「異常なものほど素晴らしい」 世界的ホラー漫画家・伊藤潤二の原動力と、藤本タツキの才能
コミック業界の「アカデミー賞」とされる米アイズナー賞の殿堂入りを果たすなど、国内外で高い評価を受けるホラー漫画家・伊藤潤二。『チェンソーマン』や『呪術廻戦』など、若手の人気漫画家たちをインスパイアする独自の世界観はどのように生まれるのか。創作の原動力と作品づくりの背景を聞いた。 取材に応じる伊藤先生の動画
「異常」を生み出す幸せ
──作品づくりにおいて、何を大切にしていますか? 世界観です。どんなに恐ろしいモンスターを作っても、読者は飽きてしまいます。メインの設定を考えたり、「よくわからないこと」の重なりでホラーの雰囲気を集合的に作っていくのは楽しいです。 世界観の構築に力を入れる半面、話のラストがおざなりになる傾向があります。登場人物も「世界観の駒」としての扱いになりがちなところもあり、反省すべき点だと感じます。 ──とんでもない怪物を描く一方、妖艶な美男・美女もお描きになる。どんな意図があるのでしょう。 美男もそうなんですが、美女は多くの漫画家にとっての“勝負どころ”かと思います。僕の漫画の場合、美女はグロテスクな描写とのコントラストとしての役割を持っています。美女と怪物を描くのは、どちらも楽しい。「普通でない」から。そういう「異常なもの」を描くのが一番楽しく、ありきたりなものを描くのはつまらないと感じます。 ──海外での評価も高い『うずまき』においては、身体が渦巻き状になったシーンが象徴的でした。どうやってこのシーンを描き上げたのでしょう? この絵は見開き2ページで、2日ほどかかりました。ほとんど一人でやりました。描き上がったときは達成感がありました。作画は作品づくりにおいてもっとも楽しい瞬間です。「無心」になれます。 ──ストーリーの奇想天外ぶりや描き込みの度合いがすさまじく、先生の精神的な状態を心配する声も上がります。 大丈夫です! 普通でないもの、異常なものを生み出すことは楽しく、むしろ、精神の安定に繋がります。というのも、異常ということは「今までにない」ということです。これまで世界になかったものを生み出すと、新機軸を打ち出したような最高の気分になります。 子供のころは発明家になるのが夢でした。図鑑に出てくる発明家に魅了され、自分も「この世界にないもの」を作りたいと思ったものです。勉強はダメでしたが、図画工作だけは好きで。漫画家になってからも「まだ誰も生み出していないもの」を描きたいと思ってやってきました。