「ウクライナはずっと背水の陣」 東野篤子教授が語る現在地と展望
ロシアによるウクライナへの全面侵攻は、5年目に入ってなお、終わりが見えません。この間、情勢を見続けてきた筑波大学の東野篤子教授は、ウクライナの現在地と今後の展開を、どう見ているのでしょうか。安全保障に関する国際会議が開かれていたチェコ・プラハで聞きました。
東野教授の説明のポイント
・ウクライナはずっと「綱渡り」
・トランプ米大統領への期待感は?
・ロシアに「諦めさせる」ためには?
ウクライナはずっと、「背水の陣」が続いてきました。いまもそうです。前線でロシアを押し戻す動きが出ていますが、「耐えられていること」と「勝てていること」はまったく別物です。
前線にいる兵士はずっと帰れない状況が続いていますし、動員数も劇的に増加しているわけではありません。「綱渡り」が続いていることに変わりはなく、自分自身の命を考えたときに「戦いたくない」と思っている若者も多いのです。
ウクライナが耐えている現実によって「支援しなくてもいいのでは」という風潮が広がることを私は懸念しています。
2022年2月にロシアによる全面侵攻が始まった際に、ウクライナがここまで長期にわたり国家として抵抗を続けることは、ロシアの想定を大きく超えていたでしょうし、米国や欧州にとっても想定を上回るものでした。
ウクライナは同志国からの支援を土台として、防衛能力を高めた結果、「より良く耐えられている」という現状に持ち込んでいます。戦う意志と、レジリエンス(強靱(きょうじん)さ、回復力)がなければ、ここまでくることもできませんでした。
一方、その裏では犠牲が広がり続けています。楽観している人は誰もいないでしょう。すでに次の冬に向けた準備を始めていますし、「まずは今年を戦い抜く」という覚悟を決めているように見受けられます。
トランプ政権への期待「大きく後退」
「トランプ米政権が和平に向けて役割を果たしてくれるのではないか」。25年はそんな期待がなくはなかった。でも、いまはその期待が大きく後退しました。米国がウクライナ向けに約束していた兵器が、中東情勢の緊張を背景として出し渋られる現状も伝えられています。
ウクライナ情勢において、外交面で米国が関与する「余白」は、限りなく少なくなったと私は見ています。米国の国益において、ウクライナが優先事項として入っていないことは明らかです。
ただ、ウクライナとしては、米国が過度にロシア寄りになることを強く警戒しています。せめてロシア側には回らないでほしいという意味での「大人の付き合い」をする必要はあるのでしょう。そのメリットも、ウクライナは一定程度感じているはずです。
米中ロがそれぞれ排他的な影響力を行使する「勢力圏政治」が展開されれば、米国はロシアの対ウクライナ要求を事実上黙認しかねません。その場合、ウクライナは外交上、極めて厳しい立場に追い込まれます。
それでは、どういう状態をもって、ウクライナにとっての「勝利」と呼ぶことができるのか。
「ロシアに諦めさせる」ためには
私は、どのような終戦の形になっても「理想的な終わり」は、もはや存在しないと思っています。それがあったとすれば「侵略が起きなかった」というものだけです。失われた人命は戻ってきませんし、破壊された街の復興にも数十年、あるいは100年以上かかるかもしれません。
その上で、さらなる被害が広がらない終わり方について考えると、ウクライナが極限まで国防上の体力をつけて、それを維持しながら、ロシアに「これ以上の継戦は完全に無駄だ」と認識させること、つまり「侵略による目的の達成を、ロシアに諦めさせること」がポイントになるのだろうと思います。
では、「これをすればロシアは諦める」という魔法のような決定打があるのかというと、私が思いつく限りでは、ない。ないからこそ、つらい。それでも戦い続けなければならないウクライナの人たちに、私はかける言葉が見つかりません。
重要なことは、ウクライナ一国だけが軍事力を高めてどれだけ強くなったとしても、ロシアにとっては「まだ生意気にも戦えると思っているのか」としかうつらないだろうということです。
ロシアは全面侵攻を始めて以降、「自分たちは背後にいるNATO(北大西洋条約機構)や欧米と戦っている」というプロパガンダを流し続けてきました。直接の交戦はなくても、ロシアがNATOや欧米の存在の大きさを自覚していることの裏返しです。
そのため、少なくとも欧州などの同志国については「ウクライナ支援をやめる気配はない」という現実を、ロシアに理解させなければなりません。ロシアを諦めさせる決定打はなくても、これが「絶対にやめてはいけないこと」の筆頭になります。
インタビュー後半はこちら
東野教授へのインタビュー後半では、ウクライナからどのような教訓が得られるのか、日本の支援の方向性についてどのように考えればいいかについて深掘りしています。
略歴|東野篤子・筑波大教授
ひがしの・あつこ 1971年生まれ。慶応義塾大学大学院修士課程修了後、英バーミンガム大学政治・国際関係研究科で博士号を取得。広島市立大学国際学部准教授などを経て現職。専門は欧州の国際関係、国際政治。
東野篤子が読み解くヨーロッパ国際政治
東野教授は、執筆プラットフォーム「theLetter」でもウクライナ情勢について発信しています。
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