六十八話 御伽噺はドローの度にページが進む






「レディ・アップキープ・ドローフェイズ、ライフ2ドロー、メインドロー」


 小気味よいテンポと共に少年がカードを引き抜く。


 うむ。しっかりと宣言しておるな。

 近頃の輩はバトルボードが代用するせいで手順を省略しがちじゃ。

 きちんと手順を意識して、踏んでいくだけでも評価出来る。


「土地をセット」


 さて、何を出す?


「変容土地<煤けた火事絵> ライフを2点支払うことでステイせずにセット出来る」


「ほお」


 変容土地でも赤と黒の多色か。

 高いものではないが、基本土地ではないということは。


「ライフデッキから2枚墓地に落とします……あ」


 上からめくり、出たのは同じ<煤けた火事絵>と呪言カース<間一髪>。

 ライフの支払いロスじゃから、呪言は発動しない。


「……そういうこともある。うむ」


「そ、そうですね」


 ライフデッキに関しては共鳴が強くてもそう簡単には操れない。

 精霊もメインデッキの手にも及ばない文字通り


 だからそういうこともある……が、本当に共鳴がないんじゃな。


「コスト1で通常魔法<始まりの表紙ページ>を発動。デッキから<幻想少女の御伽噺>を手札に加える」


 御伽噺?

 この間のエレウシスで出た<童話死神>か。


「そして、手札を1枚捨ててターンエンド」


 墓地に落としたのは……同じ<始まりの表紙>か。

 ふむ?

 縛り手ならではの共鳴しないが故にサーチとなるカードを多く入れてるか。


「吾のターン。レディ、アップキープ、ドロー」


 吾もさすがに縛り手が真っ向から挑んでくるのは初めてだが――事故るでないぞ。


「土地<滾る溶岩流>をセット。これは(赤)と(黒)のダメージランド。当然白と赤を出し、2点ダメージ……チェック。基本土地が2枚追加じゃ」


「これで土地が5枚」


「3コストで秘宝<採集光の祭壇>をセット。これは自分のアップキープフェイズの事に【燐光カウンター】を1つ乗せる」


 これの効果は単純明快。

 起動して生贄に捧げることによって乗ったカウンター分のダメージをクリーチャーあるいはプレイヤーに与えるというもの。

 Lifeのファイトは毎ターンごとにライフデッキを削り、命が燃え尽きる。

 これはそれを純粋に倍にする。


 この圧力に耐えきれるか?


「通ります」


「では、バトルフェイズをスキップ。エンドフェイズにスレイブの維持コストでデッキを1枚墓地に送り、ターンエンド」


 お主に与える土地はない。






「あれ? 攻撃しなかったぁ」


「えげつない。まだ土地1枚しか出せてないフツ兄だからもたつかせるつもり」


「わあ、きたない!」





 バニラよ、これが大人の戦い方じゃ!


「俺のターン」


 さて出せても土地2枚で何をする?


「レディ・アップキープ・メインドロー……土地をセット」


 基本土地。

 運よく引けたか、あるいは呪言などはいれてなかったか。

 童話死神ならば専用のサポートがあるはずじゃが……


「彼女は1人でお使いに出る――2コストで秘宝<赤ぎれずきんの御伽噺>をプレイ」


 手札に加えたものサーチではない御伽噺!

 確か効果は。


「御伽噺は場に出た時に【栞カウンター】を1つ上に乗せる、これはドローする度に追加されますが……通りますか?」


「構わん。ドローもせよ」


「では、1P目の効果です。デッキから1枚ドロー、カウンターが追加、手札を1枚捨てる」


 赤ぎれずきんの効果は知っておる。

 1ドロー、手札捨て、ダメージ2に、クリーチャー化じゃ。


「あれもいらない、これもいらない」


「……?」


「呪われたリンゴを後ろに見える見張りに投げつけた――


「なにっ?」


 なぜ呪言が、いや。


「最初のターンに引いたライフ2枚か!」


 片方は火事絵で、もう片方が呪言!


「はい。呪言は


 そうだ。

 だからライフデッキはダメージを受けて削られる……すなわちその枚数分だけ墓地へと落ちる処理法則になるが。



 藁の手は通常3コストもかかるドローカード。

 ダメージを喰らった時などの発動以外ではただのカード交換のため使うものもおらんコモンカード。


「――<始まりの表紙>を複数枚入れてる理由がそれか」


「そういうコンボです。ではドローし、2ダメージ受ける。ダメージチェック!」


 楽しげに声を上げて、ライフデッキから飛び出した2枚をひっくり返す。

 出たのは。


「土地2枚をステイでセット! ターンエンドです」


「……追いついてきおったか!」


 これで少年の使える土地は4枚。

 次のアップキープには、


「吾のターン! レディ、アップキープ、<採集光の祭壇>にカウンターが追加!」


 速度は十分、動き出せる数と盤面。

 面白いコンボじゃ。


「そしてドロー! ……魔石<黄昏の追悼碑ついとうひ>をセット! これはアップキープフェイズを迎える時、その上に【怨念】カウンターを蓄積するがもう一つタイミングがある」


 しかし、それだけなら押し潰すぞ。


「……墓地除外からのカウンター累積魔石!」


「いかにも! その口ぶり、なにが蘇ってくるか知っておるな? さあさあさあ! 耐えてみせい!!」


「受けて立つ!」


「追加じゃ! 赤・黒・青を含む4コストを生む、色出し代償にダメージチェック……土地!」


「土地しか出てこない!」


「そして誰彼(赤・黒)を宣言! 合計2コストで<火付けの線香像>を召喚! これは【貫通】と【速攻】を持つ! 墓地からカード2枚除外し、【怨念カウンター】を追加!」


「通ります」


「さらに2コスト、<未亡人形の介添人>を召喚じゃ!」


「……通ります」


 ん?

 わずかに少年の目が細まった。


 何が気になった? 介添人は大した強さもないクリーチャー。

 


 だから、ハオリも使っていないはずじゃが……


「バトルフェイズ! <火付けの線香像>のみで攻撃!」


「通ります、5点! チェック……<焼畑>は使わない。<藁の手>で1枚ドロー!」


 呪言が出たか。<藁の手>でドローしたということは……


「この瞬間、ドローしたため<あかぎれ頭巾の御伽噺>のページがラストに到達する!」


「来るか」


「コンコンコン、辿り着いたのは誰も住んでいない廃屋でした」


 ?

 縛り手である以上、共鳴は出来ないはず。


「御伽噺を生贄に捧げて、3/2の【機先】・【速攻】を持つ<童話裂きストーリーホラーの赤頭巾>が場に出る!」


 能力の読み上げコマンドではない、口上と共に現れたのは赤い頭巾を被った金髪少女。

 ボロボロの擦り切れた少女服を巻き付けた装い。

 片手に錆びついた鉈を、もう片方の手にはまだ血しぶきが染み付いた猟銃。


 赤頭巾。


 油断ならぬ戦闘力に、その固有能力は――


「ターンエンドじゃ! スレイブハンドの維持コストでデッキトップを墓地に送るぞ」






「しちょーのところに、クリーチャーたくさん!」


「攻撃し終わったとは言え5/5の線香像に、タフネス4のスレイブハンド、1/1だけど飛行の紙船に、1/2の人間クリーチャーでブロッカー3体かぁ」


「まけちゃう?」


「普通なら絶望的だよぉー、採集光の祭壇でタイムリミットは2倍速だし」


「わあああ! なんで焼畑で回復しなかったの!?」


「だからこそだよ」


「だから?」


「土地を残してないとぉ逆転出来ないのと」


「のと?」


「――






「俺のターン! レディ・アップキープフェイズ――赤ぎれずきんの能力発動、2/1速攻の狼クリーチャー・トークンを生み出す」


「2体になりおったか」


 3/2の赤ずきんに、2/1の狼クリーチャーの2体。

 協力ブロックをすれば線香像を討ち取れる。


「いい立て直しじゃ」


 と思ってるならば次のターンで終わりじゃ。

 手札を確認しながら、次に動くことを考えて。


「土地をセットし、4コストで通常魔法<滅びの闇>を発動します。通りますか?」


「……は?」


 滅びの闇?

 一拍置いて、考える。


「まて、効果は?」


「全てのクリーチャーを破壊する、それは再生できない」


 少年の言葉に、赤ずきんが両手を上げて、狼が天を見上げた気がした。

 ……手札を見る。

 妨害札は…………ない。


「とおるぞよ」


「では全てのクリーチャーを破壊する、これは再生できない」


 黒い球体が生み出され、唸り声と共に飲み込まれる。


「世界はこうやって大体滅びる」


 そうして吾の全てのクリーチャーが消し飛んだ。

 少年が呼び出した赤ずきんも狼も消し飛んだ。





「ひどい」


「うわー」



「介添人が墓地に置かれたため、1枚ドローするが……」


 ためらいもなく自分のクリーチャーごと全体除去で吹き飛ばしおった。


「お主、人の心はないのか?」


 普通のファイターならば多少は苦悩するだろうが。


「カードでそんなのいりますか?」


 即座に切り返された少年の言葉に、少し考える。

 考える。

 考えて。


「…………いるじゃろ、多少は」


 評価が少し下がったぞ!


「そうですね。マナーを守る心遣いは必要ですが、これは真剣勝負ですので」


 ぬぅ、真面目だ。

 評価出来る。


「貴女に勝つためにならば選択は問わない」


 真っ直ぐな目だ。

 少年の声音にブレはない。

 デッキに操作されているだけではない自我の光を感じる。


「その選択肢がお主の手にあるか?」


 ここまでの攻防ではっきりとわかったが、やはり少年には共鳴力がない。

 あるべきスピリット、


 ファイターというのは自らの精命オドを燃やし、その熱意を持ってカードに息吹いのちを吹き込む。

 能力の口上とは、すなわちカードに対する命令コマンドに他ならない。

 命ずる口とカードを出す手さえあれば最低限どのような存在でもファイトはすることは可能だ。

 だから理論上縛り手でも、ファイトは出来る。

 テーブルファイト卓上指導でも、ボードファイト祭器闘争でも変わらない。

 しかしだ。

 縛り手には欠点がある。

 大きな欠点が。


 それは。


「お主の手札は、それを


 ――”心を伝えるスピリットが出せないが故にデッキに祈りが届かない”。


 少年が叶える願いを汲み取ることのない欠陥品の願望器。

 ただの組み合わされた神秘なき奇跡なき確率の折り重ね。

 文字通りのに。


「何もかも使い方次第です」


 少年は笑ってみせた。


「さあ冒険に出かけよう。2コスト、秘宝<幻想少女の御伽噺>をプレイ」


 楽しげに出されたのはサーチをした御伽噺。

 それは運命ではなく、選択で掴み取ったもので。


「【栞カウンター】を一つ乗せて、1ページ目。手札からカードを1枚、裏向きにして出す。これは2/2のクリーチャー・トークンとなる」


「古い御伽噺……よくもまあ手に入れたな」


 後天性なら呪われる前に引き寄せたか?


「店長から貰いました」


 貢がせとるのか!?


「瞬間魔法<抱き寄せ>を発動、通りますか?」


「ない。見せてみよ!」


 狙いは分かっている。

 コストの踏み倒しによるクリーチャーの召喚。


「手札1枚捨てて、2枚ドロー! 少女の御伽噺は二幕へと続く。【栞カウンター】2つ、2ページ目の効果。裏返しにしたカードを除外する、これはエンドフェイズに戻ってくる!」


「それでどうする?」


「バトルスキップ、メイン2スキップ」


 がら空きになった場を淡々と進める。

 何が出る。

 つまらないものならばこの手札にて踏み潰すだけ。



「エンドフェイズ――穴を通り抜けて、少女は大きくなった世界を見る。そこに浮かぶものを見る」



 少年の手が動く。

 除外領域においたカードをひっくり返す。


「それは暗く暗く、海の底のような空である」


 肌がひりつく。

 気配はない、熱量もない、ただ冷たく。


 音が止まって。


「――<永夜・揺蕩う香海マグダラ>」


 見た。

 巨大な舞い眠るクジラにも、赤子にも似た、半透明の水母クラゲを。






 それは。


 吾の手札の――切り札たちが瓦解する言葉だった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

 眠れや眠れ。

 夜は暗く、黒は暗く、けれども優しい

 雨の音は子守唄、波は来たりては去っていく

 繰り返す、繰り返す、揺り籠のようにそれは優しく


 いつか覚めることを祈りながら、あまねく命は溶け落ちた


                 ――<永夜・揺蕩う香海マグダラ>

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