第296話 林さんの家
―愛視点―
今日の放課後。私は珍しく林さんの家に行くことになった。同性の友達の家で遊ぶなんて、何年ぶりだろう。林さんにはいろいろと相談に乗ってもらっているし、お家にお呼ばれするなんて信用してもらえているということだから嬉しい。
「散らかっているからごめんね」
そんな風に謙遜する彼女は、おどおどしていてかわいい。私はどこかの令嬢だという噂が流れているせいで、過大に評価されているような気もする。
「お邪魔します。ご両親は?」
「今日は二人とも仕事で……」
「たしか、お父さんが学者さんで、お母さんが図書館の司書さんだったよね」
前に雑談で話したことをおぼえていたので、そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
やはり、本がたくさんある家だ。玄関を開けたらインクのにおいがするような落ち着いた香りがする。お父さんやお母さんも仕事柄、本が大好きなのだろう。ステキな家だと思う。私はそのまま二階の林さんの部屋に向かう。
部屋の中には大きな本棚が三つも並んでいる。女子高生の部屋というよりも、学者や小説家の書斎みたいな雰囲気だった。明治の文豪の全集まである。たぶん、ご両親からのプレゼントだろうなと思う。高校生が揃えるにはかなり高価だ。家族仲がいいんだろうと思うとちょっとだけうらやましく温かい気持ちになれた。
「素敵なお部屋。本の森みたいね」
「ありがとう。ちょっと、女子高生らしくないのは気にしているんだけど」
林さんは、私の賛辞に焦っているように見える。褒められることになれていないのだろう。林さんはとても魅力的な人なのに、もったいないと思う。
「これ、今日、一条さんが遊びに来るって話して置いたら、お母さんが用意してくれたケーキ」
そう言って林さんは慣れた手つきでお盆の上に紅茶とケーキを持ってきてくれた。私もお土産に持ってきたお菓子を渡す。これだけで最高の放課後になる。幸せだなと思った。少なくとも、少し前までの私は性別問わず誰も信用していなかったのに……
楽しく雑談をしていると、林さんは少しだけ躊躇したような表情で私に確認する。
「ねぇ、一条さんは、青野先輩をどうして好きになったの?」
私は少しだけ考えて話す。
「何も知らない私のために動いてくれたからかな。そして、ずっと欲しかったぬくもりをくれたから」
林さんには、実は私の昔のことを話していた。だって、遅かれ早かれセンパイのネット小説を読めば、私の過去がわかるから。だから、自分の口でそれを伝えた。私は、林さんが思っている以上に林さんのことも好きなんだと思う。
「うん」
私は少しだけ次にいう言葉に悩んでいると、林さんは私に柔らかい視線を送ってくれる。
「ずっと助けてほしかったのに、事故のせいで助けてもらうことがトラウマになっていた私はそれも言えなくて……薄っぺらい優しい言葉をもらうことも自分の心を傷つけるようになって……でもセンパイはそうじゃなかった。彼は何も言わずに動いてくれた。だからかな……」
少しずつ林さんに話すことで自分の気持ちを整理することができるようになっている。
「そっか。実はさ……」
私の言葉で林さんも何かわかったかのように言葉を漏らしていく。
「最近、気になる人がいて……」
―――――
(作者)
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