【番外編】変なお店でデッキを手に入れたら人生変わった件について 下



 結局、そのあとズルズル形勢を逆転出来ずに負けてしまった。

 大事な序盤で土地が一枚破壊されたのもあるんだけど、なによりも手札が足りなかったのが悪い気がする。

 幾ら殴られて土地が多くても手札がなければ何も出来ない。

 あーなんであんなに並べちゃったかなぁ。

 全体除去1枚で2体、いや<樹海の剣士>のカウンター分を含めれば3体分がひっくり返された。

 悔しい。

 クリーチャーが尽きてたせいで、<活性の肩掛け>や<鉄の結界>が手持ち無沙汰になっちゃったし。


 あー。


「店員さんのデッキ強いですね」


 なんてうだうだ思いながらもやっぱり、あれから次々と出てくるゴブリンの猛攻に呑まれてしまったのが悪いんだよね。


「そうですか? デッキパワーは同じぐらいだと思うんですが」


「いや、普通にボコボコにされちゃいましたし、強さが明らかみたいな……」



「じゃあ、交換してみますか?」



 え?


「あ、はい」


 流れで頷く。頷いてしまった。


「わかりました。では自分が”迎撃の白構え”を使いますので」


 そういってヒョイヒョイとまだ出したままだったカードを回収して、凄いスムーズな手つきでシャッフル。


「お客様はこちらの”ゴブリン山賊団”を使ってください」


 目の前に綺麗に並べた店員さんの使っていた赤のデッキが差し出された。

 そして私が使っていたデッキも回収されて、同じようにスムーズにシャッフルされて、マシンにセットされる。


「すみません。こちら同じデッキの在庫が残ってないので……」


「……」


 私は、差し出されたデッキを手に取ったままで。


「あの、どうかしましたか? あーいや嫌なら少し時間かかりますけど、組んできますが」


「あ、いえ、やります、だいじょうぶです!」


 慌ててデッキをマシンにセットする。

 メイン、ライフと順序よくシャッフルされたものを受け取って、テーブルに準備する。

 準備、してしまった。


 ――私、ゴブリンなんて使ったことないよ。


「では負け先で、どうぞ」


「じゃ、じゃあドローします」


 始まってしまった。

 とりあえず五枚引いた。


 当たり前だけどし、知らないカードばかりだ!


「自分はキープします」


「私もこのままで」


 でもコストはそんな高くない。

 このままやるしかない。


「私のターン、ドロー、ライフカードを2枚引きます」


 引いたのは単色の基本土地2枚。

 さっきの店員さんのもそうだったけど、魔石も呪言も入ってないから事故はない。

 えーと何を出せば……


 そう思って手札を見たら知っているカードがあった。


「<受粉ゴブリン>を1コストで召喚、ターンエンド」


 店員さんと同じように出して、ターンエンド。

 あちらは。


「僕のターン。レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフ2ドロー、メインドロー」


 スムーズにドローして、手札を一瞥して。


「土地をセットし、1コストで<砂糖騎士シュガードナーの盾騎士>を召喚、ターンエンド」


 私も使ったクリーチャーが出た。

 あのクリーチャーはデッキに三枚入ってたはず、当然出るだろう。


「私のターン……どっ!」


 ドローする。

 そう言おうとしてメインデッキに手をかけて、ゾッとした。


 何も感じない。


 普段やるファイト、私のデッキと比べて吸い付くよな感触がない。

 スリーブだからというわけじゃなくて、なんというか、軽いのだ。

 ”ただのカードを引いている”。そんな違和感。


「ドロー!」


 これは多分ぼろ負けするだろうな。

 まだ2ターン目なのにそんな気になった。


「土地をセット」


 なにか出来るかって思って。


「……ん?」


 いやまって。

 手札のテキストを見る。


 これ、動けるよね。


「2コストで<放火範ゴブリン>を召喚」


「通します」


「じゃあ、土地を焼きます」


「破壊されます」


 ようやく1枚出せてる店員さんの土地を焼いて。


「受粉ゴブリンを起動。生んだコストで瞬間魔法<火撃ち> 盾騎士に2点ダメージ!」


「焼かれて破壊されます」


 盾騎士は他にクリーチャーがいないから死亡した時の効果は抱えて死亡する。


「ターンエンド!」


 店員さんの場を焼き尽くした結果、土地はゼロ、クリーチャーもゼロ。

 そして、こっちにはゴブリンが2体もいる。


 これ私だったらめっちゃ嫌な状態だ!


「僕のターン」


 よし。


「レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフドロー、メインドロー」


 なにをしてくる?


「土地をセット。ターンエンド」


 よし、よし。


「私のターンです、ドロー。土地を出して」


 手札を見る。

 ゴブリンも出てるし、受粉ゴブリンもいるから実質4コスト分で動ける。


「2コストで<増殖の種>! ゴブリン・トークンを2体増やします」


「厳しいですね、通します」


 これで場に出てる私のゴブリンは4体になる。

 けどまだ終わらない!


「さらに受粉ゴブリンを起動させて、1コスト! 2コストで<放火範ゴブリン>を召喚!」


 これで5体!


「うわ、引きが強い。通ります」


「土地を破壊します!」


 せっかくセットした土地をまた焼く。

 これで2ターン連続土地なしで焼け野原。


「バトル! <放火範ゴブリン>で攻撃!」


 さらに追撃だ!


「1点ダメージ。ダメージチェックします、土地1枚セット」


 店員さんがライフデッキを上からめくり、出てきた土地をセットする。

 んー。

 もしかしてここで攻撃しないほうがよかったかな、そしたら次5体で一気に殴れたかも。

 なんか事故ってたみたいだし。

 でもまあ1枚ぐらいならいいか、な?


「<樹海の剣士>を召喚します」


 あ、私の……じゃなかった。光神殺種の最下級コモンクリーチャー。

 でもこの盤面で出しても、意味はない。

 1体と同士討ちで犬死にするだけで。



「1コスト、付与魔法<煌めきの刃>対象クリーチャーは【機先】を得る」



 コモンの付与魔法。

 クリーチャーとかを強化する魔法だ。


「これは対象が白のクリーチャーだった場合のみ、パワーが+1されます。<樹海の剣士>を対象にして、ターンエンド」


 軽くて、強化しやすい。

 でもそれってタフネスまで上がらないから使えないよね。


「私のターン、ドロー」


 ジリ貧だよ。


「土地をセットして、受粉ゴブリン込みの5コスト! <巨木のデクノボウ!>」


 5/5の大型ゴブリン。

 ブロック出来ないデメリットがあるけれど、攻撃にしかしなければ問題なし。

 前回のファイトだとこれにライフを削りきられて負けてしまったでっかいやつだ。


「通ります」


「バトルフェイズ。受粉ゴブリンを除く4体で攻撃!」


「ゴブリン・トークン1体を<樹海の剣士>でブロック」


「防げるのは1体だけだよ」


「だが、【機先】で先に攻撃与えているので生き残ります」


 剣士にブロックされたゴブリン・トークンのカードを片付ける。

 トークンって墓地に残らないんだよね。


「でも残り3体分のダメージ!」


「3点ダメージ、ダメージチェック……全て土地です」


 土地が3枚追加。

 これで店員さんの使える土地は2枚から5枚に増えた。

 でも、あのデッキには全体除去はない。


「ターンエンド」


 私が有利だ!


「僕のターン。レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフドロー、メインドロー」


 あっちにはパワーがあるクリーチャーはそんな多くない。

 ヨルムンガルドも当然ない。

 もう流れは決まっている。


「土地をセット、2コスト<ざらめきの槍士>を召喚し、1コストで<煌めきの刃>を付けます」


 うわ。

 パワーが上がっていく槍士に、【機先】つけるのかぁ。

 嫌だなあ。

 どうやって排除しよう、デクノボウがブロック出来るんだったらぶつけて倒せるんだけど……


 いやまって。

 ゴブリンが複数いるから、これって集団ブロックでいける?


 ……いやまって。

 たしか、集団でブロックした時は攻撃ダメージが分散するのって攻撃側が選べるから、えーと……


「どうしました?」


 変な顔をしていたのがわかってしまったらしい。


「あの……今の流れじゃないんですけど聞いていいですか?」


「大丈夫ですよ、どうぞ」


「【機先】って先にダメージ与えるんですよね。この場合、例えばそこの槍士をこの2体のゴブリン1/1で集団ブロックした場合どうなります?」


「ダメージの割り振りですか? それなら今<ざらめきの槍士>は3/1なので、2点と1点に割り振って2体とも死にますね。【機先】なので先に入ります」


「……3体でも?」


「その場合は、1と1と1で割り振って全員薙ぎ払われますね」


「4体なら?」


「1体倒しきれずに生き残るので、<ざらめきの槍士>が生き残ったゴブリンに刺されて死にます」


「なるほど」


 うっざっっ!!

 思っていたより【機先】効果が面倒くさい。

 これゴブリンだと戦闘で破壊するの難しすぎるよ。


「ありがとうございます」


「では続きを……といっても槍士は召喚酔い中ですね。ターンエンド」


 ああ、そうか。

 あっちのデッキ、速攻とか付けられないんだよね。


「私のターン、ドロー」


 横向き(ステイ)状態にしていた土地やクリーチャーを整理しながら、考える。

 相手はたった2体の壁。

 こっちは受粉ゴブリンを含めてもゴブリン4体。

 受粉ゴブリン、もう能力が使えない放火範ゴブリン2体に、ゴブリン・トークンが1体。


 手札を見る。

 今までファイトで考えたこともないぐらいに必死にテキストを見て考える。


 今私の手札には火力カードがある。

 単体の<火撃ち>と全体火力の<焦土戦術>が1枚ずつ。

 どちらも使えば店員さんのクリーチャーを焼いて除去出来る。

 ただ単体火力だと1体だけしか焼けないし、全体火力だと私のゴブリンたちがデクノボウ以外全滅する。


 相手の狙いはわかっている。

 【機先】の説明を聞いていてピンときたのだ。

 もしかしなくても【スレイヤー】もちがブロックで、先に機先ダメージ与えたら即死するんじゃないか?

 私が使っているから分かる。

 というか、なんか説明を聞いてそんな気がする。


「あの……ちょっと聞いていいですか?」


 なので念のために聞いてみよう、店員さん詳しそうだし。


「はい、なんでしょうか?」


「もしもデクノボウで攻撃して、そこの<樹海の剣士>でブロックされたらどうなりますかね」


「そうですねぇ」


 店員さんが少しだけ目線をそらして。


「まあデクノボウだけが死にますね。【スレイヤー】効果は戦闘ダメージが即死ダメージになるので」


 うわああああああああああああああ!

 あぶなああああああああああああああい!!

 これ無駄死にするところだった!

 負ける、負けるところだった!


 となれば生かしておけない。


「受粉ゴブリンを起動して、それ込みで2コスト<焦土戦術>を発動します。全クリーチャーに2点ダメージ」


 これでデクノボウ以外は全て破壊。

 私のゴブリンも死ぬけど、そっちは<増殖>で展開し直せばよし。

 ゴブリンは畑から取れる気がしてきた!


「通りません」


「え」


「スタックします。1コストで瞬間魔法<鉄の結界>、さらに追加で2コスト支払います」


 それ、は。


「ターン終了時まで<樹海の剣士>に+1/+1の修整と破壊不可能、追加2コストごとに追加1体に破壊不能を与えるため<ざらめきの槍士>も対象にします」


「つまり」


 つまり……


「デクノボウ、剣士、槍士の3体以外全員死亡します」


「……あの」


「はい」


「これ自爆ですかね」


「通ってれば自爆じゃなかったですね。攻撃なさいますか?」


「攻撃したら死ぬじゃないですか、やだー」


 でも攻撃しないとデクノボウはブロックも出来ないわけで。

 やだ、役立たずになってる!

 文字通りのデクノボウになってる!


「<増殖の種>使って、ゴブリン・トークン出してターンエンドします」


「ターン終了したのでこちら2体の魔法効果が切れます」


 ああ、これならせめて<火打ち>で剣士だけでも焼いておけばよかった。

 そしたら防ぐだろうから、ゴブリン残せてたのに。

 いやでもそれ通ってたら槍戦だけになってデクノボウだけで殴れば、打点パワー足りないからブロックされても倒せたよね。

 でもブロックしないでライフで受けられてたら、土地がどかって増えるだけだし、いやでもライフも残りわずかになるし、うーん。


「僕のターン」


 まあいいや! 相手はたった二体、まだバーンもあるしなんとでもなる!


「レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフドロー、メインドロー」


 あっちもデクノボウ防ぐためには、<樹海の剣士>は残しておかないといけない。



「土地をセットし、3コストで付与魔法<活性の肩掛け>を発動。<樹海の剣士>に【不屈】とタフネス+2の強化をします、肩掛けは墓地から2コストで手札に戻せる効果があります」



 は???


「不屈って……なんでしたっけ」


「攻撃しても、ステイになりません」


 あの。

 これでステータスが2/3にされたので、一番焼きたい剣士が2点バーンで焼けなくなったんですけど。

 その上で疲労ステイしない??


「バトルフェイズ。<ざらめきの槍士>と<樹海の剣士>で攻撃します、どちらも【機先】ありです」


「ライフで受けます……」


 呪言もないので確定で土地が出る。

 けど、手札がない。

 ひっくり返すための呪言とかがない。


「ターンエンドです」

 それで、あの、まだあっち土地が残ってるんだけど。

 これもしかしなくても鉄の結界持ってるよね、店員さんも手札あるし。


「私のターン!」


 なんとかなるかなぁ、これ!?



 ・

 ・

 ・




 なんともならなかった。


 あともう少しでライフを削りきれそうということで手札が尽きて負けてしまった。

 気軽にサクサク出せるから消費が激し過ぎる。

 土地も余り気味になってたし。


 それにもまして――<樹海の剣士>が強すぎる。


 ガチガチに破壊されない、毎度攻撃しても防御も出来る、【機先】で先にダメージ与えてくる。

 駄目、全部卑怯。卑劣過ぎる。

 強化されたら駄目でしょ、コモンでしょ、剣士さんさぁ。

 おかしいなあ、私が持ってる剣士あんなに強かったっけ。テキストとか間違ってないかなぁ。

 合ってる? そうだね。


「このゴブリンデッキ、強くないんじゃないかなぁ」


「ハハハ、コモンで組んだデッキですからね」


 いやわかってる。

 これ、私が弱いんだ。

 というか、思い返せばかなりミスしてる。

 もっと上手く使えたんだろうなあーというのがボロボロあって、頭を抱えたくなる。

 悔しい。

 めちゃくちゃ悔しい。

 もう少しで勝てそうだった分めっちゃ悔しい。

 出せるものなら目から火が出そうだ。


「よかったらもう一戦やってみますか? また同じデッキでもいいですが」


「いや、そっちの”迎撃の白構え”使わせてください。今度は勝ちます」


「オッケーです」


 店員さんがシャッフルしてくれたデッキを受け取り、マシンにいれる――前にひっくり返す。

 デッキの中身きちんとチェックする。


「少し時間ください、いいですか」


「どうぞどうぞ」


 えーと、このカードがさっき使ってて、これだから。

 うん、もしかして、あの時尽きてた?

 でもそうなると、あそこであえてあ、セットしないで手札にしてたから……あー。


「いけます」


「大丈夫ですか?」


「はい」


 あとはやりながら憶えよう。

 大丈夫だ。

 さっきはもう少しで勝てそうだったんだから。


「勝たせてもらいます」


 今度こそ勝つ!


「頑張ってください」


 その余裕を覆して見せる!

 そう考えて、私は三度目のファイトをして。


 結果。


 久しぶりに笑顔になれるファイトが出来た。












「はぁー楽しかった」


 お店を出る私の手には買いたてほやほやのデッキがあった。


「3つも買っちゃった!」


 使ってみた赤と白のデッキに、”ボムボムボム”とかいうバーンデッキ。

 だってしょうがない。


 たった一つで二千円。

 デッキ一つが二千円で買えてしまったんだ、買わないと損過ぎる。

 それも私のデッキよりも強いのが!


 ……正直安すぎてなにか騙されてる気がするんだけど、処分の代わりとか言ったから嘘じゃないよね。


「しかもデッキの使い方までメモでくれたし、すごいよねー」


 注文してから組んでる最中の店員さんに、なにか気をつけることありますか? って聞いたら、さらさらって書いてくれたし。

 まだ使ったことがない奴、どうしょうかな。

 使ってから見ようかな、それとも先に見とくかな。

 うん、うん、楽しみだ。


 そして、それ以上に楽しみなのが。


「……まだまだ私は強くなれるんだ」


 あのファイトで何度も思った。

 あの時、私のデッキだったらどうやれたのか。

 あの時、私のデッキだったらどれが使えたのか。


 コモンとかでも使える、いや強いカードはある。

 私のデッキに活かせそうなのがたくさんあった。

 知らない強さがあった。


「家に帰って探そう」


 違うテーマだからなんて思って箱に仕舞ってろくに見なかったカードがある。

 探して、確認してみたら思いも寄らない使い方があるかもしれない。

 まだ諦めるには早すぎるし。


「楽しいことがあるんだ」


 やれることがある。

 そんな気持ちを抱いて私は家路に小走りで帰り着いた。





 そして、翌日。

 かなりの睡眠不足を代償に、ちょっと改良したデッキで知り合いのファイターをぶちのめしてしまったのはまた別の話である。






――――――――――――――――――――――――――――――――

 不滅不遜の神を殺した刃もまたどこにでもいる兵士から始まったのだ。


                        ――樹海の剣士


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