六十二話 通常魔法は、メインフェイズでしかプレイ出来ない



 病院でのゾンビ騒動の終焉にはやや手間取った。

 具体的に言えば、


 サレン曰く、”負けたらこの時間、この病院で死ぬまで目に付く相手にファイトをする。同じアンティで”。


 というアンティだったらしいんだが。


 ――いやでもそれって闇カード持ってないと広められないですよね?


 なんでも強い闇カードだと他のカードを汚染して闇のカードに出来るという話らしいんだが、それそんな無制限に出来るもんか?

 時間も手間もかけずにパパっと? それもアンティで闇落ちするっていう条件を含んだわけでもないんだよな。

 というわけで対闇ファイタープロのスカー氏に確認したところ。


「いやさすがにそこまでの感染力は、堕悪カード保有している本人でもなければありえん。カードとデッキ自体にも抵抗力はあるし、移していく間に必ず感染力が落ちていくはずだ」


 まあそうでもなければペストよろしくあっという間に爆発的感染で人類が終わってるわな。

 ドミノ倒しでも下り坂などがなければいずれ運動エネルギーのロスで止まるようなもんである。


「となると末端から殴っていけば、多分濃い奴を持たされている奴に辿り着くのでは?」


 というわけで片っ端からファイトで殴って殴って殴り倒して、ボードを踏みつけたりして確保した闇カードを破壊していった結果、病院内部にいた5人の一般人がアンティで洗脳されて濃厚な闇カードを握らされていたことが判明した。

 この5人から広まったファイトゾンビたちの群れが暴れていたというのが真実だ。

 二重洗脳って奴なんだろう。

 カードを持たされていたことと、その上で誰に渡されたかの記憶を消去されている。

 まあスカー曰く、まあ十中八九101人目というカスの仕業だ。


 性質が悪い奴なら自分がネームド本人だと思い込まされて身代わりにされることがままあるらしく、証言などの証拠能力は殆ないらしい。

 といっても心神喪失扱いになるかというと偽装している可能性もあるので簡単に判断出来ず、慎重に検査する必要があるとのこと。

 ……まったく大変なことだ。

 催眠アプリが現実にあったような苦労である。


 あと病院の鎮圧には俺も参加したが、エニグマの使用は避けた。

 どうせ隠しカメラなり仕掛けてデッキを暴く小細工してんだろう。

 まあ素人ビギナーじゃあるまいし、デッキ構築バレた程度なら有利じゃないだけ。

 計算されたメタビートや相性不利デッキでも握られてなければ勝率なんてイーブンに過ぎない。

 使い込んでるか、殺され慣れてるデッキでもなければカード把握した程度で挙動を把握しきれるもんじゃないし。

 だからといって情報を与える必要はないが。

 ただ負けるつもりはなかったのでライフゲイン・スーサイドデッキ。【砂糖騎士シュガーディアン】と【羅刹の君サクリファー】の混合デッキ、通称”偽帝はちみつだいすき”を使った。


 砂糖騎士はコストが安くてブロックに特徴がある軽量クリーチャーのテーマだが、死ぬと菓子トークンになる<スイーツ休憩>がある。

 これを置いて破壊されることで菓子トークンを増やし、それらを生贄に捧げることでライフを回復するコンボがある。

 ここから自傷ダメージを負って効果を発揮するスーサイド【羅刹の君】――歴代ローマ皇帝をオマージュしたクリーチャーによる自傷を、大量回復したライフで耐えてさっさと全部の土地を吐き出して並べて、飽食と化したコストで大型を出すなり、ライフをリソースにしたXダメージをぶちこむコンボデッキだ。

 これは長期戦になるかあっという間に相手をぶち殺すかのまあまあ強いデッキなんだが、一ついいことがある。


 ライフ計算がめんどくさくて、ダメージ計算がゴチャるのである。


 細かく数点ずつ回復して、ある程度固まってライフダメージ受けて、更に回復するダメージレースを追い切れる自信はあるか?

 具体的に言うと”14”→”9”→”4”→”8”→”11”みたいにめちゃくちゃ変動する。

 あ、これ自分と相手での1ターンの動きな?


 なかばライフゲージを使った屈伸運動である。

 自動的にライフ計算と代用カードを擬似的に挿入してくれるボードならともかくテーブルファイトだったらライフカウンター相手と自分の2つ用意するのが必須だ。テーブルファイトだとライフ回復する度にライフデッキの底から代用ライフカードを差し込んで押し上げていくルールだし。

 これらをカウンターと電卓なしで暗算するのは慣れてないときつい。

 まあそんなデッキだが、複雑な挙動するわりには強さはまあまあである。

 どっちかというと対人での計算がめんどくさくてプレミスを誘発するデッキで、客相手とかだとゲーム体験を損なうので使わないデッキだ。

 【砂糖騎士シュガーディアン】のメインエースである”砂糖機神”はともかく【羅刹の君サクリファー】の”ゼロ・クラ”は前世だと神格レアだったせいか見つからないんだよなあ。

 まあ”偽帝”使う分には邪魔だから砂糖機神共々入れんけど。

 一回切腹加速ターボの挙動見せるためにサレンとやり合う時使ったら、ミカドくんがなんかめっちゃ複雑そうな顔してたんだよなぁ。なんだったんだろうあれ?


 まあそれは今はどうでもいいとして。

 ファイトゾンビはかなり知能指数が低くなってるのがわかったからナイトテイルからこれに切り替えて、ゲシゲシと倒していったがまあ歯ごたえなかった。

 なんでかファイト中に刑事っていう人に三度見されたが一種のハメ技だからな。

 さもあらん。


 あとそうだ。

 デカい闇の領域とやらに飲み込まれていた病院の人の話をしよう。

 彼らは無事だった。

 闇のファイターと戦う場合、ボードを装備してないと不戦敗扱いで負けるというクソ仕様なんだが、強大な闇のカードを持っている場合はさらに悪化するらしい。

 具体的に言えば被害範囲が違う。

 そいつが出した領域内にいる人間全員が

 そして、取り込まれてしまうらしい。末路は生命力全部吸いつくされての存在消失だとか。

 何いってんだテメーとは思うが、スカーの言葉を信じるならガチらしい。

 この世における行方不明事件の幾つかはそういう闇ファイターによる消失だとかなんとか。

 あえて取り込む取り込まないも選べるらしく、消化じゃなくて奪う、アンティで従えるとかなら手加減のためにファイトをするっていう必要があるんだそうだ。

 魂を屈服させるためだとかなんとか。


 ……つくづくとんでもねえ話だわ、本当に。


 本来なら助からないものらしいんだが、今回はユウキちゃんとマリカがいた。

 闇の領域に対してはレガシーカードの干渉で妨害出来るし、マリカと俺たちが外から建物に穴を開けて破壊したのがでかいらしい。

 それで取り込まれてた人たちがなんとか出れた。

 短時間だったからある程度混乱とか夢見が悪いものがあろうだろうが、重篤にはなっていない。

 よかったよかった。


 そんなベストエンドだったんだが……








「……どうしてこうなったんだろうね」


「店長にわからないことが僕にわかるわけないじゃないですか」


「うぅ」


「泣いちゃった!」


 じゃねえんだよ、ユウキちゃん。


 店長が顔を覆って泣き出したこの場所はMeKing。

 警察からの事情聴取をなんとか終えて戻ってきたのである。

 いやあスカーがいて助かったわ。あいつが大体説明するといっていってくれて、警察にも色々とコネがあるらしくこちらは早々に開放されたのだ。

 何度か警察相手に闇ファイターの逮捕だので協力済みで実績ありって本当に闇のファイターなんだろうか?


 あとはまあ元トッププロの店長の威光もあって早く帰ってこれた。

 これたんだが……



「なんでボクの家で、”あの子”を預かることになってんのさ!?」



 そう店長が叫んで振り返った先。

 臨時休業中のMeKingのカウンターの奥に置かれた介護用ベットで寝てるのは一人の子供。

 長い長い黒髪と入院着のまま寝込んでいる十歳前後だろう少女。

 メガバベルの日本支部社長。いや、元だろうか? だった。

 病院から移されて、ここMeKingに運び込まれたのだ。


「闇ファイターの襲撃で病院が預かりきれないってなったからだよ」


「だからってなんでボクの家なの?!」


「元十二聖座ラスールで教授も倒して、闇狩りスカーからも実力者って太鼓判押されてる地柩セトがいるからだと思う」


「うごごごご!」


 ごめんなさい店長。

 まさかこんなことになるとは、いやでも、普通にあのデッキ使えるのクソ強いから嘘ではないんだよなぁ。

 今度肩でも揉んでおこう、いやお詫びにならんか?


「まあまあ店長、あくまでも次の移送先の準備が出来るまでですし」


「それがいつになるのかわからないじゃん! ボク、自慢じゃないけど寝たきりの介護とかやったことないからね?!」


「今のところただ寝てるだけっていうし、マニュアルも渡されたからしばらく私も手伝うよ。バイト代は頂戴」


「うわぁん、サレンちゃんありがとう。もう私のおうちに住む?」


「私にも手入れするお家があるから……まあしばらくね」


 やったーと店長に抱きしめられるサレン。

 いつも通りの無表情だけど、めんどくせーって顔してんなぁ。


 まあ学校行ってないんだから頑張れ。

 僕? 女の子の世話とかもしもしポリスメンされるわ。


「……メガバベルから目覚ましてなかったんだね」


「口封じに殺されかけてからずっと眠ってたらしいよ」


 あのメガバベル社での決戦で倒した二人がしみじみと言う。


「それだけ重体だったのにこんなところに置いといて平気なのぉ?」


「お医者さん曰く、身体は回復してるらしいんだけど……何故か目を覚まさないらしいの」


「原因ってわかってないんですか?」


 マリカの疑問にフルフルと店長は首を横に振る。


「短時間に大量の出血、ファイトのダメージ、幾つか原因は考えられるらしいけどはっきりとは……」




「――”スピリット”の不足じゃよ」



 カランとベルが鳴ると同時にはっきりと声がした。

 咄嗟にボードを展開「落ち着かんか」する前に、横から声がした。

 この場にいる全員が振り向いた先に、見覚えのない子供がいた。

 そう、”子供”だった。

 なんで気づかなかったとしか言えないような派手な色の着物のドレス……? に身を包んだ長い白髪を靡かせた少女がいた。


「肉体は治っても、生気の薄い病院にて寝てればいつまで経っても目を覚まさんわな」


「どちら様かな」


「ほぉ、面白いのぉ。”縛り手”がこんなところにおる」


 縛り手?

 僕の言葉に、少女はケラケラと笑ってカカンと口紅を塗ったような赤い下駄を鳴らす。

 いや、床に傷がつくから辞めなさい、それ。


「――


「へ? しちょう……?」


 店長の言葉に、ユウキちゃんが首を傾げる。

 市長って確か。


「うむ。は常盤ときわ 火戸かど。ここ上磐市じょうばんしの市長じゃ」


「え? 子供なのに!?」


「時代はぐろーばるじゃよ、お嬢ちゃん」


「いやいやいや、まってくれ。確か市長選とかで出てた写真だともっとデカかったはずだよ?」


 もっとこー+10歳ぐらいされてめっちゃ美人の! 美人市長って触れ込みでテレビとかでみたはずの。


「なに、そんなものぺいんとでちょちょいと加工すればなんとでもなるもんじゃ」


「いやいやいやいや」


 無理だろ。なにいってんだこの子供はと思ってると店長が額に手を当てながら大きなため息を付いた。


「省エネスタイルできてるから勘違いされてるんですよ、カドさん」


 省エネ?


「ぴーちぴちじゃぞ?」


「対象年齢が低すぎるんですよ。”13位”」


「じゅーさん?」


百命ハンドレット・スターズ八十八星座アステリズムのトップにして殿堂入りの13位。”永久蛇ツァラトゥストラ”の常盤カドさんです」


「八十八星座のトップ?!」


「なぁに十二聖座の補欠みたいなもんじゃよ。大したもんじゃないわい」


 ほっほっほと笑っているが、上から13番目ってだけでもやばいもんである。


「謙遜にしても性質が悪いですよ。13位というのはあくまでも名誉順位で、実際の実力は十二聖座でも上位でしょ」


「それ、あの一位と二位を見て言えるんか? 吾は爆速で蹴散らされて負けたんじゃけど」


「……あの二人は例外なんで。あの魔王に負けてない人って一位だけじゃないですか。まだあの調子なんです?」


「”祓魔紙”の奴がなんとか三位を死守しとるけど、そろそろなー。”塵塚王”の奴にレート追いつかれそうでのぉ、”導き手ノア”の奴は五位はキープできそうじゃが……」


「そのうち順位入れ替わりそうですねぇ」


「おかしいのぉ。三位のやつのほうがどう考えてもデッキなら最強だし、ノアのやつが負けるわけがないんじゃが、まあおかげで教会の連中がシーズンごとにでかい顔できてないからザマアみろなんじゃがな!」


「ボクの前でそういう事言わないでほしいんですけどぉ」


「なんじゃまだ義理立てしてるんか。ちょっと傷物になったぐらいで手のひら返しで捨てるような組織じゃぞ」


「それでもいい人はいるんですよ! もぉ!」


 ぽんぽんと会話を続けているが、なんだろうか。

 元同僚? いや、上司? 特有の会話と店長と見た目だけなのかロリさんでされても困る。


「あのー、どういう要件なの?」


 あ、ユウキちゃんが聞いてくれた。


「うむ。今回の一件、市長としても百命としても耳に入ってての。放っておけんから顔を出しにきたわけじゃ」


「なるほどわかりました。帰ってください」


「なんじゃセト。妙に冷たくないか? お主をここに紹介したのは吾じゃぞ~?」


「色々お世話になったのは事実だし、恩は感じてますけどなんかいやな予感するんですよ」


「うむ。実は病院から一時的に保護するならセトのところがいいだろうってアドバイスしたのは吾でな?」


「なんてことをするんだよー!! あいた!」


 うがーと掴みかかった店長の手をひらりと躱して、パシンと後ろに回った白髪ロリが尻を叩いた。

 うわ、身のこなしも早い。


「いや、あの教授倒したのお主じゃろ? お主じゃないとあの小僧の道場か二択じゃけど、あのエロ小僧じゃからなぁ。寝てる間にいたずらされたら困るし」


 小僧って師範のことか?

 この白髪ロリ、一体何歳なんだ……気にしたら負けなんだろうか。


「うちのししょーの信用がまるでないけんについてぇ」


「あの小僧、昔吾をナンパしてきたんじゃが?」


「さいてぇー」


 それはさすがに言い訳出来ないっすよ、師範。


「話を戻すが。まあそんな時間はかからん予定じゃ、その間の預かり分の報酬はきっちし払うつもりじゃ」


「それはいいんですが……カドさんが、ここまでするというのは一体? メガバベルと何かあったんですか」


「いや。あの人類基盤の亡者共とは関係ない」


 じんるいきばん?

 僕たちが首を傾げている中で、カドというロリはその長い髪を掻き上げて大きくため息を吐いた。


「あの娘と吾は浅からぬ因縁があってのぉ。見捨てられないんじゃよ」


「因縁って……なにが?」


「うむ……正確には本人ではないんじゃが、


 そういって常磐カドがゆっくりと顔を横に向けた。

 つられて僕たちもそちらを向いた。


 そこにはいなかったはずの子供がいた。


 背から伸び放題の真っ黒な髪が腰どころか足元にまで伸びて引きずっていて。

 それでもピンと伸びた背筋の、空色の目をした入院着の少女が立っていた。

 誰かが息を呑んでいた。

 いや、呑んでいたのは僕かもしれない。

 本当に今日は驚くことばかりだ。


「まだ寝てるようなら吾が起こそうと思っていたが、気が効かぬのは相変わらずじゃな」


 やれやれと肩をすくめて、常磐カドは少しだけ。

 本当に少しだけ口元を笑みに変えて。


「目は覚めたかの、


 そう呼びかけた。


「……あ」


 それに呼ばれた入院着の少女は、ゆっくりと本当にゆっくりと目を周りに向けてから常磐カドに向けて。



「それ……わらわのことか?」



 思いっきり首を傾げた。


「え゛」


「ここはだれ、わらわはどこ?」


 あの、これ。

 もしかしなくてもあれですよね。



「記憶喪失になっとる――!!?」














―――――――――――――――――――――――――――――――


 輝いていた光景の光も、もはや色を失った。



                    ――夢忘れ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る