七十五話 戦闘はバトルフェイズでしか行えない
「ここを通りたければ――許可が必要だ」
勿論出す気なんてありゃしないが。
「キヒッ?」
そんな俺の言葉に、ゴミクズの
「きひひひ、いひひひぃぃぃいロスロスロスロス!」
嗤った。
愉快そうに震えて、のたうち回り。
「塵芥ガ、BO苦の道ヲ防ぐつもりKAよ!」
吐き気を催す形の左手を振り上げた。
ゴボゴボと音を立てて飛び出してきたのはボード。
正気と制作者と使用者のセンスを疑う冒涜的なデザインのボード。
そして、そこから抜き出されたのは――どす黒い色のカード。
「アンティ!」
――誓言 敗北者は命の限り殺戮を繰り返す狂気に落ちる――
声が落下してきた。
音ではなく、言葉でもなく、何故か意味だけは絶対に伝わってくる超常的な現象。
「さあ! Doっちから始め――「アンティ」」
――誓言 敗北者はカードへと封じられる――
汚物の声を無視して、スカーが掲げたデッキから声がした。
2つのアンティが掲げられる。
お互いに敗北した時の要求が並び合う。
勝ったほうの望みが叶うだろう。
「打ち合わせ通りにいくぞ」
スカーの声。
流れるような仕草で、デッキを黒い無骨なバトルボードにセットする。
「ああ」
俺は頷いて、既に何度も何度も何度も何度もシャッフルしておいたメインデッキをボードに差した。
「「”
要求するのは
Life公式で提供されていた多人数対戦フォーマット。
それがこの世に存在していることは店長とスカーに確認済みで、上手く行けばそれに持ち込むことを決めていた。
無論、コレを断ることも想定している。
その場合相手のデッキを目の前で観察して、残ったほうがすかさずぶち殺すだけだが……
「……」
おそらく乗る。
何故なら。
「ふム」
――単独のほうが圧倒的に有利なゲームだからだ。
「いイだろう――それでファイトDA!」
ノった!
「いくぞ!」
「いくか」
「「「ファイト!」」」
全員がメインデッキから手札を引き抜いた。
こちらは5枚ずつ。
あちらは――
「私ハ巨人。故ニ手札は10枚からスタートスル!」
10枚。
それが巨人となった側の手札。
その大きな手は最大14枚までのカードを持てる、人の二倍の身の丈があるという想定。
「ロス、ロスロス……ライフも倍ニなる!」
奴のバトルボード、そこのライフデッキが泡立つ。
血泡のようなものを噴き出して、ライフデッキが膨張していく。
それと同時に頭についている無数の眼球から血涙が流れていく。
吐き気を催す光景。
「……ライフ To ドロー♪」
化物が分厚くなったライフデッキを引き抜く。
その枚数は40枚から38枚。
「色彩ヲセット!」
今引き抜いたから38枚。
先に出すのは色彩。
「通常魔法<穢れの儀式>、”オド”を3つ産ム」
オド宣言?
前世じゃあるまいし、珍しいな。
「気をつけろ」
「スカー?」
「奴の堕悪カードの影響下ではコストではなくオドで払わなければ、カードは機能しない」
「了解」
短く必要な情報を貰った。
その間にも、化物のカスが無駄になる手札を見ながら動きを決めたようだ。
「クリーチャーを2体召喚する。2オド<魂啜の
「通ります」
カスの場に、”
セオリー通り、多めのクリーチャーを並べてきた。
「圧鼠ノ効果! ”闇狩り”のライフを1失わセ、こちらが1
「ッ! 共有ライフは残り39だ!」
スカーの声。
わかりやすく、ありがたい。
「バトル。
「壁はいない、ライフで受ける!」
速攻・飛行持ちの鳥の攻撃を、ボードを盾にスカーが受けた。
「グッ……2点ダメージ!」
「37! いけるか?」
「問題ない、ダメージチェック! ……色彩を2枚セット!」
「ロスロス、ロス♪ ターン……エンド!」
ゴミの先手が終わる。
1ターンで3点の損耗、こっちの共有ライフは”37”だ。
これが巨人側の動き。
巨人となる単体は全てが倍になる、
そして挑む側はいつも通りだが。
「「俺たちのターン!!」」
回ってきたターンは共有し。
「レディ」
「アップキープ」
「「ドロー!」」
――各フェイズとライフも共有する
「ライフを”1枚ドロー”!」
「メインを”1枚ドロー”!」
ライフデッキとメインデッキから1枚ずつドローする。
互いの手札が結果的に2枚ずつ増加する。
だが、それは同時に……
「残り【35】!」
――ライフも2点失うこととなる。
巨人に挑む小人たちは互いのライフを共有する、その合計数は巨人側と同じ【40】
どちらかのライフが残っていれば手を貸して動くことは出来るが、ライフデッキを失えば色彩も呪言も魔石も追加出来なくなる。
しかしターンが回るごとに倍の速度で失うため、ノーダメージでも20ターン目に力尽きる。
数が多いほど消耗のハンデを背負い、膨大なライフを削り切るための慎重な戦闘を求められる。
これが
普段のルールでは不利なアグロデッキをゴライアスが駆使することが推奨され、迂闊なコントロールデッキだけでは押し切られる小人の工夫が求められる多人数戦。
「さあて」
手札に加えたカードを見ながら。
「
メインフェイズを迎える。
――相手のデッキはもう大体知っている。
そこからどう外れてくるか。
それをどう修正するかはこちらの仕事だな。
◆
「メインフェイズ」
少年の言葉を聞きながら思考を巡らせる
”101人目”のデッキは――”
少年からデッキの解説は聞いている
ユウキ少女が戦った”101人目”が
「俺から始める。色彩をセット、行動終了」
「承知した。こちらも色彩をセット」
共有したフェイズだが、互いの場は共有していない。
互いに出した色彩は勝手に使えない。
出した秘宝や魔法のコントロールも共有しない。
ただし互いに出したクリーチャーで攻撃やブロックなどを代行することは出来る。
文字通りの共闘だ。
「場を整える――頼むぞ、”1オド”」
宣言と同時に軽い疲労感。
だが構わん!
「<Si☆STAR サクラ舞うスール> を召喚」
呼び出したのはこのゲームでも最初の手札に来てくれたスール。
「ロス?」
「スールの効果! 場に出た時、手札から2オド以下の姉妹を場に出す! <Si☆STAR 向日葵のラビ>を場に出す」
スールの横に飛び出すラビ。
彼女がスールの手を握ったのを確認し、宣言する。
「【姉妹】による<
”惰眠蛙”が出る前にドロー出来る時はしておくべきだ。
「さらに2オド! <Si☆STAR 高華のエーデルワイス>を召喚!」
白いマフラーを首に巻いた少女が現れ出て、
「エーデルワイスのステータスは1/3! 契約発動により、スルラブの右に繋げる!」
「エーデルワイスの契約効果! 孤高の彼女とその姉妹は他の魔法・能力の対象にならない! ただし姉妹契約は除く!」
「ロス?」
「さらにラビの契約効果が誘発する! 再び1枚ドロー!」
手札は補充出来た。
「飛ばすぞ?」
「このターンはそれで」
「バトルフェイズはスキップ、ターンエンドだ!」
「こちらもターン終了」
3/5の魔法・能力の対象にならない壁を1体配置した。
飛行の鳥は食い止められないが。
「……」
”101人目”が沈黙した。
ギョロギョロと目を動かして、ただ動かない。
「どうした? 2枚の色彩じゃあ動けないのか」
「ロス、ロスススス♪」
不愉快な笑い声だ。
――あの時から何も変わらない。
「キャラ作りか? 随分と頑張ってるんだな」
「ワたシのターン! ど・ろー!!」
少年の鋭い言葉を無視して、”101人目”がカードを引いた。
どう動く?
コストを増やすカードを使えば使うほど、大きく溜めた手札を使い切るぞ。
「色彩ヲセッとォ! 私は手札NO色彩を公開シ、2オドで<喰手・指齧り>を召喚!」
「ハンドグール」
元々は魂啜だけのデッキを使っていたという”101人目”。
しかし、教授と戦い……都合【100回】にも及ぶ連続敗北とそこからの潜伏からデッキを組み替えた。
――俺の知っているあの【事件】の時の原因。
「バトル!
「飛行ではブロック出来ない、ライフで受ける!」
飛来する魂啜の鳥を、再び受け止める。
激痛。
リアルダメージの痛みは、闇の領域も相まって身体が削れる。
意思が削れる。
……が。
「ダメージチェック! 色彩……色彩!」
「共有ライフは”33”だ」
「わかった」
少年の声と共に頷き、立ち上がる。
”101人目”のクリーチャーは3体。
鼠も動けたのに少年に動かさなかったのは色彩を増やしたくなかったのか。
それとも壁を増やして、ひたすら逃げ切るための消極的な戦法か。
「ターンエンドぉ」
”101人目”のターンが終わり。
「――そのエンドフェイズに、瞬間魔法<侮蔑>を発動します。通りますか?」
「ファ?」
「対戦相手1人を指定し、手札を公開する。その中のクリーチャー1体を捨てさせます。これは1オド支払うことで打ち消す事ができます」
「……自傷デッキにピーピングKA」
「通りますか?」
ここはなんとしてでも妨害したいところだ。
普通ならば。
しかし、今はまだ2ターン目。
<防災>を使おうにも色彩は2枚しかない。
「ッ、適応サれル!」
コストを使い切っているからこそ、打ち消せない。
そして、奴の手札がお互いのボードに表示される。
そこに映っていたのは魔石に、魔法カードが数枚、そしてクリーチャーに……
「では、<
どす黒いオーラを放っていたカードが墓地へと落ちた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<
スピリットのクリーチャー
0/5
このクリーチャーを召喚した時、ライフを5点支払ってもよい。
そうでなければ暴食の魂啜をあなたのエンドフェイズ時に生贄に捧げる。
暴食の魂啜は攻撃宣言時、対戦相手1人を選ぶ。
暴食の魂啜はパワー+Xの修整を受ける。
Xはあなたと指名した対戦相手とのライフの数値差である。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……なるほどな、初手で既に引き込んでいたか」
間違いない、これは。
奴の堕悪カードだ。
……少年が言っていた”おそらく持っているだろうカード”。
驚いたな、ドンピシャだ。
「GAああああ嗚呼あああ゛!!」
べちゃべちゃと地団駄を踏み始める。
自分の切り札を出す前に捨てさせられたのだ、気分は荒れるだろうが。
「こちらからは以上です、エンドで?」
「あ゛あア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「気を抜くな! あれが奴の
わめき、狂乱するうろたえた姿に、己は息を整えながら叫んだ。
「レガシーと違って、闇のカードはファイターの欲望で染まり生まれる! 増殖も可能だ!」
あっさりと手札から捨てられたのを見なければ己でも早とちりしかねなかったが、あれでも
手札破壊の教授を初めとして、それ以外に手札破壊を組み込んだデッキのファイターがいなかったわけがない。
なのに、教授以外で奴に負けた犠牲者が多くいるとすれば、簡単な対策ではない。
「ロ゛スロスGOロ゛スロ゛ス!!」
あの大げさ過ぎるリアクションが、益々確信を深めさせる。
――おそらくあと2枚はデッキに入っている。
序盤に出せば圧倒、だが終盤にライフの差がある時に出されれば絶望的になる。
強力なカードだ。
「己たちのターンだ!」
しかし、少年のおかげで奴の手札はわかった。
「レディ」
事前の解説でどう戦うべきかプランも出来ている。
「アップキープ」
それもこれも、彼らのおかげ。
いや正確には。
「「ドロー!」」
――
ここまではほぼ少年の予想通りの動きになっている。
3ターン目までは互いに、キーカードを引くまでは静かに場を固めようという話だったが。
「……」
「少年?」
「スカー、キーカードは引けた」
!
「始めるぞ」
「ロス?」
「魔石<大酸化事変>をセット」
来たか!
「この魔石は自分の場にクリーチャーがいない時しかセット出来ない。そして自分のエンドフェイズにクリーチャーがいる場合、これを生贄に捧げなければならない」
そう。
「そして、これが場に出ている時――全てのプレイヤーの基本色彩はオドを出す時に追加で(1)オドを得る」
「ロス?」
それは本来ならばリスキーでデメリットが多すぎる、自分以外をも有利にする【カスレア】
「一応聞いておくか、グロ野郎」
未だに6枚も手札を残した少年は、こう告げた。
「その手で電卓は叩けるか?」
――――――――――――――――――――――――――――――
捕食者無き支配の世界は繁栄し続ける
窒息するまで
――大酸化事変
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