七十話 秘宝はメインフェイズでしかセット出来ない
※4/6 モブのナイトレイダーの前世での使用経験の設定を間違えていたので修正しました
最後のライフカードが飛び散る。
結果は。
「吾の負けじゃな」
「しゃあ!!」
俺の勝ちだった。
思わず右手でガッツポーズを決めて。
「……あ、すみません! 対戦ありがとうございました!!」
慌てて頭を下げる。
やばいやばい、ちょっと気持ちが入りすぎた。
大会とかならまだしも、フリプでガッツポーズはちょっとマナーが悪い。
「アッハッハ、よいよい」
しかし、カド市長はフルフルと首を振って。
「いやぁ負けた負けた」
ゴスロリ服の裾から取り出した扇子でパタパタを仰ぎなら楽しそうに笑っていた。
さすがプロだ。心が広い。
「お主、頭おかしいのぉ」
「突然の罵倒?!」
と思ったらいきなり罵倒された。
「違う違う、これは褒め言葉……ではないのぉ、うん」
それはそう。
やっぱり怒ってる?
いやまあなんとかこっちの手札がよかったのもあって、勢いでハメ倒せたようなもんだが。
「そうですよ。ちょっとびっくりしましたよ」
「すまんすまん」
「そんな変なコンボだの、ネタデッキだの、ギャンブルキメてないのにそんな事言われるのびっくりしますよ」
「……うん?」
「
今回カド市長とのフリプに選んだのは”ナイトテイル”だ。
他のデッキも使おうかと考えたが、すぐに使えるデッキとしてはこれが最適だと判断した。
まず”エニグマ”。これは論外。
この世界では珍しいし、前世含めても頭おかしいウルトラ民共がいじくり回してたデッキのため、下手すれば初見殺し勝ってしまう。下手しなくても勝つことが多い。そのために特化したものであり、手札の引き次第でなんか勝ってしまったら、文字通り運だけで勝ってしまったことになる。
だから駄目だ。
元トッププロだった店長でさえ教えて説明した時宇宙猫になって、懐かしい気持ちになったのに、同じプロであるカド市長でなら知ってるかというと微妙。
だから駄目です。
せめてエニグマの知識を仕入れて、ウルトラとの対戦経験豊富で読み合いして、殺し合いでやってほしい。
俺は是が非でもこの機会にプロの力を体験したかったし、全身全霊で挑んで負けるのは当然だとしても、なんとか気合と根性とお祈りタイムでぶち殺せたらいいなぁ! という気持ちで殺し合いたかったのだ。
んで次、”ラビリンス”。
あれは相手のデッキが分かってないといけない。その上で相手のマスカンや動きを見極めないとその真価を発揮出来ない。
つまるところトッププロとの読み合い勝負になる。
それで勝てるか? 無茶を言うな、断言してもいいが俺程度ではトッププロに読み合いで勝てるわけがない。
こちとら前世含めてもカドショでの大会ぐらいで、全国大会とかは参加してない一般カドショ通いのカジュアルゲーマーだ。
前世での
プロに読み合いで勝てる気がしない。
才能とかカード資産ではなく、まず努力の差が違う。
1を出されたら、10を読んで、その上で17ぐらいを検討しながらカードを切ってるような化物たちだ。
前世では大会とかの動画とか、プロの配信のを見ながらデッキの回し方とか、コピーデッキは幾つも作ったりしてたし、学ばせて貰ってたが……勝てる気がしないんだよなぁ。
間違いなく使ってるCPUとかが違うと思うんだよなぁ。
あの頭のおかしい毒舌女狐でさえ、プロにはなってなかったんだからそんだけ壁は高いのだ。
そいつらと比べたら、ユウキちゃんとかサレンのピカピカドローぐらいはまだ
だって何されたかわかるもん。
いつか見た
同じプロ相手に土地2枚から手札が10枚越えて、手札全部使い切って、また墓地からほぼ全て回収して、
いや
アイエエエって声が出たよ。
死ぬか殺すか死ぬ前に殺すか、殺せなかったら死ねという殺意と計算で出来上がった世界。
それがプロだぜ? 偏見だと思うが、読み合いで勝てるかよ。
俺は人間だ、人間で十分だ!
だからこそ今回ラビリンスは選ばなかった。
読み合いで勝てるとは思ってはいないが、負けるために挑むことは絶対にしない。
だからといって勝つためだけで挑むのは意味もない。
戦いたいのだ。
そうじゃなければゲームじゃないだろ?
「今回のデッキは、上手く噛み合ってくれました」
だから今回のデッキ、ナイトテイルはいい選択が出来たと思う。
もう一つ選ぼうかと考えた”ガンブルシュート”は、まだユウキちゃんをボコボコに出来るが、ユウキちゃんが使うと結構負けるぐらいで、調整が足りない。そもそも知り合いのデッキを参考にしたアレンジコピーデッキだ。
けれど、ナイトテイルは違う。
前世では使い手とはやりあったことはあれども、手なりで組んだことがある
これ自体はテンプレート……ある程度のデッキの強さを確保出来る組み合わせだ。
だけどそれ以上でもそれ以下でもない頭打ちのデッキ。
それを
まだまだ改良と強いカードをいれて強くすることが出来る気がする
それが通じたのが楽しい。
最終的な夢のどんなデッキ相手でも4割、いやせめて3割ぐらい勝率があるデッキにしたい。
それが俺の
――勝率5割以上いけないのかって?
俺は人間であって、ヤチではないんだ。
「ふむ。確かにあのマグダラはぶっ刺さったのぉ」
「はい。いやあ上手く引けてよかったです。ハイステア出た時は、黒白の【童話死神】かちょっと考えましたけど単体で性能がいいですもんね」
「うむ。古くて調整が甘いが、単体での性能がよくての」
「使い勝手いいんですよね、墓地落としでステータスも高いですし。でもスレハンだとタフネスだけで攻撃には向いてないからアグロじゃない、クロックかミッドでくるかと思って、
「うむ、うん?」
「未亡人形の介添人って墓地ドロー効果ありますけど、ステイドローもあるじゃないですか」
「うむ」
「それだと共鳴率とかで”モノクローム”とセットで引けるんじゃないかなって思ったんですよね。同じテーマですし、シナジーありますし、めっちゃ墓地消費激しいからもう握ってるかすぐに<末筆のしらべ>引いてくるんじゃないかなって。あれ、墓地カード表向きにしても誘発しますし」
「う、うむ」
「あ、これマグダラなんとか出しておかないと負けるってめちゃくちゃ焦ったんですよね。モノクロに合体されたら間違いなく負けますし」
「うん??」
「なんとかねじ込めましたけど、最後まで気が抜けなかったです」
いや本当に危なかった。
マグダラ一回目で全体除去ブッパされて、まあそういうのしてくるよなって諦めがあったけどさぁ。
多分二回目、三回目連打されてくるかとめっちゃ警戒してた。
復讐姫、破壊無効効果あるけどカウンター稼ぐ暇なかったし、黒辺りくるか? と思って握っといたコピーで始末出来てよかった。
あの二体、単独でもアレなのに揃ったらマジで終わる。
「
あれ、ラブスルと同じだからなあ。
「んんん???」
「出されてたら負けてましたわ」
未亡人形は強いデッキだ。
なんといっても固有のキーコード【誰彼】がアホみたいに強い。
墓地肥やしさえ出来ればコスパがイカれてるカードをどんどん場に出せる、制圧型のミッドレンジだ。
墓地消費の激しさを補う<末筆のしらべ>なんて、スタン落ちするまでは黒白の汎用墓地回復として使い倒されていた。前世の環境でもプールが広いアンティークレギュなら全然使われていたぐらいにくそ強い。
レガシーだと墓地回復してる暇なんぞあったら、互いのデッキが上からジェンガを殴り壊す勢いで吹き飛ぶから使われないけど。
だから流行り始めた時はみんな全体除去を入れたし、墓地枚数をチェックしながらやりあう仕草がよくあったし、やってた。
これを逆に利用した魔石の<死亡保険>を利用した”死亡結婚”コンボとか、介添人を墓地・場からひたすら戻してステイしてドローエンジンにする”結婚相談所”、他のデッキに出張して同じようなステイさせる代償を払わせるギミックに使われて”ブラック仲人マン”呼ばわりとか色々言われてたもんだし、長く色んな形で使われていたテーマでもある。
そういう意味では色々と馴染みがあるデッキだったから動きが分かって助かった。
情報アドがなかったらさすがに厳しかったな。
「……って、あ、すみません!」
なんて考えてたら、見下ろした先の市長が沈黙してることに気づいた。
やばい。
呆れたような目をしてる!
「申し訳ない、ちょっとテンションが上りすぎて、本当にすみません!」
色々キョドってまくし立てちゃった。
自分でも自覚はなかったが、ミーハー気分になっちゃってたわ。
「ふぅうううむ……おぬし」
「あ、はい」
半眼になってた目を開いて、市長はこちらを見上げて。
「変なやつじゃの」
と言われた。
「どこにでもいるバイトですよ?」
ので、訂正した。
ちょっと前世がカード好きで遊んでたやつだけど。
「いないんじゃよなぁ」
「いますって、ここに」
「だまれ、
「イレギュラー!?」
「縛り手どころか吾に勝てるファイターがどこにでもいるバイトなわけがあるか。まあ吾のはメインじゃなくてサブデッキじゃったけどなぁ」
ふぅぅぅとこれみよがしに息を吐いて、カド市長は扇子で扇いでいる。
そんな可愛らしい動作にピンときた。
これは――悔しがっている!
俺が気合と上振れでなんとかマスカン押し通して勝った時の雌狐も同じ仕草をしていたからわかる。
なんということでしょう。
これはガチで勝ってしまったということなのでは?
「! な、何を笑っておる!」
「いえいえ、別になんでもないです」
「笑っておるじゃろ! こら! こっちを向かんか」
「いえいえ、そんな失礼なことは出来ません」
「きぃい! サブデッキじゃぞ! メインじゃないからな! 吾のメインデッキだったらお主如き今頃けちょんけちょんじゃぞ!」
「フフ、サブデッキだろうが握ってるのは市長だったんですからねえ。負けた言い訳をデッキのせいにするなんて……ねぇ?」
「こらー!!」
ペシペシと腰辺りを手の平で叩かれてるが、全然痛くないです。
「いやぁ嬉しいなぁ」
「きぃい!」
「本当に嬉しいです」
負けても楽しいが、勝てればなおさら嬉しい。
悔しがられるということは負けるつもりはなかったということで。
そんだけきちんと戦って貰えたのが死ぬほど嬉しい。
「……お主」
「はい?」
小刻みな衝撃がなくなって振り返る。
「大丈夫か?」
真っ直ぐな瞳が――市長が見上げていた。
「?」
意味がわからない問いかけだった。
首を傾げる。
「大丈夫ですけど、お腹でも痛そうに見えましたか?」
「そういうわけではないが、の」
空いた彼女の右手が、行き場をなくしたように何度も握って開かれていた。
「?」
よくわからん。
「まあ色々気になることはめちゃくちゃあるが、まず1つ聞いてよいか?」
めちゃくちゃあるんだ。
「はい、なんでしょう?」
「先ほど出したマグダラじゃが、もしや他の【永夜】も持っておるのか?」
「ああ、それでしたら「出来たー!!」お?」
「本当に治ったー!!」
バトルフィールドのスペースにまで聞こえるこの元気な声は。
「ユウキちゃん?」
大きな声に聞き覚えしかなかった。
「おお、治ったか!」
「あ、忘れてたー」
「治ったみたい! いこうフツ兄!」
なんていうタイミング。
「了解、片付けだけして今行く!」
ドタドタと慌てて向かう女性陣を横目に、フィールドの後始末をする。
といってもスタンバイ状態からスリープモードにするだけだが、つけっぱなしは電気代が嵩むのだ。
細やかな安定の経営は無駄遣いの削減からに尽きる。
「……ん?」
パチパチと電源を押したところで、気づいた。
「誰だ?」
もはや馴染んだ開く動作をして確認した相手は。
『今から伝える言葉に、返事はしないで聞けるか?』
つい先週アドレス交換した相手だった。
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空に浮かぶ月、水面に浮かぶ月
どちらも手が届かないという一点において等しく価値がない
――照応置換
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