【番外編】変なお店でデッキを手に入れたら人生変わった件について 上

※近況ノートで出していたもののブラッシュアップ版です

 続きは来週頃公開予定です






 ファイトに勝てない。

 ファイトに勝てない。

 何度やっても半分もライフが減らせないし。

 何度やっても出したクリーチャーが倒され、破壊されて、出しても歯が立たない。


 私には才能がないんだろう。


「はぁ。ズルいよな」


 休日の夕方。

 無理やり出ろと出された休日大会、その予選から全敗しての帰り道。

 私は通りかかった公園のベンチに座っていた。

 たった三回ファイトをしただけだが、疲れ切っていた。

 身体ではなく心が疲れて切っていた。

 見上げた空は澄み切った青空でもなく、何も見えない曇り空でもなく、適度に雲が流れる空だった。

 中途半端なのが余計に拍車をかける。


 はぁ、とため息が出る。

 コートのポケットにいれた温かいお汁粉缶をくるくる指先で回して、なんとなく指を炙って……耐えられなくなったので離す。

 そんな中途半端な自分を自覚しながら、私はカバンからデッキケースを取り出した。


 ――光神殺種ロキロギアデッキ。


 私が小学生の頃から使っているテーマ。

 最初に買ったパックでたくさん出てきたカードと初めてのレアカード。

 ”ヨルムンガルド”。

 それが嬉しくて組んだ私のデッキ。

 お小遣いが溜まる度に買ったパックが少しずつ見つけた光神殺種たちのカードで強化していった私のデッキ。

 昔は勝てた。

 けれど、今は全然勝てない。


 だって、光神殺種なんて使い手がたくさんいるから。

 ありふれていて、テーマとして強くないから。

 ”ヨルムンガルド”なんてもうこの数年、ちゃんとファイトに出せたこともない。

 低速で、ウスノロな、弱いテーマ。


「私には、才能がない」


 Lifeには才能がいる。

 強いデッキを使える才能か、もしくはお金か。


 昔はこのデッキが最強だって信じてた。

 勝てば勝つほど好きになれた。

 だけど、それは裏返せば負ければ負けるほど嫌いになってしまうということ。

 好きだったものが嫌いになる、そんな辛さがあった。


「Lifeやめようかな」


 でもやめて、どうするんだ。

 私の周りには強いファイターがたくさんいる。

 強いデッキを持ってるファイターがいて、ファイトをしないなんて言ってもやめてくれない。

 私が弱いからいっつも踏み台にされてる。

 歯ごたえがないって怒られてる。

 でもどうしょうもないじゃないか。

 高いデッキを買うようなお金なんてない。

 使えるデッキがたくさんある人は概ねお金持ちだ、私にはパックを買って集めただけの雑魚デッキしかない。

 弱いデッキには可能性なんてない。


「……帰ろ」


 ぐるぐると堂々巡り。

 まだ熱いお汁粉を無理やり飲み干して、ゴミ箱に空き缶を捨てる。

 ……今のような無駄遣いをしなければ少しずつパック買えたんじゃないか?

 そんな事も考えてしまうけど、そうでもしなければ辛くてたまらない。

 何の解決策も見つからないけど帰って寝よう。


 そんなことを考えながら歩いた帰り道に、見つけた。


「こんなところにお店あったんだ」


 普段は寄らない公園からの帰り道だったからだろうか。

 一件喫茶店と思える佇まいのカードショップを見つけた。


「えーと、みーきんぐ? 変なの」


 MeeKingという表札。

 俺が王だ、という強い意気込みを感じる。

 もちろん来たことがない店だ。


「……せっかくだから」


 そんな言い訳をしながら、入ってみる。

 だって。

 帰っても寝ることしかない、だから少しだけ自暴自棄になってたのかもしれない。

 カランコロンと。

 綺麗な音のベルが鳴った。


「いらっしゃいませ」


 お店の中から聞こえた店員さんの声に、反射的にお辞儀を返してから中を見渡す。


「わ」


 綺麗。

 というかすごい、これ全部ショーケースなんだ。

 一瞬で目を奪われた。

 他のカードショップでもショーケースで高いカードとか展示してたり、デッキを展示してるのはよくあるけど近づいて見てみると違う。


「これ……シリーズごとに分かれてる?」

 

 ショーケースごとに幾つも保管されてるカードのマークを見て、出るパックの時期で統一されてるのがわかった。

 あと棚の中に黒、赤、青、白での表示があって、分類されてる。

 そして、棚の側にわかりやすいところにあったのが小さなメモ帳とペン。

 欲しいカードの名前と枚数を書くようにテンプレートで印刷された用紙だった。

 前に行ったことがあるカードショップだと一々店員呼んでたけどこういうのも出来るんだ。

 でもやっぱり高い。

 とてもじゃないけど手が出せない値段のカードばかり。

 でも見るのが楽しい。

 眺めて回りながら歩いて、ふとショーケースの横にあるパソコンに気づいた。


「パソコン?」


 説明書きを見る。

 ……検索機って書いてある。

 え、在庫があるかどうかってこれで探せるの?

 左右を見て、使おうとしてる人がいないのを確認。

 人差し指で恐る恐る文字を打っていく。

 携帯でならわかるけど、パソコン使ったことはあんまりないからちょっと怖い。

 私の知っているカード名を打ち込んでみる。


「……あ、置いてある」


 光神殺種のアンコモンカード。

 2枚はもっているけれど、3枚目で欲しかったやつが在庫で残ってるって出た。

 注文の印刷も出来るみたい。

 ハイテクだ。


 注文しようかな?

 パックを向けばいずれ当たるかなって思ってまだ来てなかったけど、シングルで買おうかな。

 どうせ光神殺種だもん、そんなに高くない。

 レアならびっくりする値段だけど、アンコモンぐらいならまだ手が届く。


 ……いやなにしてるんだ。


 顔を振って誘惑を振り払う。

 Lifeをやめようか迷ってるやつが買うものなんてない。

 どうせ私のデッキではなにをやったって勝てない。

 勝てないファイターに意味なんてない。

 弱いデッキしか集められないやつに未来なんてないんだ。

 そう考えるとそれまで浮ついていた気持ちが沈んだ。

 もう少し見てみようと思ってたショーケースもくすんで見える。


 ページを閉じようとして、画面の中に見慣れないものを見つけた。


「……レンタルデッキリスト?」


 マウスでクリックする。


 ”迎撃の白構え”、”空の急襲”、”浅い墓荒らし”、”ゴブリン山賊団”、”ボムボムボム”、”介錯の刃”、”森の侵蝕”などなど。

 なにこれ?

 色のアイコンがあって、名前の部分をクリックすると――無数のカード名が並べられた表が表示される。


「は?」


 なにこれ。

 カードにマウスをあわせてクリックする、カード名と写真が出てくる。

 クリックする。

 どれもこれも出てくる。

 もしかして、これ……デッキ?

 デッキのリスト?


 え??


「なにこれ」


 あーでも、いや、たまにある。

 カードショップで売られている強いデッキの販売。

 強いテーマ、有名なファイターが使っているのと同じテーマのデッキ、数十万以上もするもの。

 それと同じことなのか、な?

 リストのカードの横、レアリティもコモンだけみたいだし……

 名前みんなバラバラみたいだけど、そういうテーマのデッキなんだよ、ね?


「あ」


 どういうことなんだと思ってクリックしてたら変なところを押してしまった。

 ポーンって音が鳴った。


「はい、お客様。お呼びですか」


 後ろから声がした。


「ひゃ!?」


 後ろに振り向くと、エプロン姿の男性が立っていた。多分店員だけど。


「だ、大丈夫です?」


「あ、あ、はい。すみません」


 気配がしなかった。

 い、いつのまに、後ろに。びっくりしたぁ。


「ああ……レンタルデッキの購入希望ですか?」


「えっと」


「独自のシステムですので戸惑われるお客様も多いんですよ。あと、買う前にレンタルプレイも可能です」


「……レンタルプレイ?」


「はい。オリジナルデッキですから、買う前にどんな使い勝手か試してもらうシステムです。料金はどれを使ってもスペース代含めて500円です」


「えっ」


 安っ。

 他の人のデッキを使わせてもらって、場所を使うのに硬貨一枚だけ?


「スペースが空いてますね。よかったら説明をしましょうか?」


「あ、はい」


「ではこちらにどうぞ」


 流されるままに綺麗なテーブルへと案内される。

 背負っていたリュックを前に下ろして、少し迷ったが空いてるイスの上において座った。


 ここのフリースペース、そこそこ広いのに誰もいない。

 こんな綺麗なのに流行ってないのかな。


「今の時間帯、近所での休日大会にみんな吸われてるんですよ。当店では公認大会やってないので」


「そうなんですか」


「では説明をさせてもらいますね。まずこちらが、幾つか初心者向けのデッキです」


 白、青、黒、赤と変哲もないシンプルなデッキケースが私の前に並べられた。

 あ、なんか王冠みたいな小さなシールが隅っこに貼られてる。


「”迎撃の白構え”、”空の急襲”、”浅い墓荒らし”、”ゴブリン山賊団”の4つがこちらです。それ以外のデッキはこちらのファイルを確認してください」


 綺麗にラミネートされたファイルには、並べられた4つを含めた他のデッキが写真と名前つきで書かれていた。

 色とコンセプト、それと多分目玉? になるだろうカードとかが一緒にセットになってる。


「これらは全部コモンカードで統一されていて、大体同じデッキパワーで揃えています」


 コモンのデッキ。

 なるほど、だからこういう事が出来るんだ。

 安いし、弱いやつだしね。


「デッキパワー?」


 でも聞き慣れない言葉があった。

 デッキパワーってなんだろう。

 デッキの力って意味だとは思うけど。


「ぁー」


 男性店員が少し困ったように口を開いて。

 何故か少しだけ天井を見た。


「そうですね。文字通りの意味です、大体同じ強さのデッキ同士ってことです。ちょっと使いづらいとか、癖のあるなしはありますけど」


「はぁ」


 そんなものがあるだろうか。

 まあ似たように弱いテーマ同士があるから、そういうので整理したのかな?


「まあ言うが安し。試してみましょう、なにか好みの色とか使いたいものはありますか?」


「それなら、白で」


 光神殺種と同じ色のデッキをなんとなく選ぶ。


「では、せっかくです。今他のお客様もいませんし、よかったら自分が相手します」


「え、いいんですか」


「はい。自分はこっちの”ゴブリン山賊団”を使いますね」


 そういって迷うことなく店員がケースからデッキを取り出した。

 私は少し迷う。けど。


 どうにでもなればいいし。


 どうせ気晴らしだ。死ぬわけじゃないんだから、とデッキケースを開けた。

 中身を確認しようとしてる時に、店員さんはなんかシャッフルを既に始めていた。


「シャッフルは出来ますか? 出来ないならそこのマシンを使ってください」


 なんて言いながら凄い淀みなくシャッフルしてる。

 いやちょっと、早い、早くない?


「あ、はい」


 別に急かされているわけでもないのに何故か慌ててメインデッキを二束に分けてシャッフルし……すごい久しぶりに手でやったかも。

 それになんか硬い、スリーブをしてる。

 なんか表面のほうにテキストの邪魔にならないように同じ王冠のシールが張ってあって二重スリーブっていうのになってる。

 でも何度もシャッフルしてるのか、滑らない加工されてるの、ぎこちない手つきだったけどちゃんとシャッフルが出来た。


 なんとかシャッフルしたデッキをテーブルのマシンにセットする。

 テーブルでのファイトをするための自動シャッフルマシンだ。

 大会でやる時に使うマシンで、デッキをセットするだけで自動的にシャッフルしてくれる機械。

 確か公認大会ではこれでシャッフルしないといけないルールがあるって教わった。

 これをメインとライフデッキ――ライフデッキもろくに見ないでセットしてしまう。


「では、こちら当店オリジナルのプレイマットです。よければどうぞ」


 その間に淀みなくシャッフルを終えた店員さんがマシンにセットしていて、どこからか取り出したプレイマットを置いてくれた。


「わぁ」


 フリープレイでマットなんて使ったことがないんだけど、なんかちょっと柔らかい。

 手のひらで触れてみて、面白い感触をしてる。

 滑りにくいんだ、お金がかかるだけだと思ってたけど……いいかも。


「では」


 ん?

 一足先にシャッフルを終えた店員さんが、何故か右手にごつめの手袋を嵌めた。

 そして、デッキを見えるところにおいて、メインデッキの上から5枚さっと抜いて……目の前に伏せて並べる。


「先行をどうぞ。マリガンも希望があればしてください、自分はこれでキープします」


「え、いいんです?」


「はい。事故っていても容赦なくボコボコにしてくださっていいんで」


 ニコリと優しい笑み。

 営業用スマイルだとわかってるけど、男性に微笑まれると少し緊張する。


「じゃあ、えーと」


 メインデッキから5枚引き抜いて……ほとんど知らないカードだ。

 あ、でも光神殺種のコモンクリーチャーが2体ある。


「キープで」


 まあいける、かな?


「では。どうぞ」


 そういって店員さんは伏せていた手札を拾い上げて……さっと見た後に伏せてしまった。

 テーブルに。

 ? なんで手で持ってないんだろう。


「私のターン。ライフドローします、2枚」


 ライフデッキからカードを引く。

 よかった、土地が2枚だ。

 どうやって動こうかな……うん、ここは。


「1コストで<樹海の剣士>を召喚してターンエンド」


 1/1の定番、【スレイヤー】のクリーチャーを出す。

 これどんなクリーチャーが来てもまず相打ちは出来る。


「では僕のターンです。レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフカードを2枚ドロー、メインカードを1枚ドロー」


 店員さんが淀みなくフェイズ宣言をしながら、デッキからカードをドローする。

 マナーが出来てるなあ。

 でもなんで引いたカードを横向きにしながら手札に加えるんだろう。


「土地をセット。<受粉ゴブリン>を召喚してターンエンド」


 そういってすぐに手札をテーブルに伏せてしまった。


「わ、私のターン。ドロー。土地を出して」


 2コストあるけど、どうしょうかな。

 店員さんの動きが早すぎてちょっと焦るし、知らないカードばかりだからえーと。


「大丈夫です、ゆっくりどうぞ」


「すいません」


 必死に手札のテキストを見る。

 えーと出せるやつ、出せるやつ……<樹海の剣士>2枚目出していいかな。

 うん。


「<樹海の剣士>を召喚、ターンエンド」


 憶えきるまでとりあえず場を固めておこう。


「では僕のターン」


 店員さんが再び手札をテーブルから手にとって。


「レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフドロー、メインドロー。土地をセット、2コストで通常魔法<増殖の種>をプレイ、これは場にゴブリンがいる時だけ発動が出来る。1/1のゴブリン・トークンを2体生成します」


「うわ」


 受粉ゴブリンのカードの横に、ケースから取り出したんだろうゴブリントークンのカードが2枚並べられた。

 3体展開されちゃった。


「受粉ゴブリンを起動して1コスト生成、1/1の<せっ火ちゴブリン>を召喚。これは場に出た時、ゴブリン一体に【速攻】を与えられます。指定はゴブリン・トークンの一体」


 見たことがある動きだ。

 ということは。


「そして、これも【速攻】を持っている」


「ただし、ターン終了時に死ぬんですよね?」


「はい。燃え尽きますので生贄に捧げます」


 儚い命のゴブリンだ。

 これもコモンのはず、だよね。


「戦闘フェイズ。<せっ火ちゴブリン>と速攻付与されたトークンで攻撃」


「剣士2体でどちらもブロック! スレイヤーもちです」


「普通に戦闘ダメージでも死にますね」


「その前に<樹海の剣士>1体目が戦闘で破壊されたから、効果が出ます。私のクリーチャー1体に1/1の強化を与える、これを2体目のほうに与える!」


「つまり、2/2」


「返り討ちです!」


 これが光神殺種。

 受けて、返り討ちにして、そして死んでもなお後に繋ぐ、強化をする。

 受ければ受けるほど、その刃を鋭くしていく。


 攻防一体の逆襲のデッキ。


 ……スムーズに出来ればなんだけど。


「ターン終了です」


「私のターン、ドロー」


 メインデッキを引く。

 ……何も感じない、冷たいカード。

 違和感がある、けど。

 どうせ私のデッキじゃないんだ。


「土地をセット」


 土地を増やして、使えるのは3コスト。

 手札を見てて、使えそうなのがあった。


「1コスト<砂糖騎士の盾騎士>! 2コストで<ざらめきの槍士>を召喚!」


 1/2の盾騎士に、2/1の槍士を召喚する。

 甘ったるくなるようなデザインの知らないカード。

 多分この2体は対照的なのかな?

 盾騎士は自分が破壊された時、味方クリーチャーのタフネスを1上げる能力があって。

 槍士には自分が敵クリーチャーを破壊する度にパワーが1上がる能力がある。


「ターンエンド!」


 スレイヤーの剣士もいるし、これで守りはガチガチに出来た。


「……」


 ?

 店員さんが何故かテーブルを見た。

 土地もないのになにか出来たの?


「僕のターン。レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフドロー、メインドロー」


 店員さんが手札を見た。


「失礼」


 店員さんが謝った。

 なんで?


「<受粉ゴブリン>を起動、土地の1コスト合わせて2コスト。通常魔法<焦土戦術>、全てのクリーチャーに2点ダメージ」


「え」


 全体除去!?


「くっ、盾騎士が死亡することで「無理です」え」


「同時に死亡するので死亡誘発の効果は対象がいないため乗りません。処理順番は<焦土戦術>のダメージ→死亡からのタフネス+1修正→相手選び、となるので虚無に呑まれます」


「きょむ」


 ということは。


「わ、わわ、わたしの場が壊滅、壊滅」


 いや。

 まて!

 でも、相手の場もゴブリンぐらいのタフネスだったから全滅してる!


「通るようなのでこちらの場も全滅ですね」


 ほら。

 あっちの盤面も綺麗に片付けられてて。


「土地2コスト出して、<放火範ゴブリン>を召喚。場に出た効果で、ライフゾーンの土地1枚を破壊。ターン終了です」


 1/1のゴブリンが出されて。

 土地が削れた。


「火付け強盗でご無礼」


「それ山賊なんですか??」


「山焼きも範囲の強盗団でございます」



 それ山賊って言われないと思うなぁ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――


 鋭き刃の輝きは、得てして振るう者にはわからぬものだ。


               ――光輝騎士(<煌めきの刃>より)

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