七十六話 生み出したオドは次のフェイズに持ち越せない









 ――その手で電卓は叩けるか?



「……ロス?」


 力も気配も感じない有象無象の言葉に、ソレは首を傾げるしかなかった。

 言葉が理解出来ないわけではない。

 何を言いたいのがわからなかった。


「残り”31”。俺の行動は終わりだ、スカー」


 そして結局魔石を出しただけで終わり、 ”闇狩り”が動く。


「こちらは動く。色彩をセット。、オド2で<Si☆STARシ☆スター 電光のカミーユ>を召喚する! これは契約しない」


 呼び出されたのは1体の雌の形をしたクリーチャー。

 その能力は、既に知っている。


「さらに色彩を起動! 2オド<Si☆STARシ☆スター 日溜まりのサテラ>を召喚し、カミーユと姉妹契約リリ・リンクする!」


 先ほど出したクリーチャー3/12体目2/2横並びになる。

 ステータスは【カミサテ3/2】と三姉妹スルラビワイスの【3/5】


「カミーユとサテラの契約効果! カミーユは契約したターンの終了時まで【姉妹】の数だけパワーが上昇し、サテラは姉妹の契りを結んだものに【不屈】を与える!」


「ばふばふばふっ」


「契約した【姉妹】の自分を含めて2人! +2点のパワーだ! バトルフェイズ! スルラビワイスのトリオ、カミーユとサテラのコンビで攻撃!」


ネズミ圧鼠でコンビをブロック」


 もはや使い所がなくなった鼠でコンビのほうをブロックする。


「トリオで3点! カミーユは鼠を撃破し、不屈のためステイしない!」


「色彩、色彩、ぉぉ、色彩♪」


 色彩が零れ落ちる。

 これで使えるオドが増える。


「カミーユは【機先】と【速攻】を持つ……集団ブロックをしない辺り、こちらの能力はバレているか」


「ワたシの眼は飾リじゃなイ♪」


 ”闇狩り”のスカー。


 闇のファイターでありながら、同じ闇のファイターを襲う異常者。

 主義主張と性癖の違いや相手のカードや財産を奪い取るために襲う弱肉強食が闇のファイターの常だが、こいつは違う。

 自分の手で倒した闇のファイターのカード、それも闇カードを全て破棄、処分し、治安機構に押し付けてきた。

 民間人餌箱にも手を出さない偽善者気取り――あの”教授”のような。


「しカし、不愉快」


 気分が悪くなる。

 見る、目に映る、認識する闇狩りのデッキ――Si☆STARシ☆スター

 長く活動してきたソレにとっても目にしたことのなかったデッキだった。

 これまでの”闇狩り”は戦って倒した相手の記憶や情報にはアンティで制限、あるいはカードで封印し、その多くを再起不能にしてきた秘密主義者。

 おかげでニンギョウを使い、それの眼を通してようやく使うデッキがわかったほど。

 ……正直ここで使ってくるまではサブデッキの類かと思ったが、これでも使ってくるということは。


「――ノ同類か」


 

 同じネームドであった道具知人のことを思い出す。


 確かあれも数年前に……


「メイン2にはなにもなし、エンドだ!」


 エンド制限に、思考を切り替える。


「こちらもターンエンド」


 小人共スカーのターンが終わる。


「ワタしのターン、レディ、ドロー」


 ライフカード、メインカードを手に加える。

 まだまだライフには余裕がある、余るぐらいに、リソースがありあまる。


「メイン、魔石<尊厳啜りの舌>をセットぉ♪」


「ダメージをライフロスにする魔石か、通ります」


「色彩を1枚起動」


 魔石をセットし、それは試しに色彩を起動する。

 そして、それは起こった。


「<大酸化事変>の効果が誘発します、無属性オドが(1)追加されます」


 案山子モブの”大酸化事変魔石”が光を灯し、こちらのオドが増える。

 たった1枚で2つのオドが出る。


「OHU! 感謝スルよ」


 たった1枚しか出せてない状態で、色彩に事故ったか。

 こちらに受け渡すだけで出さざるを得なかったのだろう、なんて間抜け。

 スカーの足をひっぱるだけでたまらなく愚かで心地よい。


「さらに2枚起動スル♪」


「それぞれ(1)ずつ追加される」


 ボードを見る。

 現在使えるオドの数は(黒)(黒)(黒)(3)の合計【6オド】。


「6オド! <魂啜の逆蜘蛛>To<魂啜の惰眠蛙>召喚!」


 戦闘時に相手のパワーとタフネスを逆転させる蜘蛛。

 

 これでタイムリミットを加速させる。



「通さない。(青)+X(1)オドで、瞬間魔法<気流の相殺> 惰眠蛙を打ち消します」



「妨害?!」


「ただし、条件がある」


「ロス?」


「この魔法のコストより(1)多くオドを払えばこの打ち消しは無効化される。しますか?」


「――……」


 少し考える。

 蛙は出したほうがよいとソレは判断した。

 色彩を2枚起動。


!」


「では通ります」


「2体召喚!」


 場にクリーチャーが2体追加された。

 飛行の”吸嘴鳥2/1”、ハンデスの”指齧り2/1”に、召喚酔い中だが”逆蜘蛛3/3”に”惰眠蛙1/3”。

 これだけクリーチャーが並べば万全。


「バトる! 吸嘴鳥で闇狩りに攻げ」




「バトルフェイズに移行されました」



 その瞬間、


「ぎぃ!?」


 腕を見る。

 体液が噴き出し、ライフデッキから1枚流れ落ちていた。


「??」


「バトルをどうぞ」


 困惑。

 何かしらのカードの発動か。

 だが、その兆候はなかった。墓地発動かと思うが、それらしいカードはどこにもない。

 そして気付いた。


「色彩が、セットさレなイ?」


 滑り落ちたライフカードが、墓地へと落ちている。

 


「ルールを確認してください。バトルをどうぞ」


 まだ<尊厳啜りの舌>は起動していない。

 ならばダメージのはずなのに。


「何をシた!!」


「ルールを確認してください。バトルをどうぞ」


「こた、エろ!」


「ルールを確認してください。バトルをどうぞ」


「ッ、ライフ3点消費! <尊厳啜りの舌>を起動スる」


 ターン終了まで、全てのダメージをライフロスへと切り替える魔石を発動。


「……誘発シなイ。バトル! 吸嘴鳥で闇が……そいツに攻撃!」


 ライフロスなら色彩は増えない。


「ッ! 少年、手と頭だけは護れ!」


「ライフで受けます」


「削れロ!」


 痛みで悶え苦しめ!

 ソレの指示に、膨れ上がった腫瘍で覆われた目を震わせた鳥が襲いかかる。


 一般人なら衝撃と精命力の喪失感で喚くだろう一撃に。



「……ライフロス2点。”29”だ、どうぞ」



 そいつは――耐えた。

 たたらも踏まずに耐えた。

 命衣流も纏っていないというのに。


「……頑丈ナ。ターンエンド」


 違和感。

 こちらもフィールドを展開している、ダメージはニンギョウ共のものとは比にならないはず。


「こちらのターンだ。レディ」


「アップ」


 さあ小人共がまたカードを引く。

 ライフを失え。


「惰眠蛙のこう「2オドで瞬間魔法<潮流>発動します、通りますか?」カ?」


 寸前に、また奴が動いた。


「通ったならメインゾーンのオブジェクト1つを手札に戻します、対象は<惰眠蛙>」


「グッ、バウンス!」


「アップキープフェイズのため蛙の効果は発動しない。ではドロー」


「こちらもドロー」


「残り”27”だ。色彩をセット、どうぞゴー


「こちらもメインはなし、バトル。カミーユとサテラ3/2のコンビで攻撃!」


「逆蜘蛛でブロック! 



「――通らん!」



! 2オド消費し、カミサテのタフネスを+2上昇する! これはターン終了まで続く!」


「ロス!?」


「そして戦闘へと突入する、蜘蛛の効果はここで適応される!」


 逆蜘蛛と姉妹の二人が激突する。

 その瞬間、蜘蛛の能力が発動する

 パワーはタフネス、タフネスはパワーに。


 ――


「逆蜘蛛を破壊!」


 こちらのクリーチャーが1体減った。


「バトル終了、ターンエンドだ!」


「こちらもエンド」


 最初の吸嘴鳥と指齧りだけになる。

 まるでやり直し。

 ここまで頑張ったというのに。


「おぉお゛れのだーん!!」


 なんていうやつらだ。

 なんて許されない奴らだ。


「どロろーん!」


 カードを引き抜きながら、怒りが吹き上がる。


「ふぅん」


 必ず手足をへし折ってやる、その手であらゆる誰からも愛されないようにしてやる。

 ゆるさない。

 ユルサナイ!


は引けたかよ」


 未だに無礼の命乞いもしない奴の声を聞きながら、ソレはカードを叩きつけた。






「バトる! 吸嘴鳥デあたック!」


「通らない。瞬間魔法<ブービートラップ> その攻撃を無効化し、ステイ状態にする」


「まダ妨害……ぃぃ」


「ただし、(1)支払えばこれを無効化する」


 ――身体が削れた。





「バトルフェイズ! カミーユとサテラのコンビで攻撃!」


「指齧りでブろックぅ」


「4オド、<Si☆STAR 黒套のレイン>を瞬間発動で召喚! 契約し、カミーユ3/1レイン4/3サテラ1/2のトリオへと組み変わる! これによりレインの契約効果は【貫通】を得る!」


「カンづウ!?」


「7/4になったトリオに、2枚目のカミーユを手札から瞬間発動! パワーを+3修整! カミーユの契約効果でさらに+3、合計――13点!」


 ――精命力が削れた。





「もうい゛イ。通常魔法<滅びの闇>を発動スる!」


「通りません。瞬間魔法<投げ込まれた小石>で打ち消し、ただし(1)支払えばこれを無効化出来る」


「1オドで無効ダ!」


「連動する、<反応解呪>で再度打ち消し」


「あ゛?」


 ――身体が削れ、封じられた。




 ◆



「レディ、アップキープ、ドロー。共有ライフ”14”」



 削れる。

 呼び出したクリーチャーは狩られる。

 削れる。

 発動しようとした魔法は打ち消される。

 削れる。

 圧倒的な展開。


「……凄まじいな」


 あの顔差しネームドであるはずの”101人目”が手も足も出ていない。


「GIぎGGギIGIあ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」


 己が、己たちが”101人目”のクリーチャーの攻勢を防いでいるとはいえ、ここまで優勢になるとは思ってもいなかった。


「何故だ! 手札はあ゛る! オドもこっちのほうが圧倒テキテキてキてに!」


 40もあったライフは半ばに達した。

 あの分厚いライフデッキを、ヤスリで擦るように、あるいはナイフでそぎ落とすように、削れた。

 その結果、十数枚以上の色彩が並んでいる。

 膨大な、ともすれば使えぬカードがないほどのリソースが集中している。

 まさに巨人の力。


「確かに、リソースはそっちのほうが上だよ」


 しかし。


「初期手札も、ポンポン飛び出してくる呪言も、圧倒的に差はあった。使える力の量は比べるまでもない」


 少年は。


「だが、


 違う。


「一枚のカードは一枚のカードに等しく、5だろうが10だろうが、そのコストがたった2点でゼロにされることがある」


 カードの発動を打ち消して。

 カードの戦闘を無効化して。

 カードがいた痕跡すらも押し戻して。



 少年は。

 闇のカードに、


「何じぇダ! なンでダメージをウケる!? 魔石モもゥ使ってナイのに!?」


「……まだ理解してなかったのか?」


 その叫びに、己は呆れた声を出した。

 少年を見る。


「説明してやってくれ」


 もうネタばらしはしていいという了解を得る。



「――【コストバーン】だ」



「……な、ニ?」


「Lifeを初めたときに間違えなかったのか? 1コストのカードを使うのに、色彩を2枚起動してしまうことを。使うカードのコストを見間違えて、出したコストを余らせてしまったことを」


 Lifeのルールにある。

 カードを発動するには設定されたコストを消費しなければいけない。

 それはオドであったり、ライフであったり、カードを手札に捨てたりすること。

 そのもっともポピュラーで多いのが色彩から生み出されるオド。

 しかし、それをもしも生み出したのはいいものの使いきれなかったら?


使。その自傷は如何なる手段を持ってしても軽減出来ず、ただライフを失うのみ」


 ライフロスと同じく色彩をセットすることは出来ず、さらに言えば呪言も発動しない。

 言うなればペナルティだ。

 ファイトに慣れていない時にはたまに行うミスで、慣れていけば自然と減っていく、最終的に普通にプレイするにはほぼ皆無になる。

 そんな存在自体を忘れそうになるルールの1つ。


「お前が知らないわけがないが、遥か昔過ぎてそんな初歩的なことも忘れたか」


 ”101人目”。

 闇のファイター、その顔差しネームドの中でも名前を知られている怪物。

 他人の身体を奪い、名前を奪い、いなかったはずの誰かとして紛れ込む。

 呼ばれざる侵入者、百人しかいないはずの村に存在する”101人目例外”。


 ――”断殺王”、”剥ぎ取り嬢手じょうず”、”採集パージ”、”ドレスリーブ”。


 教授と己を含めたネームド共。

 奴らは名前を伏せて、自分の過去を消し去っている。

 契約アンティによるペナルティを免れるために、仇名で、忌み名で、二つ名でしか呼称が出来ない。

 文字通り【顔を差してあいつだというしかない】

 その中でも”101人目”は活動時間が長い。

 何度も、何度でも討伐報告が上がり、それから間をおいて活動を、奴の仕業だという惨劇を起こす、不死身の怪物。

 己が生まれる前よりも昔から語られる怪物。


「ボケはじめたんじゃないか? 老いた化物」


 そう――


「…………」


 沈黙。

 ”101人目”は沈黙しながら、ゆら、ゆらと頭を振り出した。


「そう、カ」


 ゆら、ゆら、と頭を振りながら、瞼のない目が充血していく。

 顔の表情もないのに何を考えているか。


「そウか」


 不器用な己にもわかった。


「そウかそウかそウかそウかそウかそウかそウかそウか!」


 ――怒りだ。



「そそソソソソそソそソそソそソそソそソそんな小細工デ、ワタしを、俺を、ボクに、予にニ煮勝つつもり可火火火火火火!!!!!」



 甲高い叫び声。

 耳が痛くなる硝子の割れるような声だが、耳は塞がない。


 相手の宣言を聞き漏らしてはいけない。

 相手の挙動を見逃してはいけない。

 口では自由に言ってもいいが、相手の目と手札は見逃してはいけない。

 自分の手札に勝つ可能性がある以上に、相手がこちらを打ち負かす可能性も常に握られている。

 カードにはあまりにも多くの可能性があるのだから。

 そう教わった。

 たった1枚の、曰く付きの闇のカードと知識だけで生き延びてしまった老人の教えだ。


「なら、モぅ間違えナイぞ!」


 叫び、叫び、なんら生産的なことを言わずに叫び終えた”101人目”は、そう嗤った。


「まだワれのライフはタッぷリある! お前ラは半分ヲ切った! すぐに力尽killキル!」


「……馬鹿め」


 その教えを受けている己だから思わず舌打ちしてしまった。

 まだ奴は気づいていなかった。

 だからこそここまで能天気だった。

 


「チマチマした消耗程度、一発デ踏み潰セル!」


「そうかそうか」


 少年が返事を返す。


「それが、お前の”糸”か」


 その顔は笑っていない、真顔だ。


「ならしっかり握って離すな。メインフェイズ、色彩を3枚起動」


 少年の色彩が3枚、合計6オドが生み出される。


「4オド、秘宝<不規則な通路>をセット」


 ――攻防自体にコストを必要とさせる秘宝が。


「2オドで


 クリーチャーが出た。

 ――持ち主の命を蝕む呪われた宝石が。


 それは提示されたのはこれまでで一度も出ていなかった【レアカード】が2枚。

 ……ついに出たか。

 その能力を、事前の打ち合わせで見せてもらっていた己の頬が思わず引きつった。

 …………地柩セトは如何なる教えを彼に叩き込んでしまったのだろう。

 対峙していない己でもわかるその悪辣さ。


「さあ」


 ここからが、


「その勝算が、出口まで繋がってるか試してみよう」


 本当の悪夢だ。



「お前が信じられる限り」







――――――――――――――――――――――――――――――


「右手を付けていけばいずれ出られるさ」



           ――右腕だけが擦り切れた白骨死体(不規則な通路)

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