう一つは、海が見えて松などの点景がある街道。東映時代劇では、おなじみの大名行列や早駆け、通行人が土下座しているところで必ず登場する場所だが、これは琵琶湖の小松というところで撮影されてきた。片方に松並木があり、その向こうに静かな海…。と見えるのは実は琵琶湖である。今井正監督の松竹映画「夜の鼓」(昭和33年)でも使われている。
 ここばかり使っていてはマンネリになってしまうと、小松に代えて選ばれたのが伊良湖岬だったのだ。

●本物の「海」と砂浜、そして戦争遺産

<「大暴れ五十三次」の鷲尾元也カメラマンは言う。「やはり海だ。うねりが違う。泡立ちが違う。そして何より決定的なのはその色。まさしく海の色だ。琵琶湖の湖水では表しようもない本物の色だ。ことにカラー作品では、もうごまかしがきかないですね。湖だと色に深みがなくて…」>

 しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。海が必要というだけなら京都近辺には若狭湾があるし、紀州・和歌山の海辺があるではないか。ところが、スタッフによるとこれらの海岸は岩場が多く、伊良湖岬のような豊富な砂場はないという。「大暴れ五十三次」のスタッフは伊良湖岬の魅力についてこう話している。

<「景色も絶好だが要するに未知の魅力だね。近頃の神社仏閣はロケ料をがっちりとるし、電柱一本ないという土地は京都近辺ではすっかり見られなくなってしまった。その点、伊良湖岬は、戦争中は要塞だったでしょ(編注・実射試験場などがあった)。だから立ち入り禁止だった。それだけに広く世間に知られていない新しい魅力があって、それが時代劇にもってこいのバックになる。一つここにスタジオでも建てたらどうだろう」>

●映画の申し子と名古屋

 監督を務めたマキノ雅弘は、実は名古屋に縁がある。父省三が起こした映画会社「マキノ・プロダクション」が昭和2(1927)年、名古屋市南区道徳の一画(現在の道徳公園)に中部撮影所を開所する、その撮影所長に就任したのが雅弘だった。当時、雅弘19歳。「忠魂義烈 実録忠臣蔵」などを撮影するが1年足らずで撤退した。
 この苦い思い出について伊良湖を訪れた雅弘が名タイのインタビューに応じてこう話している。

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<「先見の明がありすぎたんですね。名古屋なら東京にも京都にも近くて現代劇も時代劇も自由に撮れると思った。しかし映画づくりの人がいないんだ。それに道徳というところが不便で。埋立地だったためか家にガタがきて戸が閉まらないんだ。いまのように交通の便が良ければいいが、惜しむらくはそれを35年も前にやっちゃったことなんだ」>


長坂英生著「なごや昭和写真帖 キネマと白球」(風媒社)には名古屋タイムズアーカイブス委員会が所蔵する戦後名古屋の映画と野球の貴重写真が満載。読んでね。

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