第295話 一人の加害者の独白

 ―とあるサッカー部視点―


 なんでだよ。青野英治の受賞のニュースを見て言葉が漏れた。俺はあいつを下に見ていたのに、今となっては立場は逆転している。いや、逆転というレベルじゃない。もう、あいつは、手が届くはずもない彼方に行ってしまった。


 それなのに、俺は……処分が決まり次第、長い停学になるだろうと弁護士は言っていた。そうなったら試験なんて受けられないし、事実上の留年が決まっている。高校二年という大切な時期に、大きく挫折を味わうことになるなんて……それもこんなバカなことで。


 刑事事件としては、保護観察ということになった。少年法が適用されて前歴がついてしまった。前科ではないけど、正直に言って違いはよく分からない。俺はずっとこの経歴にビクビクしなくてはいけなくなった。進学や就職の時に、不利益になるんじゃないか。仮に誰かと結婚するということになった時、相手はこの経歴を知って受け入れてくれるのだろうか。もう家族ですら、俺にあきれているのに。


 弁護士はがんばってくれたようで、和解や被害者届の取り消しを求めたけど相手方は断固拒否したそうだ。慌てて投稿を削除しても、ネット上に魚拓が出回っていて、もうそれを消すことはできない。こんな大ごとになるなんて思わなかったのに。一生の傷になっている。ただでさえ、高校を留年するなんて、将来の大事な場所で理由を聞かれるのに。俺は何て答えればいいんだよ。


他のサッカー部の生徒に比べたら、まだ軽い方だ。俺はSNSでの誹謗中傷だけにしか関与していなかったから。直接的ないじめに関与している生徒たちはさらに厳しい処分を受けることになるらしい。あいつらは危険な傷害事件まで起こしているからなおさらだ。


 机や私物への嫌がらせは別クラスだったから関与していなかったし、傷害未遂は俺は怖くて参加しなかったからそれで運命がわかれた。


「なんて、俺はちっぽけなんだろうな」

 俺よりも下だと思って見下していた青野はどんどん有名になっていく。俺は、すごい才能を持っていた青野を格下だと思い込んで、薄っぺらい優越感だけを味わって、みごとに大切な青春の時間を棒にふり、将来的に絶対に消えないタトゥーを経歴につけてしまった。


 民事でも数十万円クラスの慰謝料も親に支払ってもらわなくてはいけない。事件の前はあんなにあったはずの意味の分からない自信なんて、現実の前には吹っ飛んで、将来に対する不安だけが残る。俺はサッカーを頑張ってみんなからチヤホヤされていたはずなのに。


 なにもしなければあの栄光の日々が続いていたはずなのに。

 今となってはスクールカーストなんて言葉では表現できないくらいのどん底にいる。たとえ、学校に復帰しても鼻つまみ者だろうし、後輩たちと同じクラスになったとしても、俺は犯罪者として警戒されるだろう。


 大学に行けたとしても、いつか自分の過去がバレるかもしれないとビクビクするだろう。もしかしたら、同じ大学に進学したうちの高校の生徒からバラされるかもしれない。失ってしまった日常が輝いて見える。そして、そのはるか先にいる青野英治……


 どうして、俺はこんなに転落しているんだろう。ありえない。

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